2014/5/11 宗四朗山

山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
宗四郎山山行計画書ver.1.0(5/9版)
作成者:田代
 
■日程 5/11(日) 予備日なし
 
■山域 奥秩父
 
■在京責任者 石塚
 
■在京本部要請日時 2014/05/11/21:00
 
■捜索要請日時 2014/05/12/10:00
 
■メンバー(3名)
L田代・武藤・久光
 
■集合
西武池袋線池袋駅06:15発(ひばりケ丘06:33、小手指06:53)準急飯能行先頭車両
 
■交通
(行き)
西武池袋線準急飯能行
 池袋06:15→飯能07:11
西武池袋線・秩父線西武秩父行
 飯能07:19→西武秩父08:09
西武観光バス中津川線急行[M6]中津川行
 西武秩父駅08:25→出合09:45
 
(帰り)
西武観光バス中津川線急行[M6]西武秩父行
 出合16:15→西武秩父駅17:43 (終バス)
 
■行程
出合~(1:00)~大黒~1394ピーク~宗四郎山~1324ピーク~池~(0:40)~大黒~(0:50)~大黒
林道コースタイム合計2:30
全行動時間(終バスのため)6:30
 
■エスケープルート
宗四郎山東のピークまで:引き返す
宗四郎山東のピーク〜宗四郎山:天丸トンネルへ
宗四郎山東のピークから:そのまま進む
 
■地図
2.5万分の1「両神山」
エアリア「雲取山•両神山」
 
■備考
日の出04:34
日没18:48(両神山)
雨天の場合前日19:00までに判断。
終バスの時間に注意。
 
■遭難対策費
一人100円

宗四郎山山行記録(事故報告)
作成者:田代
 
■日程 2014/5/11(日)
 
■山域 奥秩父
 
■天候 晴れ
 
■メンバー(計3人,敬称略)
田代、武藤、久光
オーダーは田代-久光-武藤または武藤-久光-田代で適宜交代
 
 
■行程
09:55 出合発
道路のところどころに雪が残っている。
 
10:25 大黒
一番手前にある倉庫らしき建物の屋根が完全に内側へ陥没して崩れている。先日の大雪の影響であろう。
 
10:37 1197から南東に伸びる尾根の先
地図では切土部となっているが問題なく入れるのでここを登山口として入山する。
 
11:12 標高1100m付近
突破不可能な地図にはない崖に当たる。休憩をとり、作戦会議。西側の尾根(1197から南にのびる尾根)へ渡って登ることにする。
 
11:22 トラバース開始
 
11:47 西側の尾根上(標高1050m付近)
崖はこちら側にも続いていて、この尾根も登れそうにない。さらに西側にトラバースすることも考えたが、傾斜が急すぎるので不可能である。ここで、今いるこの尾根を下って撤退をし、次回の山行のため、予定下山口の確認などをすることに決めた。少し休憩をする。
 
12:18 撤退開始
 
12:40 標高1000m付近
久光が頭部にけがをする。出血がみられたので応急処置をして休憩をする。(後述)
 
13:10 出発
 
13:56 林道トンネルわき
下山完了。在京への連絡は電波が届く可能性のある大黒付近で行うことにする。そばにある沢で休憩する。
 
15:08 出合に向けて出発
 
15:32 大黒通過
在京への連絡を忘れる。
 
16:07 出合
 
16:15 出合発のバスへ乗車
途中一瞬電波が入ったので、メールにて在京に下山連絡をする。
 
 
17:43 西武秩父駅
久光は地元の病院に連絡をとり、帰宅後病院に向かうことにした。田代は電話にてその旨を在京に報告した。
 
夜 久光、病院を受診
頭部に2cm程度の3針縫う傷。外科しか開いていなかったので翌日脳外科の診察を受けることになる。
 
翌日 久光、脳外科を受診
脳に異常は見られず、運動を含め通常通りの生活をして構わないとのことだった。
 
 
 
■備考
久光の怪我について
事故は下山中、尾根上の10mほどの岩体をまいているときに起きた。事故当時のオーダーは田代-(10m)-久光-(10m)-武藤となっていてメンバー間の距離が少し離れていた。岩体をまき終わろうとしていたとき、久光のつかんでいた岩が外れ、土の斜面を滑っている最中、外れたホールドが頭に当たった。本人の意識ははっきりしていたが、出血が見られたので傷口を水で洗い、消毒液で消毒してからガーゼをあて、バンダナと包帯で固定した。出血はすぐに止まったので30分ほど休憩して撤退を再開した。以下にそれぞれのメンバーから見た事故時の状況を書いた。
 
久光
・発生時の状況
 事故が発生したのは1197ピーク手前において崖に阻まれて前進できず、南方向に延びる尾根を経由して撤退する途上、10m程度の岩体を巻いていた場面であった。前の田代さん、後ろの武藤さんと少し距離が離れてしまっていた。枯れ葉のつもった30-40度程度と推定される土の斜面を下降気味にトラバースするにあたって、少し下った先の斜面上に横幅2m程度の壁状の岩があり、その直下の土が靴より少し狭い程度の幅で平になっていた。岩の手の届く高さはちょうどおおよそ水平となっていたが、一部のみその上に別の石が乗っているのか一段高くなっているところがあり、その部分は安定しているか不安定なのか一見しただけでは判断がつかなかった。足場が不安定であるため、手で支えられなければ、もしくは不安定な石が抜ければ滑るかもしれない、という危険は容易に想像できるものであった。更に武藤さんと田代さんのお二人は、それぞれ別のルートを通過していた。それにも関わらず、怠慢からより安全なルートを他に探すことをせず、冒険心もあって目の前の岩に取り付いてしまったのが、事故の直接の発生原因であった。足場は不安定で手に体重をかけざるを得なかったが、一段高くなっている部分を掴んだところで岩が抜けたらしく、体ごと滑り落ちた。木があったこともあり、落ち葉の厚く積もった土の斜面を10mほど滑ったところで滑落は停止した。その間に何か頭に当たったような感覚はあったが、痛みは感じなかった。停止後、頬を生温かい液体が流れる感触があり、触ってみたら血であった。
・怪我について
 先輩方に応急処置をしていただき、帰宅後近所の病院で外科、脳外科を受診した。傷は2cmほどで、3針縫うこととなった。脳の方には特に異常は見られなかった。
・反省
 自らの実力の過信と安全意識の欠落が、今回の事故の根本的原因である。第一に、今回の山行は私にとって初めての藪漕ぎ登山であり、しかもコースは予想していたよりもかなり難易度が高かった。このような場面においては特に行動に慎重を期すべきであったにも関わらず、安全なルートを検討すらせずに、無用なリスクを冒して自ら事故を招いた。
 第二に、装備に大きな不備があった。ロープが必要であったかはともかくとして、少なくともヘルメットを被っていれば怪我は確実に防げたし、せめて帽子でも被っていれば被害は軽減できたはずである。このような危険は行く前から予想できたにも関わらず、わざわざ何も用意せずに山行へ参加したのは、危機管理意識の欠如によるものと言わざるを得ない。もっと自ら主体的に、何を持っていくべきか検討するべきであった。
 今回の事故において大事に至らなかったのは、ひとえに落ちた石が致命的な大きさではなく、滑った場所が傾斜の急でない土の斜面であった、という偶然によるものでしかない。仮に落下した石がより大きかったり、発生場所が岩稜上であったりしたならば、重大な事故に繋がりかねなかった。
 今回の山行で身をもって感じたのは、山は不用意な者、舐めてかかった者に対しては恐ろしく厳しいということである。奥秩父の山の峻厳さには、何か神々しいものを感じすらした。今回の教訓として、山行に参加する際には山の難易度と自らの実力、必要な装備を十二分に検討して、慎重に行動し、何があっても無事下山できるようにすることを心掛けたい。
 最後に、山行に連れて行って下さった二人の先輩方には大変ご迷惑をお掛けしてしまい、重ね重ね申し訳ございませんでした。また、皆様方におかれましてはご迷惑、ご心配おかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
 
田代(久光側から見て10mほど前にいた)
・発生時の状況
 岩体をまき終わり尾根上に上がると、また前方に10mほどの岩体が見えたので、左右どちらからまくか偵察に行こうとしていたとき、後ろから「おーい大丈夫かー」という武藤の声が聞こえた。振り返ってみると久光が土の斜面を滑り終わるところであった。久光はすぐに立ち上がったが頭から左頬にかけて血がついていたのが見えた。
・事故後の対応
 すぐに尾根上の平らなところに移動し、武藤が傷口を水で洗っている間に救急箱の準備をして、
洗った後消毒をした。その後武藤の持っていたバンダナと包帯留め、救急箱有紗に入っていたガーゼ・包帯・テーピングを使って傷口を覆った。
・反省
 今回の企画の趣旨は薮こぎ・読図の練習であった。今回のコースはネット上にも同じ道を歩いた記録はなかったが、それにもかかわらず、このコースで初心者を連れて登ろうとしてしまったのは安全意識が欠落していたからに他ならない。また、今回のコースはトーナライト岩体上にあるので岩が崩れやすくなっていることが予想できたが、帽子・ヘルメットの着用を皆に促すことをしなかった。(事実、浮き石も非常に多かった)。そのため、田代は帽子、武藤はバンダナをつけていたが、久光は帽子・ヘルメットをつけていなかった。
 また、自分の最近の山に対する慢心も事故の背景にあるように感じた。ここ2年ほどは雷鳥としてではなく知り合いと個人的に山に登ることが多かったが、その際目的地に着いた後気が抜けて下山が雑になることが多かったように思う。一般的には山における事故の大半が下山時に起きているにもかかわらず、今回は崖によって目的地に到達できないことを悟ってからは歩く際の慎重さが欠けていた。そのため、岩体を巻くときにより安全な場所を通ろうとせず、下降気味に巻いて尾根に戻ってしまった。もし、自分がもっと早く尾根に戻るようなルートを辿っていれば後ろに続く久光も今回の事故地点を通ることはなかっただろう。
 今回の山行では初心者を山に連れていくことの難しさを強く感じた。今後は当然のことではあるのだが、計画を練る際や実際の行動中、メンバーの実力を十分考えて判断することを心がけたい。最後に今回の企画にたずさわった皆様に深くお詫び申し上げます。
 
武藤(久光側から見て10mほど上方にいた)
・発生時の状況
 尾根上の岩体を巻く際に、田代とその後に続く久光は下降気味に巻いて尾根に戻ったのに対し、武藤は標高をあまり下げずに尾根に戻ったため、異なるルートを通っていた。結果として、事故発生時に久光が斜面上を移動中であったのに対し、武藤は久光の後方ではなく、上方約10mの尾根上にいた。尾根上から左側の斜面を久光が土とともに滑っていることを視認し、「大丈夫かー」と声をかけた。この段階で田代も事故に気づいて振り返った。久光はその時点からさらに数m滑った後、傾斜が緩くなった所で停止した。停止した際直ちに久光から「大丈夫です」との応答があった。一方で、武藤の位置からも久光の左頬に黒っぽいものが付着しているのが確認できたため(その時点では血か土か判別できず)、久光に怪我の有無を確認した所、頭を負傷した可能性があるとの返答があったため、久光の位置から水平に10mほど移動した尾根上で休憩し、手当を行なうこととした。
・事故後の対応
 当初出血が多いように見えたが、水で傷口を洗い、ガーゼで押さえる段階に入ると、出血はおおかたおさまったように見えた。応急処置については田代の項目を参照。
・反省
(1)装備の不備について
 今回の山行を行なった地域は既に何度も訪れており、基盤岩から外れて浮いている岩が多いということが分かっていた。にもかかわらず、計画時にヘルメット持参を明記しなかった点は、不適切であった。今回のようにホールドが外れるといった事故以外にも、落石による事故をなくすためにも、頭部の保護は重視するべきであった。
(2)行動面の不注意について
 自分にとって危険な崖をトラバースする際には、メンバー間の距離やホールドの指摘などに細心の注意を払っていたのだが、比較的安全と思われる下山コースに入ってからは、危険予測などについてメンバーとコミュニケーションをとる労力を怠っていた。バリエーションルートである以上、比較的容易だと思われる場所についても、少なくとも薮漕ぎがルーティーンとなっていないメンバーとは常にコミュニケーションをとるべきであった。
 また、薮こぎとは言え比較的容易な尾根伝いの下山、さらに林道までの距離もさほどないということで、ある種の油断と、「早く降りてしまおう」という逸る気持ちがあったことは否めない。そして、尾根から少し外れたルートを通る際にも、尾根上と同程度の緊張感しかなかったように思う。結果的に、岩体を巻いて尾根を外れたわずかな隙に事故が起きている訳である。必要以上に緊張することは時間のロスや精神的な負担になるだろうが、危険な場所にさしかかるときはその時々で気を引き締め直すべきだろう。
 以上の点を今回の事故の教訓としたい。ご迷惑をおかけした方々にお詫び申し上げます。
 
 
 
■事故の原因
(1)メンバー同士の距離が空いていた。
 山行中は薮初心者の久光との間隔を詰めるよう心がけていたが、事故発生時はメンバー同士の距離がそれぞれ10m程度空いていた。このため、事故発生時は危険箇所を通らないよう指示することができなかった。
(2)帽子またはヘルメットの不着用。
 当日、久光は帽子・ヘルメットを着用していなかった。せめて帽子を着用していれば怪我が軽くなっていたかもしれない。また、計画書にもヘルメットを装備に加えるべきであった。
(3)宗四郎山のレベルの高さ。
 今回は薮初心者がいるにもかかわらず、結果としてかなりレベルの高いコースを設定してしまった。当然のことであるが、初心者がいる場合は簡単なコースを設定すべきである。