2016/5/5 天狗岳
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
天狗岳 残雪登山計画書
作成者:朝倉
■日程 5月5日(前夜1泊+日帰り)
※予備日なし 悪天中止
■山域 八ヶ岳
■捜索要請日時 2016/5/6 09:00
■メンバー(計4人)
CL 朝倉 SL 舩津 平岩 松本
■集合
5/4 16:54 立川駅 5番線発
JR中央線中央快速 最後車両
※途中乗車の場合はSLに連絡のこと
■交通(学割利用可)
行き
立川駅1654-(JR中央線中央特快)-高尾駅1705
高尾駅1709-(JR中央本線)-小淵沢駅1931
小淵沢駅1947-(JR小海線)-野辺山駅2023
計 3時間29分 3024円
※朝倉の別荘(海ノ口自然郷)で前夜泊.翌朝,白駒池入口まで朝倉車で移動.
帰り
渋の湯1500-(アルピコ交通 渋の湯線)-茅野駅1551
茅野駅1642-(JR中央本線)-小淵沢駅1704
小淵沢駅1712-(JR中央本線)-甲府駅1757
甲府駅1808-(JR中央本線)-高尾駅1940
高尾駅1948-(JR中央線快特)-立川駅2004
計 4時間13分 3742円
※1500発バスが最終なので注意
■行程
白駒池入口-0:15-白駒池-1:00-高見石-1:10-中山-0:25-中山峠-1:20-東天狗-0:20-西天狗-0:40-西尾根展望台-0:35-唐沢鉱泉分岐-0:40-唐沢鉱泉-0:50-渋の湯
計 6:45
■エスケープルート
中山峠まで:引き返す
中山峠から東天狗まで:黒百合平経由で渋の湯へ
東天狗から:そのまま進む
■地図
1:25,000 蓼科,松原湖
山と高原地図23 八ヶ岳
■遭難対策費
100円×4人
■備考
□日没
18:30 頃
□日の出
4:45 頃
□警察
北杜警察署
所在地北杜市長坂町長坂上条2575-79
TEL 0551-32-0111
天狗岳 残雪登山記録
作成:朝倉
■日程 5月5日(木)
■山域 八ヶ岳
■天候 曇のち晴
■メンバーとオーダー(計4人,敬称略)
CL朝倉-平岩-SL舩津-松本
■タイムスタンプ
06:05 白駒池入口
06:15 白駒池
06:50 高見石小屋
08:00 中山展望台
08:45 中山峠
09:50 東天狗分岐
10:05 東天狗
10:30 西天狗
11:25 第二展望台
12:30 唐沢温泉分岐
13:10 唐沢鉱泉
14:05 渋の湯
■山行記録
今回の山行は実際の登山にとりかかるまでの経緯が長い.元々私が3日の日に雷鳥とは無関係の用事で八ヶ岳に行く必要があったのがきっかけで,せっかくそこまで行くのであれば山に登ってしまおうというのが立案の動機であった.
しかし,この時期の八ヶ岳は(少なくとも例年は)まだ雪の中であり,安全な登山という意味ではかなりの配慮を要した.雪山山行常連組の先輩方に助言を頂きつつ,念入りに計画を練っての山行だった.それでも,前日の予報では稜線上の風速が26m/sという話があり,計画を完遂できず撤退となる可能性は決して低いものではなかった.
前述の通り私は山行の2日前から八ヶ岳に入っていたが,他のメンバーには山行前日の夕方に東京を出て夜8時半頃に野辺山駅まで来てもらった.別荘から駅までは私が車で迎えに出たが,日中に経路を確認しておいたにもかかわらず山の夜道は想像以上に暗く,一度ならず曲がる場所を見落として3度ぐらいUターンをする羽目になった.途中危険なことはなかったように思うが,緊張感のある山行前日にして,予習をしたつもりで順調に行かない実例に遭い,改めて気を引き締めようと思わずにはいられなかった.
なにはともあれ,夜9時頃にはメンバー全員が別荘に集合した.軽くビールを片手に歓談する時間もあったが,翌日の朝は4時半起床5時出発の予定であったので夜更かしはせず,順次入浴を済ませて就寝の準備をした.その間,外に出て空を見上げると綺麗に星空が見えていた.翌日も晴れることを祈りつつ,10時半頃には消灯した.
朝,さっとお湯を沸かして暖かいインスタントの卵スープをすすりつつ,テキパキと用意をしてほぼ予定通り5時には別荘を出た.私の父が運転する車に乗ること約1時間で白駒池入り口に到着した.車での移動中から風の音が威圧的で不安を煽られたが,白駒池入り口の駐車場もかなり風が強く,したがって体感気温も相当に低かった.我々は速やかに多少風の避けられそうな木立に移動し,装備を吹き飛ばされぬよう注意しつつ登山の準備をした.私はヒートテック,長袖の登山ウェア,フリース,ダウン,ウィンドブレーカーの計5枚を重ね着し,さらにネックウォーマーや手袋,帽子を活用してなるべく肌が露出しないようにした.他のメンバーも似たような服装であったと思う.
そういう状況であったため,登り始めはかなり肌寒さを感じていた.空模様が暗いということはなかったが,ある程度曇っていて,とりわけ木々の上をびゅうびゅうと吹き抜けていたのは印象的であった.
歩行開始からおよそ10分で,白駒池に着いた.朝の白駒池の景色にはなかなか風情があり,この時点で稜線がどうなっているかには一同不安をもっていたので「風が強すぎて登れないようなら,この池でボートを漕いで帰るのも悪くない」などと冗談を言いながら歩いていた(白駒荘では30分700円でボートに乗れるようであった.もっとも,この季節に乗る人はまずいないと思うが……).
アプローチの車上からも残雪が散見されたが,白駒池から高見石小屋に至る林間道ではところどころ雪が残っていた.深いところでは30センチ以上残っていただろうか.予想していたことではあるが,これらの多くは凍結しており,普通の登山靴で歩くのは怖いということで白駒池から15分ほどのところで軽アイゼンを装着した.松本さんと平岩さんの軽アイゼンは6本歯で,舩津くんに至っては10本歯のアイゼンであったので,4本歯の軽アイゼンを持参していたのは私1人だけであった.結論から言うと今回の山行は4本歯でも十分に安定感をもって歩くことができたのだが,この時点では若干の不安を覚えないでもなかったというのが正直なところである.とはいえ,今さら6本歯の軽アイゼンを買う気は起こらないので,次に買うことがあるとすれば12本歯のアイゼンだろうな,とも思う.
話が逸れたが,軽アイゼンを着けると凍結道の歩行は随分とスムーズになり,高見石小屋には思ったよりも早く到着した.ここで一本をとったが,その先の登山道を少し見た感じでは雪の量が少ないようであったので,ここで一旦軽アイゼンを外すことにした.また,せっかくなのでということで,皆で高見石に登って白駒池を含む景色を楽しんだ.この高見石は吹きっさらしであったため,この時間帯にはまだまだ強風が吹きつけており,私はとても先端まで行く気になれなかった.一方,平岩さんと舩津くんは元気だったらしく,岩の先端付近まで行ってその景色を楽しんだようである.
高見石小屋から15分ほど歩いたところで再びアイゼンなしでの登攀は難しいと思われる急で凍結した斜面に差し掛かかり,我々は2回目の軽アイゼンを装着を実施した.それ以降しばらくは今回の山行の中では技術的にも体力的にも最も厳しい箇所で,しばらく無言での歩行が続いた.
急登を終えると登山道まわりの植生も森林限界が近い低木帯に変わった.周囲が明るくなるとともに一行の雰囲気も少し明るくなったように記憶している.明るく比較的平坦な登山道で,かつ森林限界を超えていないこのあたりでは風もそれほど気にならず,歩いていて非常に心地がよかった.歩きながらであるためそれほどじっくりと見られたわけではないが,木立からは八ヶ岳の山々が見える箇所もあり,天気がよいこともあって見事な景観に思われ,個人的にはその後の眺望に期待を膨らませたのであった.
一方,登山道にはそれなりに深い水たまりが凍結して板状の透明な氷が生成されている箇所があり,これをアイゼンで割りながら進むことには小気味よさがあった.割った氷の破片を拾ってみると,その厚さは7mm程度もあり,そのあたりの夜中の寒さをうかがい知ることができた.中山の展望台に着く直前,舩津くんと松本さんはひときわ大きな一枚の氷を割るかどうかを少し議論をしていた.ただし,結局は「もったいないので取っておく」という結論に至ったようであった.
さて中山の展望台であるが,振り返ってみればそこ自体がコース上の「中山」にあたる箇所であったようなのだが,その地点に中山方向を示す看板が経っていたため,我々は通過時点では中山より1つ手前のピークだと勘違いをしていた.ともあれ,視界の開けた眺望のよい箇所であったことは確かなので,少し立ち止まって写真を撮るなどしたが,あまりに風が強かったので長居はせず,少し下がった風が穏やかで少しスペースのある位置で一本とした.この時点で我々は中山を通過しており,すなわち南斜面に差し掛かっていたため雪が少なく休憩のついで軽アイゼンを外した.
そこから中山峠を経て天狗岳の稜線に上がるまでは森林限界ぎりぎりの低木帯が続いていた.このあたりは風を含む気象条件がよく,道もアイゼンなしで歩きやすいものであり,また歩きながら見える景色も非常に良好なものであったため,メンバー全員が上機嫌で歩くことができた.私自身,ここ2年で行った山行の中では最高に心地よく歩いているということを感じていたし,機会があればまた来たいと思える登山道であった.稜線に到達する直前,再び雪の多い急登に差し掛かったため軽アイゼンを装着した.これが3回目の装着である.
9時過ぎを過ぎた頃我々は稜線に到達した.稜線上では雪が少なく,岩場であるためむしろアイゼンを着けていると危険だということで一旦これを外した.事前の情報通り確かに風は強かったが,行動が著しく制限されるほどではなく,全会一致でエスケープは不要と判断した.結果論ではあるものの私は遅い時間の方が若干風が弱まるとの予報を把握していたため,午前中は敢えてペースを抑えていた.多少それが功を奏したのかもしれないと思う.その証拠に,下山後に渋の湯温泉で入浴した際に平岩さんが他大学の山岳部の方から聞いた話では,そちらのパーティは黒百合平ヒュッテに宿泊し,朝に東天狗に向かうも風が強く撤退したそうだ.
稜線上では1箇所,例によって雪が多く急な箇所があったため,その前後でもう1度軽アイゼンの着脱を行った.そうした時間も含めて稜線上を歩くこと約1時間で東天狗の山頂に到達した.稜線上では常に良い眺めが目に入ってきていたが,山頂ではそれが360度のパノラマで見られて特に素晴らしかった.八ヶ岳の山々が見えることはもちろん,ふもとに野辺山など周辺の人里もみることができた.さらにゆっくり20分ほど歩いて到達した西天狗岳の山頂では南アルプスの山々も見えていた.これらのピークでは当然風が吹き荒れていたため,それほど長居はしなかったが,それでも腰を低くしていれば耐えられぬほどではなく,景色を眺めながらおにぎりを1つ食べるぐらいの余裕はあった.それが私にとって最高の昼食であったことは,わざわざ言うまでもないだろう.
西天狗から先の行程であるが,しばらくは依然素晴らしい眺望を維持しながらの下山で頗る気分がよいものであった.途中,第二展望台の前後で一度軽アイゼンを着脱しているが,下山時はおおむね夏山のそれと大差なかった.アイゼンをつけての下りは難しいものであるため,これはとても恵まれたことであった.賢明な読者はアイゼンの着脱回数を数えているかもしれないが,今回の山行で行ったアイゼンの着脱回数はここまでの計5回であった.
2時間ほど降りたところで沢の音が聞こえ始め,我々は唐沢温泉に迫っていることを把握した.ただ,このあたりは等高線が進行方向とほぼ垂直方向に走っていたため登山道がわかりにくく,逆に言えばどう歩こうと行き着く先は同じだったと思われるが,念のためメンバー全員で目印の布切れを探しながら歩いたのであった.小さな橋を渡って唐沢温泉に到達し,ここで一本とした.今回は軽アイゼンの着脱等で時間をとられていたこともありペースが遅く,この時点でコースタイムよりも1時間弱余計にかかっていることを確認した.そのため休憩の時間はきっちり10分としたが,かといってバスの時間には2時間余裕を見ていたので特に焦る必要はなかった.
唐沢温泉から渋の湯に至る間に1つ小さなピークがあり,要するに “下山時の上り” が発生したため主に松本さんが文句を垂れていたが,渋の湯まで行かないとバスがないので致し方なかった.いずれにせよ,最後のピークは大したものではなく,私としては残雪登山のついでに夏山の気分も味わえたとプラスに捉えることにしておきたい.ここはほぼコースタイム通り45分で切り抜けた.
出発時には8割ぐらいの確率で撤退することになるのではないかと不安を感じていたが,好天に恵まれたこともあって特に危険な目に遭うこともなく,バスの時間の1時間前に無事計画通りのルートで下山できたことには安心した.渋の湯の温泉で汗を流しつつ,登山道・眺望ともに満足なものであったの今回の山行はとても良い思い出になるだろうと考えていた.
蛇足だが,帰りのおまけも私が雷鳥に入って以来初めての充実ぶりで,バスを降りた茅野駅では電車待ちの時間に抹茶パフェを堪能し,さらに甲府駅で途中下車してほうとうと日本酒を楽しむことができた.翌日からまた大学なのが問題だが,これだけ良い思いをしたので何とか頑張る他ないだろう.
■反省点
今回の山行はある程度挑戦的と考えていたこともあり,先輩方に様々な助言を頂いた上,かなり慎重に計画を練ったため,安全で楽しい山行にできたと思う.その中でも,いくつか学ぶところがあったのでここで簡潔にまとめておく.
・リスクのある山行であるという自覚があったこととアイゼンの着脱が必要であったため,結果的にかなり頻繁に休憩をとることになった.このことを考慮して元々バスの時間とコースタイムの間に2時間の余裕を持っていたので特に問題はなかった上,何よりも安全が重要であることは間違いないので難しいところだが,もう少し安定した休憩ペースを維持しても良かったかもしれない.
・今回は山行の性質もあって面倒くさがらずかなり頻繁にアイゼンの着脱を行えたと考えているが,最後にアイゼンを外すのが遅くなったため汚れた状態でアイゼンをしまうことになった.アイゼンの着脱も時間を要する行為であるため的確な判断というのは容易でないが,もっと早めの判断をしても悪くはなかった.
・今回通ったコースは基本的に “北斜面を登り,南斜面を下る” ものであったが,これは正解であった.すなわち,北斜面は残雪や凍結の箇所が多く,軽アイゼンを着けていれば登るにはさほど苦労がなかったが,下るとなるとかなり時間と体力を奪われただろうと推測される.一方,南斜面は雪も凍結も少なく,ほぼ夏山と同様の要領で下ることができた.今後も(特に初心者中心のパーティで)残雪期の山行を行う場合はこの方針をとるのがよいだろう.
・警察に計画書を提出するつもりで個人用のものとは別に提出用の山行計画書を印刷して持参していたが,提出する機会がなくそのまま持ち帰ってしまった.帰りに茅野の駅で見かけたポスターに「計画書の提出は WEB がおすすめです」との記述があったので,今後はインターネットを用いた計画書の事前提出を行うことを検討したい.
■総括
今回は事前にその危険性が指摘され,そのことを私自身が強く認識していた山行であったが,当日の天候がよかったこともあって計画通り安全に下山することができた.風は些か強かったが八ヶ岳の景色は素晴らしく,遠く南アルプスの山々を臨むこともでき満足な山行であった.メンバーからも来てよかったとの声が聞かれ,CL冥利に尽きる経験となった.今回はとりわけ多くの人の協力を仰いで成功した山行であったともいえ,助言をくださった先輩方や在京責任者を含む協力してくださったすべての方に深い感謝の意を示したい.