2016/6/18-19 木曽駒・空木縦走

山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
木曽駒・空木縦走 計画書
作成者:朝倉

■日程 6月18-19日(前夜1泊+山中1泊)
※予備日なし 悪天中止

■山域 中央アルプス

■捜索要請日時 2016/6/20 09:00

■メンバー(計3人)
CL朝倉 SL吉川 木下

■集合
6/17 20:15 バスタ新宿南口

■交通(念のため,学割の持参を推奨)
行き
バスタ新宿南口2035-(高速バス・飯田線)-駒ヶ根駅0025
駒ヶ根駅0700-(駒ヶ岳ロープウェイ線・しらび平行)-しらび平駅0745
しらび平駅0800-(駒ヶ岳ロープウェイ)-千畳敷駅0807
計 4時間42分 5,940円
※新宿発終バスは2135
※駒ヶ根からのバスとロープウェイは30分間隔

帰り
駒ヶ根駅1600-(高速バス・飯田線)-バスタ新宿南口1945
計 3時間50分 3,700円
※駒ヶ根駅発バスは1500, 1700, 1800, 1900
※駒ヶ根IC発バスは1550, 1650, 1750, 1850

■行程
1日目
千畳敷-1:00-宝剣山荘-0:30-中岳-0:30-駒ヶ岳-0:30-中岳-0:20-宝剣山荘-0:20-宝剣岳-0:50-三ノ沢分岐-0:10-極楽平-1:00-濁沢大峰-1:20-檜尾岳-0:10-檜尾避難小屋
計 6:40

2日目
檜尾避難小屋-0:15-檜尾岳-1:10-熊沢岳-1:30-東川岳-0:20-木曽殿山荘-1:30-空木岳-0:20-駒石-0:20-分岐-1:00-ヨナ沢の頭-1:10-マセナギ-0:30-池山小屋-0:40-タカウチ場-0:20-林道終点
計 9:05
※林道終点からはタクシーを利用(駒ヶ根駅まで30分・5000円程度)
※時間と体力に余裕があれば歩く(菅ノ台バスセンターまで2:00)

■エスケープルート
木曽殿山荘まで:引き返す(ロープウェイを利用し下山)
木曽殿山荘以降:そのまま進む

■地図
1:25,000 木曽駒ヶ岳・空木岳
山と高原地図40 木曽駒・空木岳

■遭難対策費
200円×3人
計600円

■備考
□日没
18:59 頃

□日の出
4:25 頃

□警察
駒ヶ根警察警察署
〒399-4114
長野県駒ヶ根市上穂南8-1
TEL 0265-83-0110

□ロープウェイ
駒ヶ岳ロープウェイ
〒399-4117
長野県駒ヶ根市赤穂759-489
TEL 0265-83-3107

□タクシー会社
丸八タクシー 0265-82-4177
赤穂タクシー 0265-83-5221

□山小屋
宝剣山荘 090-5507-6345
駒ヶ岳頂上山荘 090-5507-6345
木曽殿山荘 090-5638-8193
空木平避難小屋 0265-83-2111
池山小屋 0265-83-2111

□過去の記録
2015年度 木曽駒・空木縦走 記録
2013年度 中央アルプス縦走 記録

木曽駒・空木縦走記録
作成:朝倉

■日程 6月18-19日(+前夜1泊)

■山域 中央アルプス

■天候
1日目:快晴
2日目:曇時々雨

■メンバーとオーダー(計3人)
CL朝倉-SL吉川-木下(清)

■タイムスタンプ
1日目
08:35 千畳敷
09:05 宝剣山荘
09:30 中岳
09:50 木曽駒ケ岳
10:30 宝剣山荘
11:00 宝剣岳
12:05 三ノ沢分岐
13:25 濁沢大峰
14:45 檜尾岳
15:05 避難小屋

2日目
05:10 避難小屋
06:50 熊沢岳
08:20 東川岳
08:40 木曽殿山荘
10:15 空木岳
12:45 マセマギ
14:20 林道終点

■山行記録
今回の記録は,登山よりアプローチよりも前の準備段階から記述する必要がある.というのも,ハイシーズンでも連休でもない,何の変哲もないただの週末の山行ということで,高速バスがそれほど混むと予想しておらず,バスの予約は前日か最悪当日でどうにでもなるだろうと鷹をくくっていたところ,木曜日に予約状況を調べて唖然とした経緯があるからである.すなわち,この時点で乗車を予定していた21:35発の終バスはおろか19時台より遅いバスはすべて満席となっていた.慌てて19:35発の臨時バスに3つ席を確保したが,メンバー全員が大学の実習が終わる時間によってはバスに間に合わないというリスクを抱えた上で当日を迎えることとなった.レンタカーを借りて行くことも検討したが,9時間歩行の下山後に車を運転するのは億劫である上,そもそも疲労時の運転や急な計画変更は安全性を担保できないとの理由から却下せざるを得なかった.

前泊日当日(6/17, 金曜日),私と木下は無事発車時間前にバス乗車地点にたどり着き,計画通りのバスに乗り込んだ.吉川からは集合時間よりもおよそ1時間前に「間に合いそうにないので特急で現地に向かう」との連絡を受けていたので,この時点では合流していない.バス発車後に車内にて連絡を取り合い,吉川も特急発車時刻にはなんとか間に合い,途中2分での乗り換えにも成功して現地で問題なく合流できることを確認した.実際,23時半過ぎに駒ヶ根駅構内にて今回の山行メンバー3人が集まることができた.

無事メンバーが揃ってまもなく,各自就寝の用意をして24時過ぎには寝る態勢に入った.しかし,駒ヶ根駅構内の電灯はついに消えることがなく,駅の外で人が話す声が断続的に聞こえてきたこともあってまともに寝付けず,一晩を通して3時間程度しか寝られなかった.他のメンバーも似たような感じであったようだ.構内には我々の他にも2, 3人駅寝を試みた人がいたようであるが,前評判通りあまり快適とはいえない環境であった.とはいえ,付近にネカフェもないような駅において,我々のようなしがない学生が前泊する術は他にあまりないだろう.

朝,始発に合わせて5時前には起き上がらざるを得なくなる.寝袋を出ると少し肌寒いが,人の邪魔になるといけないのでさっさと荷物をひとまとめにして各々朝食をとる.始発バスの時間まで余裕があるので,周囲を散策するなどのんびりと時を過ごした.こう言っては失礼かもしれないが,駒ヶ根は思ったよりかは都会で,駅の周りには商店も飲食店もいくつかあった.もっとも,我々が駒ヶ根駅に到着し,出発するまでのような時間に営業している店舗は限られるし,山行でそうした店に寄る用もないだろう.

午前6時55分ごろ,やっと始発のバスが来た.最初の乗客が我々の他3人程度であったので油断して適当な位置に席を取ってしまったが,これは失敗であった.途中,菅の台バスセンターにてマイカーで来たのだろうと思われる客が大量に乗り込んで来て,たちまちバスは満員状態となった.こんなことなら一番前方に席をとるのであった.ロープウェイ乗り場に着くと,始発のバスも到着する前から列が出来ていたようで非常な混雑具合である.結局,我々は始発と始発後1本目の増発ロープウェイに乗ることができず,始発後2本目の増発ロープウェイに乗ることになった.

ロープウェイには定員60名という規定があるので,東京の朝の通勤ラッシュ時ほどの大混雑とはいかないが,それでもかなりぎゅうぎゅう詰めであったのは確かである.だが,そんな中でも楽しめるほどロープウェイから見える景色は見事であった.特に下を流れる沢とその滝は素晴らしく,その景観に圧倒されているとあっという間に千畳敷である.こんなに楽に1,000m近く高度を稼げると歩くのも馬鹿らしくも思えるが,それでは何のために来たのかわからないので,千畳敷駅で登山届を出すと,すぐに稜線歩きの準備にとりかかった.

午前8時35分,雲1つない快晴の空の下,千畳敷駅から駒ケ岳に向かう登山道には登山客・観光客が列をなしていた.我々もこの列に並ぶように歩き始めたが,初日の行程も短くはないので道が広く追い抜きが可能な場所ではなるべく先に行かせてもらうようにした.このように30分も歩く宝剣山荘に到着した.管理人に小屋の外に荷物を置かせてもらう了解を得て,我々はメインザックをデポし,サブザック1つの身軽な装備で駒ケ岳へのピストン行動を開始した.荷物が軽くなったので歩行速度を少し上げ,中岳のピークをひょいと乗り越えて駒ケ岳に至る.

事前の情報からわかっていたことではあるが,ロープウェイを使うと駒ケ岳までの道のりはなんということはない.ピークものっぺりと面白みもない形であるのでそれ自体はかなり地味であるが,景観は見事である.梅雨とは思えない好天もあって,東側に南アルプス,その左手に八ヶ岳,北側には北アルプス,北西に御嶽(まだ煙を上げているように見えたが気のせいだろうか)を綺麗に臨むことができた.さらに,それらよりはずっと近くであるが,南側にはすぐ後に登ることになる宝剣岳や先ほどロープウェイで登ってきた駒ヶ根の市街も見渡すことができた.これだけのものを一度に眺望できるわけであるから,駒ケ岳が百名山に選ばれていることも頷ける.

存分に景観を楽しんだところで我々は駒ケ岳を下ることになる.来た道を引き返してもよかったが,事前の調査で中岳に「初心者向きでない」巻き道があることを知っていたので,帰路にはこちらを採用することにした.ご丁寧にも分岐地点には「難所あり,危険」との看板が立っており何とも威圧的なわけであるが,行ってみるとなんのことはない,森林限界より高度のある登山道ならよくあるような岩場がわずかに1箇所ある程度である.先ほどの看板の警告は千畳敷に遊びに来た観光客のためのもので登山者のためのものではなかったようである.そういうわけで,行きよりも幾分短い時間で宝剣山荘に戻ることができた.

さて,サブザック行動があまりに快適であったのでまた重たいメインザックを背負うことになることを喜ぶメンバーはいなかったが,選択の余地はない.10キロ以上増加した荷物を持って,宝剣岳に向かう.

個人的には恐らくエアリア上の点線区域に初めて立ち入ったが,なるほど確かに高度感はある.実際のところ登攀能力が必要かといえばまったく必要がないと答えられるぐらいの難易度であるのだが,メインザックを背負っていることもあり,うっかり足を踏み外せば痛いでは済まないだろう箇所も散見された.途中,その高度感から登頂を諦めて引き返すパーティも見かけた.

とにもかくにも,宝剣山荘からコースタイム通りの20分で宝剣岳のピークに至った.山頂には途上の登山道よりもさらに高度感のある大きな岩があり,私と吉川は1人ずつこれによじ登って,木下に記念写真を撮ってもらった.この岩に登るのもさして難しくはないのだが,およそ40cm四方の岩の上に立つと360度どの方向にも切り立った崖を見ることになるので,勢いで登ってしまわないことには足がすくんで登る気を失いそうである.なんだかんだと宝剣岳の山頂で予定外に20分も時間を使ってしまった.

山頂を発し,宝剣岳の南側を下る.こちら側の道は登りに通った北側よりも少し難易度が高く,過去には何度も滑落事故が発生しているようである.この頃には檜尾の避難小屋に着くのが遅くなって入れなくなると困るので先を急ぎたいという気持ちも生じていたが,ここは慎重な行動を心がけた.かれこれ50分間,連続的に続く岩場を登り下りし,三ノ沢分岐に至る.振り返ると宝剣岳のピークが目に入るが,かけた時間の割にはまったく距離を稼げていない.この地点で少し平均年齢が高めの5人パーティに出会った.聞くと,これから三ノ沢に寄った上で我々と同じく避難小屋で宿泊するつもりだという.我々の足を基準にした我々の計画でも避難小屋に着く時刻は15時前後とあまり早い時間でないのに,その計画は実行性があるのかと思わないこともないが「あとから5人来ることを伝えてくれ」という頼みを了解し,先を急いだ.

そこから先は典型的なアルプスの稜線歩きである.ただし,信じられないぐらい天気がよい.低山の山行ではいつも忘れなかったのに,私はなぜこの山行でサングラスと日焼け止めを忘れたのだろうか.帽子があったのでまだ救われたが,この忘れ物はよくなかった.それはさておき,日差しが強い割に気温はそれほど高くなく,本当に歩いていて心地がよい.

途中いくつか鎖場もあったが,宝剣岳のそれと比べればなんでもない.ひたすら長い稜線歩きでさすがに心地よいだけというよりは疲労を感じるようになる.首筋の日焼けがひどいのも感じ,さきほどは絶賛していた好天だが,このあたりでは「日頃の行いが良過ぎるのも問題だ」と適当なことを思うようになっていた.

ところで,今回の山行では念のためにと軽アイゼンを持参していたが,これを装着する場面は一度もなかった.この長い稜線を歩く途中,1箇所だけ5mほど雪の上を歩く場面があったが,平坦であり軽アイゼンが必要なほどでもなかった.

濁沢大峰を超えたあたりから,円筒を半分に切って倒したような形の避難小屋が見えるようになった.目的地が見えれば気力が回復するという話もあるが,歩行中に前述の5人組パーティの他にも2, 3人宿泊するという情報を得ていたので,我々3人も加えればそれだけで10人に達し,他にも情報のない宿泊者がいれば小屋に入りきらない可能性もあるのではないかと一抹の不安を感じるという面もあった.何にせよ山歩きで到着が午後の遅い時間にずれ込むことは避けたいので,少し足を速める.

個人的には,アルプス歩きのよいところは,一旦3,000m級の稜線(中央アルプスにおいては3,000mには少し高度が足りないが)上に登ってしまえば,あとは水平移動に近い形で楽に縦走できる点だと思っていたが,今回の登山道はやたらとアップダウンが多かった.したがって,小屋が見えてからも小さなピークをいくつも登っては再びコルに下るという無駄に近い行動を繰り返す必要があり,見た目よりも歩くのに時間がかかる.15時過ぎに小屋に着いた頃には6時間台の歩行とは思えないほど足に疲労感があった.とりあえず妥当といえる時間に宿泊地に到着できたのでよしとしよう.

さて,少し緊張しながら小屋に入ると,既に6人の先客があった.我々3人を加えると,もう定員が近い.一応小屋にいる方々にあとから5人来ると言っていたという話を伝えたが,我々が自分たちの寝場所を確保するともう数人分しか空きスペースは残っていなかった.先に宿泊人数に関する結果を述べると,我々よりもあとに小屋に到着したのは2人で,合計11人での避難小屋泊であった.その他,小屋の外でツェルト泊していた人が3人ほどいたように思う.例の5人組パーティは避難小屋までの歩行を諦めたようで,ついにこの日小屋に姿を見せることはなかった.

話を我々の小屋到着直後に戻す.私を含む全員が,必要最低限の水分は持参するようにしていたが,行程の長さや宝剣岳の岩場のことを考えるとなるべく軽量化を図りたいという気持ちもあったので水にはあまり余裕がなかった.そこで,荷物を置くとすぐに3人で水場へと向かった.3分ほど下ったところに「水場まで1分」という標識があったが,そこは雪渓で一見歩けそうになく,何かの間違いだろうとそのまま下山道を進んだ.しかし,5分歩いても水場の影もなく,やはり先程の地点が水場だったかと引き返すこととなった.他の登山客も我々と同様に困惑していたが,勇気ある夫婦のパーティが意を決して例の雪渓を下っていった.そして,雪渓の下には潤沢に水があると伝えてくれた.この時点で吉川とまた別の男性宿泊者1人が雪渓を下っていったが,水場は広くなさそうである上,全員が雪渓を下ってしまって万一戻れなくなると大変なことになるので,私や木下とその他数人は彼らが雪渓上に戻ってくるまで待つことにした.10分ほど待つと,全員が無事雪渓上に戻ってきて,水も冷たく美味であるとのことであった.そこで,私と吉川は2人でもう一度雪渓を下り,合計3Lの水を汲んだ.

そうこうしているうちに避難小屋到着から小1時間が経過していたので,我々は小屋の外で調理をすることにした.食当は吉川で,メニューはマッシュルーム・ツナ入りジェノベーゼ(バジルソースのスパゲッティ)であった.水がそこそこ貴重であるのと,茹で汁をあまり出すと処分に困るとの理由から規定の1/3程度の水で茹でたが特に問題はなかった.そもそも山中では al dente o non commestibile(アルデンテか食用に適さないか)なのである.パスタの茹で汁もビスクスープにして美味しくいただいた.

夕食時に木下に食欲がなさそうに見えたので聞くと頭痛がひどいのだという.昨晩の寝不足と今日の歩行による疲労なのか高山病なのか,あるいはその両方なのかわからなかったが,そのような状態で快眠を妨げられるようではますますよろしくないので救急箱にあった頭痛薬の服用を勧めた.その後30分もしないうちに薬が効いて多少痛みも収まったようで,ひとまずほっとした.明朝,まだ体調が芳しくないようであれば空木登頂は諦めてエスケープすることも視野に入れることにして,とりあえず今晩は早めに休むことにした.

夕食後,小屋の中に戻ると室内で調理をした方々のために中が蒸し暑くなっていた.最初は外でやればいいのではないかと思ったが,おかげで小屋内がとてもあたたかく眠りやすかったので却って感謝することとなった.日没後,せっかく晴れているので星空を見たいと私と吉川はぼーっと空を眺めていた.始めは2人で小屋の外に佇んでいたが,あまりに寒いので私は途中で小屋の前室まで撤退した.吉川はかれこれ30分間も外で待ち続けていただろうか.よくあの薄着であの寒さの中じっとしていられるものである.一方,肝心の夜空は月明かりが強すぎてそれほど多くの星を見ることは叶わなかった.それでも金星・火星・木星あたりの惑星を観察することができたし,麓の夜景も楽しむことができた.もう少し待てばもっと星を見られたかもしれないが,明日の行程も長いので名残惜しみながらも19:30頃には寝袋に入った.出発から色々あったが,景色の良さによるプラスの方がはるかに大きい1日目であった.

2日目の朝は4時に起床した.夜中,私は2時間毎に目が覚めては再度寝るということを繰り返していたが,聞くと吉川もまったく同様であったという.それでも前泊の駅寝よりは数百倍快適な夜を過ごすことができ,一同調子は上々であった.

他のパーティの方々も4時にはほぼ起きていて,それぞれ出発の準備にとりかかっていた.我々もすぐにお湯を沸かし,寝袋の片付けなどパッキング作業に取り掛かった.食当は木下で,アルファ化米の牛飯とスープを用意してささっと朝食を済ませた.山の食事としては鉄板で,安定のスピード感と美味しさである.

荷物をまとめて小屋の外に出ると,思ったほどには寒くない.Tシャツの上にソフトシェルを羽織ればそれでちょうどいいぐらいの気温であった.昨日ほど天気がよくはなく,雲が多い.麓の情報ではあったが,夕方からは降雨となる可能性があることも把握していたので,早めに下山したいと考えていた.しかし,起きた時点で4時起き5時出発という算段通りにいくまいと予想していたのが見事に的中し,案の定出発は5時を10分ほど過ぎてからとなった.とはいえ,10分程度は誤差の範疇であり,木にしても仕方あるまい.

軽く準備運動をして歩き始める.ほんの10分程度分だが,昨日歩いた道を引き返し,中央アルプスの主稜線に戻る.この尾根は進行方向に対して左向きに切れていき,遠くに今日の目的ピークである空木岳が見えていた.そこまででも十分に距離があるというのに,そこから今日は下界まで下りるとなると先が思いやられる行程の長さである.下山のことは考えても楽しくないので,とりあえず空木に登頂することだけを考えて足を進めていった.

30分も歩くと体も温まってきてソフトシェルさえも必要がなくなった.稜線の様子は昨日の後半行程と特に違いはなく,単になかなか近づいて来ない空木岳となかなか遠ざからない避難小屋に挟まれて黙々と歩くのみであった.途中いくつか鎖場もあったが,大したことはない.2つ3つと小さなピークを超えて熊沢岳に至る.この辺りはおよそ50分間隔で適当な位置で休憩をとっていたので,ピークでも軽く写真を撮る以外は時間を使わないようにした.東川岳についても同様である.

この東川岳を過ぎたあとのコルが木曽殿であるはずだが,斜面が急過ぎることもあってかなり近づくまで山荘の姿を確認することもできなかった.木曽殿山荘のベンチで空木に至る最後の90分急登にとりかかる前に少し長めの休憩をとった.意を決してゆっくりと登りに入る.急な斜面と断続的な鎖場でメインザックの重量もあって息が上がる.木曽殿では90分で登頂なら気合の1本で上がってしまってもよいかなどと話していたが,思った以上に疲れたので45分ほど登ったところで水分補給と息を整えるための休憩をとった.そして,木曽殿からほぼコースタイム通りの時間で空木の山頂に至った.

登頂とほぼ同時に弱い雨が降り始め,残念ながら見事な遠景が臨めたわけではなかった.しかし,そうした眺望は昨日の駒ヶ岳で味わっているし,空木は登っただけで相応の達成感が得られたため悪い気はしなかった.雨の中ではあったが,登りの疲れを癒やして下山のための気力を回復させる意味もあって山頂で少し長めの休憩をとる.

再び意を決すると,下山を開始する.あとは単調に下るだけであることはわかっていたので少しペースを上げる.私は下山にあまり時間をかけたくない性質であり,いかに位置エネルギーを無駄にせず流れるように下るかの闘いだと思っている節があるので速度が上がりがちであるが,他のメンバーのこともあるので少しペースを抑えた上で,こまめに後を待つようにして間隔を調整した.それでも,エアリアのコースタイムよりは少し早いペースで下山を続け樹林帯に入った.

毎度のことなのでわかっていたことではあるが,アルプス下りの樹林帯はだらだらと長い.本当に嫌気がさす.空木にもロープウェイがあればいいのになどとメンバーと無理難題を語りながらもひたすら下り続ける他なかった.特に間違えると致命的な分岐もないことはわかっていたので時々方角を確認する程度で,いちいち正確な現在地を把握するよりも早く車道が現れてくれと祈る気持ちが強かった.途中,小地獄・大地獄と呼ばれるあたりには急な鎖場や金属板による階段が散見された.弱い雨が降り続いていたこともあって足場が悪く,そこは慎重な行動を求められた.

タカウチ場にタクシーに関する看板があったので,そこで帰りのバスとタクシーの手配を試みた.しかし,ここで私は行きと同じ誤ちをおかしたことに気付くこととなった.すなわち,16時以降のすべてのバスが満席状態となっていたのである.吉川にタクシー会社への迎車要請を任せ,私は慌ててバス会社に連絡して15時のバスに3人分の予約を入れた.だが,この時点で14時近くであったので温泉に入る時間がないのは当然として,バスに間に合うかどうかも微妙であった.交通費は倍以上となるが最悪の場合駒ヶ根駅から特急を使う手もあるので致命的状況というほどでもなかったが,もっと早くバスを予約すべきであったと後悔した.しかし,下山時間を正確に読むことは難しかったのでこの判断は難しかったと言い訳もしたくなる.一方,タクシーの迎車についても担当者に迎車地点が正確に伝わらなかったようで「恐らく10分以内に向かえる現地に着いたら再度連絡してくれ」と適当なことを言われて首尾がよいとは言い難い状況に陥ってしまった.

とにかく予約の取れたバスまでの時間が十分でなかったので,電話を切るとすぐにタカウチ場を立ち,あと少しの行程急いだ.こうして14:20に林道終点に至る.私が在京責任者に下山連絡を入れる間に再び吉川にタクシーの手配を試みてもらった.今度は現在地が正しく伝わり迎車するとの返事をもらえたが,聞くと迎車に20分はかかるという.先の担当者は何の根拠があって「おそらく10分以内」などと言ったのだろうか.話を鵜呑みにせずタカウチ場の時点でもう少し粘って下山地点でタクシーに待ってもらうよう手配するべきだったと後悔したがもう遅い.15時のバスには間に合いそうにないことを悟ったのでタクシーを待つ間に代案を練った.疲労感は強かったが,ここで冷静な対応ができたのが最終的には正解であった.すなわち,バスのキャンセル待ちをあてにして5分に1回程度のペースでバスの予約センターに電話をし,17時以降発のバスに1席空きが出る度に予約を入れるという方式でなんとか17時発に1席,18時発に2席を確保した.

そうこうしているうちにタクシーが来た.この時点で少なくとも17時までは駒ヶ根を離れられないことが判明していたので,行き先を駅ではなく温泉・こまくさの湯までとお願いし,タクシーで20分ほど山道を下った(運賃は2,980円だった).私はこのタクシーの中でもバスセンターへの電話を続け,さらに1席分を18時発から17時発に移すことに成功した.

こまくさの湯に着くと,まず路線バスの時刻表を確認し,1時間ほどは温泉でゆったりできることを把握した上で,登山の汗を流した.月並みな感想ではあるが,やはり下山後の温泉は最高であった.さらに風呂あがりには食堂で地ビールを注文したのだが,これも本当においしく感じられた.なお,食堂においても私はバスセンターへのコールを続けており,ついに17時発バスに3席を確保することができた.人気アイドルグループのライブチケットを取るわけでもないのになぜこれほどの苦労をする必要があったのか謎であるが,とにかく席が確保できたのでいいことにしたい.17時発バスに間に合う時間に路線バスに乗り,駒ヶ根のバスセンターに向かった.

そういう経緯があったのでバスの席は3人別々の名前で予約したものであったが,バスセンターの窓口で3人同一グループだと主張すると回数券割引を適用することができた.この割引の有無で1人あたり500円程度安くなったので馬鹿にならない差である.もっとも,この節約分は帰京途上に寄ったSAにてたこ焼き,牛串,焼きそばとなって飛ぶわけであるが.バスの席は3人ばらばらとなってしまったが,皆疲れており寝る気しかなかったので特に問題ではなかった.

高速が渋滞していたため新宿20:45の予定時刻よりは遅くなったが,幸いにして遅れは30分強とそれほど大きくなかった.帰郷した途端,私は明日のゼミが自分の担当回であるのにほとんど準備ができていないことを思い出してしまったが,とりあえず夕食をとるため3人でルミネ EST に入り手頃な店を探した.すぐに入れそうな店としてチーズ料理屋と野菜料理屋があったが,私のお腹がすいていたのでよりカロリーを摂取できそうな前者を選び,謎な感じに洒落た夕食をとった.その後,22:00過ぎに解散.メンバーの皆さん本当にお疲れ様でした.

■反省点
すべてが思惑通り順調に進んだわけではなかったが,発生した問題1つ1つに冷静に対応できた点は振り返ってみても評価できるように思う.今後はそもそもなるべく問題が発生しないようより万全の準備を行えるともっとよいだろう.

・行きも帰りもバスの予約を甘くみていた.高速バスの予約はもっと早め早めに行うべきであった.これにはあまりに簡単に予約できて,さらにドタキャンすらもペナルティなく簡単に行えてしまうという高速バスの予約システムの問題もある.だからといって乗れるかもわからないバスについて先に予約を入れてしまうことは道義的にどうかと思うわけだが,直前に慌てるぐらいならその方がマシかもしれない.いずれにせよ,予定が確定した時点で迅速に予約を入れることは重要である.
・利用した高速バスでは複数人分のチケットをまとめ買いすると回数券割引を適用することができた.具体的には2人では1人あたり200円引き,3人なら1人あたりおよそ500円引きとなった.今回は行きのチケットを購入した際にたまたまこの割引の存在に気付いたので活用することができたわけだが,こうした料金体系は本来計画段階で事前に把握しておきたかった.
・今回の山行で発生した問題に冷静に対応できたのは,山行中の各行程について代案(プランB)を予め用意してあったからに他ならない.計画書には山中行程についてエスケープルートを明記することになっているが,こうしたことは山中に限らず常に心がけておくべきである.

■総括
私の不手際で行き帰りが少しバタついたのが申し訳なかったのと,そもそも普通の週末に行くには些かハードな計画であったような気もするのであるが,梅雨のわりには天候に恵まれたこともあり,総じて満足のいく山行となった.