2016/7/16 鶏冠谷右俣遡行

山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
鶏冠谷右俣遡行計画書 
作成者:丸山

■日程 2016/7/16(土)
■山域 奥秩父
■捜索要請日時 7/17 10:00
■メンバー (計3人)
CL丸山 SL久光 迫野
■交通
相模湖駅前ロータリーに6:53に集合し,西沢渓谷駐車場まで丸山の自宅車で(80分程度・高速代580円)
■行程
西沢渓谷駐車場-40-鶏冠谷出合-75-二俣-120-大滝下-15-戸渡尾根-15?-上部軌道跡(60?)-ヌク沢枝沢下降(60?)-下部軌道跡(90?)-20-西沢渓谷駐車場
http://yahoo.jp/pjOK4G
(計4:30+3:45?)
コースタイムは奥秩父・両神の谷100ルート等による.
※時間に余裕がない場合,ヌク沢枝沢下降や軌道跡探索はせず,近丸新道を下る. 
■エスケープルート
鶏冠谷出合まで:引き返す
戸渡尾根まで:引き返すか,戸渡尾根に詰める
戸渡尾根から:近丸新道か徳ちゃん新道を下る
■地図
2万5千分1地形図「金峰山」
山と高原地図「金峰山・甲武信」または「雲取山・両神山」
遡行図:
■遭難対策費
100円×3人
計300円
■備考
日の入(7/16)19:02
日下部警察署 0553-22-0110

鶏冠谷右俣遡行記録
作成者:丸山
■日程 2016/7/16(土)
■山域 奥秩父
■天候 小雨後曇り
■メンバー・オーダー(計3人、敬称略)
CL丸山(35),迫野(35),SL久光(34)
※道を下るときのみ迫野,丸山,久光の順
■総評
生憎の曇り空と霧だったが,鶏冠谷右俣・三富鉱山跡・ヌク沢軌道跡いずれも優れた内容であり,非常に満足度の高い山行であった.
■GPSログ
http://yahoo.jp/9a1B4Q
■時間
8:25 西沢渓谷駐車場発
8:58-9:10 鶏冠谷出合(入渓準備)
9:22-10:07 魚止滝
11:17 二俣
13:10 大滝下
13:51 戸渡尾根
14:03 近丸・徳ちゃん新道分岐
14:15-16:01 上部軌道跡探索・三富鉱山跡探索・沢下降開始→諦め
16:01-16:06 沢靴からスニーカーに履き替え
16:30 ヌク沢渡渉
16:40-17:44 下部軌道跡探索
17:58 西沢渓谷駐車場着
■行動記録(敬称略)
※使用した遡行図は東京起点120ルートのもの.

集合場所の相模湖駅に向けて運転していると,スマートフォンの通知音が鳴る.こんな朝早くに連絡があるなんてきっと今日のメンバーの誰かだろう,連絡があるからには何か問題があったに違いない,と嫌な予感がするが,なかなか赤信号にも捕まらないため確認できない.漸く赤信号で止まって確認すると,久光が平日ダイヤとの勘違いにより20分近く遅れるとのこと.コースタイム長めの山行を予定しているのにこれは痛い.
道は空いていて集合時間より10分程度も早く6:40頃に相模湖駅に着いたので,適当に駐車してトイレに行ったりした後,規定の電車で来るはずの迫野を迎えに改札まで行くが,何故か出てこない.そのため迫野に連絡を入れると,乗り過ごして藤野まで行っているとのこと.ボタン式の半自動ドアに気付かず,ドアが開かなかったから下車しそびれたらしい.まったくどいつもこいつも.迫野には藤野から上り電車に乗って相模湖まで戻ってもらい,結局久光よりは早く合流できた.
7:16頃漸く久光とも合流し,飛ばして運転して70分程度で西沢渓谷駐車場に着く.すぐに出発し,さっさと歩いて鶏冠谷出合へ.途中登山道としては廃道となっている東沢沿いを通るが,踏跡も濃く問題はない.鶏冠谷出合には沢へ入る格好をした2人パーティがいて,食事をとっていたが,聞くと,釜ノ沢へ行くとのこと.同時遡行にならず良かった.
小雨の中,入渓準備を済ませ,東沢を渡渉して出合は地味な鶏冠谷に入ると,早速花崗岩質でナメや小滝が続く好ましい渓相になる.なぜか水が黄色っぽいのが残念だが,進むこと10分ちょっとで魚止滝が視界に入る.
魚止滝は遡行図では巻くことになっているが,右壁を登ることもできると聞いていたので登攀することにして,リード丸山,ビレイ久光で登る.下部はそれほど難しくないが,残置はなく少々緊張する.中間部で残置ハーケンから支点をとり,上部へと進もうとするが,確かに難しい.仕方がないので残置リングボルト3ヶ所にスリングをかけて足をかけたり掴んだりし,やっと登り切った(4級A1).残置支点2つから固定分散で確保点を作り,後続を上げる.ラストの久光が登りながらスリングを回収し,この滝はクリア.時間はかかったが,適度に難しく充実の登攀だった.
魚止滝の上は暫くゴーロで面白くないが,20分ちょっとでまたナメが出てきて美しくなる.いくつかの小滝を快適に越えると,鶏冠谷のシンボルともされる幅広の3段12mナメ滝が現れる.確かに美しい滝.下段はホールドがなく登れないので,最初右岸から巻こうとしたが,詰まったので左岸に変更.こちらが正しく,しっかりとした踏跡があった.中段と上段は問題なく上がれる.迫野と丸山は中段を滑り降りてみたが,滝壺が浅くあまり滑り心地は良くない.
すぐに10*20m逆くの字滝.難しいのでロープを出すべしと書いてあるガイドもあるが,見た目簡単そうなのでフリーで取りついてみると,実際難しくなく,楽しく登れた.A0用残置スリングも沢山あるが,使わなくても登れ,3級+.使う場合は3級A0程度か.
そのすぐ上には大崩壊地があり,沢が荒れている.久光は絡み合った倒木に突っ込み,通過に難儀していた.程なくしてゴルジュに入り,いくつかの小滝を楽しく越えると,ゴルジュ出口には4*6mY字型滝がある.ここは右岸のへつりが面白かった.丸山は成功して滝壺に落ちずに済んだが,迫野は失敗してドボンし,久光は諦めて胸くらいまで浸かって越えていた.
その後も続く美しいナメを越えると,二俣.右俣の25m滝はここから巻き始めるのがいいということで,確かに左岸に巻き道があるが,25m滝を直下から見ておきたいので,とりあえず右俣を進む.すぐに4m滝があり,直登不能で左岸から巻くが,久光は引き返しの面倒さを考え待機.25m滝は水線直登は確かに不可能そうだが,左岸の登攀はできなくもなさそう.しかし荷物を4m滝下に置いてきたことや時間を考え,素直に引き返す.4m滝の左岸巻き下りはずるずるで悪く,丸山は苦労して下った.これを迫野には薦められなかったので,迫野には滝を滑り降りてもらった.
そうして漸く25m滝の巻き道に入るが,途中で踏跡は不明瞭になり,不安になる.足許も不安定で悪く,注意しながら勘に従って進むと,正しい巻き道だったようで,スムーズに25m滝上に出た.初心者同伴ではやりたくない巻きである.
すぐに沢は再びゴルジュになり,4m滝.右側に倒木があったため,それを利用して難なく越えることができたが,確かにこの倒木がない場合は難しそうである.その上にはすぐに30m滝.左岸を巻き気味に登ると遡行図には書いてあるので,まず,簡単そうな左岸の下部を全員で登り,丸山がさらに上まで偵察に行く.上部のスラブに詰まったところで右へ行けば3級程度で登攀可能だが,やや高さがあるので一応ロープを出そうと思い,準備する.しかしその間に既に迫野が登ってきていて,簡単とのことなので,結局フリーで上がってもらい,上部の滑りやすいスラブの部分だけフィックスロープとして使ってもらった.久光も迫野と同様に登った.
その先いくつかナメ滝を越えると,幅広8m滝.他の滝同様簡単そうに見えたので丸山は水流左隅をフリーで登ったが,4級程度あり,結構難しかったので,後続は左岸を巻いた.残置ハーケンが1つあり,ロープを出して登った方が良い.その先は延々とナメとナメ滝が続き,2~3級程度ですべて快適に直登できる.このあたりでは霧が濃くなってきたのがちょっと残念だった.贅沢なことに,この美しい景色にすら飽きてきた頃, 40mといわれる大滝に着いたが,どう見ても40mはなく,25m程度ではないか.霧のせいでよく見えず残念.予定通りここで遡行終了し,詰めに入る.
薄い踏跡を辿りながらトラバース気味に戸渡尾根方面へ向かっていくと,美しい原生林を経て,しばらくでシャクナゲの藪に突入.少々格闘すると,嫌にならない頃に戸渡尾根の登山道に出た.それほど良くない登山道をひたすら下ると,24分で上部軌道跡に着いた.珪石が沢山落ちている.ここからはまたお楽しみの時間である.まずは北方向に進むと,噂通り,レールやエンジンなど様々な遺物が残っており,面白い.崩壊地に見える巨大な珪石も見応えがある.しかし,なぜか最近のものと思われるテント・寝袋・コッヘル・バーナーなどのビバーク一式も落ちており,謎深い.
いったん引き返し,近丸新道から西方向へ進むと,今度は廃坑が出現.早速入ってみると,それほど広くないが,天井から妙なキノコが生えていて気持ち悪い.さらに進むと,ホッパー跡地と思われる窪地があり,どうやらここから索道で珪石を下部軌道まで降ろしていたようだ.この周辺には他にも潰れた小屋跡らしきものや金属製の遺物などが沢山落ちている.すぐ近くには立入禁止の坑道がある.ここから少し上に行くと,開放された坑道があり,ちょっと休憩してから入ってみると,広い.なんとまあ美しい,白堊の神殿のようである.見とれながら奥へと進むと,レールが残っており,それに沿ってさらに奥へ行けば,トロッコまで残っている.丸山や久光のような廃モノ好きとしては,素晴らしいところであると言わざるを得ない.他にもいろいろと見るべきものはある廃坑だったが,ここに詳しく述べてもあまり意味がないので略し,入ったのとは別の穴から出坑する.さらに軌道跡を先へと進むと,今度は露天掘りの跡地がいくつかあった後,それほど広くない坑道が一つあり,三富鉱山跡としてはそれで全てのようだった.
探索はこれくらいにして,ヌク沢枝沢(珪石鉱山の直下にあり,珪石が多数落ちていることから久光により珪石沢と名付けられた)の沢下降を始めようとするが,思いの外下りにくく,時間がかかりそうだったので,数分であきらめ,登山道へ向かう.
登山道へ出た時点でスニーカーに履き替え,迫野を先頭にして高速で下ると,20分ちょっとでヌク沢まで下ることができた.登山道はつまらないが,本当に速い.さらに近丸新道を辿ること少しでレールが現れ、下部軌道が始まる。久光がここの斜面を少し登って索道の痕跡を確認した後、軌道沿いに進む。途中で軌道跡は近丸新道とは分かれてヘアピンカーブで戻る方向に進むので、それに従って進む。この区間では部分的に崩壊地があったが、辿る人も少なくないようで、踏み跡ははっきりしており、それほど危険は感じない。暫くして2つ目のヘアピンカーブがあったが、ここの線形が凄い。急カーブかつ急傾斜で、こんなところで列車を走らせたらすぐ脱線しそうである。その先も、部分的に不明瞭な箇所や崩壊地を経て、軌道跡は近丸新道に合流する。その先は近丸新道を進むが、いつしかレールは無くなる。どうやら下部は撤去されているようである。
近丸新道が急に下り始めるところから、軌道跡はまた近丸新道とは分かれ、東へと進む。車庫のようにも見える平場を右に見て、さらに下ると鶏冠山(東)林道に出る。軌道跡はどうやらこの林道に飲み込まれているようなので、林道を少し下ると、左手に、戻るように緩傾斜で下る路盤が見える。これが軌道跡で間違いなさそうなのでこれを下ると、西沢渓谷ハイキングコースのトイレのある広場に出た。ここに広場があるのは、ここが東沢軌道とヌク沢軌道の分岐点だったからなのだろう。
あとは林道を車に戻るだけなので、下山連絡をして次にこの山域に来るときに事を考えつつ、歩いた。

■予定時間との比較
矢印の左が予定(奥秩父・両神の谷100のコースタイムが主)、右が実際

西沢渓谷駐車場-40→33-鶏冠谷出合-75→127-二俣-120→113-大滝下-15→41-戸渡尾根-15?→24-上部軌道跡(60?→106)-ヌク沢枝沢下降(60?)→近丸新道下降(34)-下部軌道跡(90?→64)-20→14-西沢渓谷駐車場

コースタイムでは魚止滝を巻くことになっていたことを考えれば,大滝下までの遡行速度は十分であった.詰めをトラバース気味にした結果シャクナゲの藪にはまって時間がかかった.三富鉱山跡が想像を遥かに超えて面白かったため時間がかかり,その結果大して面白くもない割に時間のかかりそうなヌク沢枝沢下降は諦めた.下部軌道跡は思ったより踏跡がはっきりしていて辿りやすく,時間はそれほどかからなかった.
■見つけたもの
・アズマヒキガエル
・ヤマメ?:鶏冠谷の下部に多少の魚影があった.たぶんヤマメ.
・鹿角:詰め始めた頃に1本発見し,迫野が持ち帰った.
・白い粘菌:上部軌道跡にあって迫野が気に入っていた
■感想・備考など
・鶏冠谷の水は黄色がかっていてあまり綺麗ではなかった.理由は不明.遡ると綺麗になり,水も冷たくなる.
・鶏冠谷右俣は人気沢である割には滝の巻き道の踏跡が薄く,悪い.
・魚止滝は結構難しいので,覚悟して取りついた方が良い.残置支点は豊富にあるから,ガチャは多く持って上がった方がいい.
・当日は左俣に先行者があった模様.沢中では人に会わなかったが,戸渡尾根や西沢渓谷ハイキングコースでは,数パーティとすれ違った.
・ロープは30m一本で十分。
・泳ぐ必要はない沢.
・珪石沢を下降しない判断を早めにしたのは良かった.
・三富鉱山・ヌク沢軌道ともに程よく熟成された廃モノであり,楽しく探索できる.
・ヤマビルはもちろん無し.
■反省
・魚止滝の難易度を過小評価して取りついた結果,ハーネスに付けたガチャが足りなくなりそうになった.
・8m滝の難易度を過小評価してフリーで登った結果,4級程度あって多少不安を感じた. 
→滝の難度を見定める目をもっと養うべし.
・靴下を持って行き忘れた結果,丸山と迫野はスニーカーを素足で履くことになり,丸山は靴擦れができた.
→下山用靴を持っていく際は靴下も忘れないようにすべし.
■コメント
・鶏冠谷左俣やヌク沢,西沢も行ってみたくなった.今度行きましょう.
・半自動のドアや土休日と平日ダイヤの違いには気をつけましょう.
■沢の評価
【奥秩父】
富士川系笛吹川東沢・鶏冠谷右俣 160716大滝下まで遡行
2級上(魚止滝登攀の場合)、綺麗2+、登攀2+、珍奇2、辛苦1、推奨2+
美しいナメや滝が続き,登り応えのある滝もあり,長さも適度な秀渓.へつりや泳ぎも楽しむことができる.詰めが藪っぽく面倒だったが,トラバース気味に詰められるのでそれほど辛くはない.