2016/10/29-30 両神山
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
両神山行 確定計画書(10月26日)
作成 木下
□日程 10月29日(土)・30日(日) 1泊2日予備日なし
□山域 秩父
□在京本部設置要請日時 2016/10/30 1800
□捜索要請日時 2016/10/31 0900
□メンバ(計4名)
CL木下 SL川 平岩 出原
□集合
10月29日 0820 池袋駅 西武1階改札前
途中乗車での合流を希望される方は事前にご連絡ください。
□交通
始発駅で西武漫遊きっぷを購入すると、西武鉄道と西武バスに2日間乗り放題です(町営バスは除く)。池袋から1900円です。
■行き
池袋0840→練馬0849→飯能0928→西武秩父1018
西武池袋線・秩父線 準急・快速急行・各停 780円
西武秩父駅1020→薬師の湯1109
薬師の湯1112→日向大谷口1147
小鹿野町営バス 500円(薬師の湯で乗継券を受取ること)
■帰り
・中双里→大滝温泉遊湯館→三峰口駅
1018/1150/1422→1053/1215/1457→1111/1235/1515
西武バス 温泉まで490円、駅まで690円
・中双里1620→西武秩父駅1743
西武バス 区間急行 970円
・大滝温泉遊湯館→三峰口駅→西武秩父駅
1100/1305/1505/1605/1705
→1115/1320/1520/1620/1720
→1145/1350/1550/1650/1750
西武バス 温泉から620円 三峰口から430円
・三峰口→西武秩父→池袋 毎時二本 西武秩父から1時間半~2時間
西武秩父線・池袋線 西武秩父から780円
・中双里→大滝温泉遊湯館
タクシー 30分程度 5000円程度
秩父丸通タクシー 0120-02-3633
秩父ハイヤー 0120-118-184
□行程
29日
日向大谷口1200
→清滝小屋1405 幕営
[歩行計2時間05分]
30日
清滝小屋0600
→剣ヶ峰0725・0750
→ミヨシ岩0845
→大峠0920
→梵天ノ頭0955
→白井差峠1055
→中双里1215
[歩行計5時間50分]
※梵天尾根について役場に問い合わせたところ、「崩れているなどの情報はない」とのこと。
□エスケープ
ミヨシ岩まで:日向大谷口に引返す
ミヨシ岩から:梵天尾根を下りる
※万が一、梵天尾根で道を失った場合や熊出没などで前進できない場合は引返して日向大谷口に下山します。
上り下りともコースタイムを仮定すると、白井差峠から引返しても、在京本部設置要請時刻前の1730に日向大谷口に下山できます。
□小屋と温泉
■清滝小屋
今は避難小屋なので無人、無料のはず
テント10張程度 トイレ有
水場あり
小屋も開放されているはずなので寒ければ避難可能
■薬師の湯
600円
■大滝温泉遊湯館
700円 漫遊きっぷで630円
□地図
■2万5千図 「両神山」「中津峡」
■山と高原地図 「25雲取山・両神山」
□遭難対策費
200円/人*4人
計800円
□日没日出
10/29日没(さいたま):1649
10/30日出(さいたま):0602
□雨天予報時
29日が半日強くない雨程度であれば、決行します。
30日が雨であれば、29日が悪くない天気なら決行し、翌日天候によって引返します。
いづれかが大雨であれば中止します。
□ラジオ周波数
■NHKラジオ第一:東京;594kHz
■NHKラジオ第二:東京;693kHz
■NHK FM:東京;82.5MHz,秩父;83.5MHz
□警察署電話番号
埼玉県警小鹿野警察署 0494-75-0110
秩父警察署 0494-24-0110 下山口
両神山行記録
12月4日 木下亮平 作成
□日程 10月29・30日(土・日)
□山域 秩父
□メンバ(計4名)
CL木下 SL川瀬 平岩 出原
□オーダ
上り:川瀬・出原・平岩・木下
下り:木下・出原・川瀬・平岩
□天候
29日:晴レ風ヤヤ強シ
30日:晴レ後チ曇リ一時霧リ
□計画
29日
日向大谷口1200
→清滝小屋1405 幕営
[歩行計2時間05分]
30日
清滝小屋0600
→剣ヶ峰0725・0750
→ミヨシ岩0845
→大峠0920
→梵天ノ頭0955
→白井差峠1055
→中双里1215
[歩行計5時間50分]
□行程
29日
日向大谷口1205
→「たちや堀」付近(2回渡渉後)1255・1306
→「八海山」1338・1345
→清滝小屋1425
30日
清滝小屋0555
→階段下(1500m~1550m付近)0635・0643
→両神神社0705
→両神山頂0740・0803
→梵天尾根方面ニ立入ッテ戻ル
→両神神社0846・0900?
→清滝小屋0940・0952
→4回目渡渉点(「たちや堀」ノ先)1039・1048
→日向大谷口1126
□梵天尾根ルートについて
山と高原地図には「入山の際には小鹿野町役場へ確認した方がよい」とあったので、山行数日前に役場に電話し、観光課に繋いでもらって「梵天尾根を中双里に下りるつもりだが歩けそうか」と尋ねたところ、「特に道が崩れているなどの情報はありません」という程度の返事で、危ないとも奨めないとも言われなかったが、これが役場の無関心を示している。
両神山頂からはまづ左手の清滝小屋方面と分岐してロープの張ってある右手の道に入り、次に左に白井差ルート、右に梵天尾根ルートを分けるが、梵天尾根ルートにはここにもロープと「立入禁止」の看板がある。我々はこの「立入禁止」を中途半端に信じてしまい、役場の「歩けますよ」という態度もあって、右へトラバースして尾根から外れるこの分岐をルートと思わず、地形図のように稜線上をまっすぐ進んだためにすぐに道が見えなくなった。きちんと(?)ロープを乗越えてルートに乗れば歩けたのかもしれないが、やはり少なくともこの落葉の時期の下りに適した道ではないだろう。今後状況が好転する見込みもないから、山と高原地図でも破線にしてよいと思う。
役場は(昭文社の期待とは裏腹に)無関心であることが分かったので、この道の状況を訊ねたければ、白井差ルートを管理している山中豊彦氏に確認するのがよいかもしれない。なお白井差から上がってきた人によればこちらはよく整備された道であったとのこと。
□ルート状況
■交通・乗換え・きっぷなど
計画書では1018西武秩父着の電車で1020発のバスに乗換えることにしていたが、さすがにこれには無理がある。前日にメンバで打合せて池袋0805発秩父0948着の快速急行に変更した。平岩さんはJRの遅れなど止むを得ない事情により計画書通りの電車に乗車したので、私がバスの運転手さんに少し長めに待ってもらうよう頼んでおいたところ、平岩さんがバスに乗込むのを待って1分遅れで出発してくれた。行きのバスは空いていて、登山者ももう一人だけだった。三峰口から来たバスはもっと空いていた。
町営バスは終点薬師の湯で三峰口から来る日向大谷口行に連絡しているので、確実に乗り継げる。「両神庁舎」から「薬師の湯」までは2本のルートが逆向きに重なっているので、両神庁舎で乗継いだ方が余裕があるように見えるが、乗継券は薬師の湯でしかもらえないので、無駄に運賃がかかることになる。
また、この乗継券で乗継運賃にできるのは、たしか「最も発時刻の近い他路線に限る」という風に書いてあって、解釈の難しい文だが、運転手さんによると「薬師の湯を利用する人には乗継券を発行できないことになっている」らしい。しかしそれではわざわざ薬師の湯だけで乗継げるようにしている意味が全くなく、実際には運転手さんも、我々が温泉に入ることを「聞かなかったことにして」(我々が入るかどうかをわざわざ訊いてきたくせに!)、乗継券を出してくれる。帰りのバスは薬師の湯から先少しずつ乗る人が増えて、混雑した。
日向大谷から乗って薬師の湯に着く時刻と薬師の湯から西武秩父(又は三峰口)に発つ時刻の設定も、温泉や食堂を利用するのに短かったり長かったりと不便。また「小鹿野町役場」などでの西武バスとの連絡は全くしていないので、例えば薬師の湯から役場行の町営バスと役場から秩父駅行の西武バスとが上手い時刻に走っていてもアテにはならない。薬師の湯から役場まで歩くのも現実的でない。
漫遊きっぷについて。電車の切符に加えられたクーポンの部分は、「仲見世通り640円クーポン」・「西武バス乗り放題」・「三峯神社行急行バス片道割引」・「レンタカー割引」の4択になっており、山行では「バス乗り放題」のために利用することが多いだろうが、当初乗車可能性があった大滝温泉~三峰口駅~西武秩父駅の路線のうち三峯神社方から来る三峯神社線は三峯神社の支援で運行されているため、フリー切符を使えないとのこと。中双里から大滝温泉を経て三峰口駅までの中津川線は(西武秩父駅まで行く日に1本の区間急行を含めて)きっぷ利用可能で、かなり難しい。また仲見世通りはリニューアル工事中で、西武鉄道のサイトには「ご利用できる施設が少なくなっております」と注意書きがあるが、それどころではなく、プレハブの土産物店が一つ出ているだけである。多くの山行では漫遊きっぷを使ったとしても大した得にはならないので、バス利用で確実に元が取れるのでなければ、あまり便利でないかもしれない。なおクーポン部分をバスフリー切符に交換することは駅前の営業所でもバス車内でもできるらしいので、バス利用が確実になってから交換した方が安全。
仲見世通りはトイレも使えないので仮設トイレが設置してあるが、混雑する。駅員さんに言えば構内のトイレを貸してくれるはず。
■日向大谷口~清滝小屋
ずっと谷筋の面白くない道、やはりピストンでは面白くない。細いトラバースもあるので多少注意が必要。渡渉は大したことない。弘法乃井戸の前後は倒木等で荒れていて、ルート不明瞭。危ないことはないがかなり歩きづらい。
■清滝小屋
山と高原地図「10張」は詰めて張らないと無理だろう。炊事場・流しは広いが冬は水が枯れるはず。トイレはきれいな水洗洋式、ただし冬季トイレはどうかわからない。小屋はかなり広いので寒そう。ほかに人がいなければ小屋の中にテントを張ることもできそうだが……。
■清滝小屋~両神山頂
急登や鎖場はあるが難しくはない。登る途中、尾根ルートとトラバースに分岐するところがあって、しばらく登ると合流するが、下る向きでは尾根ルートにロープが張ってあり、トラバースの方が推奨されているようだ。山頂直下には短いやせ尾根と岩がちの部分があるが、怖がらなければ大丈夫。山頂は狭いが神社の前は広くなっている。
■両神山頂~白井差・梵天尾根ルート方面
山頂のすぐ下で、ロープが張ってある分岐に入る。下った先のコルから左に白井差ルートが分岐している。ほぼ同じところから右にトラバースしていくような道がついていて、こちらは「立入禁止」の札が何枚もついたロープで厳重に封鎖されているが、どうやらこれが「正しい」梵天尾根ルートであったようだ。まっすぐ尾根を進むとコブに上がる前に道が途切れて、深い落ち葉の上を倒木を漕ぎながら進むことになる。コブの上まで登っても、稜線上に道は見えなかった。
■薬師の湯
道の駅になっていて、バスターミナルと温泉施設・食堂がある。西武の漫遊きっぷのwebページには記載がなかったはずだが、事前に32期田代さんが教えてくださったとおり、ここの温泉も同きっぷで一割引になる。ただし他の私営温泉施設で、定価は高いがきっぷでの割引率の高いところもあるので、事前に調べていればもっと良いところがあるかもしれない。湯はカルキ臭かった。雰囲気は銭湯のような感じで、安いから地元の人で混雑していた。
食堂には寄らなかったが、売店には両神山のほか付近の山のバッヂが売っていた。
ここでのバスの待合時間が不便なのは上述の通りだが、靴箱が小さく登山靴(やブーツなど背の高い靴も)が入らないなど、まったく登山客を考慮しているとは思えない。
□雑感
朝の東京は曇っていた。風が強く夜は寒いという予報に不安を感じながら、川瀬さんと落合って西武電車に乗込んだ。
三峰口・長瀞行き快速急行は横瀬で前後4両ずつに分割するので西武秩父には片方しか行かない、ということは覚えていたのだが、はてどちらがそれか、路線図でも電光掲示板でも放送でも教えてくれないので、とりあえず空いていそうな前よりに乗ったら、車内放送では「前より長瀞行きは西武秩父には停まりません」と教えてくれた。座ってしまったのでしばらくそのままで行くことにして、途中乗車する出原くんと平岩さんに連絡。しばらくして出原くんから、正しく後ろよりの車両に乗ったこと、また平岩さんから、JRが遅れたので特急で追いかけることが伝えられた。秩父線に入って空いてきてから、出原くんのいる車両に移動した。
西武電車で移動している間に空はどんどん明るくなって、秩父に到着するころにはすっかり秋晴れだった。バスまでは時間があったので、立食い蕎麦などあれば入りたかったのだが、仲見世通りは何もなくなってしまっていた。コンビニも少し歩くようだったので、おとなしくバスを待った。その間に平岩さんから連絡があり、乗換えを尋ねられて親切にしているうちに特急を逃したとのこと(後で聞いたところによると特急券は払い戻してくれたらしい)。計画書通りのバス2分前の電車に乗ってくるというので、やってきたバスの運転手さんに、もう一人来るからぎりぎりまで待ってもらえるかと頼んだら、田舎の町営バスだからそんなのは全然問題にならないよといった風に笑いながら、「いいですよ」と。結局1分遅れでバスは発車し、途中の乗降もほとんどなく、薬師の湯で乗換え。乗継いだ先のバスが発車するのも、この二台の運転手の世間話が終わるころに、といった様子だったので、そんなものなのだろう。
途中のダリア園に見物に来た夫婦のほかは地元のご老人たちと小さなリュックサックの同業のオジサンひとりだけ。日向大谷到着が昼だから、運転手さんが予定を尋ねてくれたのだが、彼は「行ける所まで行って終バスには下りてくる」とのこと、大丈夫だっただろうか。
バスを降りると風があって、少し寒かった。準備して出発、先頭の川瀬さんは元気でグイグイ飛ばすので、最後尾の老いたる僕は息が上がってしまい、「もう少しゆっくり」と頼む始末。小屋まではずっと谷筋で、尾根に這上がる気が全くない道なので、つまらない。時間の割にばててしまうのはこの気分によるところが大きいかもしれない。高校の時にも最後尾でヒイヒイ言っていたので。尾根に上がらないと調子が出ないタチなのだ。小屋までは、秋の渓谷の美しさはみられるものの紅葉もあまりなかった。
テン場には既に先客が多く、広いサイトの真ん中にソロテントが張ってあるなどして、良い場所は残っていなかった。階段状のテン場の最上段には大学生グループらしいエスパースがあった。我々はその一段下の端寄りに設営。僕は夜の寒さに備えてほとんど全身を新しい乾いた衣類に着替えた。
夜は川瀬さんのチキンライス。僕と平岩さんとがいながら、そして二人とも「飯炊きは任せておけ」という態度をしながら、炊き方を間違えた。沸いたらトロ火である、強火のままいつまでもいくものではない。幸いチキンライスだったので大した問題はなく、美味しく食べられた。
夜は冷えると脅されていたので、片付けながら寝る準備をして、最後に温かいものを飲んで温まった身体のまま寝袋に潜った。しかし上のエスパースから男共四人の声が絶えない。それだけでなく、トイレに行くのか知らないが、外へ出て歩きながらヘッドランプの光をこちらにちらちら向けてくる。再び照らしながら戻ってきて、さあこれで隣も寝るのかと思ったらいつまでも賑やかに話し込んでいる。しかし声をかけるためにはシュラフから出なければならない、せっかく温めた身体である……。仕方がないから顔だけ出して、兄ちゃんたちうるさいぞと怒鳴ったら、少しは静かになった。その後も日本シリーズを聞きながらいつまでも話していたらしいが、寝られないほどではなかった。
結局、その夜はそんなに寒いことはなく、隣が静かになりさえすれば、気になるのはテントが少し狭いことくらいだった。タイツに腹巻をしてシュラフシーツにシュラフカバーと、念入りな準備は無駄だったか。隣の出原くんなどは、僕がもぞもぞ動いて接触しても気にせず寝ているようだった。
翌朝、平岩さんのクリームスープパスタ、これも美味しかった。朝もさほど寒くなく、テキパキと準備して6時前に出発。尾根に出るまでの急登をゆっくりと登ってウォームアップすれば、あとは楽しく歩ける。紅葉や落葉も多く見られるようになった。
歩くうちだんだんとガスが上がってきて多少心許なくなりもしたが、山頂まで上がるとガスの上に出て、雲海の上に山々が頭を出していた。狭い山頂だがこの行程で唯一視界の開けるポイントでもある。20分ほど過ごして出発した。ここからはルートが怪しいので僕が先頭に立って、皆にも何かあればすぐ言うようにと指示しておいた。
下り始めると途端にガスに突込んだ。先ほどよりも上の方まで濃くなっているようだった。ロープをくぐって分岐、コルまで下ると左に白井差への分岐があり、そのすぐ先の右には幾重ものロープで「立入禁止」になっているトラバースが見えたが、地形図では稜線上にルートが走っていることと役場には何も注意されなかったことから、これは間違った踏み跡か廃れた仕事道だろうと判断して、注意書きをろくすっぽ読まずにまっすぐ進んでしまった。ここで道を正しく判断していればすぐに引返したか、あるいはロープを乗越えて計画通り進んでいたか、道を間違えたことでむしろ救われたのかもしれない。コルから登り返すとすぐに落ち葉が深く積もって道が見えなくなった。この分では行かれないかもしれないなと思いつつ、ともかくも目の前のコブのてっぺんまで行って先を見てみようと思うのだが、深い落ち葉に倒木で歩きづらく、しかもガスはどんどん濃くなる。近くに巣のあるらしい小鳥たちは僕らを怖れてしきりに鳴いていた。
何とかコブの上には立ったものの、その先も変わらず落ち葉が積もっていてしばらくは道がはっきりしそうになかった。ガスも10m先が見えるかどうかというくらい濃くなって、今通ってきたコルも見えなかった。尾根さえ間違わなければ無理矢理行けないこともないだろうからと、後の三人が這い登って来るのを待っていると、ガスの向こうから姿の見えない男の人の声がして、「どちらに行かれますか、そちらは歩けないということでしたよ」と言う。梵天尾根から中双里への道が歩けないとは聞いていないので、白井差への道か(本当はこの人らが白井差から上がってきたようなのだが姿が見えずどこにいるのかわからなかった)白井差峠から秩父御岳方面へ続く道のことを言っているのだろうと思いつつも、半ば意地を張って「梵天尾根で白井差峠から中双里へ下りるつもりだったのですが道が見えないので引返します」と言いなした。言いなしてしまったのだから、後の三人にも登ってくるのをやめさせて引返した。
ここでこの男性が声をかけてくれなかったら、また山頂では視界を妨げなかったガスがここまで濃くなっていなかったら、どうなっていたかわからない。山の神は我々を拒絶し、山と我々とを守ったのだろう。
コルまで戻ると声をかけてくれた男性の2人パーティがいた。どちらから登ってきたのかと訊ねて初めて、この人たちが白井差から上がってきたところで我々を見つけて(聞きつけて)声をかけてくれたのだとわかった。白井差ルートの様子を訊けば、「よく整備されていて歩きやすかった」という。日向大谷ルートでなければ白井差がいちばんよいようだ。またこの人たちが梵天尾根の状況を知っていたところをみると、白井差ルートの管理者である山中氏が役場以上に情報を持っているのかもしれない。
元のルートに復帰して一安心。日向大谷へ引返すことにしたので、バスの時間を見て余裕があればお茶でも沸かそうと話しながら神社まで下りてきたが、時刻表を見るとそこまでの余裕はないようだった。登ってくる人が増えてきて、「早いですね」とか「生憎の天気で」とか挨拶してくれる人もいるので、「僕らの時には晴れていましたけどね」と自慢しつつ、神社前で暫し休んだ。
ガスを抜けて小屋まで下ると、かなり大勢の人であった。みな汗と霧に濡れて寒そうにしながら湯を沸かして昼食をとっていた。大学生らしきグループの、高尾山には登ったので次に来てみましたというような雰囲気の男女四五人パーティもいたのだが、そういう山なのかしらん。濃緑の山林を背景に立つ小屋の後ろに一叢だけよく紅葉した所があって、上の方の白いガスに映えていた。
つまらない道をまたえっちらおっちらと引返す。バス時刻が気になって少し急いでしまった。前日とは歩く向きも天気も違うので、こんな道を通ったかしらんと少し不安になることもあったが、梵天尾根のことを引きずりすぎだったか。歩きは少し雑だったようにも思う。結局、バスには十分余裕をもって下山した。
さてこれからどうするか、温泉に寄らずに早く帰るか、温泉に入りたいか。入るとして帰りは何時のバスに乗ればよいか。次に来るバスは薬師の湯からの接続が無く、乗換え先のバスは待合時間が中途半端なので、温泉からはタクシーと西武バスを乗継いで漫遊きっぷのクーポンを消費することも考えたが、やはり面倒なので急いで風呂に入って早いバスに乗ることに落ち着いた。時刻設定だけでなく乗継割引のルールや温泉施設の作りなど、わざわざ登山客用のバスを運行してくれていながら……と不満が多い。温泉の売店にアンケートを見つけたのでそのようなことを書こうかと手に取ったのだが、それは役場だか観光協会だかがもっぱら秩父地域(下界)への観光客を相手に、何にいくらお金を使ったかなどを訊ねるもので、端から登山客には興味がないのだと思い知らされた。だとすれば、観光に来た人がわざわざこのようなところまで来るのか、いや道の駅だから車やバイクで意外と人が来るのかもしれない。
とっとと風呂から上がって、西武秩父へ帰った。仲見世通りは閉まっているので駅向いの数軒の中から、SL川瀬さんのチョイスで、「和風らあめん」の看板と「手打ちそば」の破れた暖簾のかかる可笑しな店に入った。蕎麦もラーメンも定食も単品惣菜もある店だが、「ご飯は終わっちゃったので麺しか出来ないの」とのこと。気さくすぎる夫婦で、「わざわざ来てくれてもうちは美味しいものは出せないよ」とも。手打ちのざるそばは野菜のてんぷらもついてお値打ち、美味しかった。一つの鍋でゆでるのでそばとラーメンを同時発注しても一緒には作れないらしい。初めは客がいなかったのに、我々のあとから何組か入ってきて、通路に並べたザックが邪魔になってしまった。
結局、漫遊きっぷのクーポンを余してしまったので、大混雑のプレハブ仲見世に入って土産物を物色。ワインの小ボトルが丁度良い値だったので、成人二人はそれにした。平岩さんは山行中に他の3人がお菓子を配っていたのに何か返したかったらしく、しかしお金が不足したらしく、「秩父餅」の二個入りを買ってくれて、電車の中で半分ずつに切って4人で食った。
飯能までの間は僕が持っていた文庫たちから、平岩さんが「無名抄」、川瀬さんが「北の山」(伊藤秀五郎)、僕が竹田青嗣の「恋愛論」を読んでいた。出原くんはよく眠っていた。半ば押付けた本だが、川瀬さんはそのまま読みたいというので喜んでお貸しした。教養山岳主義を布教できつつあるのかもしれない。僕では遠く及ばない静観的登山の正しき境地に達してくれるでしょう。
飯能からは各停に乗換え、さらに小手指で地下鉄直通の快速急行に乗換えて、西武池袋方面へは練馬でまた各停に乗換える、不便なダイヤである。
□反省
・マイナなルートでは特に、ヤマレコ等で記録をよく読んで地形図以上の情報を頭に入れておくべし。道の明瞭さや通行量などばかり気にしていて、分岐などの予習が不十分だった。
・登ってきた道を帰るだけだからと油断せずに、またバス時刻などに急かされずに、特に下りは丁寧に歩くべし。
・マイナなルートを歩くときに限らず、ルートについてもペースについても米の炊き方についても、おかしくないかと思ったら、相手が年長でもどんどん言うべし。
・転倒や落石への備えにもなるので帽子は必ずかぶるべし。