2017/8/3-4 鳳凰三山
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
鳳凰三山縦走計画書
作成者 木下
□日程 8月3日(木)・4日(金) 一泊二日・予備日なし
□山域 南アルプス
□在京本部設置要請日時 2017/8/4 1800
□捜索要請日時 2017/8/5 0900
□メンバ(計3名)
CL木下 SL寺垣 福田
□集合
8月3日 高尾駅0707発甲府行き 最後尾車内
※途中乗車や特急利用での合流の場合、CL木下まで事前にご連絡ください。
□交通
※復路について、運賃が変わらない場合には中央線竜王駅または身延線金手駅までの切符を購入されることを勧めます。今回往路は新宿発鈍行では高尾まで京王線を利用することになりますが、その他の場合にJR線の営業キロがギリギリ100kmに満たない方は往復とも隣駅までの学割切符にしましょう。
・竜王発の切符:竜王から乗車すると最も安くなるが途中下車できないため、甲府で再び下車する場合は甲府までの切符と変わりない。
・金手発の切符:途中下車可能だが竜王で乗車する場合は竜王甲府間の切符が別途必要になる。
■行き
・京王線
新宿0550/0608-(北野乗換え/高尾線直通)→0634/0657高尾
360円
○JR中央線
高尾0707→0838甲府
1490円
・特急利用の場合
新宿0700(/0714)→立川0721(/0739)→0828(/0903)甲府
新宿から 2270円(学割1810円)+1340円
立川から 1940円(ギリギリ学割不可)+930円
・高尾着が遅れた場合
高尾0713→0749大月0756-(Sあずさ1号)→0828甲府
(高尾0727→0844塩山0849-(あずさ51号)→0903甲府)
いづれも+510円
○山梨交通南アルプス登山バス
甲府駅(南口1番)0905→夜叉神峠登山口1017 1420円+協力金100円
■帰り
○山梨交通南アルプス登山バス
広河原1100/1300/1400/1500/1600/1640
→竜王 1240/1435/1540/1640/1740/1815
→甲府駅1255/1450/1555/1655/1755/1830
竜王まで1790円 甲府駅まで1950円 +協力金100円
○JR中央線
竜王発====/1342/1441/====/1517/1546/1619/1726/1745/1814
→甲府着====/1347/直通/====/直通/1551/1622/1731/1748/1819
甲府発1316/1352/1447/1456/1538/1559/1646/1732/1808/1837/・/2207
→新宿着1544/1614/1721/1743/1812/1827/1840/1950/2042/2105/・/0040
竜王・甲府→新宿2270円(学割1810円) 竜王→甲府は190円
・終電は高尾から京王線を利用すると新宿に早く着く
甲府2207→0025新宿
・特急時刻
甲府発1312/1329/・/1503/1527/・/1610/1632/1702/・/1805/1833/1856/・/2109
→新宿着1441/1504/・/1634/1706/・/1751/1807/1836/・/1935/2007/2037/・/2236
■エスケープ時
・山梨交通南アルプス登山バス
夜叉神峠登山口1011/1141/1341/1441/1541/1641/1721
→甲府駅1125/1255/1450/1555/1655/1755/1830
・山梨中央交通鳳凰三山登山バス
御座石温泉0905/1230/1515/1715→韮崎駅0945/1310/1555/1755
1500円 荷物代200円
・タクシー
夜叉神峠登山口→竜王駅 約50分 8500円程度
御座石温泉→穴山駅/韮崎駅 約30分/約40分 5500円程度/7500円程度
■交通連絡先
・山梨交通南アルプス登山バス 055-223-0821
・山梨中央交通 055-262-0777
・韮崎タクシー 0120-69-2235 0551-22-2235
・須玉三共タクシー 0120-37-2328 0551-42-2328
・第一交通山梨エリア 055-224-1100(甲府) 055-276-2128(甲斐市)
□行程
■3日
夜叉神峠登山口1030
→夜叉神峠1130
→苺平1420
→辻山1440・1455
→苺平1510
→南御室小屋1540
[歩行計4時間55分]
※夜叉神峠・苺平間は、過去の記録などを参考にして、昭文社コースタイム(4時間)の約7割で算出しています。
※辻山往復は適宜カットします。好天でも小屋に16時までの到着を目指します。
■4日
南御室小屋0500
→薬師岳0630・0650
→観音岳0735・0750
→地蔵岳オベリスク0900・0920
→白鳳峠1050
→白鳳峠入口1250
→広河原1305
[歩行計7時間10分]
□エスケープ
・薬師岳~観音岳の鞍部まで:(南御室小屋に一時避難し)夜叉神峠へ
・それ以降:広河原へ 又は 鳳凰小屋に一時避難し御座石温泉へ(鳳凰小屋から3時間30分)
□山小屋
・夜叉神峠小屋
角田英司055-288-2402
水場往復30分
○南御室小屋
090-3406-3404
テント500円/人 素泊まり4500円/人
水場あり
・薬師岳小屋 !!秋まで休業中!!
090-5561-1242
小林0551-22-6682
水場なし
・鳳凰小屋
0551-27-2018
テント800円/人 素泊まり4000円/人
水場あり
・広河原山荘
090-2677-0828
テント500円/人 素泊まり5200円/人
水場あり
・御座石温泉
細田都子0551-27-2018
水場あり 温泉は高く評判悪い
・青木鉱泉
現地090-8595-6142
水場あり 温泉は高い
□日帰り温泉等
・広河原山荘
コインシャワー3分300円
・名取温泉
竜王駅から徒歩10分
入浴・サウナ500円 入浴・休憩700円
055-276-4126
・喜久乃湯温泉
甲府駅から徒歩13分
入浴・サウナ400円 石鹸類有料(銭湯価格) 休憩室有料?
055-252-6123
・かんぽの宿石和
石和温泉駅から徒歩7分
15時まで820円(休憩可) 15時から520円(休憩所なし)
055-262-3755
□地図
■2万5千図 「夜叉神峠」「鳳凰山」
■山と高原地図 「41(42)北岳・甲斐駒」
□遭難対策費
200円/人*3人
計600円
□日没日出
8/3日没(甲府):1848
8/4日出(甲府):0456
□ラジオ周波数
■NHKラジオ第一:甲府927kHz/東京594kHz
■NHKラジオ第二:甲府1602kHz/東京693kHz
■NHK FM:甲府85.6MHz/東京82.5MHz
□警察署電話番号
山梨県警 南アルプス警察署 055-282-0110
韮崎警察署 0551-22-0110 (東側)
北杜警察署 0551-32-0110 (北側)
鳳凰三山縦走記録
作成:木下
□日程 8月3日(木)・4日(日)
□山域 南アルプス
□メンバ(計3名)
CL木下 SL寺垣 福田
□計画
■3日
夜叉神峠登山口1030
→夜叉神峠1130
→苺平1420
→辻山1440・1455
→苺平1510
→南御室小屋1540
[歩行計4時間55分]
■4日
南御室小屋0500
→薬師岳0630・0650
→観音岳0735・0750
→地蔵岳オベリスク0900・0920
→白鳳峠1050
→白鳳峠入口1250
→広河原1305
[歩行計7時間10分]
□行程
オーダ:木下-寺垣-福田
■3日・霧
夜叉神峠登山口:1028・1048
→夜叉神峠:1143・1156
→2050m付近?:1244・1256:団体ニ追付テ止マル
→杖立峠道標:1315:団体ヲ追越ス
→2309mノ平地?:1337・1352:寺垣居眠リ:1345小雨
→苺平:1441・1459
→南御室小屋:1525?
■4日・晴ノチ曇
南御室小屋:0440
→2670m?:0529・0544:森林限界ヲ越ス
→薬師岳:0606・0626
→観音岳:0656・0720
→赤抜沢ノ頭:0820・0831
→地蔵岳オベリスク:0850・0858:七合目程迄
→赤抜沢ノ頭:0914・0925
→高嶺:1004・1013
→白鳳峠:1058・1123
→2140m?:1208・1218:横巻キ終リ
→1750m??:1306・1312
→白鳳峠入口:1330
→広河原バス停:1342
□ルート状況
■バス
甲府に着いてから、トイレに入ったり駅そばを食ったり(木下だけだったが)してゆっくりすると、バス停は結構並んでしまって立つことになった。休日だともっと混むだろう。芦安駐車場などで途中乗車する人もいる。往路はバス停に並んでいる間に車掌のオバチャンが回ってきて切符を買う。オバチャンがマケてくれたのか夜叉神までは徴収しないのか、協力金は取られなかった。大抵の人は広河原まで乗るようだ。
帰りは、平日のためもあるだろうが、2台が並んで走って殆どの人が座れた。帰りの切符は終点の甲府駅までは事前に広河原バス停の窓口で買えるようだったが途中乗車の場合は車掌から買う。帰りは100円が徴収された。途中で乗降する人もそこそこいる。行き帰りとも、車酔いに要注意。
■夜叉神登山口→南御室小屋
美しい森の中をダラダラと登って行く。どちらかというと下りに向いた道のように思うが、夜叉神からバスに途中乗車すると座れない可能性が高くやや不便。指導標に書かれている時間は山と高原地図同様にかなりオーヴァだ。
テン場は広く綺麗に整地されている。トイレは水洗洋式ポットンで工事現場の仮設便所のような部屋になった物が女性用と男性用に分かれて沢山ある。男性小用も隅に置かれている。水は手洗い歯磨き用にちょろちょろと出ているものと、少し奥まったところに豊富に流れているものがある。
小屋にはバッヂやコーヒーや酒類が売られている。外見はやや古臭いが、小屋の人は親しみやすそうだった。表の土間が広めに作られている。
■三山縦走路
山々のアップダウンは(南アとしては)小さいので楽だが、登頂の達成感の弱い割にいやらしい道が多い。岩の道もハイマツの道も林に潜る道も狭いことが多いので、ザックのサイドにロールマットを付けるのはあまり勧めない。枝が出ていたり虫が飛び交っていたりもするので、暑くない程度に長袖シャツ(アンダ・ウェアなど)を着るとよいかもしれない。
踏み跡が複数あるのに赤マルや矢印のない所や歩きよさそうでない方へ誘導される所も多い。稜線上なのでどこをとっても結局同じだから、安全そうな方へ。もとのルートを嫌ってショートカットする踏み跡が付けられてしまったような箇所もある。
道じたいはどこもだいたい判然していて、スリリングなところもないので、おやと思ったら一歩下がって、正しい踏み跡を探そう。
■高嶺→広河原
前半は膝に応えるゴーロ、後半は進むほど急になる悪路。焦らず用心して一歩ずつ下るしかない。登りの方が怖さもリスクも小さいだろうが小屋までがやや長いし、殊更この道をとるメリットもあまりない。晴れていれば景色はよいのだろうが……。
■名取温泉
黄色い大きな建物で風呂は2階にある。風呂は600円に値上がりしていた。「風呂・サウナ」が600円、「風呂・サウナ・休憩」が700円。シャワーも温泉水を使っているため石鹸が泡立ちにくいが、風呂は広く、湯もよい。「休憩」は3階の大広間使用料だろうか。そこが食堂になっていて、老人交流会などがなければ静かに過ごせそう。エアコンはあまりつけないのかもしれない。食堂は麺類とおつまみ系が中心でラーメンが500円、かき揚げそばが550円。営業時間に注意。
なお広河原からのバスの途中、芦安で下車すると日帰り温泉施設がいくつかあるようだ。バス切符は申し出れば途中下車できるような感じだった。
□紀行
下界にいる間我々は、山の本を読み、地図を開き、山に憧れる。しかしいざ山に入ると苦しいことばかりだ。殊に蒸した道をテントを担いで半日登り続けるとき、風雨の中を次の小屋まで頑張るとき、疲れた身体に鞭打って濡れた荷物を背に荒れた道を下るとき。然れども山には、それを埋め合わせるに十分な、否、比べるに及ばぬほど美しき、遥かなる一瞬間がある。
霧に湿った羊歯と苔の森、土の匂い
夜明け前、星座の間を走る流星、白みゆく東雲に目覚めた鳥たちの歌
朝の木漏れ日を横面に浴びて、斑々に赤く染まった白鼻疽林
樹林帯を抜け、肌を焼く日に白く輝く岩峰、風の涼しさ
雲海を突抜ける山塊、岩間に咲く薄紅の花
当り前のことであるけれど、今度のこの小さな夏山でそう感じたことに偽りはない。もしこの拙稿が傍から見て気障であるなら、山へ入ったその時の心が既に、気取っていたのである。
そんな微妙な美は、言葉にした時点で変容し、消滅してしまうものであるようにも思われる。それでも我々は、出来る限り表現する努力をしなければならない。当り前のことであっても、ただ我武者羅に山をやっている人や山から離れて久しい人は、時としてそれを忘れてしまっているのではないかと思われるから——
立っていても足の置き場に難儀するほど混雑したバスから、夜叉神の登山口で降りたのは我々ともう一人だけだった。あとはひたすら林道を歩いて登ってきた地元の中学生らしき一クラスほどの一団が、峠までハイキングをしていたのみだ。霧に包まれた静かな森の中、久しぶりの重たいザックに愚痴を言いつつも、心は晴れやかだった。湿気を捕えて白く膨れた蜘蛛の巣のそこここにあるのさえ楽しかった。
しかし峠から先、気温は低いがジメジメした道を、展望もなくダラダラと登っていくのはしんどかった。止まると汗が冷えて寒い。後ろの二人は、山道のバスに酔ったとか移動の間に眠れずに歩きながら眠くなってきたとか、体調も万全ではなかったらしい。ガスは時折薄くなったり濃くなったりしながらも立ち込め続け、抱えきれなくなった湿気が時には小雨となってぱらついた。前をとろとろと歩いていた高年の団体を抜いて、やっと苺平についたのは15時前だった。我々を出迎えるように顔を上げた一頭の鹿と入替りで、ザックを下してへたれこんだ。疲れているうえ展望もなさそうだから辻山へは行かないことにして、小屋まで脚に任せて下っていくうち、日差しが出てきた。明るい陽を受けた小屋の前では既にビールを片手に爺さん婆さんが談笑していたが、小屋泊の人が多いらしく、広いテン場には先に5張ほどがあるだけだった。
ステラリッジを建て、脱いだシャツを干したり米を水に浸けたりして暫し休憩。ガスが流れてきて小雨を感じたり、青空が見えるほど晴れたり、一定しない天気だったが、外で過ごせぬほどの雨はなかった。夕食はカレーと予告されていたのだが出来上がったのはミートソース丼、或いは上下分離式ケチャップライスという趣のものだった。結構美味しく食えたので、気になる人は寺垣さんに作り方を訊いてほしい。米は私が担当したが、今までで最高の出来だった。偶々だろうけれども、3年も雷鳥にいれば飯炊きばかりはうまくなるものだなあと我ながら感慨深かった。
夜は何度か目覚めたが、テン場がきれいに整地されているためか気温がちょうどよかったためか、驚くほど快適で、必要以上の緊張や興奮のない、落着いた睡眠ができた。2時半を回って自然と目が覚め、シュラフから這い出ても寒いとも眠いとも感ぜず、3時のアラームでするりとテントの外へ出ると、月の沈んだ空には無数の星々が輝いていた。まだ周りのテントは起き出していない。星空だけでも足元はほの明るく見える、こんなことを実際に確かめられる機会はなかなかない。東の空にひと際大きく光るのは金星、そこから少し天頂の方へ目を移すとおうし座のヒアデス、プレアデス、北側の森の上に天の川がうっすらと浮び、木々の先ぎりぎりのところにはカシオペア。流れ星が視界の端を度々横切り、今のは本当に見えたのかと疑われるほどだが、顔を上げた正面に大きな一流れ、「おっ」という小さな歓声で、皆見えたのだと確かめ合う。
だんだんとヘッドランプの光が増えてきたので、星空を背にして朝飯を用意する。タラコとツナのスパゲティにゆで汁でぬるめのスープ。もう一度茶を沸かしてもよかったが手間だからこれで済まして、防水加工のへたったドロドロのテントに難儀しつつも、手早く撤収できた。空から星が殆ど消えた頃、道が混みだす前に出発した。
樹林帯の中の急な登りはまだぼうっと暗く、ゆっくり注意して進んでいった。登りが緩やかになると右手から真赤な日が差してきて、色と角度を刻々と変えていく。朝日の林も綺麗だが、早く森林限界を越えて山を見たい。朝一番だから早めに止まるつもりでいたのだが、体の動きは快調で、林の終点まで一本で歩いた。
樹林帯から出ると、朝の色も終りに近づいた光線を浴びて、白峰三山が戸惑うほど間近に聳えていた。頭に小さな雲を被っているが堂々として大きな北岳、間ノ岳、農鳥岳、振り返れば雲海の彼方に富士山だ。
タカネビランジの花がぽつりぽつりと群れ咲いているのを見ながら、砂の斜面を登って砂払岳を越えると薬師岳小屋、ヘリコプタで資材を上げながら建て直しており、建屋は大方出来上がっているようだった。そこから登り返すと薬師岳はすぐで、一つの山としてはあっけないピーク、広くなだらかな山頂だった。
観音岳も鞍部一つを挟んですぐで、こちらもあまり独立した感じはないが、こんもりと岩が盛り上がった上に三角点が置かれていて、三山のうちの最高峰である狭い山頂からはぐるりの展望。地蔵岳のオベリスクは前方に見えるがずっと低い位置にあるようだ。そのすぐ後ろで立派なピラミダルピークを大きく誇っているのが甲斐駒で、こちらの山との格の差を主張するがごときである。その左には仙丈、遠くに中央アルプス、更に左手にずっと立ちはだかる白峰三山は雲がとれ、塩見から先の南部の山々は小さく折り重なっている。南東の富士山から東へ視線を廻らすと“東アルプス”奥秩父の山塊、北には八ヶ岳、その間には雲を透かして山梨県下の街が見えた。
地蔵岳への分岐点である赤抜沢ノ頭までは少し長い。鳳凰山はアルプス入門として有名だから、三山を結ぶ縦走路は歩きやすい尾根道だと想像していたが、大きな岩を狭い足がかりで攀じたり、ハイマツを半ば漕ぐようにしたり、虫の多い林の細い径に潜ったりと、なかなかいやらしい所が多かった。また、ほぼ一直線に並んだこの程度の距離では展望も変り映えしない。1時間歩いて着いた分岐に荷物を下ろし、オベリスクを目の前に休憩していると、みるみるガスが流れてきてオベリスクを隠してしまった。
ザックをデポして身軽になり、賽ノ河原に並んだお地蔵さんを過ぎてオベリスクにかかる。寺垣さんは見ていて怖いくらいするすると登って行ってしまったが、ガスで下が見えなくても臆病な心を気合で叩かないと登って行けない。あんまり登高欲はないんだ。小さな祠にお地蔵さんの祀られた七合目くらいのところでいいことにして、後から来たパーティと団子になって下り、また分岐に戻ると小一時間を食っていた。前日は夕食のミートソース丼で割と腹一杯になっていたので余していたゼリーをここで食って、出発したのが9時半だったから、13時のバスは無理そうだが14時には程よい余裕を持って下山できるだろうという気分だった。
しかしコースタイムより多少は巻けるだろうと踏んでいた高嶺まで、暑い登りに疲れてコースタイム通りにたっぷり40分かかってしまった。更に、白鳳峠までは下り一方だからこちらはコースタイムが長すぎるだろう、下山に向けての長めの休憩は峠でとることにして後ろのパーティに先んじて出発してしまおうと、休憩を切上げて歩き出したその下りが、じきにハイマツに覆われて足下の見えづらいゴーロになり、ともかくも峠までと気が焦れば焦るほど脚は不安定に滑り、コースタイムをオーヴァして峠に着いた頃には心身ともバテてしまった。高嶺を出るときに飴の一粒でも口に入れればよかったものを、舐めて掛かったが故にシャリバテのようになっていた。膝が笑っているよと三人苦笑いだった。この先は進むほど急になる下りがコースタイムで2時間ということになっていたので、ゆっくりゆっくりこまめに休みながら下るしかあるまい、15時のバスでもよいから焦らずに行こうと三人で話をまとめて、後ろから来た3組の2人パーティを先に通した。
峠を出ると初めは幅の広いゴーロで、今度は足下がよく見えるものの、脚にも気分にも応える。正面には北岳があるはずなのだが、高嶺あたりからかかり出したガスが濃く、全く見えなかった。ゴーロから樹林帯に入ると土の道になって幾分か歩きやすい。峠で抜いてもらった3組のうち、中年夫婦は先に行ってしまったようだが、関西のオッチャン二人組と山ガール二人組とは抜きつ抜かれつで、結局この4組は皆同じバスだった。
地図上の投影距離では峠から登山口までの半分くらいと思われるところまで45分で来たので、この分なら14時のバスに十分間に合うなと気を励まし、しかしそうなると多少の焦りが出てしまって、濡れた岩と泥に足が滑る。梯子の連続、鎖、丸太橋など難所が続くが傷んだり欠けたりしてそのままのところもあり、何でもない下りの道も狭い急坂に岩や木の根の大きなステップがあって難渋する。この道は下りよりは登りに取る方が気合で何とか勝負できるだろうが、そうすると初日の行程がやや長い、さすればこれが主稜線をつたう縦走コースだとしても、東の青木鉱泉や御座石温泉からの道をとる人が増えるのは当然で、人が減れば道はさらに荒れるようになる。先月も同じルートを目指していて雨で中止したのだが、1年生を含むその時の7人パーティでこれを歩くのはかなりしんどかったろう。とはいえ夏合宿では向いの北岳から同じような急坂を下りてくるのが常で、先輩に喰らいついて行かねばならぬとか、後輩にみっともない姿は晒されぬとか思っていれば、根性でどうにかなるものでもあろう。この三人ではそれがない、気心のよく知れているために、また1・2年生の若い気合のないために、その根性が出なかった。暫く山を歩いていなかったり、寝袋を担いでいなかったりして、体力でも体の慣れでも劣るだろう。やっぱり夏山は若いうちにガンガン歩いて、少しずつでも続けていかないといけない。
それでも我々は山に入るのだ。キツイことは百も承知で、それでも今、山に行きたいと集まったパーティなのである。本郷に暮らしているとほぼ毎日、私は三四郎池までぐるっと散歩するのだが、福田さんはそれにも飽きて、今では不忍池まで散歩するのだと言う。都会の喧騒を逃れてとか自然を求めてとか言うと月並だが、これは明らかに山への志向とひと続きであって、全く「静観的」な態度であろう。単なる登高欲とか征服欲とかではないのだ。
近づく川の音にはやる気持ちを抑えながら、最後の下りを終えて林道に出たとき、鳥肌が立つほどに安堵した。山を下りてしまうと、バスに揺られながら振り返る山々に、やっぱり寂しさと、次の山への構想と、山で仲間と共に暮らす姿とが、浮かんでくるのである。
バスの車掌のオバチャンは、南アルプスの歴史、地理、植物などについて、なかなかタメになるガイドをしてくれていたが、多くの人は山を下りた安心感でウトウトと寝てしまっていた。私は全然眠くなくて、山から里へと下りて行く2時間は、山を回想しながら気分をゆっくりと下界に戻すのにちょうどよかった。バスに弱い福田さんには地獄のような長さだったかもしれないが、本当は自分の足で歩まねばならぬ道を早回しで見せてくれるギリギリの速さであるとも思える。
2台に分乗してちょうど座席が埋まるくらいのお客は、途中の駐車場で降りる人と甲府まで乗る人が大半だった。竜王で降りるとバス会社の係のオッチャンが出てきて声をかけてくれた。山梨は山ヤ・フレンドリィな国である。オッチャンに道を訊ねて向った名取温泉はなかなか良い風呂だった。飯を甲府で食うことにすると電車の待ち時間がもったいないので、しかし竜王にはあまり飯屋が無いようだったので、風呂の上階に併設されている食堂に入ることにしたのだが、電気の消えた大広間に券売機の電源は切れ、厨房にも人はいなかった。まだラスト・オーダの17時より前だったので、福田さんが下の番台の兄ちゃんに声をかけると、どこからかオバチャンが現れて支度を始めた。おつまみメニューが主体のようだが、天そば、天うどん、ラーメンを注文して下山祝い。
帰りの電車も2時間半くらいで、1泊2日の夏山気分を演出するにはちょうど良い。5日間の北ア縦走なら松本や大町まで出かけるし、日帰りのハイキングなら大月かそこらで十分。半日も電車に揺られて数人の仲間と共に一週間を山に暮らす、そんな夏山もまたいつか、出来るだろうか。
□反省
・ほとんど同じ計画を二度三度繰り返すときにも、毎度同じ新鮮な謙虚な気持ちで臨むべし。地図を読み込み、情報を集め、計画を丁寧にチェックすべし。
・時間を確認しながらも、焦ることなく、心に余裕を持って落ち着いて行動すべし。未知のルートを舐めるべからず。
・山行前にも山中でも、体調をよく管理すべし。小休止の度に必ず何かを口に入れるべし。
・気合と根性とは常に持つべし。
□要望
・装備会は年に一度の機会なので、公式の合宿で使う予定のない装備も点検して、特にテントは一度建てて防水スプレィをかけて頂きたい。“装備ノートにない装備”のチェックにもなるだろうと思う。
・テントは使用後によく乾かし、汚れや泥を落とし、スタッフバッグに綺麗に収めて戻そう。ステラリッジは純正でないパツパツのスタッフバッグに入れているのでフライを別袋にしてもいいと思うし、ポールの袋もボロボロなのでなんとかしたい。