2017/8/16-18 大雪山・トムラウシ
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
大雪山・トムラウシ夏合宿山行計画書
作成者:小沢
■日程
□8/16(水)~8/19(土) 山中3泊4日
□8/15(火)前泊
□予備日 8/20(日)
■山域 大雪山
■在京本部設置要請日時 2017/8/20 20:00
■捜索要請日時 2017/8/21 09:00
■メンバー(計7人)
CL小沢 SL石田(直) 小倉 石田(晴) 天野 杉山 池森
■集合 8/15 10:00 札幌駅(現地集合です!)
■交通
□行き
8/15
10:36 札幌-(函館本線JR区間快速いしかりライナー 岩見沢行)-11:13 岩見沢
11:33 岩見沢-(函館本線 普通 旭川行)-12:55 旭川 2300円(18きっぷ使用の場合)
16:10 旭川駅前-旭川電気軌道バス いで湯号)-17:36 旭岳 1430円
旭岳青少年野営場にて前泊(大人1人500円)。温泉街より徒歩5分。
□帰り
8/19
トムラウシ温泉からバスで新得駅へ
16:15 トムラウシ温泉-(トムラウシ温泉線)-17:45 新得駅前
2000円(要予約)
新得駅より旭川駅へ
18:38 新得-(JR根室本線代行バス 東鹿越行)-19:48 東鹿越
19:58 東鹿越-(JR根室本線快速 富良野行)-20:35 富良野
20:44 富良野-(JR富良野線 旭川行)-21:42 旭川
2810円(18きっぷ使用の場合2300円)
■行程
1日目 姿見駅~(0:20)~旭岳石室~(2:30)~旭岳山頂~(1:00)~間宮岳分岐~(0:50)~北海岳分岐~(1:20)~白雲岳分岐~(0:20)~白雲岳キャンプ指定地(白雲岳避難小屋)(計6:20)
2日目 白雲岳キャンプ指定地~(1:00)~高根ヶ原分岐~(2:00)~忠別沼~(0:50)~忠別岳~(0:40)~忠別岳避難小屋分岐~(0:15)~忠別岳キャンプ指定地(忠別岳避難小屋)(計4:45)
3日目 忠別岳キャンプ指定地~(0:20)~忠別岳避難小屋分岐~(1:00)~五色岳~(1:15)~巻き道分岐~(0:15)~化雲岳山頂~(0:15)~ヒサゴ沼分岐~(0:20)~ヒサゴ沼避難小屋方面分岐~(0:30)~天沼~(1:30)~北沼分岐~(0:25)~トムラウシ山頂~(0:15)~南沼キャンプ指定地(計5:50)
4日目 南沼キャンプ指定地~(1:30)~前トム平~(0:35)~コマドリ沢分岐~(0:25)~急登終了~(0:40)~カムイ天上分岐~(0:50)~温泉コース分岐~(1:20)~トムラウシ温泉(計5:20)
※天候、体力等を鑑みて、余裕を持った行動を心がける。
※避難小屋も積極的に活用する。
※化雲岳・トムラウシ山は巻き道あり。
※忠別沼避難小屋・ヒサゴ沼避難小屋で停滞した場合、天人峡方面への下山も検討する。
※水場情報、ヒグマ情報を積極的に交換する。
■エスケープルート
間宮岳分岐まで:引き返す
間宮岳分岐~白雲岳分岐:黒岳駅へ(北海岳分岐~(1:00)~黒岳石室~(1:10)~リフト七合目 計2:10)
白雲岳分岐~忠別岳:大雪高原山荘へ(白雲岳分岐~大雪高原山荘 計3:10)
忠別岳~日本庭園:天人峡温泉へ(化雲岳山頂~天人峡温泉 計5:30)
日本庭園から:トムラウシ温泉へ
天候悪化時には白雲岳避難小屋、忠別岳避難小屋、ヒサゴ沼避難小屋での停滞を検討する。
■地図
二万五千分の一地形図:「旭岳」「層雲峡」「白雲岳」「五色ヶ原」「トムラウシ山」「オプタテシケ山」
エアリア:「大雪山・トムラウシ山・十勝岳・幌尻岳」
■遭難対策費
山中3泊600円×7
計4200円
■備考
□日の出・日没
(8/16) 日の出 4:41 日没 18:36
□警察
・旭川東警察署 0166-34-0110
・層雲峡駐在所 01658-5-3016
・志比内駐在所 0166-96-2423
□雨天の場合
現地入り後判断。万が一荒天が長引くと予想された場合、大雪山のみの登山に切り替える可能性あり。
□ロープウェー運行時間
・旭岳ロープウェー 6:30-17:30
・黒岳ロープウェー 6:00-19:00(~8/20)、6:30-18:00(8/21~)
□エスケープルートの交通手段
・層雲峡温泉—上川駅—旭川駅
道北バス 6:20/7:45/8:40/10:55/11:20(上川止)/13:30/14:20(上川止)/15:40/17:30/17:50(上川止) 2100円(旭川)/870円(上川)
上川下車の場合 石北本線 上川駅-旭川駅
6:52/7:24/8:23/10:36/13:01/14:16/15:54/18:53(最終) 1070円
・大雪高原温泉—層雲峡温泉 タクシー40分
・天人峡温泉:美瑛または旭川へタクシー
□避難小屋
白雲岳避難小屋 一泊一人1000円
□温泉
・大雪山白樺荘(旭岳温泉) 営業時間13:00~20:00 500円 他
・トムラウシ温泉国民宿舎 東大雪荘 営業時間12:00~20:00 500円 0156-65-3021
・御やど しきしま荘(天人峡温泉) 12:00~19:00 700円 他
・大雪高原山荘(大雪高原温泉) 10:30~17:00 700円
・層雲峡 黒岳の湯(層雲峡温泉) 10:00~21:00 600円 他
□参考
・2014年大雪山・トムラウシ山行(夏合宿)
・旭岳青少年野営場 (http://www.nmhokkaido.jp/asahikawa/detail/000097.php)
・旭岳ロープウェイ (http://asahidake.hokkaido.jp/ja/)
・トムラウシ山遭難事故調査報告書 (http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf)
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
大雪・トムラウシ夏合宿山行記錄
■作成:杉山、池森
■日程:8/16(水)~8/18(金)
■メンバー:(敬称略)
CL小沢 SL石田(直) 小倉 石田(晴) 天野 杉山 池森
■総括
登山経験の浅いメンバーが多い中、本州の山とはまるで異なる北海道の山を登ることはかなり不安ではあったが実際登ってみるとトムラウシ山頂以外は道も割と分かりやすく、何よりも北海道の広大な風景を存分に楽しめる良い山行であった。
■反省
・分かりやすいからと札幌集合にしたが、旭川でかなり待たされたので旭川集合にした方が無駄な時間を過ごさなくて済んだ。
・北海道で山行をやるなら、とにかく水をたくさん持って行くべきだと痛感した。(濾過できると安易に考えていたが濾過する水の採取に相当時間がかかり、濾過しても飲料水としては使えなかった。)
・トムラウシ山頂付近は天候も悪く、かなり道が分かりづらかったので地図を使って地形から居場所を把握できる能力の必要性を身にしみて感じた。
・3泊4日で山行を計画したが2泊3日で十分であった。前の山行記録に南沼キャンプ地が劣悪だとあったにも関わらず、計画段階で行けると判断してしまったのは良くなかった(実際、かなり劣悪ではあった)。今回は日程を短縮して南沼キャンプ地を回避したが、あまり大きな変更を山行中にするべきではなかった。
■行程(+CLコメント)
・1日目
0430 起床
0630 ロープウェイ乗り場
0700 姿見駅着
0715 姿見の池(10分休憩)]
0757 1802m地点(8分休憩)
0836 旭岳8合目
0915 旭岳山頂(25分休憩)
1030 間宮岳分岐
1120 (7分休憩)
1200 白雲岳分岐(10分休憩)
1230 白雲岳避難小屋着
コメント:姿見駅周辺の景色は素晴らしかった。旭岳の登りは硫黄臭がきつく傾斜も急で少し辛かった。
・2日目
0430 起床
0600 白雲岳避難小屋出発
0637 高根ヶ原分岐
0800 忠別沼(15分休憩)
0850 忠別岳山頂
0956 忠別岳小屋分岐(5分休憩)
1035 五色岳山頂(10分休憩)
1135 ヒサゴ沼分岐(10分休憩)
1225 ヒサゴ沼避難小屋着
コメント:たまに上下するくらいでほとんど平地でありエアリアのコースタイムの半分で本来の目的地に着いてしまいメンバーと相談の上、五色岳山頂(電波が入る所が山頂付近ぐらいしかない)で清晶さんにヒサゴ沼避難小屋まで行くことを伝える。
・3日目
0300 起床
0453 ヒサゴ沼避難小屋出発
0530-0544 岩場+雪渓終了、一本
0632-0642 日本庭園南のピークあたりで一本
0709-0720 急坂途中で一本
0735-0749 山頂手前のピーク着、雨が降り始めたので雨具を装備
0818-0836トムラウシ山頂着、オーダーを変更して出発
0930-0940 トムラウシ公園で一本
0949-0955 一時晴れたので衣服調整
1007 前トム平通過
1046-1058 コマドリ沢分岐で一本
1106-1130 急登終了
1219-1226 カムイ天上で一本
1256-1300 温泉コース分岐で短く一本
1402 東大雪荘着
コメント:日程変更によって予定よりもコースタイムが長くなってしまった。トムラウシ山頂で少し迷ったりと苦労はあったが何事もなく下山できた。ただ、下る際の泥道には少し参った。スパッツは必須装備である。
■記録
1,2日目:池森
1日目
04:30に起床。昨夜の雨に比べ天気は良いが想像以上に冷える。歩き始めれば気にならなくなったが、防寒具不足を嘆くメンバーも。テントを畳み朝食の準備中、テン場にポールを落としていたのを他パーティーの方に届けて頂いた。
片付けが済んで06:00。ロープウェーの始発時刻を待つことになるが、それなりに並んでいる人がいたので丁度良い時間だったと思う。
杉山は今回も10Lの水を持ってきているとのこと。流石である。後にこの水に感謝する場面もあるのであるが。
キャンプ場で汲んできた水は金属臭がして少し不味く、昨晩利用した温泉で水を汲んでおかなかったことが少し悔やまれた。
姿見駅でロープウェーを降り早速開ける旭岳山頂までの道は、かなり急できつかったが整備は進んでおり人も多かった。
雲は低く雲海が非常に綺麗である。やはり歩いていないと風が冷たく肌寒い。山頂では特に強く吹いており、記念撮影を済ませて早々に発つ。
筆者の体力不足を感じる場面は無いではなかったが、その後の道のりは先に比べかなりなだらかであり、所々に雪渓が残って非常に景色が良かった。
コースタイムを少し縮めて白雲岳キャンプ指定地に到着。無事小屋に場所を取ることができた。一階を他の学生団体と合同で利用。トイレは紙が捨てられず、綺麗とは言い難い。
キツネによる持ち去りが多発しているので、テント利用者は靴もテント内に入れたほうが良いとのこと。小屋の外は携帯が4Gで繋がる。水場の水は煮沸か浄水器を経て利用せよと。
疲れからか、メンバー5人は夕食まで仮眠。残る石田(晴輝)先輩と杉山はサブザックで白雲岳へ。若いとは素晴らしい。
石田(直輝)先輩のカレーがかなり重いということで、食当を交代して今夜はカレーに。就寝は20:00。
2日目
04:30に起床。まばらに雲があり満天の星空とはいかなかった。出発してしばらく行くと泥道に差し掛かるが、兼ねてから聞いていたようにスパッツが必要なほどではない、とこの日までは思っていた。
忠別沼が非常に美しい。神々の遊ぶ庭との別名の伊達ではないと感じさせた。この辺りは断続的に木道が設置され歩きやすい。全体的に前日に増して緩やかな道である。
少し登ると忠別岳に着き、断崖の縁でそれっぽい写真を撮るなどして楽しんだ。コースタイムを大幅に縮めており、南沼キャンプ地を利用したくないとの思いもあった(“日本一汚いキャンプ地”を自称し汚名返上を唄うポスターが所々貼られているのである)ので、行程を変更し2泊3日に。この日はヒサゴ沼避難小屋に宿泊することとなる。
五色岳直前は少し登りがきついが、ペースは早かったらしく気づけば山頂に。この辺りから所々ガスが出ていた。
化雲岳への分岐で化雲岳には行かず、次の分岐でヒサゴ沼方面へ向かう。木道が多く歩きやすいが、途中から階段になる。朽ちた部分もあり多少の注意を要する。
しばらく進むと藪漕ぎ状態になり、これはおかしいということで最後尾の石田(直輝)先輩が正しい道に気づいて引き返す。
ガスの中をしばらく歩くと突如視界が開け、霧の中にヒサゴ沼の広い水面が広がる。海辺とも錯覚する光景で、幻想的であった。
ここでは水場の場所がわかりにくく、他パーティーに伺ってようやく水が汲めた。避難小屋を出て右手側(東側)にある雪渓からの湧き水を汲むのであるが、その量が僅かで手前から二つ目の雪渓のもの出ないと汲むに汲めないとのことであった。トイレはかなり汚く、鼻で息をすると鼻の奥の方が刺激的な感じになった。
3日目:杉山
〇ヒサゴ沼避難小屋~分岐
二階建てのそれなりにしっかり作られた小屋で、沓脱をコの字に囲むようにして一階のフロアが広がる。入って左手には非常食や銀マットが備蓄されており、テントマットしか所持していなかった僕と小沢先輩は一晩拝借することにした(僕の出身校ではここでいうテントマットのことを銀マと呼んでおり、雪渓上のテン泊だろうが他には何も敷かないのがふつうであった)。二階へ続くハシゴは沓脱の奥に垂直に伸びているため、夜中にヘッドランプを灯した人が降りてくると、下で寝ている僕の顔に光が当たりうっとうしい。むろんテントよりははるかに快適な環境だが、そうした状況及び小屋のあちこちで鳴り響く登山家たちのいびき、そして二日目の行程が緩くあまり疲労がたまっていなかったこと等が理由で、なかなか深い眠りに落ちることはできなかった。これは他のメンバーも同様であったらしい。一、二時間ほどの短い睡眠と覚醒を幾度も繰り返してなんとかそれなりの睡眠時間を確保しつつ、二時五十六分に完全に覚醒。小屋の小さな窓を通してでも、夜空に無数の星がきらめいているのがわかった。僕は星にはまるで明るくないのでどれがどの星というのはさっぱりわからないが、それでも満天の星が見られると、ああ山に来てよかったと思う。三時を回り全員が活動を開始したので、自分も姿勢を起こして準備に取り掛かる。何の気なしにシュラフをたたみ終えるまでの時間を計ってみたが、なんと七分。二、三分で済ませているつもりでいたので、これには少なからずショックを受けた。朝食は池森作成の炊き込みご飯で、やや柔らかいが美味しくいただけた。僕は山でコメを炊くスキルがないので(身につけねば)、炊いてくれる人がいるのは非常にありがたい。昨晩煮沸した水が案外残っていたので、池森、小沢先輩、小倉先輩、天野先輩が飲料水用に確保することとなったが、大きな鍋から水筒に水を移すのは手間だったようだ。おまけに、金属臭とも違う妙なにおいがする、進んでは飲みたくないような水だったらしい。僕も補給しようと考えたが、水筒代わりになるものを2Lペットボトルしか持っておらず面倒なのでやめた。食後はパパッと片付けを終え、外に出てトイレを済ませ出発の準備をする。昨日小屋へ向かう分岐へ到着したときはあたり一面濃霧に包まれており、沼の広がる先が見えずまるで海辺に到着したかのようであったが、この朝はすっかり霧が晴れていた。実際のヒサゴ沼は海と呼ぶには小さすぎたが、奥に聳える山を水面にくっきりと映す姿はなかなか雄大であった。全員の準備が終わり、四時五十三分に出発。オーダーは先日同様で、小沢先輩、小倉先輩、石田(晴)先輩、天野先輩、杉山、池森、石田(直)先輩の順。沼沿いは北西に進路を変えるまでしばらく木道が続く。昨日水を汲みに通った時は凛と開いていたエゾコザクラは、このとき朝露の重みでうなだれていた。前日にひとり化雲岳ピストンを目指した石田(晴)先輩曰く、雪渓を直登すれば多少岩場をショートカットできるとのことだったが、カチカチに凍っており登れる状態ではなくなっていたため、断念して岩場を行く。ここに限った話ではないのだが、浮石まみれなうえ露と苔でグリップが効きづらく、消耗しやすい岩場である。途中、強引に突破しようとして左膝を打ち、ひとり静かに悶えていた。五時三十分、いったん岩場を抜け道標につく。衣服調整とメンバーのキジ撃ちを兼ねてやや長めに一本立てる。同じ小屋に泊まった外国人カップルがオーとかソーリーとか言いながら追い抜いてゆく。ここから先しばらくの間、しゅっ、ぴゅるる、という鳥の鳴き声が聞こえるのだが、調べても同定はできなかった。鳥に関する知識がまるでないので、地鳴きなのかさえずりなのかすらわからない。おまけに、YouTubeでいろいろな鳥の鳴き声を聞いているうちに、あの時聞いた鳴き声がどんどん上書きされて不確かな記憶に変わっていってしまうのだった。この地点から進行方向は南西に折れるのだが、北西に望める名もなき沼はいやに澄んだ水色をしており、参考の後に観光で訪れた“青い池”に近いものがあった。青い池はアルミニウム化合物によるコロイド溶液となっているためにあのような色を呈するらしいが、この池はどういった理屈であの水色をたたえていたのだろう。
〇分岐~ロックガーデン手前
五時四十四分、南西に向けて出発。先ほど追い抜いて行った外国人カップルはもうすでに姿が見えなくなった。登りのあいだ、ハイマツにかかる朝露が飛び散って鬱陶しい。短い登りを終えるとしばらく木道が続き、前方に立ち込める霧が点在するむき出しの岩々と相まって神秘的な雰囲気を生み出していた。木道が終わると岩がごろつく平坦な道になるが、緑と巨岩に囲まれた道は歩いていて飽きない。左右には道迷い防止用のまだ新しいロープが張られており、整備が行き届いていると感じた。そういえば、二〇〇九年のトムラウシ遭難事件報告書には、ヒサゴ沼は窪地であるから風雨の状態を確認するには空身の偵察隊を稜線まで出すべきだったという指摘があった。荷物がなければこのあたりまで往復四十分ほどだろうか、今回は朝の時点で天気はまだ荒れておらず偵察隊は不要だったが…不謹慎かもしれないが参考になる指摘である。道中、淡いピンク色をしたチングルマの果穂が道沿いにびっしりと咲き(?)乱れている箇所があり、たいへん美しかった(果穂《かすい》は、種子が集まって穂状になったもののことを指しているようだが、PCの漢字変換には登場するものの辞書には載っていない。一部の図鑑でも使われている熟語らしいが、正しい日本語ではないのかもしれない)。しばらく進むと、突然左手に壮麗な沼が姿を見せる。沼を囲む植物はちらほらと葉が黄色く色づいており、僕の写真スキルでは全く表現できていないが、“天沼”の名に恥じない見事な景観だった。
〇ロックガーデン~北沼分岐~トムラウシ山頂
ここからしばらくはゴロつく岩塊の上を行く不安定なルートとなる。足を水平における箇所が少なく、雨と苔でグリップ力に不安がある状態では非常に歩きづらい。ナキウサギの生息地らしいが、一匹も見かけることはなかった。というか山行中に哺乳類と一切遭遇していない(ヒトを除く)。ユキウサギやエゾオコジョに会いたかったが、願いが果たされず残念。まあ、こっちは会いたくても向こうはヒトなんぞに見つかりたくないだろうし、仕方ない。岩場の様相に大した変化はなく、全員が淡々と足を動かす。晴れていれば後方に化雲岳を望めたのだが、展望を楽しむどころか進路がよくわからないほどの濃霧に包まれていた。密集するウラシマツツジの葉が一部赤く染まり始めているのを見るくらいしか楽しみがない。六時三十二分から六時四十二分にかけて一本立て、再び出発。このあたりから、石が小ぶりで赤茶色の土が露出する少し歩きやすい道が時折現れるようになる。もっとも、一瞬期待させるだけですぐゴーロに戻ってしまうのだが。七時を過ぎたあたりから、終わる気配を見せない岩場に嫌気がさし始める。どこが正規ルートなのかさっぱりわからないが、途中で右に赤ペンキを見つけ、そちらへトラバースする。このとき岩の裂け目にストックが一本落ちているのを見つけた。幸い、人は落ちていなかった…七時〇九分、急登でやや疲労したため一本。霧で登りの終わりが見えず、現在地も把握しかねていた。ちょうど上から降りてきた単独行の方に残り時間を尋ねると、あと一時間くらいはかかるのでは、とのこと。分岐が見えなかったなあなどと言っていたがそれもそのはず、そもそも分岐までたどり着いていなかったのだ。七時二十分、出発。霧はやや晴れだしていた。汗でメガネが濡れて視界が悪い小沢先輩をしんがりに変え、石田(直)先輩が先頭となる。十分ほど歩くとのぼりがなだらかになり、七時三十五分に北沼手前のピークに到着。このときから雨がぽつぽつと降り始め、七時三十九分、ザックカバーとゴアを装着するため一旦停止した。視界は非常に悪く、気づかぬうちに巻き道に入っていた可能性を考慮し始める。その場合、分岐で合流した際に雨と体力に余裕があれば荷物をデポしてピストンしよう、との結論に至る。大雪山トムラウシ山行が大雪山山行になってしまうかもしれない、と肩を落としていたところ、幸運にも一瞬だけ霧が晴れ、南西に北沼らしき大沼が望めた。どうやらまだ分岐には差し掛かっていなかったようだ。七時四十九分、とりあえずピークは踏めそうなことに安心して出発。そこそこ厳しい岩場を越え、八時十八分にトムラウシ山頂に到着。ちょうど山頂が目の端に入ってきたあたりで大雨となり、当然展望はゼロ。行動食を食べようと一瞬ザックカバーを外すと、あっという間にザックの上部がずぶぬれになってしまい心底萎えた。このとき雨に殴られながら食べたカルパスは、今まで山で食べたカルパスの中で一番まずかった。僕が下りに備えてスパッツを装着し始めたとき、反対側から単独行のお兄さんが現れた。下界の知り合いに電話で登頂の報告をしており、会話を聞くとどうもかなりコースタイムを巻いてきたらしい。お願いして写真を撮ってもらい、二言三言交わす。東工大山岳サークルのOBだそうで、たたずまいからなんとなく強者の香りがする。八時三十六分、トップを石田(晴)先輩に変えて出発。
〇トムラウシ山頂~前トム平~コマドリ沢出合
下り始めてすぐ、すれ違った単独行のおじさんに「こっちの下りはね、もう、田んぼ」と言われ、早くも気分が滅入る。また、登ってくる人がやけに多いのは、金土日にかけてトムラウシ側から縦走する予定の人たちが多いからだろうか、と石田(晴)先輩に言われ、初めて今日が金曜日だと気が付いた。夏休みに入って以来、曜日の感覚が完全に失われている。なお、山頂を過ぎたあたりから僕のスマホの電池が突然激しく減少したため(四十%→十%)、ここから記録の内容が大幅に縮小するのだが、特筆すべき事項は特になくグダグダと下るだけであった。トムラウシ公園で一本立てた際は、残る下りの長さに絶望していた。ここから途中で衣服調整を挟み、十時四十六分にコマドリ沢出合で再び一本。おおよそコースタイム通りだが、全体的に疲労の色が濃くなってきた。ここから一旦急登を登らねばならないのもあって気持ちが沈んでいるメンバーもいる中、石田(晴)先輩はさすがの体力でピンピンしており、「進まなきゃ終わんないよ、行こう」と出発を促していた。十時五十八分、出発。僕はこのとき石田(直)先輩からモバイルバッテリーをお借りした。
〇コマドリ沢出合~カムイ天上
十一時六分、急登にさしかかる。ぬかるみで滑るのもあってそれなりにキツい登りだが、すでにザックがかなり軽くなっているのもあって、問題なく乗り切れた。途中パーティがばらけたが、十一時二十五分にしんがりの小沢先輩が追いつく。水が残り少ないとのことなのでアクエリの粉と水1Lを渡し、十一時三十分に出発。あとの下りは緩やかだが、田んぼとたとえられるだけあって道はドロドロ。このあと洗うことを考えるとげんなりするが、池森が泥を踏むのは楽しいと言いだした。何を言っているんだこいつはと思ったが、「日常ではできないことを、特別な装備を整えて行うのが登山。泥ふみも日常ではできないし、今この装備だからできるので、ある意味登山と同じ」と謎理論を展開し始めた。夏山、沢、藪、雪山につづく五つ目のジャンルになるかもしれませんね。僕は行きません。そうこう言っているうちに、十二時十九分にカムイ天上に到着、一本立てる。
〇カムイ天上~温泉分岐~東大雪荘
十二時二十六分、カムイ天上を出発。知らぬ間に右のスパッツがずり落ちており、ズボンが泥まみれになる。左は左で靴の下を通すゴムが何度も外れるし、こいつはちょっと問題があるんじゃないか。そういえば、知らぬ間に樹林を構成する木がダケカンバでなくシラカバになっている。中部地方であればシラカバは標高千から千五百メートルあたりに生えるらしいが、緯度の高い北海道だと多少違うかもしれない。相変わらずの泥道を行きながら、池森が「(大雪山周辺は神々の遊ぶ庭というけれど)さすがに神々もここじゃ遊ばないよな」と言うので、「ここは神々のトイレでしょ」と返したところ、「紙はちゃんと持ち帰ってるな」ときた。十二時五十六分、温泉分岐に到着。石田(晴)先輩が黒いボディに白い斑点が三つほどついたカミキリムシを捕獲していたが、接写に弱いiPhoneのカメラではうまく捉えられなかった。後で「カミキリムシ 白 斑点」などで調べたが、どうもゴマダラカミキリというものしか出てこない。記憶のカミキリはネットの画像よりも細身で、斑点もあれほど多くなかったと思うのだが、ああいう個体もいるのだろうか。もう長く休憩をとっても仕方ないので、十三時〇〇分に出発。速足で下り、コースタイムを多少巻いて十四時〇二分にトムラウシ登山口に到着。左手にユートムラウシ川という川が流れており、靴をそこで洗っている人が数名いた。橋を渡れば目の前に東大雪荘が見える。久しぶりに出会った自販機に興奮し、それぞれ思い思いの飲み物を購入。「山でカルピスソーダを飲む」という妄想で腹を満たしていた僕は、カルピスソーダこそないもののアンバサがあったので即購入。とんでもなく美味かった。あとは入り口付近にある洗い場で靴やスパッツを洗い、同じ日にヒサゴで泊まって以来抜きつ抜かれつだった単独行の女性と少し会話したあと、温泉でゆっくり休憩。なぜか休憩所には刃牙が二十二巻だけ置いてあった。十四キロの砂糖水…の巻である。ともかく予定より一日早い下山となったが、小沢先輩にバスも宿も確保していただいたので、十六時すぎには東大雪荘を後にし、スタート地点であった旭川へ帰還。旅行の内容に触れてもよいが、あまりに長くなりそうなので割愛。メンバーの皆さん、お疲れさまでした。
■総括
・悪天候に無人小屋という、快適極楽山行の燕常念で完全に忘れていた山の辛い面を思い出させてくれた(小屋自体は快適であったが、北アで毎度のごとく炭酸を飲んでいた僕は炭酸が手に入らず禁断症状が出た)。
・今回は大勢の遭難死者を出している山塊であったが、全員無事で下山できたのは非常によかった。とはいえ、もしもっと早く、そして激しく天候が変化していたら、自分は正しい行動をとれたかというと少し疑問が残る。天気を予想する能力、撤退や停滞の判断を正確に下す能力は山行ごとに意識しなければ何度山に入っても身につかないので、それらの習得を今後の大きな目標としたい。
・飛行機搭乗より前に10Lの水をザックにぶち込んだために、20キロを軽くオーバーして超過料金をとられるというバカ丸出しな行動をとってしまった。財布は少しばかりさみしくなったが、結果的に水はすべて使い切ったので、10L持っていったこと自体は誤りではなかった。
・ブラックジャックやDr.コトーでおなじみのエキノコックスだが、道外だと検査を受けるのが若干面倒なようだ。感染後いつから検査で発見できるようになるのかも不明瞭なため、心配なら定期的に診察を受けるのが望ましい。僕はそのうち受ける予定です。
・お金が無くなった。北海道に行く時は気を付けましょう。