2018/1/14 本社ヶ丸
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
本社ヶ丸山行計画書
作成者:木下
□日程 2018年1月14日(日) 日帰り
□山域 御坂山地
□在京本部設置要請日時 2018/1/14 1900
□捜索要請日時 2018/1/15 0900
□メンバ(計3名)
CL木下 SL寺垣 平岩
□地図
■2万5千図 「笹子」「河口湖東部」
■山と高原地図 「27/28高尾・陣馬」/「24/25大菩薩嶺」
□行程(通過目安時刻)
三ツ峠登山口0945
→清八峠1115
→本社ヶ丸1155・1240
→角研山1350
→庭洞山
→笹子駅1545
[歩行計5時間15分]
□エスケープ
・引返して三ツ峠登山口へ
・222号送電鉄塔から宝鉱山へ
・そのまま笹子駅へ
□集合
河口湖駅0900
□交通
■行き
・JR中央線・富士急行線
新宿0622→0748大月0751→0843河口湖
2460円
新宿0700-(Sあずさ1号)→0755大月0813-(フジサン特急1号)→0900河口湖
1330円増し
・富士急高速バス(1ヶ月前から要予約)
※河口湖までバス利用の場合は各自で予約、予約の際CLにお報せください。
バスタ新宿0645(/0715)→0830(/0900)河口湖駅 中央道三鷹など経由
1750円
渋谷マークシティ0645→0852河口湖駅 二子玉川駅経由
1800円
東京駅八重洲口0620/0650→0842/0852河口湖駅 東京ドームホテル経由
1800円
町田バスセンター0650→0850河口湖駅 南町田駅発・橋本駅経由
1800円
〇富士急山梨バス
河口湖駅0905/0940→0930/1005三ツ峠登山口
730円IC可
■帰り
・JR中央線
笹子1435/1535/1543/1621/1647/1736/1812//2043
→新宿1622/1714/1750/1804/1837/1931/2015//2229
1940円 高尾から京王線利用で1200円
■エスケープ時
・三ツ峠登山口発バス時刻 0935/1010
・宝鉱山発バス時刻 1255/1620
・富士急山梨ハイヤー
富士五湖 0555-22-1800 0120-818-229
都留市 0554-43-2800 0120-889-229
□共同装備
■救急箱(エーデルワイス)
■ツェルト(チャーリィ)
■鍋(小梅)
■ストーヴ(チビ)
■ガス缶
□遭難対策費
100円/人*3人
計300円
□日没日出
1/14日没(東京):1650
1/15日出(甲府):0655
□ラジオ周波数
■NHKラジオ第一:東京594kHz
■NHKラジオ第二:東京693kHz
■NHK FM:東京82.5MHz
□警察署電話番号
山梨県警
富士吉田警察署 0555-22-0110 富士河口湖町 :始点から稜線まで
大月警察署 0554-22-0110 大月市・都留市:稜線から終点まで
本社ヶ丸山行記録
作成者:木下
□日程 1月14日(日)
□天候 快晴
□メンバ
CL木下 SL寺垣 平岩
□計画
三ツ峠登山口0945
→清八峠1115
→本社ヶ丸1155・1240
→角研山1350
→庭洞山
→笹子駅1545
□実行程
三ツ峠登山口0945
→清八山1045・1106
→本社ヶ丸1138・1233
→角研山1325・1330
→笹子駅1458
→笹子餅みどりや
→笹一酒造
→笹子駅1525?
□ルート状況
■本社ヶ丸の山行
とにかく展望がよい。富士山、南アルプス、八ヶ岳、奥秩父、条件がよければ北アルプスまで見える。主要な山は地図を見なくても同定出来るくらいはっきりと大きく沢山見える。是非冬の晴れた日に双眼鏡を持って訪れてほしい。写真をやる人はレンズやフィルタに気合を入れてきても損しないだろう。
展望だけでなく、冬枯れの雑木林の尾根や、ちょっとした岩の道や、送電線下の林が刈りはらわれた高原状の広場や、ヴァリエーション豊かな道で、低山歩きが楽しめる。長い林道歩きやザレた急坂まであるのはちょっと渋いが。
■本社ヶ丸のルート
笹子から林道を辿って清八峠に登り、本社ヶ丸の東からまた笹子に帰ってくるのが一般的だろうが、コースタイムがやや長いし車道・林道歩きが長すぎる。東山梨変電所あたりまでタクシーが入れるようだが、笹子にはタクシーが無いので大月から高い料金を払うことになる。宝鉱山もバスは少なく、都留からタクシー利用になるだろう。
今回はコースタイムが短く、林道歩きが許容範囲内で、上手い具合に公共交通のある河口湖からの道をとったが、だいぶ南に回込んで山の背後から登るようなのであまりエレガントではない。しかも結局、朝早くに出ないといけないし交通費も四千円前後かかるので、ちょっと気後れする。晴れていればそれに見合う収穫はある山だが。
日の長い時期ならば、三ツ峠から本社ヶ丸へとか本社ヶ丸から鶴ヶ鳥屋山へというロングトレイルも楽しそう。昭文社のコースタイムはやや大きく書いてあるようなので、景色に見とれて長居しなければ冬でも出来るのかもしれない。
■交通状況
河口湖までは高速バスが沢山出ており、鉄道より安い。時期によるだろうが、今回寺垣さんは定刻より15分早く着いたとのこと。乗換えるバスが一つ遅くなってもよい計画なら高速バスのほうがよいだろう。
天下茶屋行きのバスは冬は三ツ峠登山口までしか行かないらしい。
■三ツ峠登山口→本社ヶ丸
林道を道なりに行くと駐車場があり、トイレも設置されている。左へ大幡八丁峠へ行く林道清八線は「危険通行止め」というような看板で封じられているが、歩くぶんには大して問題ない。だいぶ飽きてきた頃に峠に出て、やや急な山道を登るとすぐに景色がよい。清八山は小さな山頂だが本社ヶ丸と遜色ない眺望だ。
本社ヶ丸山頂直下はやや岩場になっているが大したことはない。清八山より奥秩父側の視界が少し広い。「秀麗富嶽十二景」どころではない大展望だ。こちらも山頂は狭いが5組10人という程度なら何とか場所は確保できる。ルート上他には腰を下ろして火を使えるような場所はない。
■本社ヶ丸→笹子駅
雑木林の尾根をゆく。展望ばかりでなく冬枯れの道も楽しめる。「西群馬幹線222号送電鉄塔」の分岐へはやや北へ主稜線を外れるような感じで急な降りになる。送電線周りは鉄塔を立てるために林が刈られて原っぱになっている。
角研山はごく小さなポイントで、主稜線から分岐して下りるところに山頂標が立っている。北へ降ると半分植林の道。「葛野川線30号送電鉄塔」あたりから巡視路と登山道と勝手な踏み跡が交錯しているのでわかりづらいが、巡視路と登山道の分岐には指導標がある。その後一度右へ少し逸れたところから九十九折の道がついており、無理に真直ぐ下りる踏み跡もここに合流している。滑りやすいザレ道なので登りも降りもやや難儀。
林道へ下りると左へすぐの所から山道が再開するのは降っている間からも見えるし、降る側には小さな指導標も出ている。庭洞山は山頂標が無い。急な降りは砂埃の立つ道、ザレた道、雨が降れば昼も凍っていそうな日陰の道と、やや歩きづらい。
■笹子駅周辺
駅へは線路沿いの道につきあたってからずっと東へ回り込む。
甲州街道を東へ行くとすぐに「笹子餅」のみどり屋がある。笹子峠の力餅以来の歴史ある銘菓らしい。ごく普通の蓬餅の小さいのだが、まわりにはたかれた粉の量が尋常じゃない。冬の夕方だったせいか餅も少し硬めだった。
さらに東へ坂を下ると、笹一酒造がある。酒を直売しており、酒造見学も出来るらしい。酒が飲めるかは知らないが、観光客向けにか、蕎麦やラーメンの食べられる食堂を併設していた。
□雑感
1. 朝5時40分に家を出る、日の出にはまだ一時間程ある。低く昇った細い月に地球照がはっきりと見える。夜明け前の寒い道を駅に向かう。
2. 車窓から倉岳山、滝子山を見て大月で降りると、正面に三ツ峠から鶴ヶ鳥屋山への—すなわちこれから目指す本社ヶ丸を含む—山塊が見える、けれど乗換えた富士急線は三ツ峠を右へ、後へ見ながら、南へ回り込んで遠ざかって行く。富士急の車内には、これから都留文科大でセンタ試験を受けるらしい地元の受験生たちが乗っていた。大きな富士に見守られて、正しき進路へご縁があろう。試験を通って修行の身たる我々は、己の尻の青いことを自覚しながら、わかったようなことを胸を張って書こう。そうやって学生の山の文化は発展してきたのでないかしらん。
3. 河口湖駅には寺垣さんが先に着いていた。高速バスは快調だったらしい。ひっきりなしに出入りする高速バスはどれも数人ずつ外国のお客さんばかりを載せて来て、駅には異国語が飛び交う。平岩さんは特急で—スーパーあずさの新車と元あさぎりのフジサン号で—やって来た。今度は我々を入れて5人程の路線バスで山を登る。
4. 崩れかけの寒い林道の後、雑木林の急なひと登りで汗が出始める頃、視界が一気に開けた。期待に違わぬ大展望、間近な富士山、長大な南アルプスは言うに及ばず、八ヶ岳との間に遠く白く浮かび上がるのは間違いない、北アルプスだ。胸を躍らせて半ば駆けるようにして清八山に荷を下ろす。北アルプスは肉眼でも大キレットがはっきりと見える、双眼鏡を覗けば槍も何となく尖っている。ここまで見えるものとは思わなかった、快晴の冬、空気も程よく乾いているのだろう。「北に遠ざかりて雪白き山あり」だ。その「甲斐の白根」はごく間近に北岳、間ノ岳、農鳥岳を見、左へ稜線を辿ると、小さいながら力強い塩見、一際大きな荒川、赤石、ツンと澄ました聖。日本の三千メートル峰の殆ど全てを見渡していることになる。聖より左に遠く白い頭だけみせるのは上河内か、名峰たちの間や手前には小河内とか大沢、兎、笊といった山々も見える。北岳から右へ行けば、真白な仙丈を隠すように立上がるのが鳳凰三山で、スターたちの前では「三山」というのがはばかられるような一体的な盛上りだが、一つ一つの山頂をも指さすことが出来る、双眼鏡ではオベリスクも見える。それから大きなピラミッド、甲斐駒で南アルプスが終る。他の山が真白なのに比べて鳳凰と甲斐駒は薄灰色で岩が露出している、単に三千メートルを出ないというだけでなく、地形的に或いは地質的に少し違っているのだろうか。八ヶ岳は少し斜めから見込む格好だが、赤岳を中心にして権現、阿弥陀、横、硫黄と、南八ツの山々が綺麗に広がっている。
5. 展望がよいだけに留まらないのがこの山の魅力だ。長い林道歩きや急坂は別にしても、山頂直下の岩がちな道もあれば、雑木林の静かな尾根もある。これでこそ中央線の日帰りの山、御坂山地の低山だ。本社ヶ丸の山頂も清八山と変わらぬ展望。奥秩父の方も少し開けて、大きな甲武信、国師・北奥千丈、金峯の脇に肉眼でも見えるのは瑞牆の岩塊だろう。双眼鏡ならば五丈岩も見えるようだ。広くない山頂だが、三組か四組の同業者と共に昼にする。着込んでいても冷えてくるが、湯を沸かして、我々が一番騒がしく長く頂を占めていた。
6. あまり展望がよすぎた。期待以上の、恐らくこの山の持てる殆ど最高の景色を得てしまった。しかも展望にしても尾根歩きにしても、空気が引締まり林が枯れる冬よりよい季節はあるまい。あとは少し景色が緩んでも、こちらにも雪のついた時期にアイゼンを履いて歩くかというくらい。ベストコンディションの今日の思い出のために、次にまたこの山に来るのはちょっと難しい。眺望が全くなくてもまた来たくなる山もあるというに、そのあたりが山の品というところだろうか。それでも君はまた来るだろうか、それとももっと高く、あの白き山のどれかへと言うだろうか。
7. 送電鉄塔に下りると、林が刈られていて、高原状になっている。もう切り倒された木もなくなって綺麗に整地されているから、痛ましいというよりもむしろ実際の高度以上に清々しい気分。午を過ぎても北アルプスはまだ見えている。山の蔭から頭だけ浮かべた南アルプスはチベットの高山のように大きい。人に会ったのは山頂付近だけで、このあたりは全く静かなる山。
8. ファウスト第一部で、召喚された霊がファウストにこう言った。
Du gleichst dem Geist, den du begreifst,
Nicht mir!
「お前はお前に解る霊に似ているのだ、俺にではない」と。君に解る霊はどんなだろう。僕に解るのは、もとい、解ったつもりでいるのは、こんなものだ。これが僕の山だ。この霊の台詞を、尾崎喜八さんが河田楨さんに宛てた文章に引用したものであると思うとき、より重たく感じるものがある。
9. さて、いづれの霊に似るとしても、山を愛する者みなの賛同できる「山の本質」はなんであろう。今はこう考えてみる——山は教養である。教養とは正義を育むことである。正しく生きることで世界を少しでも正しきものにするのである。それが我ら学問を修めんとする者の歩むべき道である、と。