2018/5/26 豆焼沢遡行
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
豆焼沢遡行計画書 ver. 1.0
作成者:久光
■日程 5/26(土)(荒天の場合中止、前日12:00までに判断)
■山域 奥秩父
■在京本部設置要請日時2018/5/26 21:00
■捜索要請日時2018/5/27 8:00
■メンバー(計3名)
CL久光 SL丸山 ○山本
■集合・交通
5/25(金) 21:05 西武池袋線高麗駅集合
高麗駅より久光車で出会いの丘へ(1時間40分)
■行程
5:30 出会いの丘
6:30 ホチの滝
8:00 トオの滝
9:00-9:30 十字峡から瀧谷洞入口往復
10:30 大滝
11:30 二俣・スダレ状美瀑
12:30 雁坂小屋取水場
13:30 2018p北東のトーバク沢下降点
16:30 下山
※十字峡到着が9:30を過ぎた場合瀧谷洞往復はカット
※トーバク沢下降点着が14:30を過ぎた場合樺避難小屋からトーバク沢左岸尾根経由で下山
※雁坂小屋取水場着14:30を過ぎた場合黒岩尾根経由で下山。
※コースタイムは「東京起点の沢120」p.166及び山と高原地図を参考
■エスケープルート
大滝まで:トオの滝より下流にある左岸仕事道で出会いの丘へ
大滝から二俣まで:左俣から雁坂小屋を経て黒岩尾根で出会いの丘へ
二俣からトーバク沢下降点まで:登山道で川又へ
トーバク沢:そのまま進むor左岸尾根から仕事道経由で出会いの丘へ
■地図・遡行図
2万5千分1地形図「雁坂峠」「中津峡」
遡行図:東京起点沢登りルート120 p.166
■共同装備
テント(エアライズ)
ツェルト(チャーリー)
救急箱(苺)
9mm×45mロープ
8.6mm×30mロープ
ハーケン・カム
ハンマー(ロカ)
ハンマー(チコ)
アッセンダー
■遭難対策費
100円×3人
計300円
■備考
秩父 日の出(5/26)4:31
秩父 日の入(5/26)18:51
秩父警察署 0494-24-0110
豆焼沢遡行・トーバク沢下降記録
■作成: 久光
■日程: 2018/5/26(土)
■山域: 奥秩父
■天候: 晴後曇
■メンバー: CL久光 SL丸山 山本
■行動記録
5:22 出会いの丘(予定5:30)
5:33 豆焼沢出合
6:13 ホチの滝(予定6:30)
7.43 トオの滝(予定8:00)
8:06-8:25 十字峡から瀧谷洞入口往復(予定9:00-9:30)
9:33 大滝(予定10:30)
11:04 二俣・スダレ状美瀑(予定11:30)
12:17 雁坂小屋取水場(予定12:30)
13:12 2018p北東のトーバク沢下降点(予定13:30)
16:36 作業道出合
17:04 出会いの丘(予定16:30)
■概要
・ホチの滝は左から巻く。少し高度感がある。
・ゴルジュ内5m滝は意外とガバが多く、見た目ほど悪くない。III+程度でロープを出して登る。支点は流木。
・トオの滝下段は左から登る(III程度)。二段目は左から滝壺を回り込むようについているバンドを伝って巻き気味に登った。
・大滝は左から巻道があり、登っていくと岩と岩の隙間から滝上に出る。
・大滝上の2段8m滝は、「東京起点沢登りルート120」には登れないと書いてあるが、登れる。下段は右から簡単に越えられる。上段は丸山は水線沿い(IV-)、久光は左壁からバンド状をトラバース気味に登った(III+)。左壁ルートには1m強の残置ロープがある。
・両門の滝は美しい。迫力にはやや欠ける。
・最後の支沢は登れる滝の連続で楽しい。詰めはなく登山道に出る。
・トーバク沢は急であまり下りやすくない。滝は概ねクライムダウンか巻ける。最後の残土処分場が特異。
■記録
アプローチは久光車を使用。西武線高麗駅で二人を拾う。途中秩父のベルクで例のごとく半額セール漁りなどをし、雁坂トンネル手前の出会いの丘に着いたのは11時頃。出会いの丘はちょっとした駐車スペース程度を想像していたが、数十台は停められる駐車場に「東京大学秩父演習林ワサビ沢展示室」なる施設まで付随していて妙に立派である。
出会いの丘の駐車場でテントを張って寝る。他に同業者らしき車が一台停まっていた。ナトリウムランプで明るく照らされておりヘッ電いらずのテン場である。
翌朝は4:30起床。食事と出発準備をする。
豆焼沢も例に漏れず釣り師とのトラブルの多い沢と聞く。しかし、豆焼沢の場合流域は東大演習林である。仮に釣り師とトラブルになり、大若沢の時のごとく「誰の土地だと思っている!!」と怒鳴られたら、学生証を突きつけてやろう、などと質の悪い冗談を交わしながら支度する。
同じく前泊していた同業者は大学のワンゲル風パーティーで、我々より先に出発していった。
5:22出発。駐車場隣のヘリポートからワサビ沢を下る。ワサビ沢はトンネル工事の残土によって階段状に埋め立てられており、盛土上を下るだけで歩きやすい。出合の手前には一つだけ堰堤があったが、右岸に明瞭な巻道がある。
出合は平凡な河原。しかし、歩き始めるとすぐに奥秩父らしい黒光りするナメが出てきて期待度が上がる。
間もなく第一のゴルジュに入る。ゴルジュ内の6m滝は深い釜を持つ。久光と山本は右から、丸山は左から越えた。山本はへつりに失敗し、早くも全身ずぶ濡れになっていた。雁坂大橋手前のゴルジュ出口付近にはもうひとつ滝があるが、こちらは左から特に苦労せず登れる。
ホチの滝は雁坂大橋の真下にある。上部がハングしており登るのは困難そう。左から巻くが、ちょっと高度感がある。
ホチの滝を過ぎると前半の核心とされるゴルジュに入る。ゴルジュ内5m滝は丸山トップで久光、山本の順に左側から。立っていて困難そうに見えたが、意外とガバが多く見た目ほど悪くない(III+)。登っている最中に上から小石の落ちる音がし、何事かと思って上を見ると、先に出たワンゲル風パーティーが左岸を高巻き中だった。落石は勘弁してほしい。
ゴルジュを出たあとの5m滝は直登困難のため、左のルンゼ状から巻いて滝上に出る。食事休憩中のワンゲル風パーティーを抜いて先に進む。
演習林の作業道が左岸から合流するとトオの滝2段10m。心配していた釣り人の姿はなく一安心。下段は左から登り、山本のみお助け紐で確保(III)。二段目は左から滝壺を回り込むようについているバンドを伝って巻き気味に登った。登っている途中でワンゲルが滝下に到達し、ギャラリーのいる状況になったため若干居心地が悪かった。
トオの滝から歩くこと数分で両側から小さい支沢が合流する。計画書では誰かの記録を参考に「十字峡」としたが、かなり大袈裟な表現だった。苔むした滝になっている右の支沢は、事前情報によれば関東最大の鍾乳洞「瀧谷洞」から流れているという。予定通り少し寄り道する。滝上には洞窟屋向けと思われるフィックスロープもあり、親切。
果たして支沢はやはり洞窟から流れていた。洞窟の入口は期待していたよりは小さいが、折角なので久光と丸山は少しだけ中を覗いてみた。洞窟は腰を低くして通れる位の高さで、10mほど奥で上下に分かれ、下は水没している。上下の洞窟は20mほど先で合流し、その先は狭くなっているらしい。装備もないので、このあたりで引き返す。帰ってからの情報によれば、奥まで続いている「瀧谷洞」の入口はやはり別にある模様。今回見た洞窟は豆焼沢鍾乳洞と呼ばれているらしい。
鍾乳洞見学中にワンゲル風パーティーに抜かされる。洞入口で待っていた山本によれば、怪訝な顔をして通りすぎていったらしい。下りは支沢右岸の明瞭な巻道を通り、沢に復帰する。
遡行図にある2段8mの滝(ツバクロの滝)は、立派な滝壺を持つ。右から回り込んで登る。そのすぐ上の6m程度の滝は右から巻く。巻道がある。
右からルンゼが入り込んだ直後の滝は右から巻く。
遡行図に記載のあるインゼルは片方に水が流れていなかったのか、気付かなかった。見落としてしまったらしい。
この先も滝とナメが小刻みに続く。
遡行図には注記のない10mスダレ状は、久光と山本は左から巻く。滝と岩の隙間から越えられる。丸山は水流左側からフリーで登ってきた。滝上はナメが続き美しい。
2113m地点からの支沢との合流点で、ワンゲルパーティーに追い付く。間隔を空けるために腰を下ろし、補給タイムにする。
大滝は四段の迫力ある滝。
事前情報通り一段目は二条の水流の真ん中を登れなくはなさそうだったが、立っている上にヌメヌメでかなり苦労するだろう。二段目より上は水流脇に取り付くのも困難そうで、登るとしたら右壁しかなさそうである。色々な意味でシビアなので定石通り巻く。巻きは左から。しっかりとした踏み跡が幾筋かある。滝よりの経路を取ったところ、途中一ヶ所III-程度のところがあったが、ルートの選び方次第では回避できるだろう。登りすぎたかと思うほど登った辺りで、岩の隙間からすんなりと落ち口に降りられた。
大滝の上はすぐに2段8m滝。下段は右から簡単に登れる。上段は「東京起点沢登りルート120」には登れないと書いてあるが、こちらもそれほど苦労なく登れた。丸山は水線沿い(IV-)、久光は左壁からバンド状をトラバース気味に登るルートをとった(III+)。左壁ルートには1m強の残置ロープがある。山本は水線沿いに登ってもらい、お助けで確保した。
次の6m滝は右壁から登る。
4段20m滝はロープを出して丸山リード、久光、山本の順に登る。一段目はそれほど苦労しない(III)が、二段目の左壁はツルツルの上にヌルヌルで、突っ込んだ久光は斜度の割に苦戦(IV-)。丸山は右壁から行ったらしい(III-)。
三段目は見たところ、上部は困難ではなさそう。ただし出だし2mが立っている。ここで失敗すると2段目も落ちかねないので、素直に巻くことにする。三段目基部から左岸を行くとすぐに巻道と合流し、苦労なく滝上に出ることができた。なおこの滝、四段滝と言われているが、四段目があるようには見えなかった。
両門の滝は「東京周辺の沢」の表紙にもなっている滝。左股右股とも、それなりの水量で流れ落ちている。高さがなく、斜度も緩いので迫力には欠けるが、優美である。水流が薄く広がっているので、どこからでも水流中を登ることができる。ただしホールドはやや細かい。
両門の滝上も美しいナメと小滝がしばらく連続し、とても爽快である。しかし、
やがて上流の崩壊地から大量のガレが流入し、ナメはガレに覆われて凡流になる。
これで豆焼沢も終わりかと歩きづらい河床を進み、雁坂小屋取水場に向かう支沢を探す。目的の支沢に入ると再び渓相はよくなり、出合のゴルジュから始まって息つく間もなく滝が続く。III程度の快適に直登できる滝を登り続けていくと雁坂小屋取水場。「お疲れさまでした」の看板が出迎えてくれる。最後まで退屈させない名渓だった。
取水場からは登山道を川又方面に進む。この道はちょうど5年前の5/26に、久光が初めての泊まり山行のCLとして通ったところだった。5年振りに通ると一般登山道としては悪く、初心者の当時にしてはよく通ったものだと思った。
2018pを巻いて登山道が本格的に下り始めるところで、交差するトーバク沢右股左沢の沢形に入る。水はなく、奥秩父らしい尖った浮石に覆われた斜面を慎重に下る。
100mほど下ったあたりから滝が連続する。
1850で10mの苔むした滝。左岸から巻く。
その後、1800付近にかけて四連瀑。上から10m、5m、5m、7m。上の苔むした滝は左岸から懸垂下降し、2つ目は小尾根を越えてむこうのルンゼから巻く。3つ目と4つ目はクライムダウンした。
その後も急峻な沢形が続くと左俣出合。こちらは伏流しているため0:1。左俣は15mくらいの滝をかけて流れ落ちている。
出合から下は伏流になる。200mほど進んだところで涸棚7m。クライムダウンする。
その後も中下流部は伏流が続き、沢に沿った森のなかにルートをとって下る。飽き飽きしてきた頃水流が復活するが、その後も何もない凡流がつづく。
1260m付近で目の前が開け、コンクリートに固められた芝生の広場が現れる。ここから先、谷は階段状に盛られた土で厚く埋められる。水は消えているが、増水時は中央に深く切られたコンクリートの中を流れるらしい。雁坂トンネルの残土処分場である。
残土上は基本的にとても歩きやすい。平らな部分となだらかな斜面が交互に現れる。途中、マムシを発見。刺激しないように通りすぎた。残土は下から振り返って見上げるとまるで要塞のような迫力がある。1990年代の遡行記録を見るとトオの滝より下流の水質について酷評されているが、おそらくこの処分場が建設中で泥が流れ出ていたのだろう。
やがて、右岸側にトンネル出口のようなものが現れる。トンネル出口は雁坂トンネルの側坑と思われ、おそらくここから土砂を搬出したのだろう。坑口は鉄板で封鎖されている。鉄板の中央には扉がついているが、鍵がかかっていて入れなかった。
坑口の対岸には東大演習林の作業道入口がある。ここより先、沢を離れて作業道をたどる。
作業道は登山道並みに整備されている。特に難所には全て鉄パイプの階段や橋がかけられていて、大変歩きやすい。雁坂大橋と豆焼橋を眼下に見ながら、30分ほど歩けば出会いの丘に帰着した。
※滝名は「東京起点沢登りルート120」に従う。ただし同書未記載のものは久光がつけた。
■反省・備考
・トオの滝でお助け紐を出した際、途中が絡まったままで登らせてしまった。ロープのセットを確認せずに確保体制に入ってしまったため、下が見えず、絡まっていることが分からなかった。更に、早く引っ張ってしまったため絡みを直せなかったらしい。絡まないように投げる、ちゃんとした状態で装着できたことを確認してから引っ張るようにすべき。
・山本が地図を濡らして読めなくしてしまっていた。地図の防水化は徹底すべき。
・「東京起点沢登りルート120」の遡行図は大分手抜き。
■感想
・豆焼沢は長いのに飽きの来ない名渓。数分ごとに気の抜けない小滝や美しいナメが現れる。荒川水系屈指の名渓の誉れは事実だと思った。
・IIIからIV-程度の直登できる滝が多く、直登しない場合も巻きのルートが判別しやすい。「東京起点の沢120」は2級上と評しているが、長さ以外のレベルは2級が妥当と思われる。
・釣り師と出会わなかったのは幸運だった。
・トーバク沢は下部の要塞だけが印象的な沢。トンネル工事の環境インパクトを知ることができる。