2018/8/2-5 裏銀座・笠ヶ岳

山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
裏銀座・笠ヶ岳縦走計画書 ver.4.1
作成者:菅沼

■日程 2018/8/2-5(木-日) 予備日8/6(月) 前夜(8/1(水)夜)発・山中3泊4日・予備日1日
■山域 北アルプス
■在京本部設置要請日時 2018/8/6 18:30
■捜索要請日時 2018/8/7 10:00
■メンバー (計4人)
 CL菅沼 SL平岩 山本 橋本

■集合 8/1です!
 バスタ新宿 22:45
 ※途中コンビニ等には寄れないと思いますので,1日目の朝食等を忘れずに用意しておいてください。

■交通
□行き
 バスタ新宿23:05—(アルピコ交通・回数券併用で5550円)—信濃大町駅翌05:02
 信濃大町駅—(タクシー・約45分・約8500円/台)—高瀬ダム
 新宿—信濃大町駅のバスはCLが予約済。キャンセル料は100円。
 タクシーはCLが予約済。信濃大町駅5:15 アルピコタクシー 0261-23-2323
□帰り
 新穂高ロープウェイ9:55/10:55/11:55/12:55/13:46/14:55/15:55/16:55/17:55/18:35[終]—(濃飛バス・高山濃飛バスセンター/平湯温泉行・890円)—平湯温泉10:28/11:28/12:28/13:28/14:28/15:28/16:28/17:28/18:28/19:08
 ※新穂高ロープウェイ—中尾高原口 所要4分
 平湯温泉…/17:00/18:00[終]—(濃飛バス/京王バス・高山—新宿線・5860円)—バスタ新宿21:30/22:30
 8/5(18:00),8/6(17:00)の便はCLが予約済。
 または
 平湯温泉12:10/13:50/14:20/14:50/15:50/17:50[終]—(濃飛バス/アルピコバス・松本バスターミナル行・2370円)—松本バスターミナル13:35/15:15/15:45/16:15/17:15/19:15
 松本12:42/14:26/15:55/16:33/17:21/18:37/19:35[終]—(篠ノ井線・中央本線)—新宿17:21/19:40/20:42/21:28/22:18/23:13/24:00
 松本・新宿間は電車によって小淵沢・甲府・高尾等で乗り換える。
 青春18きっぷ使用で2370円
 ※特急使用の場合[終] 松本20:00—(スーパーあずさ36号・自由席2380円)—新宿22:36
 ※いずれも,注記がない限り1人あたりの値段。

■行程
 ※当コースは,長野県登山安全条例上の指定登山道に該当し,登山計画書の届出が義務づけられている。
□1日目
 高瀬ダム-0:40-水場-1:10-権太落シ-2:10-三角点-1:20-烏帽子小屋
 [計5:20]
 ※余裕があれば,烏帽子岳ピストン(サブザック行動も可)。烏帽子小屋-0:50-烏帽子岳-0:45-烏帽子小屋
□2日目
 烏帽子岳-3:30-野口五郎岳-0:30-真砂分岐-1:20-東沢乗越-0:40-水晶小屋-0:40-水晶岳-0:30-水晶小屋-0:40-岩苔乗越-1:10-鷲羽岳-1:00-三俣山荘
 [計10:00]
 ※水晶小屋から水晶岳ピストンは,サブザック行動も可。状況に応じてカットする。
 ※状況に応じて,途中で小屋泊等も柔軟に検討する。
□3日目
 三俣山荘-1:00-三俣蓮華岳-1:15-双六岳-0:45-双六小屋-1:10-弓折分岐-0:40-大ノマ乗越-1:30-秩父平-1:00-笠新道分岐-1:10-笠ヶ岳山荘
 [計8:30]
 ※予備日をここまでに使っている等,状況に応じて,双六小屋泊,あるいは弓折分岐から小池新道経由新穂高温泉へのエスケープも検討する。
□4日目
 笠ヶ岳山荘-4:20-水場-2:30-中尾高原口
 [計6:50]

■エスケープルート
 水晶小屋付近まで:高瀬ダムへ引き返す
 水晶小屋付近から大ノマ岳付近まで:双六岳巻道,双六小屋,小池新道を利用し新穂高温泉へ
 弓折分岐-0:30-鏡平小屋-2:10-小池新道登山口-1:25-新穂高温泉
 大ノマ岳付近から笠新道分岐付近まで:笠新道を利用し新穂高温泉へ
 笠新道分岐-4:20-笠新道登山口-0:55-新穂高温泉
 笠新道分岐付近から:そのまま進む

■小屋
□ルート上の小屋
○烏帽子小屋 090-3149-1198 テント800円/人 素泊まり6000円 天水有料
・野口五郎小屋 090-3149-1197 0261-22-5758 素泊まり6000円 天水有料
・水晶小屋 090-4672-8108 0263-83-5735 素泊まり5500円 ミネラルウォーター有料
○三俣山荘 090-4672-8108 0263-83-5735 テント1000円/人 素泊まり5500円 水場あり
・双六小屋 090-3480-0434 0577-34-6268 テント1000円/人 素泊まり6500円 水場あり
○笠ヶ岳山荘 090-7020-5666 0578-89-2404 テント800円/人 素泊まり6600円 水場あり
□周辺の小屋
・雲ノ平山荘 070-3937-3980 0263-83-5735 テント1000円/人 素泊まり5500円
・黒部五郎小舎 0577-34-6268 テント1000円/人 素泊まり6500円
・高天原山荘 080-1951-3030 076-482-1418 素泊まり6000円
・湯股温泉晴嵐荘 0261-22-0165 テント700円/人 素泊まり6500円
・薬師沢小屋 090-4672-8108 0263-83-5735 素泊まり6000円
・太郎平小屋 090-4672-8108 0263-83-5735 テント700円/人 素泊まり6000円
・鏡平小屋 090-1566-7559 0577-34-6268 素泊まり6500円
・わさび平小屋 0577-34-6268 テント800円/人 素泊まり5500円

■地図
 山と高原地図38(旧37)「槍ヶ岳・穂高岳」
 2.5万分の1:「笠ヶ岳」・「三俣蓮華岳」・「薬師岳」・「烏帽子岳」

■共同装備
 テント(フェザーライトテント)
 本体
 フライ
 ポール
 鍋(雪月)
 調理器具セット(キャサリン)
 *菜箸
 コンロ(緑4)
 コンロ(菅沼私物)
 カート*2
 カート(大)*1
 カート(大)*1
 救急箱(アゲハ)
 ラジオ・天気図用紙
 山行中に随時変更する。

■遭難対策費
 600円/人*4人
 計2400円

■悪天時
 8/1昼頃までに判断
 予報によっては,メンバーと調整し日程を後ろ倒しにすることも検討する。
 また,8月下旬などへの延期も検討する。

■備考
 日出(8/4 松本)04:57
 日没(8/4 松本)18:51
 岐阜県警高山警察署 0577-32-0110(新穂高温泉-双六岳・双六岳-黒部五郎岳南西側)
 長野県警大町警察署 0261-22-0110(双六岳-烏帽子岳東側)
 富山県警富山南警察署 076-467-0110(黒部五郎岳-烏帽子岳北西側)
 NHKラジオ第一 540kHz(松本)/1026kHz(白馬)/819kHz(長野)/648kHz(富山)/792kHz(高山)
 NHKラジオ第二 1512kHz(松本)/1467kHz(長野)/1035kHz(富山)/1125kHz(高山)
 アルピコバス 新宿—安曇野・大町・白馬線 (http://www.alpico.co.jp/access/express/hakuba_shinjuku/)
 濃飛バス (https://www.nouhibus.co.jp/) 濃飛バス予約センター 0577-32-1688 高山営業所 0577-32-1160
 濃飛タクシー 0578-82-1111 (https://www.nouhibus.co.jp/taxi/northalps/)
 新穂高ロープウェイ 0578-89-2252
 七倉—高瀬ダム 特定タクシー通行時間 5:30-19:00(7/14-9/2)
 アルプス第一交通 0261-22-2121
 アルピコタクシー 0261-23-2323
 アルピコ交通扇沢線 (http://www.alpico.co.jp/access/hakuba/ogizawa/)
 平湯キャンプ場 (http://www.hirayu-camp.com/annai.htm)
 ひらゆの森 10:00-21:00 500円 0578-89-3338 (http://hirayunomori.co.jp/)
 長野県登山安全条例 (https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/tozanjorei/tozanjorei.html)
 同指定登山道告示 (https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/tozanjorei/shiteitozando.html)

裏銀座・笠ヶ岳縦走記録
作成者:菅沼

■日程 2018/8/2-5(木-日)
■山域 北アルプス
■メンバー(オーダー順・敬称略)
 CL菅沼 SL平岩 橋本 山本
 なお,オーダーは適宜変更した。

■天候
 8/2 晴
 8/3 曇のち晴一時霧
 8/4 晴のち曇
 8/5 霧のち晴

■時間
□1日目(8/2)
 05:50高瀬ダム着
 06:14濁沢キャンプ場
 06:35ブナ立尾根登山口(水場)発
 07:0710番着・休憩
 07:17同発
 07:28権太落シ(9番)
 07:388番着・休憩
 07:48同発
 08:106番着・休憩
 08:21同発
 08:435番
 09:03三角点(4番)着・休憩
 09:13同発
 09:26タヌキ岩
 09:393番
 09:572番着・休憩
 10:09同発
 10:221番
 10:40烏帽子小屋着・幕営
 11:24同発
 11:44ニセ烏帽子岳・休憩
 12:02同発
 12:29烏帽子岳
 13:27烏帽子小屋着
□2日目(8/3)
 03:32烏帽子小屋発
 04:292770m地点(エアリア上三ッ岳手前の○)着・休憩
 04:41同発
 04:58三ッ岳稜線・お花畑ルート分岐(北側)
 05:12三ッ岳稜線・お花畑ルート分岐(南側)
 05:38休憩
 05:49発
 06:14野口五郎小屋着・休憩
 06:28同発
 06:44野口五郎岳着・小休止
 06:47同発
 07:21真砂分岐着・休憩
 07:35同発
 08:36東沢乗越着・休憩
 08:51同発
 09:38水晶小屋着
 09:57同発
 10:32水晶岳着・休憩
 10:49同発
 11:22水晶小屋着・休憩
 11:54同発
 12:21ワリモ北分岐着・小休止
 12:24同発
 12:45ワリモ岳着・休憩
 13:04同発
 13:28休憩(取材)
 13:35発
 13:43鷲羽岳着・休憩
 14:14同発
 15:00三俣山荘着・幕営
□3日目(8/4)
 04:09三俣山荘発
 04:48三俣峠(巻道ルート分岐)
 05:04三俣蓮華岳着・休憩
 05:22同発
 06:02中道稜線分岐
 06:22双六岳着・休憩
 06:38同発
 07:06中道分岐
 07:08巻道分岐
 07:20双六小屋着・休憩
 07:55同発
 08:25くろゆりベンチ
 08:38花見平
 08:49弓折分岐着・休憩
 09:06同発
 09:14弓折岳
 09:41休憩
 09:52発
 10:15大ノマ岳付近小ピーク着・休憩
 10:30同発
 10:54秩父平付近鞍部(エアリア上秩父平付近の○)着・小休止
 11:00同発
 11:24カール上着・休憩
 11:33同発
 12:16抜戸岳分岐着・休憩
 12:31同発
 12:36笠新道分岐
 13:26笠ヶ岳山荘テント場着・幕営
□4日目(8/5)
 04:07笠ヶ岳山荘発
 04:21笠ヶ岳
 05:24休憩
 05:33発
 05:55雷鳥岩着・小休止
 05:58同発
 06:47小休止
 06:52発
 06:57蜂ノ巣岩付近水場着・休憩
 07:11同発
 07:48水場着・休憩
 08:03同発
 08:39休憩
 08:46発
 08:56錫杖岳分岐
 09:24穴滝上河原着・休憩
 09:37同発
 10:07登山口着

■記録
□0日目(8/1)
・就寝まで
 バスタ新宿集合。集合時刻少し後には全員集まり,共装の受け渡しやトイレを済まし,バスへ乗車。集合から乗車まで少し慌ただしかった。あと5分早い集合にしておけばよかったかもしれない。
 バスは4列席。このバスは前後の座席の間隔が広めで,4列シートにしてはなかなか快適。レッグレストがあればなお良いが。各自,音楽プレーヤーやマスク,アイマスクなどを車内に持ち込み,なるべく質の良い睡眠環境を確保しようとする。CLは車中羽織るための服を忘れる凡ミス。少し肌寒かったが,数時間は眠れた。途中SAで外に出られる休憩が2回あったようだが,眠いから外には出なかった。この夜行バスで信濃大町駅へと向かった。他のメンバーも,全く眠れず辛すぎる,とまではならなかったよう。
 このバスは1か月前の5時(発売時刻の1時間後)に予約し,席を確保できた。夏山シーズン(特に金曜日!)はすぐに信州方面の夜行バスの席は埋まるので,発売直後に予約することが肝要。ハイウェイバスドットコムなら決済するまでキャンセル料は不要。夜行バスを使うつもりなら,1か月前には大体の計画をして予約できるようにするとよいだろう。
□1日目(8/2)
・高瀬ダムまで
 5時,定刻通りに信濃大町駅到着。タクシーの予約は5:15にしておいたが,すでにタクシーは駅前にいた。近くのタクシーの運転手さんに尋ねれば,予約しているタクシーを呼んでくれる。運転手さんは非常にフレンドリーで優しい。トイレなどは駅前で済ますつもりだったが,七倉で一度止まってくれるとのことなので,すぐにタクシーに乗車。七倉で一度メーターを止めてくれ,トイレを済まし,登山補導所で登山届を提出。登山届のポストもあったが,折角なので補導所のおじさんに直接渡した。笠ヶ岳へ向かうコースはやはり珍しいようだ。再びタクシーに乗り,不気味なトンネルを通り抜けて九十九折の高瀬ダム堰堤を登れば,車道終点。タクシー代は8200円。車中運転手さんと雑談したり,少し眠ったり。高瀬ダムや七倉ダムの水は,濁りの無い青色になる春が最も美しいらしい。残念ながら,8月には少し濁っていた。透き通った青空を見てこれからの好天の期待を膨らます。大町付近は最近ほとんど雨が降ってないそうだ。
 タクシーの予約は出発2日前に行った。忘れかけていた。危ない危ない。七倉から高瀬ダムまでの道は,許可されたタクシーしか入れないため,予約の前に確かめておくのがよいだろう。
・高瀬ダム~烏帽子小屋
 高瀬ダムの堰堤上は風が強い。写真をさっと撮って,とりあえず濁沢キャンプ場まで向かう。不動沢の吊橋は案外しっかりとしている。平坦なキャンプ場で装備を整え,登山口の表示がある水場まで進み,一休み。山本さんは滝を見に行く。朝から日差しが強く,猛暑の予感。荷物は23kgくらい。しんどい山行は好まない質なので,ここまで重い荷物は初めてな気がする。他のメンバーも20kg前後はあり,重そう。水が多いのがかなり辛い。
 さて,いよいよ北アルプス3大急登と称されるブナ立て尾根。道は全体を通して非常によく整備されており,歩きやすい。確かに急登だ。途中,下から12番から1番まで番号が振ってあり(100m毎?),一応の目安になる。それでも,間隔は均等ではない感じがしたから,頼りすぎるのはよくない。烏帽子小屋手前までは基本的に樹林帯なので,直射日光を受けることはなく,暑すぎるということはなかった。樹林帯とはいっても,周囲の山々は時々見渡せ,青空に聳える北アルプスの稜線の風景は疲れを吹き飛ばす。それでも重量あるザックでの急登は体力を奪われ,短い間隔で休憩。概ね2番毎に休憩して,焦らず騒がずえっちらおっちらと登る。気づけば1番も過ぎ,烏帽子小屋。青い屋根が可愛らしい。正面には赤牛岳,その名の通り地面が赤い。読売新道も魅力的な道だなあ,と早くも次の目標が出来てしまった。とりあえず受付を済まし,小屋から南に数分歩いたところにあるテント場にテントを張る。一休みして,準備を済ませたら,いざサブザックで烏帽子岳へ。
・烏帽子小屋~烏帽子岳~烏帽子小屋
 小屋から稜線を歩き,烏帽子岳へ。手前のピークはニセ烏帽子岳と呼ばれているようだが,ニセというには可哀想な,十分立派な山だ。ニセ烏帽子岳に着いたころ,カメラのバッテリーが切れる。サブザックに予備バッテリーを入れてくるのを忘れてしまった…。そもそも,バッテリーが切れるのが早すぎやしないか。安かろう悪かろうである。早くもカメラは1.2kgの重りと化した。烏帽子岳は,まさに烏帽子という形容がふさわしい,ヒョコッとした岩山だ。コースタイムは少し厳しい気がした。眠そうな橋本くんは,山頂でひと眠り。烏帽子岳からは,北は立山,剣岳,針ノ木岳が見渡せ,西は読売新道の堂々たる稜線,東は登ってきた七倉ダムや高瀬ダム。南には三ッ岳が大きく見える。早速の大展望を楽しみ,戻る。烏帽子岳直下は鎖場だが,サブザックだと怖いというほどのことはない。晴れわたる稜線を楽しみながら,ゆっくり烏帽子小屋へと戻った。
 稜線上は携帯電話が入る。途中携帯電話で雨雲レーダーや天気予報をチェック。とりあえず晴天が続きそうなので安心する。
・到着後
 暑い。暑すぎる。高い太陽は日陰を作らせず,テント場で猛暑に苦しむ。ほんのわずかな日陰で膝を抱えて少し眠っていたが,どうしても転がりたかったのでテント内で眠る。テント内は日光も注ぎ,蒸し風呂状態。しばらく眠った後,身体が熱く重い。軽い熱中症になってしまったようだった。橋本くんは一旦テント内で転がっていたが,30分くらいでこれはまずいと本能的に逃げ出していたようだった。平岩さんはうまいこと日陰で眠っていたよう。起き上がって夕食を作り出すが,熱にやられたCLは使い物にならない。もう少し本能を鍛えなければいけないようだ。山本さんは少し涼しくなったテント内でゴロンとしていた。夕食は橋本くんによるちらし寿司。卵と海苔がないとCLがうだうだ文句を垂れていたら,隣のテントのおじさんに韓国のりをいただいた。これがまた合う。優しいおじさんに感謝だ。それにしてもお恥ずかしい。ご飯は硬めにうまく炊け,美味しくいただく。橋本くんにはメニューに文句紛いの発言をしてしまったことをお詫びしたい。酢飯のおいしさは身体に沁みる。山での料理は工夫が必要,そして人それぞれなので,いろいろな人のメニューを見てさらに進化させていただければ。食当はたっぷり金をかけて少し豪華にやった方が,テンションが上がると個人的には思う(集金の時に少し申し訳なくはなるけれど)。
 食事の後,翌日の出発も早いのでさっさとトイレなどを済ませ,まだ明るいうちに,18時頃就寝。
 烏帽子小屋に水場はなく,消毒した天水,200円/L。小屋で購入できる。翌日に少し飲料水として使うことになったが,塩素臭はやはり気になる。なるべく調理用などに使ったほうがよさそうだ。
□2日目(8/3)
・出発前
 2時起床。無事起きられた。空は雲も浮かんでいるが,煌めく星々。更待月がテント場を明るく照らす。思ったより明るい。ああ山に来たんだなあ,と実感する。朝ご飯は平岩さんによるコーンスープペンネ。野菜・ベーコンたっぷりで大変美味しゅうございました。そして朝の不機嫌さが治りました。ごちそうさまでした。暗闇の中撤収,一旦荷物を置いて小屋へ向かい,トイレや水の補給を済ます。起床から1時間半で出発。もう少し撤収が素早くできるといいなあと感じた。
・烏帽子小屋~真砂分岐
 月光とヘッドランプの灯りを頼りに,3時半,烏帽子小屋を出発する。憧れの裏銀座コース縦走のはじまりだ。空に雲は多くない。今日も晴れそうだと意気揚々歩き出すと,テント場で道に迷う。分岐を間違え,テント場の中をうろうろしてしまった。道標がなく,非常にわかりにくい。前日の明るいうちに,道を確かめておくことを勧めたい。出鼻を挫かれた感があるが,それでもめげずに三ッ岳を登っていく。300m弱高度を上げるから,朝一番にしてはかなり辛く,きつい登りだ。ゆっくり登っていくと,次第に東の空が白んでいく。ヘッドランプももういらないかな,という頃には三ッ岳から野口五郎岳へと続く稜線へと出て,休憩。ここまで歩いてきた道にヘッドランプが点々と見える。皆朝が早い。三ッ岳の山頂は巻き,西峰の稜線ルートとお花畑ルートの分岐で,お花畑ルートを進もうとしたところに,登山道の脇にライチョウが!しばしライチョウ観察&撮影会。雷鳥に入って以降,ライチョウを見たのは初めてだ。親子のライチョウはチョコチョコと可愛く歩く。本当に警戒心が薄い。数分眺め,後ろ髪を引かれながらも観賞を切り上げ,行程を進めることにした。今日はまだまだ長い。お花畑ルートはその名のごとく,一面のお花畑。高山植物の楽園である。日が出てくれば雲も消えるだろうと思っていたが,却ってガスが出てくる。少し心配になりつつも,南へ歩を進めていく。道は次第に岩がちに。野口五郎岳が近づいてくる。ようやっと,野口五郎岳手前の,少しだけ周りより窪んだところに建つ野口五郎小屋に到着。しばし休憩。CLは手ぬぐいを購入。他のメンバーも購入していた。山とライチョウ,お花の絵。随分可愛らしい手ぬぐいだ。ガスは消えないが,野口五郎岳へ登っていく。巻道もあるが,折角ここまで来たのに山頂を巻くのは余りにも勿体ない。小屋からしばらく登ったら,野口五郎岳山頂。高校生の頃から遠くから眺めていて,是非とも登りたいと思っていた山だ。ガスの中なのが残念だが,それでも嬉しい。また来いということか?写真だけ撮って,さらに南へ進む。山頂から少し下がると,ガスは晴れてくる。気づけば360度山々に囲まれた絶景だ。この景色を見ながら歩けるこの上ない幸せ。気付けば,あとで登る水晶岳や鷲羽岳が見渡せる。本当に雄大な景色で,出る言葉がない。真砂岳の山頂は少し巻けば,真砂分岐。竹村新道への分岐だ。湯俣の方の橋が流されてしまい,湯俣温泉には今は通じていないようだ。
・真砂分岐~水晶小屋
 ここから進行方向は西へ変わる。白っぽい岩場は,水晶小屋手前で赤茶けた色に変わる。そして水晶岳は黒色。岩だけでも色彩豊かだ。真砂分岐からは岩稜帯で,なかなか距離が稼げない。水晶小屋は結構遠くからでも見えるのだが,なかなか近づいてこない。水晶岳は雲の中に隠れたり,また現れたり。そろそろ疲れが出始める。水晶小屋までの最後の登りには,もうCLはバテバテの大バテ。他のメンバーの表情にも疲労の色が表れてきたようだ。この一帯は,コースタイムで行ければ御の字くらいに考えておいた方がよいだろう。疲れてはいても,周囲は大展望。あんなに遠い鷲羽に数時間後はいるのか,あんなに歩くのか…という悲しいことは考えないようにして,槍は格好いいなあ,今まで良く歩いたなあ,と一部の思考を停止して進んだ。
・水晶小屋~水晶岳~水晶小屋
 急な登りを登り切れば,水晶小屋だ。ここから小屋脇にザックをデポし,サブザックで水晶岳ピストン。すれ違いで少し待ったりもするので,ここもコースタイム通りの時間はかかると踏んでおいた方がよいだろう。水晶小屋から水晶岳は,かなり遠く見える。歩きやすい平坦な道を10分ほど歩けば,そこからは黒い岩の岩場だ。ある程度慎重に登っていけば,憧れの水晶岳!と山頂の標を見る前に,山頂直下にライチョウの親子発見。本日2回目のライチョウ撮影会のはじまりだ。全く人には怯えず,3羽の子ライチョウは親ライチョウにチョコチョコと可愛くついていく。ライチョウと槍を1つの画に撮れたのでCLはご満悦。ライチョウって飛ぶんだなあ。ライチョウは少し遠くに行ってしまったから,山頂に行くことにした。頂上はこの上ない大展望。北は赤牛岳へと続く読売新道,少し右を見ればこれまで歩いてきた野口五郎,烏帽子。振り返れば燕,常念の稜線,そして天を衝く槍。手前には鷲羽が羽を広げ,その麓には本日の目的地三俣山荘の赤い屋根。黒部五郎は美しく滑らかな山容,堂々と屹立する薬師岳。雲ノ平には可愛らしい雲ノ平山荘。360度見渡しても,小屋以外に文明の香りはしない。そしてはるか遠くに,明日の目的地笠ヶ岳をも望む。山行後に振り返っても,景観は水晶岳が一番というメンバーが多かった。私もそう思う。いつまでもいたいところだったが,時間もあるから水晶小屋に戻る。ここで大休止。水晶小屋は苦難の歴史を持ち,10年ほど前に新築されたようで,新しさが目を引く。そして何よりも驚いたのが,トイレの清潔さ。とても下界から徒歩2日の距離にあるトイレとは思えないものだった。山本さんは力汁(餅入りの味噌汁?)を堪能していた。とっても美味しそう。他の3人はジュースで乾杯。まだ今日は終わっていないが,一つ目標達成といったところだ。CLは手ぬぐいも購入。雲ノ平山荘と同じ系列だから,同じような河童の手ぬぐいだ。少々お高いが,なかなか来られるところではないところなので買ってしまう。水晶小屋は電波(docomo)が入る(ちなみに,烏帽子から鷲羽までの稜線は概ね電波は入るようだ)。天気予報やレーダー,雲行きを見ても酷い夕立はなさそうな感じだったので,このまま予定通り三俣山荘まで進むことにした。
・水晶小屋~三俣山荘
 そうは言っても,もう行動を始めて8時間だ。疲れの色は隠せない。ワリモ北分岐までは割合平坦な道だ。ワリモと北分岐からは,岩がちの道。ワリモ岳を越え,一度下って登り返せば鷲羽岳だ。ワリモ岳の黄色い標識はなぜか岩の中に立っている。少し岩場を登れば大展望。疲れているから休みすぎてしまった。ワリモ岳を降りてからの登りがそれまた結構ある。CLは疲れ切り,登りの速度が一段と落ちる。鷲羽岳に登りきる前にもう一度休もうかなあと考えて登っていると,降りてきた若い女性に声をかけられる。山と渓谷社の取材らしい。若い人々を丁度探していたとのことで快く取材に応じる。どうやら双六を越えると,あまり若い人は山にいないとのこと。カメラマンの方のカメラは重そうだ。そしていいやつだ。当たり前か。丁度良い休憩になった。来年の夏山JOYをお楽しみに??そして10分弱登り切り,鷲羽岳山頂。数時間前,遥か先に望んでいた山頂はもう足元にある。鷲羽岳は3回目だが,登る毎に天気が良くなっている気がする。疲れているし,あとは1時間の下りだけだから,しばらく山頂の絶景を楽しむ。鷲羽池と槍ヶ岳の方面もよいし,今日歩いてきた稜線が一望できる北の風景も最高だ。水晶岳の黒,野口五郎岳の白,間に赤い岩稜帯。地面だけでもカラフルだ。見渡す限り,行ったことのある山ばかり,という風景もまた乙なものである。夕飯のために米を浸ける時間も必要だから,程々で切り上げ,下ることにする。鷲羽岳から三俣山荘は遥か下に,小さく見える。しかし仕方ないから,鷲羽からは礫・砂の多い乾いた道を400m程を一気に下る。前日からメンバー一同懸念していた道だ。案の定,身体に堪える。特に橋本君は下りは得意ではないようで,ゆっくり辛そうに下る。彼の後ろにはマットだけを持った謎の若者たちがついてくる。追い越さないのかなあと思いながら列になっている。後で橋本くんに聞いたところ,彼らに抜かされてたまるか,と却ってやる気が出たらしい。自分なら苛々してしまうところだろう。これが人格の差か。膝が大笑いして身体が疲れ切った頃,三俣小屋に到着した。
・到着後
 三俣山荘は,雪渓の下にあるから水が豊富だ!久しぶりに水を気兼ねなく使える。三俣山荘で受付を済ませ,テントの好適地を探しに行く。テント場はいくつかの区画に分かれていて,小屋からは結構歩くことになる。皆疲れ切っているが,頑張って場所を探して幕営。お米だけ浸けて,小屋の周りのベンチで休憩。トイレは小屋の中にしかなく,それを自由に使っていいようだった(またまたとても綺麗なトイレだ!)。平岩さんはビールをご購入。一口頂き幸せな気分だ。ここで,また若い女性に声をかけられる。三俣山荘にある診療所(香川大学医学部)の方で,高山病の調査に協力する。医学生がここまで遥々やって来られ,研究までするとは本当に大変だ。診療所があることには安心できる。本当に頭が下がる思いだ。ぼちぼち暗くなってしまうから,16時過ぎから夕食を作り出す。食当はCL,麻婆茄子とご飯。ランチョンミート2缶入り。無事食べられるものには仕上げられた。CLはまた日光にやられて体調が良くない。太陽の光には弱い。食べ終わって片づけを済まし,眠る前にまた小屋へ。先ほどの若者は夜まで楽しそうに宴会をしている。小屋泊は正直羨ましい。山本さんと橋本くんは早々にテントに戻った。平岩さんとしばし天気のよさを讃え,槍ヶ岳の方,西の空が赤くなったころ,テント場に戻った。いつの間にか,槍穂は東に,稜線が一望できる。朝は槍しか見えなかったのになあ。よく歩いた。夕日を受ける鷲羽も素晴らしい。とてもいい小屋だ。テントに帰ったら2人はメガネをかけたままもう眠っている。よっぽど疲れているらしい。残りの2人も,19時頃就寝。翌日の朝もまた早い。
□3日目(8/4)
・出発前
 この日は2:30起床。2日目よりは遅いが,それでも早い。目覚ましと共に皆飛び起きる。外は雲がかかっているが,星も見える。朝食は橋本くんによる力味噌汁?お餅入りのインスタント味噌汁だ。CLと平岩さんは餅を2個いただいたが,他の2人は4個は食べていた。よく朝からそんなに食べられるなあ,と感動する。この日の朝食もてきぱきと終わり,さっさとテントを出て撤収。フライの張りが悪かったようで,フライも本体も結構濡れてしまっていた。前日よりは撤収を早く済ませ,いったん三俣山荘で洗面やトイレを済ます。他の人たちを待っている間,空を見上げてみると,鷲羽と冬のダイヤモンド(一部)。ああ,夏の夜明けだなあと,束の間の感慨にふける。この日も1時間半くらいで撤収と準備を終わらせ,夜明け前にヘッドランプの灯りを頼りに出発だ。快適な三俣山荘に別れを告げて。
・三俣山荘~双六小屋
 三俣山荘から三俣蓮華岳までも,結構な登りだ。最初はガレ場,真っ暗な中先まで見通せないが,ペンキで道がこれでもかというほど示されており,迷うことはないだろう。三俣峠の分岐に来た頃,太陽が姿を現す。今日も暑い日になりそうだ。歩き出して1時間ほどで,三俣蓮華岳に登頂。最後はきつい登りだ。個人的には,300名山ではもったいない立派な山だと思うのだが…周囲に秀峰が多すぎて,相対的に評価が下がってしまうのだろう。朝日と鷲羽岳をながめ,双六岳のなだらかな山容を望む。気づいたら,15分も山頂でぼーっとしてしまっていた。今日もまだまだ長い。そこからは,休憩は挟まず一気に双六岳へ。昨日の食当のお陰で,茄子という重りがなくなったのが大きいのだろう。心なしか軽く感じる。コースタイムより巻いて,双六岳。遠く笠ヶ岳を望む。少し遠すぎやしないか…?あまり深くは考えないことにする。まだメンバーは余裕そうな顔色だ。双六岳でも滞在しすぎてしまったが,とにかく出発。不思議なほど平坦な台地。そして奥には槍。西鎌尾根が正面だ。双六岳といえばこれ,といった風景だ。双六岳から双六小屋も,そこそこ下る。特に最後の10分の下りは膝に堪える。双六小屋もまた立派な小屋だ。しばし休憩。テント場も広くて快適なところだ。もう疲れている。本音を言えば,もうテントを張ってずっとごろんとしたいところだ!CLはゴクリ(500円)を購入,一気に(ゴクリと…)飲み干す。財布の紐を,三俣山荘あたりに忘れてきたらしい。それでも,双六小屋でも手ぬぐいを買うことは思い留まる。しばしの休憩のあと,遠い遠い笠ヶ岳へ出発だ。
・双六小屋~笠ヶ岳山荘
 CLの体力に限界がきた。双六小屋から弓折分岐までは少し登りがあるが,そこまでつらい道ではない。それでも息は荒くなる。そして,この頃からCLの右胸が痛み出す。右に心臓はないはずなのだが…このせいで,これ以降ペースはかなり遅くなる。記憶も他の場所と比べてあまりない。弓折分岐で休むが,そこからは結構なアップダウン。登りのペースはかなり遅く,右胸の痛みは取れない。休憩を頻繁に取るようになる。道は東側。容赦なく太陽の光が降り注ぐ。暑い。体力が奪われていく。確かに,槍穂の稜線は綺麗だ。本当に美しい。それでも,昨日でこの絶景は見飽きてしまい精神的な癒しにはならない…なんと贅沢な!道は基本的に森林限界を超えてはいるが,弓折分岐から大ノマ岳の間など少し低まるところでは鬱蒼とした林の急坂を下ることもある。秩父平付近に水場マークはあるが,水場は確認できなかった。この鞍部からは,結構きれいなカールを登る。見た目にはかなり登るように見えるが,道は折り返しながら徐々に登っていくから,普通の体調ならそこまで辛いことはないといった程度。CLの体調・体力は限界に達し,カールを登り切れば座り込む。ここからは大きなアップダウンはない,いつもなら楽しく歩けるような景色の良い稜線。それどころではないけれど。抜戸岳の分岐で再び休む。先ほどから何度も,笠ヶ岳山荘への荷揚げのヘリの音が耳に響く。まだヘリコプターの音は遠い。皆も少しは疲れているから,抜戸岳のピークを踏むのは諦める。ここからコースタイムでは1:10。地図上の水平距離の割には,かなり短いコースタイム。実際なだらかな稜線だが,歩くことそれ自体が辛い。必死で2,3度のアップダウンを繰り返して歩き続けると,笠ヶ岳山荘よりやや下がったところにある(小笠というようだ),テント場にようやっと到着した。
・到着後
 山本さんは先に所用で小屋に上がっていってたから,しばし放心した後,テントを張る。テント場はぱっと見たところでは大きな石がごろごろとする,テントを張るにはあまり適さない場所のように見える。遠くから見る限りでは,殺生ヒュッテに近い雰囲気。しかし意外や意外,非常によく整備されていて,テント場は真っ平。石もごろごろとしていない砂地で,3泊目にして最も快適。普段はもっと混んでいるらしいが,早くない到着でも好適地を確保できた。水場はテント場から2分ほど下った,雪渓の下にある。雪渓の雪がなくなり次第テント場の水場はなくなり,天水だけになるということだろう。まだ雪渓は少し残っていたから,キンキンに冷えた水が豊富にある。テントをとりあえず設営すると橋本君と水場に行って,顔を洗う。冷たすぎて手が痛い。火照った顔を洗えば,生き返った気分だ。山本さんが戻ってきたあたりで米を浸けて,いろいろ物を持って笠ヶ岳山荘へ4人で上がることにした。この時山本さんに,晴れているうちに笠ヶ岳山頂まで行こうと提案されたが,疲れきった他の3人は乗り気ではない。テント場から山荘まではかなり登り,10分くらいかかる。笠ヶ岳山荘は非常に立派な小屋だ。テント場の支払いを小屋で済ませるついでに,明日の下山ルートについて尋ねると,クリヤ谷ルート(計画していた下山ルート)はあまり人が通らないルートで,道はじっとりと湿った道が続く,根性がいるルートと小屋のお兄さん。地図を見る限り,抜戸岳あたりから新穂高温泉の方へと一気に下る笠新道のルートの方が急登で苦労すると思ってこのルートを選択していたのだが,意外にも笠新道の方がよっぽど整備されていて歩きやすいらしい。橋本くんは下りが苦手。CLも敢えて苦労したいわけでもない。突如として笠新道で下山する選択肢が浮上した。しかし,笠新道をとるなら笠ヶ岳のピークは下山時に踏まないことになる。でも,山頂を踏まないわけにはいかない。ではいつ登るか?疲れきっているけれど,今しかない。どちらのルートをとるかは後でじっくりメンバーで話し合うことにして,とにかく山頂には行くことにする。笠ヶ岳山荘から笠ヶ岳山頂までは,ガレ場の道を往復20分。サブザックでも,身体に非常に堪える。祠を見て少し歩けば,本山行3座目の百名山,笠ヶ岳に登頂。山頂はまあまあ広く,しばし休憩。槍穂の稜線は霧がちで,「展望抜群」とまではいかなかったが,周囲にこれほど高い山はなく,大展望であることに間違いはない。今日もよく歩いたなあ。本当によく歩いた。しばし山頂でのんびりして,山荘へ下る。そして山荘の中のテーブルに陣取り,お疲れさまのビール1本。身体に,沁みる。一同余りそうな行動食を持ち寄り,プチ宴会の様相だ。ピーナッツ美味しい。4人で楽しくおしゃべりし,翌日のルートを侃々諤々議論していると,同じテーブルにおじさんお二人が座る。関西の方の会社の同僚らしい。年が離れていても,山に一緒に登る同僚がいる会社。居心地がよさそうだ。帰りのルートの話になり,奇しくもお二人もクリヤ谷ルートをとる予定だとのこと。先ほどの山荘のお兄さんの情報を伝えると,お二人も驚いていた。男性曰く,「笠ヶ岳に登ったのが悪い」,おっしゃる通りだ。楽しくお話ししていると,いつの間にか16時半。そろそろご飯を作らなければいけない。お礼を言って,テント場へ下っていくことにする。結局ルートは,雨が降ったり,雨が降りそうだったら笠新道ルート,そうでなかったら予定通りクリヤ谷ルートを取ることとする。念のため在京にも連絡。水場担当と炊飯担当に別れ,ご飯を作り出す。最後の晩餐は,山本さんによる麻婆春雨。麻婆はご飯に合うからよい。そして野菜たっぷり雑炊。ご飯に振りかけ,お湯を入れれば完成だ。野菜たっぷりで健康的な気分になる。どちらもとっても美味しい。ごちそうさまでした。しかし問題は,5合炊いてしまったこと!山荘で飲み食いしたばかりだったから,一同お腹いっぱい。何とか食べ切った。そしてデザートに,平岩さんによるチーズケーキプリンorマンゴープリン!素敵なデザートだ。甘いものは別腹。美味しく頂きました。ゆっくり片づけをして,しばらくぼけーっとして,槍穂の稜線にあたる夕陽も消えかかる頃,眠ることにした。昨日の反省を生かし,これでもかというくらいフライをピンと張る。テント場が平らで眠りやすい。翌日の下りはさぞ辛かろうという憂いには目を瞑って,最後の夜を越すことにした。
□4日目(8/5)
・出発前
 この日も2:30起床。眠い。CLの「今日は下りだけだし,あと30分…」の呟きに返事はない。情け容赦ない(冷静で合理的な)メンバーの耳には入らないのだろうか,心に響かないのだろうか!黙殺した他の3人はてきぱきシュラフを畳みだす。諦めて起きることにした。単独行には向いてないようだ。外は霧,いつの間にか下弦の月に,その月光は霧の空を仄かに明るくする。朝食は塩ラーメン。ぱっぱと作って,1時間ほどで撤収にうつれた。本体は結露で濡れていない。執念の勝利だ。霧はあるが,雨は降りそうにない。クリヤ谷コースを取ることにした。パッキングに時間がかかるCL・靴擦れ対策中の橋本くんを残して,山本さんと平岩さんは先に小屋の方へ向かっておいて,準備をすることに。我々も準備を終わらせて小屋へ向かい,起床から90分で準備完了。初日より随分行動が早くなった。
・笠ヶ岳~第1水場
 ヘッドランプをつけて,笠ヶ岳へ。初っ端の登りはやっぱり辛い。それでも,1日目よりずいぶん軽い。まるで空身で登っているようだ。この日は,荷物を重いと感じることが全くなかった。感覚の狂いは恐ろしい。ゆっくり,15分ほど登れば笠ヶ岳山頂。大体が霧で覆われている。下るべきコースの先には,1つのヘッドランプの灯り。単独行の方がもう下り始めているようだ。覚悟を決めて,垂直距離1900mの下りへ挑むことにした。最初はガレ場の道を下る。浮き石が多く歩きにくい。しばらく歩くと,道はゴツゴツとした大きな岩の多い道へと変わる。橋本くんはこのような下りの道が苦手なようで,しばしば先頭のCLらと間が空いてしまう。少しペースが速すぎたようだ。1度目の休憩の頃には,すでに疲れの色が表れている。コースタイムより大分早く(下りでコースタイムより巻くのはいつものことだが)雷鳥岩。風が強くここでは休まない。何が雷鳥なのかよくわからない。ライチョウもいない。後ろを振り返れば笠ヶ岳。ある程度は下ったが,まだまだだ。空気の湿度が高く,靄に朝日の光があたって幻想的な雰囲気。進行方向には乗鞍岳も見えてきた。本当に,よく歩いたものだ。数度休憩・小休止をしながら歩きにくい岩がちの道をひたすら下る。いつの間にか,先を行く登山者は見えなくなる。ハイマツやササなどに,道がほぼ埋まっている箇所も多い。確かによく整備されている道とは言い難い。ただし,ルートを間違るようなところもない。朝露に濡れる植物たちの間を通ってきたから,大分ズボンが濡れてしまった。スパッツを持ってくればよかった。これは大失敗。平岩さんはいつの間にかスパッツを着けている。さすがである。しばらくすると,1つ目の水場(というよりは小さな沢)に到着した。沢の水が冷たくて気持ちよい。
・第1水場~中尾高原口
 この水場以降は,樹林帯の,普通の登山道になる。ただし,ところどころ倒木などがあり,また草木が繁茂しているところもあるので,歩きやすいとは言えない。ここ数日雨が降っていないためか,不快な泥濘はなかったように思うが,雨がちの日にはかなり歩きにくい道になりそう。橋本くんと間が空きがちになっていたこれまでとは一転,すぐ後ろをついてきている。僕がペースを落としてあげたのではなく,ただ疲れて遅くなっただけです。体力がないのです。途中,身軽そうな若い男性とすれ違う。これがこの日最初で最後の登山客との出会いとなった。マイナールートであるというのは本当らしい。2つ目の水場で大休止。将来の話など雑談する余裕が出てきたようだ。まだまだ長いが,歩き慣れた樹林帯で安心感が出てきたのだろう。第2水場からしばらく歩いたころであっただろうか,右(西方向),に分かれる,沢の方向に一旦下るような分岐が突如現れる。エアリア・2万5000分の1地形図には記載がないが,どうやら錫杖岳への登山道のようだ。道なりに(まっすぐ)進めばよいので,惑わされないように。道は沢沿いになり,沢の音が聞こえる中,ひたすら下る。足もかなり疲れだす。穴滝とやらは,音は聞こえるが滝自体は登山道からは見えなかった。背後には錫杖岳の巨大な岩壁。クライミングで有名らしい。すごい迫力だ。つらいつらい言っていると,下界の建物は近くなり,車の音も聞こえてくる。数日ぶりの文明社会だ。10時を過ぎたころ,登山ポストが設置してある登山口に到着,車道に出る。一同,達成感と満足感,解放感で満たされた。数分歩くと,中尾高原口のバス停に到着した。大分コースタイムより巻いたため,思っていたのよりも1本早いバスに乗れることとなった。1900m,随分と下ったものだ。橋本くんには,この下りを経験すればこれから大抵の下りは大丈夫!と言ってしまっていたのだが,思ったよりかは疲れなかった。正直なところ,昨年の朝日の下りの方が何倍もしんどかった。(嘘をついてしまいごめんなさい。)しかしながら,このクリヤ谷ルートは,人があまり通らないマイナールートであることは間違いなく,天気が悪いときは避けるべきである。そういえば,昨夜におしゃべりしたおじさん方は,5時間ほどで下山したらしい。恐るべし。
・下山後
 CLの時刻表の読解力の無さのためにバス停を探すのに少し時間がかかってしまったが,とにかく荷物を置いて,自動販売機を探し求める。バス停のすぐ近くにある神通砂防資料館なる国交省のハコモノ?をしばし見学。内容は興味深い。おじさんに話しかけられ,自動販売機の場所を尋ねると,この資料館にあるとのことだったが,ない。それなら,新穂高温泉の方に少し歩けばあるといわれたが,ない。結局,少し歩いたところにある温泉施設に立ち入り,自動販売機を発見して購入。サイダーは自動販売機を見つけた2人に先を越され売り切れ,オレンジジュースで妥協。うまい。お疲れ様の一杯だ。ほぼ定刻にバスはやってくる。普通の観光バスタイプのバスで,高山行き。荷物は下に預け,身軽な恰好で乗車。文明は素晴らしい。30分ほど乗れば,平湯温泉バスターミナル。この裏にあるひらゆの森なる温泉施設で数日ぶりの入浴だ。この温泉はこれまで何度か行ったことがあるのだが,広々とした露天風呂がいくつもある。そして,硫黄の香りが漂い,湯の花が浮かんでいる雰囲気の良さ。休憩室など一般的な設備も完備し,これで500円。CLの経験上では,この温泉が日帰り入浴施設の中で最もコスパが良い。下山後平湯温泉を経由する計画の山行の場合は,ここに立ち寄ることを勧める。このために平湯温泉を経由するルートにしてもいいくらいだ(実際,今回はそのために平湯温泉からのバスをとった)。平湯温泉に着いたのが昼頃,予約してあるバスは18時発。メンバーはそこまでお腹がすいていないとのことだったので,時間の余裕もあるから,CLは入浴時間2時間を高らかに宣言。こういう時は,CLは独裁者になれてよい。下山してから何回か在京に電話をかけたが通じず,ラインで下山をとりあえず報告。この時,下山口を「中尾高原口」ではなく,「中房温泉口」と報告してしまう。中房温泉,それは表銀座の始点でございます。心はもう,表銀座へと飛んで行ってしまっていたらしい(今年行けないけど!)。数日歩き続けた後の温泉は,本当に至福の時だ。歩いたから温泉に入るのか,温泉に入るために歩くのか。後者かな。真昼間から,温めの露天風呂で足を伸ばしてボケーっとする。幸せ幸せ。男性陣は,しばし思い出話に耽る。橋本くんの日焼けが痛そうだった。一日日焼け止めを塗り忘れただけなのに,かなりの日焼けである。休憩の度に塗りたくっていたおかげで,CLと山本さんの日焼けはあまりない。一度痛い目に遭うと,人間は学習するのである。2時間も矢の如し,例によって牛乳を飲んで4人集合し温泉施設内のレストランへ。実はこのレストランが曲者である。廊下には列ができ,かなりの人が待っている。しかし,レストランの中は空席だらけ。つまるところ,人が足りてないのである。辛抱強く待って,ガラガラの店内に案内されると,久々の豪華な食事だ。橋本くんと平岩さんは飛騨牛入り朴葉焼き(美味しそう!!),CLと山本さんは蕎麦。おまけにビールも。温泉,ビール,蕎麦…なんて最高なんでしょう!お酒を我慢した山本さんは,鮎の塩焼きまで食べていた。ゆっくり食事を楽しんでも,まだ時間が2時間ほど余っている。他の3人は休憩室でゆっくりするとのことだったので,CLは2回目の入浴。何度入っても飽きない温泉だ。また再訪したい。ぽかぽかになり,身体に硫黄のにおいをまとったら,バスターミナルに向かいバスを待つ。ふと道路から正面を眺めれば,遠く高くに笠ヶ岳が見える。本当に,よく歩いた。バスターミナルの営業時間は終わりが早く,そして外の足湯は熱すぎるので注意。18時,定刻にバスは到着し,少しばらけて席に座る。さあて,ふた眠りくらいすれば東京につくだろう,と思っていたら,「現在,大月から30kmの渋滞が発生しております…」のアナウンス。そう簡単に東京に戻れやしない。しかも,上高地から松本へ抜ける国道158号で事故もあり,かなりバスが遅れることになった。スマホと本と居眠りで時間をひたすらつぶす。高速に乗った後,諏訪を越えたあたりで大雨と雷にも遭う。山で遭わなくて本当によかった。そういえば,白馬の鈍行で帰宅した方たちも,途中の人身事故で大分新宿への到着が遅れたらしい。電車にしろバスにしろ,甘くはない。途中のSAで買い物を少しは楽しみつつ,1時間ほど遅れて日付が変わる30分ほど前,ようやくバスタ新宿へ到着。解散となった。

■総括
・山行を通して,一回も雨に降られなかった(少なくとも,CLの記憶の限りでは)!憧れの裏銀座,昨年のリベンジができ,とても幸せな時間だった。
・結構な距離を縦走した。遥か南に見えていた山が,いつの間にか足元に,そして気づけば遥か北に。歩けば少しずつだが景色が変わっていく。晴天のお陰もあり,縦走の醍醐味を存分に味わえた。
・終始,メンバーの皆さまにはお世話になりました。頼りないCLでしたが,無事行程通り歩ききることができました。心より感謝申し上げます。
・在京の川瀬さんには,山中でも大変お世話になった。感謝申し上げます。とんだ面倒くさい仕事を昨年の計画の縁で押し付けてしまいました。

■反省
・疲れていると天気図を書く気にはなれない。思っていたより電波は入ったので,天気図作成の必要はあまりないかもしれない。
・休憩時間はなあなあにせずに決めておく。
・兎にも角にも,CLの体力がない。今回は他のメンバーが元気でいてくださったお陰で特に大変なことにはならなかったが,もう少し体力をつける必要があろう。CLが行く予定だった6,7月の泊り山行が2回とも中止になってしまったのが痛かった。荷物の重さにも慣れなければだ。
・最終日の下りのペースが速すぎる部分があった。自分が歩きやすいペースで歩くのも必要だが,後ろと間が空きすぎるのもよくない。

■雑感
・雷鳥に入ってからはじめて,ようやくライチョウに会えた。晴天の水晶岳山頂で彼らにお会いできるとは,随分な幸運であったろう。
・手ぬぐいコレクションがまた増えた。今回のでは野口五郎小屋のそれがお気に入り。野口五郎岳とライチョウとお花。
・遠くからも目立つ笠ヶ岳。でも,下りは本当にしんどい。再訪することは,当分ないかな。もちろんいい山ではあるので,一度行ってみる価値があることは確か。
・正直,行程通り行くとは思っていなかった。標準的な計画なら,水晶小屋で泊まって,双六小屋,笠ヶ岳山荘泊(4泊5日)だろう。テント泊に拘ったため少し無理をしたが,水晶小屋で泊まったほうがよっぽど楽である。(そもそも,裏銀座と笠ヶ岳をくっつけるのは変態的かもしれないが…)
・やっぱり成分調整牛乳より牛乳の方がおいしい。
・夏山は素晴らしい。登っているときは二度と行くかと思うのに,終わってみたらまた登りたくなる。不思議なものです。