2018/9/17-21 白馬岳・朝日岳・栂海新道
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
白馬岳・朝日岳・栂海新道縦走計画書 ver1.1
作成者: 山本
■日程 9/17(月)-9/20(木) 山中3泊4日・予備日1日
■山域 北アルプス
■在京本部設置要請日時 9/21(金) 20:00
■捜索要請日時 9/22(土) 9:00
■メンバー (計2人)
CL 山本 SL舩津
■集合
新宿駅10:35発高尾行 先頭車両
(高尾駅11:29発小淵沢行 先頭車両)
前日に電車で白馬駅まで入り、白馬駅で駅寝の予定
※学割を使用する。
■交通
□行き
○アルピコ交通バス 白馬駅6:35—猿倉7:02 1000円
※9月の平日は運転しないので、タクシーを利用する(4000円弱)。
□帰り
○親不知—(えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン・240円)—糸魚川
親不知~/11:12/12:16/13:05/14:09/15:14/16:51~23:08(終)—(日本海ひすいライン)—糸魚川駅~11:23/12:28/13:22/14:20/15:26/17:02~23:50(終)
○直江津駅、高田駅などより当日夜行バスor宿泊して翌日帰宅
■行程
□1日目
猿倉-(1:00)-白馬尻小屋-(2:30)-岩室跡-(2:00)-白馬岳頂上宿舎
[計5:30]
※幕営後に白馬岳ピストン(往復1:00)
※テント場から杓子岳まで往復2:10、鑓ケ岳まで往復3:50
※白馬尻小屋、白馬岳頂上宿舎に水場あり
□2日目
白馬岳頂上宿舎-(0:20)-白馬山荘-(0:15)-白馬岳-(0:30)-三国境-(0:30)-鉱山道分岐-(1:00)-雪倉岳避難小屋-(0:50)-雪倉岳-(2:00)-水平道分岐-(1:45)-朝日小屋
[計7:10]
※余裕があれば、幕営後に朝日岳ピストン(往復1:40)
※雪倉岳~水平道分岐(2箇所)、朝日小屋に水場あり
□3日目
朝日小屋-(1:00)-朝日岳-(0:50)-吹上のコル-(3:30)-黒岩山-(1:40)-サワガニ山-(2:00)-犬ケ岳-(0:10)-栂海山荘-(1:30)-菊石山-(2:30)-白鳥小屋
[計13:10]
※日の出前に早めの出発を心がける
※13時までに栂海山荘に到着できなかった場合、メンバーの体力に不安がある場合、栂海山荘に宿泊(計9:10)
※朝日岳付近、吹上のコル~黒岩山、サワガニ山~犬ケ岳(往復10分)、犬ケ岳~白鳥小屋(涸れることあり)、白鳥小屋(夏場は涸れる)に水場あり
□4日目
白鳥小屋-1:30-シキ割水場-0:30-坂田峠-0:30-尻高山-1:00-二本松峠-1:40-栂海新道登山口-1:00-親不知駅
[計6:10]
※親不知駅までの国道8号線の歩行に注意
※シキ割水場に水場あり(水細い)
■エスケープルート
白馬岳まで 猿倉へ引き返す ※事前に雪渓の最新状況を確認
雪倉岳まで 栂池へ下山
朝日岳まで 北又へ下山
栂海山荘まで 中俣新道で下山
栂海山荘から そのまま進む
■小屋
□ルート上の小屋
・白馬尻小屋 0261-72-2002
○白馬岳頂上宿舎 0261-72-3788
・白馬山荘 0261-72-2002
・雪倉岳避難小屋 0765-22-1972(朝日小屋) ※緊急避難時のみ利用のこと
○朝日小屋 080-2962-4639 テント1000円/人 素泊まり7000円 ※無料Wi−Fiあり
○栂海山荘 025-545-2885 テント10張、素泊まり1000円 ※要事前連絡
○白鳥小屋 025-545-2885
□周辺の小屋
・白馬大池山荘 0261-72-2002
・栂池山荘 0261-83-3113
・白馬岳蓮華温泉ロッジ 090-2524-7237 025-552-1063
・中俣小屋 025-552-1511 (糸魚川市役所総務部総務課)
■地図
山と高原地図35「白馬岳」
2.5万分の1 「白馬村」、「白馬岳」、「黒薙温泉」、「小川温泉」、「親不知」
■共同装備
テント(ゴアライト)
鍋(梅・小梅)
調理器具(ディド)
ヘッド*2(緑1、山本私物)
カート*2
軽アイゼン
救急箱(私物)
■遭難対策費
600円/人 計1200円
■悪天時
現地入り後に判断
■備考
日出(9/20 糸魚川) 05:34
日没(9/20 糸魚川) 17:49
長野県警大町警察署 0261-22-0110(白馬岳まで)
長野県警察本部 026-233-0110
糸魚川警察署 025-552-1511(白馬岳以降)
NHKラジオ第一 1026kHz(白馬)/819kHz(長野)/648kHz(富山)
NHKラジオ第二 1467kHz(長野)/1035kHz(富山)
アルピコ交通白馬営業所 0261-72-3155
アルピコタクシー 0261-23-2323
docomo 携帯電話がご利用いただける登山道
(https://www.nttdocomo.co.jp/support/area/mountains/)
白馬大雪渓の最新状況
(https://www.yamakei-online.com/mt_info/past.php?id=1038)
■過去記録
ヤマレコ(2017年8月17日~20日)
(https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-1231467.html)
白馬岳・朝日岳・栂海新道縦走山行記録
■作成: 山本
■日程: 2018/9/17(月)-2018/9/21(金)
■山域: 北アルプス
■天候:
1日目: 曇り 2日目: 晴れのち曇り 3日目: 晴れのち曇り 4日目: 曇り時々小雨 5日目: 曇り
■メンバー
CL山本、SL舩津
■行動記録
□1日目
15:10 猿倉
16:05 白馬尻小屋
□2日目
6:10 白馬尻小屋
7:05-7:20 休憩
8:00-8:10 休憩
8:50-9:00 休憩
9:35-10:00 緊急避難小屋
11:05-12:10 白馬岳頂上宿舎
12:35-12:50 白馬岳
(以下山本のみ)
12:55-13:15 白馬山荘
13:55-14:05 杓子岳
14:40-14:50 白馬鑓ヶ岳
15:25 最低鞍部
15:50 白馬岳頂上宿舎
□3日目
6:40 白馬岳頂上宿舎
7:10-7:30 白馬岳
8:05 三国境
8:35 鉱山道分岐
9:15-9:35 雪倉岳避難小屋
10:15-10:45 雪倉岳
11:35-11:45 休憩
12:45-12:55 水平道分岐
13:40-13:45 休憩
14:15-14:25 朝日岳
15:00 朝日小屋
□4日目
4:40 朝日小屋
5:25 朝日岳
5:55-6:00 吹上のコル
6:55-7:10 休憩
8:00-8:10 黒岩平
8:40-8:50 黒岩山
9:50-10:00 サワガニ山
10:30-10:45 北俣ノ水場
11:25 犬ケ岳
11:35-12:00 栂海山荘
12:40-12:50 黄連山
13:25-13:35 菊石山
14:20-14:30 下駒ケ岳
15:15-15:25 休憩
16:00 白鳥小屋
□5日目
6:45 白鳥小屋
7:30-7:40 シキ割水場
8:25-8:30 坂田峠
9:00 尻高山
9:40-9:50 二本松峠
11:00-11:30 栂海新道登山口
11:40 日本海
■記録
□0日目
白馬への旅路は遠い。普通電車(もう18きっぷはシーズン外だ…)で白馬駅まで向かうつもりだったが、寝坊した舩津は特急で松本まで追いかけることになった。山本は松本城で時間をつぶすことにした。松本駅で合流したが、明日の白馬の天気が良くない。天気予報とにらめっこした結果、0日目の白馬駅寝はやめて明後日から登り始めることにした。今日白馬に行かないとなると大糸線沿線で観光したいということになり、舩津のご要望により木崎湖でキャンプすることにした。木崎湖はアニメ『おねがい☆』シリーズの聖地らしく、熱心な信者が今でも巡礼に訪れている。
信濃木崎駅で下車し、総合温泉施設ゆーぷる木崎湖で夕食を食べた。鶏もつ煮、黒部湖カレーともに満足。木崎湖キャンプ場は駅や温泉施設から歩ける位置にあり、少し遅れたものの20時前後に無事チェックインできた。キャンプ場の客層は家族連れと聖地巡礼者ではっきり二分されていた。舩津曰はく、アニメに出てきたアツいキャンプ場らしい。真っ暗な湖の桟橋に腰かけて対岸の大糸線の電車を眺める静かな時間が心地よかった。夏だ。
□1日目
・~猿倉
木崎湖の朝は清々しい。ゆーぷるが7時から開いているので朝風呂に行った。聖地の公園が道中にあり、恥ずかしげもなく遊具で写真を撮った。木崎湖東岸は遊歩道が整備されており、せっかくなので海ノ口駅まで歩くことにした。途中の超ローカルな稲尾駅、黄色く色付いた水田と湖のコントラスト、聖地の縁川商店(ヤマザキショップ)のどれも印象深い。
海ノ口から大糸線に乗車し、白馬には昼前に着いた。これまた舩津のリクエストで1km離れたジャスコ(聖地?)まで歩き、昼食と山行中の食料を購入した。幹線道路の看板には「日本海42km」の表示があり、今後の行程に向けて期待と不安が入り混じる。白馬駅の足湯に浸かって英気を養い、14時30分発猿倉行きのバスに乗車した。明日はオフシーズンの平日でバスがないため、駅寝した後にタクシーに乗るよりは白馬尻でテント泊する方がいいということで、今日中に猿倉から白馬尻まで入ることにした。
・猿倉~白馬尻小屋
猿倉に到着した時点では小雨が降っていた。1日順延させてよかった。村営の猿倉荘で登山届を提出して出発。途中で白馬鑓温泉への分岐がある。白馬尻まで特筆すべきことはない。白馬尻の直前まで車が入れる未舗装道が続いていて、誰かが駐車した軽トラを見つけて萎えた。大雪渓が目に入るとすぐに白馬尻で、「ようこそ大雪渓へ」とペイントされた大岩が出迎えてくれる。
対岸のテント場は少し遠いかと思っていたが、他にテント泊の登山者がいないので小屋の目の前にテントを張らせてもらった。夕食はレトルトの雑炊と焼き豚を食べた。雑炊が少なくて不満。白馬尻小屋は水場もトイレも好印象。小屋の中も山岳雑誌が揃っていて暇つぶしができる。積雪期の雪崩がすさまじい場所に位置する小屋で、5月に小屋を組み立て10月に解体するそうだ。ここまでする白馬村の執念を感じた。なお、白馬尻は電波がかなり入る。朝日小屋の夕食の予約を忘れていたので、ここで電話予約を完了した。
□2日目
・白馬尻小屋~白馬岳頂上宿舎
朝食は各自。この朝食も含めて1日順延にした分の行動食を買い足しておらず、今後の食料計画に不安が生じた。
白馬尻から大雪渓まで10分ほどだが、9月中旬の大雪渓はかなり崩壊が進んでいて取り付くどころではない。秋道は赤印やロープに従って左側を巻いていく。獲得標高のわりに楽な登りで、大雪渓の直登よりは楽だろう。朝食が足りていなかった舩津にとってはつらい登りになったようだ。白馬尻から2時間弱歩いたところで秋道が途切れ、ようやく雪渓歩きになる。雪渓はそれほど傾斜もなく、踏み跡もしっかりしていたので、他の登山者と相談して軽アイゼンを使わずに登ることにした。ルートも赤ペンキではっきりと示されていて親切。秋の大雪渓歩きは300mほどしかなかったが、涼しさや白馬らしい景色など見どころは押さえられた。雪渓歩きが終わると本格的な登りになる。大雪渓上部は崩壊が進み、クレバスも見られた。このあたりからガスが上昇してきて、雲と抜きつ抜かれつ登っていった。エアリアのポイントになっている岩室跡は資材が残っているだけで建物はない。岩室跡から先の小雪渓はかなり崩壊が進んでおり、融雪水が滝になっていた。槍ヶ岳にも劣らずかっこいい杓子岳の山容を楽しんでいると避難小屋に着いていた。中は狭く二人寝られるくらいで、トイレもないが、融雪水がいい感じに水場になっていた。ここは4Gがばっちり入る。避難小屋から上はこれぞ白馬と思える景観で、草紅葉が始まっていた。横を流れる沢も秋らしく色付いた源頭まで詰められて気持ちよさそうである。頂上宿舎は建物が見えてからが意外に長い。高山の泊りが2年ぶりの舩津は軽く高山病気味で頭痛があり、登りの疲れも相まって相当しんどそうだった。ちょうど疲れたタイミングで宿舎直下のハイマツ帯にライチョウの群れがいて癒された。ふわふわした見た目もいいが、柔らかい鳴き声がいい。足元は白くなっており、早くも冬の訪れを感じた。
頂上宿舎はテント場のトイレこそ少し臭うものの、おおむね快適だった。それほど殿様商売ではない。テント場は広いが、ハイシーズンは混雑を極めるであろうから、雪渓は早く登ってしまうのが賢明だろう。
・白馬岳頂上宿舎~白馬岳~白馬山荘
先に白馬岳に登り、下りに白馬山荘で売店を覗き、時間と体力を見て白馬三山縦走に向かうことにする。白馬岳までは遠くはないが近くもない。まだ高地に順応しきれていない舩津は呼吸がつらそうだった。昼の白馬岳は晴れていて、立山連峰(特に剱岳)が間近に見えてとてもよい。杓子、白馬鑓もばっちり見えてモチベが上がる。やっぱり真夏の緑より秋の草紅葉の方が好きだ。山頂の展望を堪能した後は白馬山荘を物色する。売店のあるスカイラウンジはとんでもなく綺麗な人工物だ。ここまで綺麗にされるともはや萎えたりはしない。雷鳥が描かれた白馬山荘Tシャツを買うか迷いに迷ったが、電話で朝日小屋もTシャツを販売しているとの情報を得たので、朝日小屋のTシャツを優先して白馬山荘は我慢した。きっと白馬岳はまた来るだろう。
(以下山本のみ)
・白馬山荘~杓子岳
当初杓子岳までは二人で行くつもりだったが、疲れた舩津はお休みすることにした。頂上宿舎で牛丼を食べて、丸山まで散歩したとのこと。
筆者は元気だったので、16時までにテントに戻れるように杓子・白馬鑓へ向かった。白馬三山の稜線は言葉にならないほど素晴らしい(詳細は写真に譲る)。杓子岳のでかい山体、好き。稜線から望む白馬岳は山頂のとんがり具合がキナバル山に似ている気がする。杓子岳の直下まではアップダウンも楽だが、杓子岳山頂への急登はけっこうきつい。杓子岳の山頂で完全にガスってしまい、白馬も鑓も隠れてしまった。杓子から鑓まではトラバース路よりも稜線ルートの方が絶対に楽しい。杓子岳の稜線は信州側が垂直に切れ落ちており、いいスリルだ。
・杓子岳~白馬鑓ヶ岳
雷鳥の8月の白馬岳山行では鑓までの遠さやアップダウンに萎えて杓子で引き返したそうだが、白馬鑓は見た目ほど遠くない。アップダウンも杓子岳山頂までの登りに比べたら大したことはなく、快適に歩ける。白馬鑓は「鑓」っぽさは感じないが、白さがいい。槍ヶ岳よりも先に鑓ヶ岳に登ってしまったのは山の人としてどうなのだろうか。ガスで後立山連峰のキレットが全く見えなかったのが心残りだが(そして風もあってかなり寒い)、三山ともピークを踏めた充実感に満たされた。来年の夏は白馬鑓温泉と絡めて後立山連峰の岩場の縦走に行きたい。
・白馬鑓ヶ岳~白馬岳頂上宿舎
ガスで山が隠れてしまったので、少し急ぎめで帰路につく。杓子岳の山腹に付けられた登山道が美しい。杓子岳を過ぎるとガスも晴れてきて、丸山周辺で白馬岳の写真撮影が捗った。白馬岳はキナバルにも見えるが、鳥の嘴にも見える。
テント場に戻るとテントは20張ほどに増えていた。この日の最低気温は4℃で、風もあってかなり寒い(それでも2年前の凍えるような鳳凰三山よりはまし)。夕食は米と麻婆茄子。鍋で茄子を調理する場合は、フライパンよりも時間がかかる。この日は19時に就寝。雨具以外の防寒具を忘れた筆者は、舩津からフリースを借りて温かく寝られた。
□3日目
・白馬岳頂上宿舎~白馬岳
4時30分に起床。朝は舩津のパスタ。ソースを一袋ずつ贅沢にかけた。寒いのと急ぐ必要がないことから撤収が遅れた。これが朝日小屋への到着の遅れに響くのだ。
やはり舩津は白馬岳までの高所での登りがつらそう。それも今日で最後だ。白馬岳の山頂は晴れ渡っていて最高のコンディション。山麓は雲海に包まれている。北は能登半島から富山湾、南は南アルプスから富士山まであらゆるものが見えた。山頂の眺望の素晴らしさの描写は写真にお任せしたい。日本海はかなり近いが、我々の目指している親不知はまだまだ見えない。山頂では若い外国人男性と日本人のおばちゃんという謎のペアがいて、栂池スキー場とコルチナスキー場の同定をがんばっていた。
・白馬岳~雪倉岳
三国境までは北アルプスらしい快適な縦走路が続く。次第に柔らかい山体が目立ち始め、北海道っぽいなと感じた。特に雪倉岳は旭岳のようだ。三国境の直前で雷鳥の群れを発見し、逆光の中で写真撮影に興じる。雷鳥は至近距離でも本当に逃げない…。
三国境から雪倉岳までは少々アップダウンがあるが、始まりつつある紅葉や長池を見ていると本当に気持ちいい。途中の鉱山道分岐では北東に雨飾山の展望がいい。雨飾山は昨年行った妙高・火打の地図でよく見た山だが、南小谷駅からアプローチする山だし意外にも白馬エリアから近い。鉱山道分岐を過ぎた後の鉢ヶ岳はごつい山でこれを登るのか…と気落ちするが、登山道は山腹をトラバースするように付いているので安心。この辺りは夏と秋を両方楽しめてよい。避難小屋で少し長めに休憩することにして、避難小屋の中を見学した。トイレは清潔に管理されている。日記を見ると、避難小屋の管理を担当している朝日小屋の従業員が定期的に巡回に来ているようだ。ここは緊急時のみ利用の避難小屋だが、避難小屋利用を前提とした無謀な登山者が後を絶たないという怒りが記されていた。
避難小屋から雪倉岳までは長い登りが続く。雪倉岳は登りも長いが、山頂が見えてからが水平で遠い。山頂は快晴ですこぶる気持ちいい。北には朝日岳、南には白馬岳が見えて、今回の山行のハイライトと言ってもいい景色だ。特に雪倉岳から望む白馬岳(後ろにちらっと剱岳も)は言葉にできない美しさがある。黒部川もその全貌がつかめる。赤木沢で見た黒部川とは別物だ。そして、ついに北アルプスの北端の一部に足を踏み入れたのだなと思うと感慨深い。それにしても朝日岳はのっぺりとしている。アップダウンがかなりあって萎えるが、今日の目的地の赤い朝日小屋もばっちり見える。北アルプスというと日本アルピニズム発祥の地であるが、雪倉岳や朝日岳まで来るとむしろ山歩きの趣が強い気がした。ところで、雪倉岳の山頂は電波がばっちり入った。そのせいで割と急用の業務メールを確認してしまい、好展望の2600mの山頂で業務メールに返信するという現代人丸出しの恥ずべき行動をとる羽目になった。
・雪倉岳~水平道分岐
雪倉岳からかなり下る。北海道っぽい女性的な景観が続く。紅葉はまだだったが、紅葉の時期に歩くと最高だろう。途中休憩した場所では雨飾、妙高火打が見えて、北アルプスどころではなく北に来たのだなあとしみじみ感じた。燕岩はかなりの迫力の岩場である。とても登れたものではない。岩場を過ぎると湿原の手前に水場の沢がある。舩津はここで髪を洗っていた。水平道分岐の直前の林までは湿原が続き、木道もついていて歩きやすい。池塘も多く、湿原歩きに似たものを楽しめる。それにしても、白馬岳から北上するにあたって景観の変化が豊かでよい。朝日岳は今日の朝からずっと見えていたが、取り付きの水平道分岐までは意外と遠い。そして暑い。
・水平道分岐~朝日小屋
最初の計画では水平道を歩くつもりだったが、とても水平と呼べるような道ではないので山頂経由のコースを歩くことにした。水平道はエアリアにも「大きくアップダウンを繰り返す」との記述がある。また、コースタイムの長い明日は日の出前に出発する予定で、朝日小屋~朝日岳のコース状況を事前に偵察しておきたかったということもある。実際、朝日小屋からのルートはとても安全であることが確認できて、翌日は安心して歩くことができた。
さて、朝日岳への登りはつらい。エアリア「樹林帯の急登降」は言い過ぎとしても、まあまあしんどいことは間違いない。舩津はかなり疲れていたが、何とか登ってくれた。なお、朝日岳までのコースタイムは甘い。ところで、朝日岳(というよりも白馬大池・蓮華温泉方面に下りる登山者が多い三国境以降)は人の少ない静かな山域であるが、朝日岳の登りではおじさんと一緒になった。蓮華温泉から白馬に登り、朝日岳から五輪尾根経由でまた蓮華温泉に下りるらしい。白馬鑓温泉もいいが、蓮華温泉の露天風呂(黄金湯)もまた行ってみたい。色々なコースを楽しめるのが白馬の魅力だと思う。
朝日岳の山頂は想像していた通りで広い。そして14時を過ぎていたのでガスで何も見えない。明日の朝もう一度来るので、展望はその時に期待。それにしても北アルプスの北端に来たのだ。朝日小屋までの下りは木道がついている箇所が多く、快適に歩ける。コース上の沢では小屋の水場用に取水するホースが付けてあった。かなり小屋から離れた場所で、小屋の水確保の大変さを改めて思い知った。水平道と合流する水谷コルの前後は朝日小屋の撮影スポットである。残念ながら今回はガスで撮影が捗らなかった。
・朝日小屋
小屋でテントと食事の受付を行い、夕食は16時45分からという説明を受けた。夕食は事前情報では2200円だったが、つい最近値上げしたのか2500円だった。ついでに明日の行動食として笹の葉寿司を注文した。マスと胡桃の2種類で、一つ250円である。前述の買い忘れのせいで行動食の余裕が少なく、ここでおいしい行動食を買えるのは助かる。受付は名物オーナーの清水ゆかりさんで、とてもおしゃべりで親身な方である。小屋も女性らしいおもてなしの趣向にあふれ、受付には自由に取っていい金平糖が置かれている。その清水さんから、若い学生なのでもっと早く来るかと思っていたと一言。15時到着は、白馬で寒い朝ゆっくりしていたことと、雪倉岳でのネット利用を含め総じてのんびりしていたことが原因だろう。今日はコースタイムよりも時間がかかっても大丈夫だが、明日白鳥小屋まで進むのならば不安がなくもない。
受付を済ませて、テントを張る。平坦で広い快適なテント場である。昨日の白馬よりは断然暖かく、筆者は水場で髪を洗った。夕食まで時間があるので小屋で土産を買うことにする。品ぞろえ豊富で、Tシャツ等の定番から栂海新道の模型といった珍しいものまで何でもある。筆者は朝日小屋Tシャツを楽しみにしていたが(朝日岳はなかなか来られる場所ではない)、栂海新道Tシャツ(背中にプリント)まで売っていてうれしい誤算だった。朝日小屋Tシャツは数量限定ワゴンセールを行っていたこともあり、奮発してそれぞれ一枚ずつ購入してしまった。どちらも掘り出し物で(親不知の温泉で栂海新道のTシャツは初めて見たと言われた)、デザインもいい感じ。白馬山荘でTシャツを我慢した甲斐があった。これから朝日小屋を訪れる方にはぜひ購入をおすすめしたい。舩津も朝日小屋Tシャツを購入していた。散財を終えたところで、小屋の中で夕食を待つ。談話室にはバランスボール・エアロバイク・レッグマジックとまるで下界かのような装備が備え付けられている。また、抹茶・紅茶・ココア・さくら茶の(1杯100円)とハーブティー(1杯200円)のセルフサービスも利用できる。こじんまりとしていて至れり尽くせりの談話室だった。また、受付の近くでは無料Wi-Fiも利用できる。大体Wi-Fiのアンテナが2本立っていたイメージ。2140mの高所なのに何なんだこの快適な小屋。
談話室でゆっくりしていると館内放送で夕食の呼び出しがあった。やはり小屋泊だけではなくテント泊の登山者も結構食べに来ている。最初にオーナーのあいさつと登山道の状況説明、そして乾杯のかけ声があった。何と夕食には食前酒の赤ワインが付くのです。そしてメニューの説明へと続く。本日のメニューはちらし寿司(若いバイトが特別に奮発)・茶そば・長芋サラダ・おでん・鶏肉の甘酢あんかけ・カジキの昆布〆・ホタルイカの沖漬け・お菓子(富山銘菓「栂海新道」)で8品もあった。どの食材も地元富山産を使っているそうだ。さらに、この日はちらし寿司と白米がなくなるまでおかわり自由だった。朝日小屋のヘリ荷揚げはシーズンたった2回なので、天候次第で宿泊者の人数が変動して食料のやりくりが難しいらしい。小屋閉めが近づいてきて食料が余っていたため、幸運なことに米がおかわり自由になったとのこと。二人ともご飯を4杯ずつもりもり食べた。量も味も大満足の夕食。食事の盛り付けも美しいが、それは写真に譲ることにする。ところで、ゲストの食事が終わると従業員(この日は9人)も食堂で夕食を食べる。こちらも余った食材を消費すべく、カツオのたたき・ちゃんこ鍋と質量ともにすごそうだった。酒も飲みきれないほど出ている。まだまだ食べられるなあと思いつつ、名残惜しくテントへ戻った。ガスが晴れた朝日岳の夕焼けを見られて、やっぱり山はいいなあと思った。個人的に今シーズンの北アルプスはここ朝日岳が最後で、明日からは日本海へ突き進むのみだ。
□4日目
・朝日小屋
2時30分に起床。暖かくてよく寝られた夜だった。コースタイム通り13時間かかってしまう可能性も考えると日の出前には出発したい。朝食は舩津のパスタ。昨日あんなにお腹いっぱい食べたのにもうお腹が空いているのはおかしい。比較的暖かいといっても日の出前の高山は寒いもので、テント撤収や水汲みは寒い。笹の葉寿司を受け取る小屋の受付に集合することにして、お互い身支度を進める。寿司を受け取って、軽く身支度をしながら屋内で舩津を待っていると、オーナーの清水さんから呼び出される。何だろうと思って聞いてみると…
「小屋の利用マナーを考えなさい。1000円しか払っていないテント泊の客は、7000円払っている小屋泊の客と違って、小屋の設備を使う資格は一切ない。それに昨日も何でもかんでもカメラでパシャパシャ撮るのは考えてほしい。テント泊はいつであっても自然の厳しさと共に生きないといけないのだから、雨が降ろうが風が吹こうが小屋に甘えてはいけない。かわいそうだなと思うテント泊のお客さんもいるが、あなたたちのことを考えて小屋は使ってもらわないことにしている。若い君たちはこれからも長く山をやるだろうから、これを機会に小屋のマナーについてよく考えなさい。」
外もそれほど寒くない(むしろ暖かい)日にも関わらず小屋で少しでも暖を取ろうとしたのは完全に筆者の確信犯だったので、反省しかない。自分がリーダーの山でマナーについて怒られたのは初めてだったので、かなりショックだった。後日インターネットで調べてみると、ひどい悪天候の日に天気予報の情報提供を拒否された人が小屋の無愛想な対応について愚痴を吐いていた。その人は小屋泊との露骨な待遇の差や、雪倉岳避難小屋のパトロールや取り締まりといった嫌がらせ(朝日岳への登山者の少なさの腹いせ?)を拝金主義だと糾弾していた。筆者はこの人の意見には賛同しかねるが、清水さんが一貫してテント泊に対して厳しい態度をとっているのは事実であるようだ。個人的には清水さんの言い分は筋が通るし、テント泊は自然に謙虚に向き合う必要があると思う。正当な対価を払っていない客に小屋の文明にタダ乗りする資格はない。振り返ると、そういった教えを授けてくれた点でも人情味のある小屋だった。ちなみに、筆者は朝日小屋で合計9000円(=テント1000+Tシャツ5000+夕食2500+寿司500)も散財している。いっぱいお金落としたのになあ。
・朝日小屋~吹上のコル
小屋でお叱りを受けてテンションが下がったが、くよくよしても仕方ないので、日の出前に行動時間を稼ぐべく出発する。歩きやすい道とはいえ、朝日岳までの高低差270mは少しきつい。とはいえ、きつい登りは朝日岳で最後だ(実は栂海新道には目立たないがきついアップダウンが多いのだ…)。朝日岳で晴れの日の出を迎え、ガスまみれだった昨日のリベンジを果たした。しかし山頂は風で寒く、写真だけ撮って先に進むことにした。朝日岳は白馬、雪倉に続く今回の行程で最後の大ピークであるが、北アルプスの最北端らしく静かさや山深さが印象に残っている。
吹上のコルまでは歩きやすい道が続き、コースタイムほど時間はかからない。草紅葉で秋っぽい。雰囲気としてはやはり北海道に似ている気がする。吹上のコルで蓮華温泉への五輪尾根と栂海新道に分岐し、ついに栂海新道へ進むことになる。さわがに山岳会の看板や岩のペイントが栂海新道をアピールしてくる。特に「ツガミ」や「日本海」と赤くペイントされた岩は味がある。
・吹上のコル~黒岩山
栂海新道に入ってしばらくは倒木が多く、整備状況が不安になるが、湿原に入ると木道がかなり整備されている。栂海新道の湿原は何年か前に環境省がかなり力を入れて整備したと朝日小屋で聞いている。火打山の湿原にも劣らない穏やかで美しい湿原だ。木道をしばらく歩くと照陽池に至る。キャンプしたくなる場所だが、高山植物保護のためにキャンプは禁止である。照陽池から眺める雪倉岳、白馬岳もいい。照陽池の少し前から新潟県糸魚川市に入り、舩津にとっては人生初の新潟県となった。一度湿原は途切れるが、少し高度を下げたアヤメ平で再び湿原となる。固定ロープを降りてアヤメ平に入るかという場所で休憩することに。朝小屋で受け取った笹の葉寿司を食す。寿司を包む笹の葉を捨てられるのも便利だ。朝日小屋はこういう細かい気づかいがありがたい。しかし、アヤメ平は明らかに故意のゴミ放置が何ヶ所かあった。栂海新道に人が入っているのは喜ばしいが、わざわざこんな山奥に来る物好きな人ですらゴミ処理がなっていないのは論外である。
アヤメ平は気持ちよく歩ける湿原で、北アルプスにこんな湿原があることは新しい発見だった。湿原の景観、広さともに素晴らしく、個人的には栂海新道で最も景観に優れる場所だった。黒岩平まで降りるとベンチが2箇所あって休憩できる。黒岩平も幕営禁止である。黒岩平周辺から気持ちのいい小川が流れていて、水場にできる。学校近くの自然で遊んでいた小学生のころを思い出すような小川だった。黒岩山まで登るとお花畑や湿原は完全に終了するが、黒岩山から振り返ったアヤメ平は本当に美しい。まさに天上の楽園だろう。なお、吹上のコルから黒岩山までは見どころが多く、歩いていて楽しいのでそれほど疲れない。子の箇所はコースタイムも甘めに設定されているように感じた。
・黒岩山~栂海山荘
黒岩山から中俣新道(栂海新道唯一のエスケープルート)への分岐は笹が多く不明瞭である。黒岩山で初めて登山者と遭遇。栂海山荘から朝日小屋へ向かっているらしい。登りの栂海新道は本当に精神力が試されるだろう。筆者はなかなかできない。黒岩山以降は起伏の多い尾根道で、想像していた通りの栂海新道である。文子ノ池はせっかく看板があるのに、看板がひどく傾いて動かなくなっているのがもったいない。サワガニ山までにヘビ2匹出現。舩津はヘビというよりもむしろひどく驚く様子の筆者にびっくりしていた。サワガニ山の登りは少しつらい。ここまで来ると北ア感はなくなるが、黒岩山と同じく振り返ると朝日岳がよく見える。西の初雪岳も立派な山体で、いつか登山道が付けば登りたいものだ。そして犬ケ岳に小さく栂海山荘が見える。まずはあそこまで到着すれば一安心できる。
サワガニ山の先は新潟県側が切り立った稜線が続き、高度感がある。新潟県側の谷には雪渓が残る箇所もあり、さすが雪国だ。この先はひたすらアップダウンが続く。疲れたところで北俣ノ水場に到着し、今日の後半と明日の水を汲むことにする。山雑誌的には栂海新道の水場は基本的に涸れがちで、北俣が一番おすすめのようだ。3分ほど登山道横の踏み跡(軽い沢下降みたいな)を辿ると水場に下りられる。漏斗のように水を汲みやすく整備されているので、水量が少なくても汲みやすいだろう。今回は水量豊富で助かった。なお、北俣ノ水場はしばしばクマが出没するようなので、熊鈴を持参するべきだろう。水を汲んで休憩したところで、栂海山荘までもう一息である。いきなり犬ケ岳まで急登でつらい。稜線まで上がってしまうと、またもや新潟県側が切り立っていて楽しい。犬ケ岳山頂には栂海新道を拓いた小野健さんの碑がある。偉大な先人に感謝。そして犬ケ岳から望む赤と青の栂海山荘は可愛い。いい撮影スポットだ。少し降りると栂海山荘に到着。
栂海山荘は無人の小屋で、中は2階建てである。マットと寝具が大量に備えられていて、快適に寝られそう。栂海新道の開拓・整備の前線基地である。エアリアへの記載はないが、実は小屋の前にテント場もあって5張ほど張れる(ハイシーズンは小屋が満員でテント泊を強いられる記録が散見される)。最近は雨水の貯水タンクが整備され、水問題も多少緩和されている。貯水タンクを当てにした計画は慎むべきだが、この日蛇口をひねってみると水は十分流れてきた。しかし、そんな快適そうな栂海山荘の最大の問題はトイレである。何もかもが丸見えの空中トイレで、あらゆるものを山の斜面に垂れ流している。一応ブルーシートと「使用中」の垂れ札があるが、余計に何とも言えない雰囲気を醸し出している。小屋利用協力金がいつの日かトイレに使われることを願ってやまない。
・栂海山荘~白鳥小屋
白鳥小屋までコースタイム4時間だが、時間的にも体力的にもまだ行けそうということで白鳥小屋まで進むことにした。舩津としても、栂海山荘に泊まると天気が崩れるかもしれない明日に9時間残ってしまいそれは絶対に嫌なので、今日中に気合で白鳥小屋まで行きたいと力強く話してくれた。栂海山荘を出発すると小雨がちらついたが、すぐに止んで一安心。
ここからは舩津に先頭を歩いてもらう。相変わらず細かいアップダウンが続き、何ヶ所か固定ロープが付けられている。黄連山に着くと、小雨が少し強まったがまだ耐えられる雨だ。黄連山から少し道を外れて下りると「黄連の水」という水場があるが、今回はスルー。親不知から逆コースで登って栂海山荘に泊まる登山者が利用する水場のようだ。栂海新道は2つの小屋それぞれの前後に水場があり、登りと下りのどちらのコースをとっても水を確保できるようだ(ただし夏は涸れる水場が多く注意)。水場を出るとすぐにひどい倒木。かなり疲れてきた。舩津はひたすら歌って自らを鼓舞している。そして菊石山まではひたすら急登。固定ロープが多く、よく整備されている。疲れている人にとって固定ロープはありがたい。菊石山の山頂は展望なし。
菊石山から下駒ケ岳まではあまり記憶がない。気合で進んでいた気がする。下りを終えて白鳥山の山頂が見えるとそこから登り一辺倒かと思いきや、意外にまだ下りが多い。栂海新道は飽きるほどひたすらにアップダウンだ。このあたりで「ケータイOK」の赤テープが垂れ下がっていて、確かにdocomoは電波が入る場所もあった。白鳥山までの登りもしばらく経ったところで水場を知らせる看板をみつけて、ここで最後の休憩。水は北俣で汲んだのでここの立ち寄る必要は特になかったが、白鳥小屋まで無事到着できる目途が立ったので、せっかくだし水場を見学することにした。看板の文字はかすんで判読不能だが(白鳥山の水場?)、3分ほど下ると確かに水場である。岩の割れ目から湧水が出ている。我々が立ち寄った水場の中では最も水勢が弱く、夏場は確かに涸れるだろうなと感じた。やはり山で飲む湧水は最高。水場から10分ほど登ると、やっと白鳥小屋に到着した。補給後で助かったが、白鳥山までの最後の登りは割と急登だった。
・白鳥小屋
白鳥小屋には先客が一人いた。大阪からの登山者で、14時30分頃に到着していたらしい。親切なおじさんで、厳冬期冬山や穂高縦走の話をしてくれた。西穂からの奥穂はロバの耳が少し怖かったらしく、残置があるものの下りは懸垂下降したくなるとのこと。白鳥小屋は無人の避難小屋であるが、栂海新道の開通までの歴史が残っており(年表、幕、装備など)、いい意味での人くささがある。地元山岳会の有志の尽力で維持管理されている小屋なので、協力金2000円を木箱に支払った。また、登山者ノートも備えられている。僭越ながら我々も文章をしたためたので、今後この小屋を訪れる人がいれば見てやってください。17時頃から雨風がかなり強くなり、かろうじてセーフといったところ。夕食はレトルトカレーとパン、焼鳥缶、果物缶だった。量が少なく、さらに消費期限を3日過ぎたパンを出したのは本当に申し訳ない。2階に屋根裏部屋のような部屋があって寝具が備え付けられており、小屋の寝具を借りて2階で寝ることにした。マットも敷布団も毛布も使いきれないくらいの数があり、筆者は銀マット2枚の上に敷布団3枚、毛布3枚で寝た。ふかふかの温かいおふとんでとても快適に寝られた。なお、就寝前にiPhoneのヘルスケアアプリを確認してみると、この日は25.5km(白馬村から47km)歩いていたようだ。精度が微妙なのは置いておいて、12時間よく元気に歩いたものだ。
□5日目
・白鳥小屋~坂田峠
4時半過ぎに起床。10時間ほどすやすや眠れたので、自然に目が覚めた。隣の二人は目覚ましのアラームを無視して二度寝し、結局5時過ぎに起床した。朝食は舩津の棒ラーメン。2人で300gは朝食にぴったりの量だった。二人の食べる量が同じくらいで、食当の分量が分かりやすくてよかった。おじさんが先に出発した後、我々は小屋の屋上に登って360度の展望を楽しんだ。ハシゴは高度感があってスリリング。朝日岳は雲に隠れていたが、北側は能登半島から何と佐渡島まで見渡せた。親不知は山に隠れていてまだ見えない。屋上は電波がばっちり入り、快適に通信できた(白鳥小屋は天候次第だが屋内も電波がよい)。小屋の掃除とトイレを済ませて出発。栂海山荘もそうだが、白鳥小屋もトイレはひどく劣悪である。丸見えの空中トイレはもう勘弁。
最初は緩い下りが続く。ぬかるんだ泥場が多くてつらい。登りの場合は初日から泥まみれになるのか…。15分ほど下りると山姥ノ洞、坂田峠駐車場への分岐に至るが、林道崩壊で通行不能とのテープが張ってある。栂海新道は峠の駐車場を上手く利用すれば日帰りハイクも楽しめる場所だが、現在は少し不便かもしれない。分岐を過ぎるとぬかるみが本当にひどくなる。筆者は足首まで泥にやられた。そして1000mを切るような標高になると秋でも暑い。ちょうど暑くて雨具を脱ぎたくなったタイミングでシキ割の水場に到着。冷たくておいしい水をごくごく飲んだ(エアリアには飲用注意との記述あり)。水は細いと聞いていたが、水量はまずまず。コップが二つ備え付けられていて飲みやすい。水場から坂田峠までは急坂で、ロープやハシゴを頼りに下りていく。坂田峠で車道と合流して少し拍子抜けするが、日本海まではまだ3時間ある。
・坂田峠~栂海新道登山口
坂田峠の林道の橋立金山跡方面はまたもや通行止めである。この周辺の林道は明治に金山で栄えた芸者街道の名残らしい。かつて栄えた街道が廃れた後、現在は栂海新道の登山者でにぎわっているというのは趣深い。ここからは緩い登りでコースタイムが少々厳しく、なかなか巻けなかった。舩津は筋肉痛で左ももが本当につらそう。尻高山は展望微妙。尻高山を越えると杉林、そしてひどい泥場が続く。何ヶ所か巨大な倒木もあった。しばらく下りると再び車道に合流する。車道で軽自動車が1台止まっていてごあいさつ。消防を見たかと聞かれたが、質問の意図がよく分からず。車道から10分ほどで二本松峠に到着。暑くて疲れていたので休憩したが、スズメバチが多くてとても落ち着けたものではなかった。スズメバチが生息できる高度まで下りてきたということだろう。二本松峠からは滑りやすい下りが続き、舩津は悶絶していた。入道山は展望なし。昼間から元気なクワガタを見つけた。ミヤマクワガタかコクワガタだったと思う。下り続けて鉄塔が現れると、登山口まであと10分ほど。「おつかれ様」の赤テープがありがたい。轟音を響かせて車道を走るトラックが目に入ってくると、もうあと少し。登山口では「アルプスと日本海をつなぐ栂海新道登山口」の立派な木柱が出迎えてくれた。
・栂海新道登山口~
登山口から国道を挟んで目に入る親不知観光ホテルは日帰り入浴(親不知駅までの送迎込みで1500円)ができる。国道8号線のトラックの量やスピード、歩道の細さを目の当たりにすると、国道8号線が大きなザックを背負って歩くにはあまりに危険な場所であると感じざるを得ない。北アルプスから海抜0mまで歩くという栂海新道のコンセプトからすると、終着点は親不知駅ではなく日本海で十分なので、素直にホテルの送迎を利用することにした。親不知駅まで歩きたい気持ちもなくはないが、物好きな人が歩けばそれでいいと思う。送迎の予約をしたうえで、日本海で遊んでから風呂に入ることにした。
親不知海岸は、かの深田久弥著『親不知・子不知』をはじめ多くの文学作品に登場する景勝地で、古来交通の難所として恐れられた場所でもある。現在は糸魚川ジオパークを構成する親不知ジオサイトに指定されている。また、交通ファンにとっても面白い場所で、旧北陸本線のレンガトンネルや日本初の海上高架橋を擁する北陸自動車道はとても興味深い。そして山の人的には、日本近代登山の父ウェストンが北アルプス起点の地として紹介した場所でもある。コミュニティロードを少し歩いて海まで80m下りる必要があるのは面倒だが、降りる途中にトンネルがあって親不知海岸の交通の険しさや先人の営みを垣間見ることができた。見るものが多くて登山口から大分時間がかかってしまったが、ようやくお待ちかねの日本海である。朝日岳から長かった栂海新道もようやくゴールだ。白馬駅を出発した時からずっと、この険しい海岸の白波を見たかったのだ。9月中旬だと昼はまだ暑いので、二人とも登山靴を脱いで海へ繰り出す。波のパワー、自然のパワーはとんでもない。
海から上がってホテルに戻ると、東大スキー山岳部の2人と鉢合わせた。白鳥小屋の登山者ノートを見て、我々が雷鳥の人間であると知ったらしい。焼岳から縦走して、11日目の今日栂海山荘から下山したそうだ。山が好きなんだろうなあ。入れ替わりで海に下りる彼らを脇目に、我々は風呂に入る。やっぱり長期(実際全く長期ではないが)山行を終えた後の風呂は最高だし、海水浴後の風呂というのもポイントが高い。送迎のタクシーでは、白鳥小屋から佐渡島が見えるのはラッキーで、普通は大雨の後など低気圧が近い時しか見えないと運転手から聞いた。この山行を振り返ってみると、初日がつぶれるなど最高の天気ではなかったかもしれないが、要所で晴れていたり、雨が降る前に行動を終えたり、運よく佐渡島が見えたりで、80点はつけていい天気だったと思う。
あとは帰るだけということで、親不知から電車で糸魚川に移動し、まず駅前で寿司と日本酒を賞味した。時間があるので糸魚川観光もしようという話になり、フォッサマグナミュージアムと糸魚川駅の鉄道ジオラマを見て歩いた。どちらも大満足だが、特にフォッサマグナミュージアムは栂海新道とも関係の深いトピックでとてもよかった。フォッサマグナミュージアムで地質について学んだあとに親不知から栂海新道を登るのも面白そうだ。ミュージアムに貼ってあったグルメのポスターに触発されて、夕食は駅近でご当地B級グルメである糸魚川ブラック焼きそばを食べた。これも糸魚川では外せない。夕食後、舩津は糸魚川から新幹線で大宮へ、筆者は電車を乗り継いで直江津から高速バスで池袋への帰路についた。今年の夏はたくさん山を歩いたが、最後にとても思い出深い山行をやり遂げることができた。本当にお疲れ様でした。
■感想
・白馬大雪渓の秋道はかなり楽できる。雪渓歩きの区間も少しはあって楽しめるので、熱いうえに混雑した盛夏よりは9月以降の方がコスパはいいかもしれない。
・白馬三山は杓子岳の登りがつらい。逆に、杓子岳から白馬鑓ケ岳までは遠いように見えてかなり近い。大雪渓から稜線に入る場合、頂上宿舎に着いたその日のうちに白馬鑓ケ岳まで往復できると充実した1日になる。
・(杓子岳も捨てがたいが)本当に雪倉岳を好きになった。劔、後立山、槍穂のように男性的すぎず、朝日岳のように女性的すぎず。
・朝日小屋は全てのサービスが素晴らしい。特に富山の海の幸を生かした豪華な夕食は格別で、この夕食を食べるために朝日小屋に行ってもいいと断言できる。なお、電話予約を忘れると食べられない。
・朝日小屋の名物の女性オーナーがおしゃべりで楽しい。ただし、テント泊の場合は一切の小屋泊のサービスの提供を拒否されるので、その点は覚悟すべき。びしょ濡れになった衣服の乾燥、翌日の天気予報を聞くこと、寒い朝に小屋内で身支度をすること、全て過去に御法度とされている。料金の違いももちろんあるが、テント泊は厳しい自然とともに生きる覚悟をもちなさいという親心かららしい。
■栂海新道について
・栂海新道は長い(朝日小屋から13時間+5時間)。誰でも歩ききれるわけではないので、ある程度メンバーは選びたい。泊まりは1年ぶりで、ひどく疲れた様子を見せながらも日本海まで歩ききってくれたメンバーに感謝したい。なお、CLにとっては今シーズン5回目の10時間コースだった。10時間以上の行動に慣れてから臨んだところ、それほど疲れず快適に歩けた。
・栂海新道は0mまで下りるだけあって夏は暑すぎるので、9月中旬以降をおすすめする。10月に入ると白馬岳が寒すぎるので、今回歩いた時期は正解だったように感じる。白馬岳から標高を下げていくにつれて、秋から夏に移ろいゆく自然を楽しめた。そして9月中旬はまだ日本海で海水浴を楽しめる季節だった。
・豊かな水場に乏しく、水の確保が課題になる。水場は北俣ノ水場がおすすめ。9月中旬は水量豊富だった。逆に真夏は涸れる水場が多く大変だろう。
・栂海新道登山口から親不知駅までの国道8号線はトラックが危険すぎる。タクシーまたは親不知観光ホテルの送迎(温泉込みで1500円)の利用を強くおすすめする。
・栂海新道は、登山口を開通させた人と自然の息吹が感じられる素晴らしい縦走路である。また、フォッサマグナとの関係で地質的にも面白い。
・白鳥小屋に残っていたメッセージを最後にどうぞ。
“アルプスと海をつなぐ栂海新道”
「栂海新道は人の知恵の及ばない自然の美しさを示してくれると共に道を造った人や守ってくれている人たちの真心も伝えてくれる。」
NHK小さな旅 明石勇 H16.8.10
■反省
・予備日の事前消化で行程が複雑になり、増えた行動日分の行動食を買い忘れたのはいただけない。
・小屋使用のマナーを怒られて初めて知ったのでは遅い。小屋の従業員や宿泊客に失礼でない態度を忘れてはならない。テント泊は従業員や自然に負荷をかけている割に格安で泊めてもらっているのだから、謙虚に過ごしましょう。
・ゴアライトは2〜3人用とされているが、絶対に3人入らない。縦長で横幅に欠け、メインザックを入れると2人でも窮屈である。
■メンバーより一言
□舩津
・感想
日本海を目指して、列島を横断しているような気分で歩ける今回の行程にはロマンがあった。夏というには涼しく、秋というには暑いあいまいな季節は、歩くのに最適だったと思う。縦走路からは伸びゆく海岸線がうかがえて、狭いのだか広いのだかわからない国土に思いをはせることもできた。ただ、初めての日本海の記憶がパンツ姿で仁王立ちする山本になったのは勘弁願いたい。
行きにはなにかの巡り合わせか、天候のほんの気紛れで木崎湖に泊まった。アニメの記憶は薄れていたものの、素晴らしい場所であることに変わりはない。帰りにはフォッサマグナミュージアムを訪れた。以前平岩さんが推していたと思うが、なるほど無教養な自分でも十分楽しめた。共に山ではないが、雷鳥の皆様にも機会があれば一度足を運ぶことをおすすめする。
・反省
全体を通して苦行めいてしまった。遅刻したり、牛乳でお腹を壊したり、終始息切れしたりと相方の山本には迷惑をかけた。いやぁ申し訳ない。久々の泊山行とはいえ地上での自主トレーニングである程度体力は回復していたはずだったが、山での体力は山でしか培えないのだと痛感した。筋肉痛で迎えた最終日は集中しないとうまく下れず、蜂が多かったことくらいしか思い浮かばない。それではなんのために山を歩いているのかわからない。景観を楽しむ余裕をもって山行に臨めるよう体力と経験を重ねていきたい。