2018/9/22-23 釜ノ沢東股遡行

山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
釜ノ沢東股遡行計画書第三版
作成者:杉山(青木)

■日程 9/22-23(土, 日) 予備日なし 前夜発
■山域 奥秩父
■在京本部設置要請日時 2018/9/23 20:00
■捜索要請日時  2018/9/24 9:00
■メンバー(計2名)
 CL青木 SL杉山

■集合・交通
 レンタカーで9/21夜に出発、渓谷駐車場or付近の道の駅等で車中泊。
 9/22 6:00ころ行動を開始する。

■行程
〈1日目〉
 西沢渓谷入口駐車場 -1:30- 山ノ神 -1:30- 釜ノ沢出合 -1:00- 両門ノ滝 -1:00?- 台地
 計5:00
 ※増水が予想されるため、状況に応じて幕営地は変更する。翌日の行動時間がさして長くないため、予定より手前で行動を切り上げても大きな問題はない。
 ※両門ノ滝手前右岸、魚止滝奥右岸、西のナメ滝出合奥左岸、二俣吊橋にも幕営適地あり。
〈2日目〉
 台地 -1:50?- 木賊沢出合 -45- 甲武信小屋 -3:00(徳ちゃん新道経由)- 西沢渓谷入口駐車場
 計5:35

■エスケープルート
 両門ノ滝まで:引き返す
 それ以降:そのまま進む

■地図
 2万5千分1地形図「金峰山」「雁坂峠」
 山と高原地図「金峰山・甲武信」

■遡行図
 東京起点沢登りルート120 p186
 東京周辺の沢 p228

■共同装備
 救急箱(アゲハ)
 8.6mm×30mロープ
 お助け紐
 ヘッド(杉山私物)
 カート*2
--以下は雷鳥外の装備--
 焚き火缶:青木
 ツェルト:青木
 ノコギリ:青木
---------------------------
 ※持ち出し人のみ記載、適宜分配

■遭難対策費
 200円/人
 計200円

■悪天時
 前日12時までに判断。
 ※決行です。

■備考
□日の出日の入(全て甲武信ヶ岳にて)
 9/22 5:24-17:52
 9/23 5:25-17:50
□警察署電話番号
 日下部警察署 0553-22-0110

釜ノ沢東股遡行記録
作成者:杉山

■日程 2018/9/22-23(土, 日) 予備日無し 前夜発
■山域 奥秩父
■天候 両日とも晴れ
■メンバー 2名
 CL青木(雷鳥外) SL杉山

■行程・記録
〈1日目〉
  7:30起床
  8:21駐車場
  8:56河原に降りる
  9:05入渓準備
  9:26滝(F1)
  9:52巻き終わり
 10:35ホラの貝ゴルジュ入口
 11:45懸垂終了
 12:22携帯電話発見
 13:17休憩
 14:13東のナメ沢
 15:18台地
 19:49就寝

 7:30に起床。当初は6:00に活動を開始する予定だったが、4時間近いドライブで2人の(特に運転していた青木さんの)ダメージが大きかったため、若干遅めた。
 車で数分先の西沢渓谷駐車場へ移動し、準備に取り掛かる。沢の音を聞く限り、増水はさほど酷くなさそうだった。なお、道の駅そばに「西沢渓谷駐車場」と大きく書かれた場所があるが、さらに先に進んで坂を降りたところにもっと大きな駐車場がある(ナビで指定されるのもこっち)。
 しばらく遊歩道を進むと山梨県警のパトカーが止まっており、呼び止められた。ホラ貝で溺れた方がいる、増水もあるだろうし気をつけて、とかく道に迷わないように…といった旨のことを仰り、別れ際にポケットティッシュをくれた。これから沢なのにティッシュ?案の定、ティッシュは遡行中に浸水してウェットティッシュになった。二股吊橋を渡って少し先に超明瞭な踏み跡があり、アプローチは容易。
 最初の6m滝は見るからに増水が激しく、取りつく気にもならない。というか取り付きまで近づけない。ちらと見学してすぐに巻く。
 序盤は膝~腰くらいの水深で渡渉する場面が特に多かった。膝を超えたらアウト、というのが一般山行の常識だが、今回は流れが緩くほとんど問題はなかった。たまに川底の石に足が挟まって困るくらい。また、登攀要素はほとんどない沢であるものの、シビアな左岸のへつりを要求される場面が1ヶ所あった(残地ハーケン有)。記録を取り損ねたので地理的な位置は忘れたが…結局行き詰まり、引き返して左岸から巻きあがった。あれは結構難しいと思う。
 ホラ貝の入り口は、それまでの穏やかな渓相とは打って変わって不気味な威圧感を放っている。ゴルジュがうねっているため最初の泳ぎを突破しないと先がまるで見えず、それが余計に気味悪さを際立させていた。さっきまで1級上の沢だったのに…これ、ゲーム終盤になってもう一度訪れないと攻略できないタイプのステージだ。泳ぎが苦手な杉山はチャレンジする気など毛頭なかったが、青木さんは突撃。ちょっと覗いてみたかったらしい。しばらくすると水流に乗ってプカプカ流れてきたが、入口右側は水流が渦を巻いており、うまく本流に入るのが難しいようだ。ロープに環付きを付けて投げようかと思ったが、青木さんがニコニコしながら「疲れた~」とのんびりした声を上げていたので、投げる必要があるのか迷っているうちにこっちまで流れてきた。ためらう時間は無駄なのでとっとと投げるべきだった。ゴージュバッグがあればもっと気軽にポイポイ投げられるのだろうか?水浸しになったザックを背負い直し、左岸から巻き道に入る。
 ここを遡行する多くの人はホラ貝を巻くわけだから、相応に安全なルートがあるはずである。はずなのだが、遡行者が多いことが逆に仇となり、次第にどこへも通じない分岐がいくつか現れだす。行きつ戻りつを二度三度し、一応ベストだろうと思しきルートを選択したのだが、いつまでたっても山ノ神(人工物)にたどり着かない。なんとなく道も悪い。とはいえ沢をのぞき込むと既にゴルジュ帯は終わっていた。あまりいい降り口がなかったため、とりあえず懸垂で降りることに。遡行図では駐車場~山ノ神が90分となっているが、増水と巻きのミスが原因か、入渓から数えても2時間半ほどかかってしまっている。
 ロープを持っている自分が先に降り、時間を記録しようと右ポケットにあるスマホに手を伸ばすが、おや?手ごたえがない。ポケットのファスナーもなぜか開きっぱなしだ。ああ、やってしまった…長い巻き道のどこかで落としたらしい。冷汗が止まらない。すぐに大声で失くした旨を伝えると、青木さんはゆっくりと懸垂しながら周囲を確認してくれたが、結局ここでは発見できなかった。いや、本当にまずい。iPhone8に変えたばかりなのに。定期も学生証も一緒だ。あと某日山荘のポイントカードも。それに山行中はパスコードをオフにしてあるから、もし拾われたら僕のあらゆる情報が覗かれてしまう…勝手にツイートされてしまう…。すっぱり諦めるか、引き返すか。登り返すにはいささかシビアな斜面だった。青木さんが少し先に別の巻き道を見つけてくれたので、とりあえずロープを回収してそちらへ移動。焦りすぎてロープの束ね方を間違えまくったり(諦めて適当に詰め込んだ)、何もないところでコケたりと大変だった。スマホ落としたくらいでヒヤリハットを繰り返しているといつか死んじゃうぞと思い、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。すると急にあきらめがついてきたので、あと5分で見つからなければ引き返しましょう、という言葉がまさに喉から出ようとした寸前に、青木さんがジップロックに包まれたスマホを発見してくれた。山ノ神はまだ僕を見放してはいなかった…。とはいえ、見つかりはしたものの1時間弱のロスを産んでしまい、今後の行程に若干不安が生じる。本当に大馬鹿野郎だ。遡行図では山ノ神から90分で魚留滝、更に60分で両門ノ滝まで行けることになっているので、サクサク進めば16時ころには両門ノ滝あたりまで行けそうではあった。
 少し進むと、左岸に本来の巻き道があった。といっても、2年前に遡行している青木さんが気づいただけで、杉山にはよくわからなかった。ともかく山ノ神よりだいぶ手前で巻きを終えてしまったようだ。
 しばらく進むと沢幅がいくばくか広がり、右岸はゴーロ、左岸はスラブという渓相になる。青木さんは最後までスラブのトラバースを攻めたが、杉山はすぐに滑って水流へドボンしたため右岸へ逃亡。変なところで落ちたら流されそうだな、というビビり精神から腰が引けていたような気がする。先の休憩時に出会った2人組のパーティが後続し、自転車用のヘルメットを被った初心者らしい男性がナメをへつりながら「落ちたくねえよお~」と嘆いていたが、結局落ちずに突破していた。敗北感。
 そのうち乙女の滝に到着。水量が少ないため露出した岩盤の荒々しさが目立つ。とりわけ下部に斜めに走るクラックが印象的で、乙女と呼ぶにはゴツすぎる。再びナメのトラバースと快適な沢歩きを繰り返すと、170×300mの超大ナメ滝が見える。東のナメ沢の入口である。もはやデカすぎて上の方がどうなっているのかわからない。乾いたスラブが美しく、いずれ行ってみたい沢の1つだ。沢というよりマルチピッチに近いと思うが。ここも中間尾根に台地がありビバークできそうだったが、もう少し先へ進むことにした。少しゆけば今度は西のナメ沢の大滝が出合い、登攀欲がかき立てられる。東が3級、西が2級くらいだそうなので、こっちの方が手ごろか。
 魚留滝より手前に広い台地があり、かつ15時を回ってしまっていたので、ビバーク地に決定した。青木さんが慣れた手つきでツェルトを張る。適当な木にスリングを巻いてカラビナを付け、メインロープの一端をエイトノットで、他方をエバンスでカラビナに取り付けると、エバンスの結び目をグイと引いてロープにテンションをかける。あとはベンチレーターそばのループを適当にフリクションノットで固定すればOK。張り方は他にも山ほどあるだろうが、メインロープがある時はこの方法が楽なように思えた。
 ツェルトの次はたき火の準備だ。焚火の跡が既に複数個所あったので、1つ拝借した。ナイフでシラカバの樹皮を薄くペリペリと剥がすと良い着火剤になるらしい。青木さんを真似してチャレンジしてみたが、ちっともうまくめくれない。結局乾いた薪が少なすぎて大きな火が起こらず、諦めて青木さんのガムテープとメタを燃料にして焚火とした。メタは入れ物ごと浸水してぐっしょり濡れていたが、特にお構いなく燃えていた。ガムテープも着火剤として優秀だ。焚火缶でお米を3合炊き、ポップコーン、鶏肉のホイル焼き、焼きバナナと豪華な晩餐を堪能したのち就寝。杉山はリミット0℃くらいのシュラフを使い、ツェルトにも入らずに寝たが特に寒くは感じなかった。バナナを1本回収し損ね、消し炭にしてしまったのが心残り。

〈2日目〉
  4:30起床
  6:10出発
  7:05両門ノ滝
  7:28伏流地点 休憩
  7:49二俣
  8:42ミズシ沢分岐
 10:11-38甲武信小屋
 13:29徳ちゃん新道終了
 14:05駐車場

 4:30に起床。青木さんの姿が見えなかったが、夜のうちにツェルトの中に移動していたらしい。シュラフカバーのみでは寒かったようだ。青木さんの持参したインスタントラーメンを食べ、焚火の後処理をする。5時をいくらか回ると陽が差し始めていたが、あんまり早く沢に入ると凍えてしまうので、少しのんびりして6時過ぎに出発した。しかし最初のゴーロ歩きで急いだあまり、釜ノ沢を素通りして信州沢と金山沢の出合まで来てしまった。あんなデカい出合を見落とすとは…これで10分ほどのロス。
 魚留ノ滝はドスラブの大ナメ滝であり、なかなか迫力がある。右岸の巻き道に残地ロープが垂れているが、傾斜は緩いのでガバに手が届けば簡単に登れる。その後の巻きも容易。
 千畳のナメは美しい。ヒタヒタと歩くのが気持ちよく、青木さんが遊園地呼ばわりしたのも頷ける。しかし、残念ながら上部は一部崩壊しており、ウォータースライダーができると噂の箇所はガレと倒木で埋まっていた。若干気落ちして歩みを進めると、青木さんが顎をしゃくって右前方に僕の視線を促した。シカの死体だ。ボロきれのような毛皮には虫がたかり、白く濁った眼球は眼窩からやや飛び出していた。腹部は変色し、ちょうどこの沢の釜が呈する深いエメラルドグリーンに似ていた。不自然にねじ曲がった肢体を見ながら、山で死んだら自分もああなるのかな?と思ったりした。
 両門ノ滝は一見の価値あり。大滝が西と東から1つの釜へ流れ込んでおり、轟轟と響く滝の音がかっこいい。これも左岸から簡単に巻ける。
 迷い沢との出合では、遡行図通り薬研(ヤゲン)の滝と迷い沢の中間尾根を上がって小さく巻く。看板も付いているので問題ないだろう。迷い沢の遡行者もまれにいるようだが、あまり面白くなさそう。
 25mナメ滝(そんなにあるか?)を右側からサクッと登り、ミズシ沢との出合でしばし休憩をとる。このとき僕のGPSがだいぶずれてしまっており、ミズシ沢を100mほど遡上した位置に現在地マークがあった。GPSは役に立つけれども、当然その精度は100%ではないことを肝に銘じておかなければいけない。これ以降は特に見どころはなく、ゴーロの混じる沢を適当に遡上しているとポンプ小屋へ到着する。途中の中間尾根にあるという矢印の看板は、これも崩壊で流されてしまったのか、発見することはできなかった。なお、ポンプ小屋の時点で杉山の沢靴には木の枝が突き刺さり、完全に穴が開いてしまっていた。モンベルのサワートレッカーは見た目より耐久性が低いらしい。
 ポンプ小屋からのツメは一瞬で終わり、あっという間に甲武信小屋へ到着。日曜だけあって登山客の姿はそれなりに多い。「Happy Birthday」と書かれた風船をザックにつけた女性がいたが、声をかけてあげた方が良かったのだろうか…びちゃびちゃのグラノーラくらいしかプレゼントできそうなものはなかったが…。まあ、ここまで来てしまえばあとは心を無にして3時間下山をキメるだけ。すぐそばにある百名山の頂に尻を向け、そそくさと退却。2人とも下山用シューズを持ってきていなかったためにヌルヌル転びまくり、ただでさえ長く辛い山道がいっそう辛いものになってしまった。特に杉山は靴擦れが猛烈に激しく(山道を歩く靴ではないのだから当たり前)、両足合わせて6か所ほど巨大な水ぶくれができた。これがなければもう少し早く降りられたのだが…無念。翌日、潰して遊んでエラい目に遭った。下山後は車で数分先にある「みとみ
 笛吹の湯」に寄り(大人510円)、さっぱりしたのち再び軽トラで帰宅。爆音で音楽を流しながら、4時間にわたるデスドライブ。運転してくださった青木さん、ありがとうございました。

■反省・雑感
・基礎体力の不足を痛感した山行だった。初日の補給不足が祟ったとはいえ、特に終盤はペースが落ち気味だった。まあ45キロ担いで冬山に登る人についていけるわけがないのだが…もう少し根性見せても良かったろう。自宅に帰ってからテレビを点けると、服部文祥が「まあなにやるにしても体力が必要なんだよね」といったことを仰っていた。全くその通りです。
・ドライサックの購入を検討したい。ジップロックがきちんと閉まっておらず、ボンタンアメが溶けて悲惨だった。
・荷物が重かった。化繊のシュラフ+救急箱+ロープでザックのほとんどが埋まってしまう。特にシュラフに関しては、金を積む以外に軽量化する手段がない。しんどい。
・救急箱が大きすぎて邪魔だった。山行形態と人数に応じて適切な大きさ・内容に変更するのが理想だが、普段の運用を考えるとあまり現実的ではない。個装で小さい救急箱を用意するほうが、沢泊やアルパインには適しているだろう。
・谷の深い位置ではGPSのずれが大きかった。
・モノを落とすな!!