2018/11/7 水無川大沢右俣遡行・左俣下降
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
水無川大沢右俣遡行・左俣下降計画書 ver. 1.0
作成者:丸山
■日程 2018/11/7(水)前泊日帰り
■山域 越後三山
■在京本部設置要請日時 当日 20:00
■捜索要請日時 翌日 10:00
■メンバー(計2名)
CL丸山 SL木口
■集合・アプローチ
11/6夜に荻窪駅周辺で合流し、丸山車で越後三山森林公園へ行き前泊
■行程(予定時間)
6:30 出発
7:30 二俣
10:30 遡行終了
11:30 下降開始
13:30 二俣
14:30 帰着
(計8:00)
※予定時間は厳し目の設定、2時間程度の遅れは許容。
(https://www.yamareco.com/modules/yr_plan/detail-657134.html)
■エスケープルート
引き返すか、そのまま進む
■遡行図
なし
■共同装備
救急箱(苺)
熊鈴
8.6mm×45mロープ
8.6mm×30mロープ
ハーケン・カム
ハンマー(無孔)
ハンマー(有孔)
■遭難対策費
100円×2人
計200円
■備考
日の出(11/7)6:14
日の入(11/7)16:42
南魚沼警察署 025-770-0110
水無川大沢右俣遡行記録
作成者:丸山
■日程 2018/11/7(水)
■山域 越後三山
■天候 曇り時々霧
■メンバー(2人、敬称略)
CL丸山(35)、SL木口(39)
■総評
記録のない沢だったが、適度な小滝や長大なスラブの登攀が楽しめ、アクセスも良い秀渓であった。滝の登攀に時間がかかりヘッデン下山となったが、長年の目標としていた、遡行記録のない高遡行価値沢を発見するという目標を果たすことができ、6年間の集大成の1つと言える、楽しくも厳しく、非常に印象に残る山行となった。
■ヤマレコ記録
(https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-1643560.html)
■時間(括弧内は予定時間)
6:46 (6:30) 出発
8:08 (7:30) 二俣
10:47-12:00 10m滝
12:56 (10:30) 遡行終了
14:33 (11:30) 下降開始
16:42 (13:30) 二俣
17:48 (14:30) 帰着
■ルート・周辺概況
※遡行図を作成した。滝の落差等はその遡行図に基づく。
・越後三山森林公園までは舗装路が続き、その駐車場にはトイレがあり、しかも駐車場から3分ほどで入渓可能というアクセス最高の沢。
・二俣までは飽きない程度に小滝やナメが続くが、いずれもIII-以下であり容易。
・右俣に入るとすぐに10m滝があり、水流右を直登可能(IV-)
・第1スラブ下部は傾斜が強く、完全な直登は難しいと思われる。右から適当に巻いて、傾斜が緩んだ所で沢床に戻るのが良い。
・それ以降は第2スラブが終わるまで超快適なスラブ登りである(部分的にIII+)。
・第2スラブ以降単調なゴーロとなり、上部には難しい滝も出てくるので、第2スラブを登ったら沢を離れて適当に下っても良さそう。
・ゴーロの途中に出てくる3mCS滝はやや難しく左がIV+程度。高さは無いので恐怖感は薄い。
・ジャンクションフォールの10m滝は間の凹角を登れるが、V以上あって難しい。自信がなければ手前から巻いたほう良さそう。
・さらに沢を進むと登れなかった3mCS滝があり,これを左から厳しいモンキークライムで巻いてそのまま尾根を上がると、カネクリ山の西の小鞍部に出る。
・稜線の藪はそれほど濃くなく、景色も良いので楽しめるが、一部にザレ場や尾根がはっきりしなくなる部分もあるので注意は必要。
・カネクリ山とヨモギ山の間の最低鞍部から藪をトラバースしながら下れば、二俣の少し上に出る。ここからなら沢下降は容易。
・ラバーソール推奨。ヤマビルなし。
■行動記録(敬称略)
・駐車場まで
木口の実験が延びてしまい、予定より48分遅れで20:18頃に荻窪で合流。途中ベルクに寄って目論見通りに半額で朝食と行動食を買って、一路北へ。遅れを多少でも取り返すため水上IC、湯沢IC間だけ関越道を使い、面倒な三国峠越えを避ける。木口は沢山行反省会の企画をしたり赤木沢で滑落しかけた経緯を書いたりしていたが、沼田あたりで寝てしまった。湯沢ICで下りてからは一般道をぶっ飛ばして、何とか25時前に越後三山森林公園に着き、駐車場で25:15頃就寝。
・入渓まで
5:45起床。薄ら明るい。寒いので&異性なので寝袋の中で着替えてから朝食を摂るが、こんな早朝からそんなに食欲もないのでちょっと時間がかかって、出発予定時刻を過ぎてしまう。結局起床から1時間経った、6:46に出発。駐車場から大沢方面へ歩いていくと、都合よく刈払があって、大変ありがたい。刈払われた径路を上流側へ向かうと堰堤が1つあり、難なく越えるとパイプがあり、どうやらこの径路は森林公園へ大沢から水をひくためのものらしい。そのままこの径路でナメ滝を1つ巻くと、そこでパイプの起点があり、径路も終了。いよいよ未知の沢への入渓である。
・二俣まで
入渓すると早速小滝が出てきて、期待の持てる展開。開けている沢で景色も良く、紅葉も見頃で素晴らしい。朝から上機嫌で登っていくと、なかなか立派なナメも出てきて、更に嬉しくなる。ラバーソールでは岩が滑りやすくやや難しいところもあってそれなりに時間がかかったが、予定より38分遅れで二俣に着。まだまだ大丈夫。
・第1スラブまで
水量は明らかに左が多いが、途中に長大なスラブが予想される右に入る。入ってすぐに下部がのっぺりした10m滝が現れ、一瞬巻きを考えるが、取り付いてみると案外登れた(IV-)。するとすぐに、空中写真から存在を予見していたスラブが現れるが、下部は傾斜がきつい。巻くのはつまらないので45mロープを出して丸山リードで登り、カムや灌木で支点を取りながら登った。当然残置は一切なく、それなりに難しいのでちょっと怖い(IV)。結局途中で左岸灌木帯に入り、そこでピッチを切った。木口は難なくフォローし、そのまま灌木帯で少し巻いてから、傾斜が緩くなった所で沢床に戻った。ここからは超快適なスラブ登攀で、超最高。万が一にでも落ちたら助からなさそうだが、ソールとの相性も最高で怖くはない(木口は怖かったらしい)。有頂天になって登っていくと、だんだん岩盤が狭くなってきて、スラブは終了。空中写真で確認すると、この第1スラブは落差100m×水平距離120m程度のようである。
・第2スラブまで
第1スラブが終わるとナメ状の中に一つインゼルがあって、それを適当に越えると、再び大きく開けて第2スラブ開始。先程の第1スラブよりも傾斜が緩く、終始超快適に登ることができ、霧も晴れて景色も最高で、気分も最高! いつまでもこんなのが続いてほしいと思うが、空中写真から想像されたようにそんなことはなく、急に狭くなってただの灌木のかかるゴーロ状になってしまう。空中写真で確認すると、この第2スラブは落差70m×水平距離110m程度のようである。
・10m滝まで
単調なゴーロが長く続き、このまま終わるかと思ったところ、谷がゴルジュ状になって3mCS滝が出現。意外と厄介で、丸山が左から登って、お助け紐使用で木口を上げる。更に進んでいくと、正面に黒光りする壁が見えて、嫌な予感。枝沢の滝であるという希望にかけていたが、本流と枝沢に掛かる2本の10m滝であった。これを越えないことには、先へ進めそうにもない。巻きは厳しそうなので直登のラインを探って滝に近づくと、立っていて難しそうだが、2本の滝の間の凹角が登れなくもなさそうである。ということで、30mロープを出して丸山リードで登攀開始。見た目通り難しく、ホールドも良くなくて、フリーで5m程も登るともう命懸けである。決まらないリスが多く苦戦したが何とかハーケンを1本決める(後で木口が回収)とちょっと安心感が出て、思い切ったムーブをして何とか灌木を掴む。ここでほっとできるかと思いきや、今度は悪い泥壁が続き、落石も多発するし意外と気が抜けない。さらに灌木頼みで登り、何とか落ち着ける所まで行って、ビレイシステムを作る。さて木口が登る番となるが、やはり非常に難しいようで、ロープを掴んでもいいと言ってもなかなか上がってこない。どうやらあまりに登れないのでクライミングシューズに履き替えていたらしい。結局数十分かけて木口も登り、2人で1つの滝を登るのに70分程度もかかってしまった。そろそろ時間的にやばいと思い始める。とはいえ、エスケープルートは無いのでどうしようもなく、ここまで登った以上は進むしかない。
・稜線まで
いくつかの枝沢を分け、本流と思しきところを進んでいくと、今度は3mCS滝がある。微妙に登れない滝で、巻こうとするが、ゴルジュ状のため意外と厳しく、まずは丸山が厳しいモンキークライムで小尾根に乗る。ここからお助け紐を垂らして木口を上げようとするが、側壁が脆くて大苦戦。結局丸山と同じく厳しいモンキークライムで登ったが、また30分近い時間がかかり、もうどう考えてもこれはピンチである。このままこの小尾根を登っていくと、幸い大した藪漕ぎもなく、稜線の予定していた鞍部(カネクリ山の西)に出た。
・藪稜線
稜線に出ると、想定通りだがやっぱり踏み跡一つない、ただの藪。ここで電波が通じたので在京にヘッデン下山となりそうな旨連絡し、藪漕ぎに入る。この稜線は景色がよく、霧がかかりがちな今日でも十分楽しめる。しかし置かれている状況は十分やばく、むしろ景色を楽しむのは現実逃避な感さえある。藪自体はそれほど密ではなく、傾斜の緩いところは歩きやすいが、急傾斜のところは尾根筋を見失いそうになるところもあり、結構大変。さらにはザレ場やちょっとした岩場まであり、高度感があって怖い場所もある。そういう展望のきく場所では、駐車場まで見渡せるが、まったく近い。あんなに近くに見える駐車場に、明るいうちに降りることができないなんて。道がない山の大変さを身をもって体感している。パラグライダーででも飛んで降りることができればどんなに楽だろうか。結局、藪稜線にも想定以上の時間がかかり、予定より2時間50分遅れで鞍部に至った。もはやヘッデン下山は確実であり、一刻も早く降りたいところだが、暫く無休憩で歩き続けているので、一旦休憩。
・藪下降
鞍部から直接沢筋へ下るとスラブとなって難儀することは明白だったので、トラバース気味に藪を下る。かなりの急傾斜だが、密藪なので高度感のある場所はあまりなく、順調に下っていく。途中、在京に3時間遅れの連絡を入れた。藪の丈は低いので、ずっと景色が良い。着々と標高を下げ、駐車場が近づいてくるさまを見続けることができ、迫る夕闇の中でも気持ちを保ちながら降りることができる。また、左俣右沢には長大なスラブ滝があるのが見え、景色がいいし登攀欲が湧いてきて、気が紛れる。所々には、枝沢の横断や露岩、スラブ直上の高度感のある藪といった難所もあったが、うまく通過。最後はラッキーなことに、適当に藪を漕ぐだけで、沢床に降りることが出来た。
・沢下降
藪を終えると沢下降だが、ここはもう二俣のすぐ上である。滝もなくすぐに二俣に至り、何とか明るいうちに朝歩いたところまで戻ることが出来てほっとする。歩みを止めず、ヘッデン無しで行ける所までどんどん降りる。二俣から先も小滝が多いが、やや難しかった滝も全部容易に巻けるので問題ない。17時頃になるとでいよいよ暗くなってしまったのでヘッデンを装着。最初は暗くなったら行動できないなどと弱音を吐いていた木口も、やってみれば意外とできるもので、それほどペースも遅くならずに下降を続ける。それにしても、最初の取水パイプが見えたときの嬉しさと言ったら…!まさに生還の喜びである。そんな危ない喜びを噛み締めながら、最後の径路を歩いて、車に帰着。達成感半端ない。
・下山後
とりあえず着替えもせずに車に乗り込んで、電波の通じるところまで移動し、下山連絡。今回は帰りに上州名物のもつ煮を食べようと思っていたので、この時間からでも間に合いそうな谷川岳PAへ行くことに。途中で着替えて、9月にあけびを買った思い出のスーパーに寄るだけ寄って何も買わず、湯沢からまた関越に乗って、トンネルを抜けて谷川岳PAに着。ここのもつ煮定食は美味しく、CPも良くて食べログ高評価も頷ける。水上で関越をおりて、のんびり帰る。帰路の車内では、好きな果物から宇宙人襲来、死生観に至るまで雑談に花が咲き、楽しく過ごした。23:50頃荻窪着、25時頃自宅着。疲れたが充実した1日だった。
■備考
・水無川大沢は、水が少なく殆ど濡れないので秋におすすめの沢。紅葉も美しい。但し素早く行動しないと日が暮れる。夏までは雪渓が残っている年が多そうである。
・雷鳥では滅多にない本格的なヘッデン下山となった。原因は、難しい滝の登攀や巻きに時間がかかったこと。
・前日に雨が降っていたようだが、増水は感じられなかった。
■感想
・丸山の沢の志向性は、記録のない、もしくは忘れられている高遡行価値の沢を発見し、その初記録や最新記録を公開することで、沢界の発展に寄与することである。今回はまさにその志向にぴったり合致するものであり、大変満足した。
・この沢のような遡行価値の高い沢が知られもせずに残っているというのは驚きである。水無川流域には真沢やオツルミズ沢のような有名な沢が沢山あるので埋もれていたのであろう。
・今回も紅葉が美しかったが、晴れていればもっと良かったはず。
・稜線の藪漕ぎも想定以上に大変だった。昨年のジロト沢で経験したものは多少踏まれている藪であって、今回の藪は全くと行っていいほど踏まれておらず、その違いは大きかった。また、急傾斜部分やヤセ尾根もあり、ジロト沢の時よりは断然ハードであった。でも、これはこれで楽しい(今回は時間に追われていたためゆっくり楽しむ余裕はなかったが)。
・ヘッデンでも割と行動できることが分かったが、いきなり実戦というのは良くなかった。今後はヘッデン行動訓練等の機会を設け、どの程度やれるのかを各個人が知っておくことは有意義だと思われる。
・大沢左俣右沢にも巨大なスラブ滝があり、極めて遡行価値が高そうだが、遡行記録は見当たらない。今後行ってみたい。
・今回初めて水無川流域の沢へ行ったが、谷川岳周辺や巻機山周辺の沢に比べて普通に遠かった。新潟県に入ってからも意外と長い。
・難易度は高かったが、その分だけ成長に繋げられた山行ではあったと思う。
■CLコメント
・物好きな山行に付き合ってくれてありがとう。また行きましょう。
・濡れそうな沢でなければ携帯電話は持っていきましょう。
・滝登攀途中でクライミングシューズに履き替えるとか時間のかかることをする時、声が通じるなら言って下さい。ビレイする側が不安になるので。
■SLコメント・感想
・六年間の集大成となるような山行のパートナーに選んでいただけて光栄です。かなり怖かったので今後はうっかり付いて行かないようにします。
・第一スラブはかなり怖く、第二スラブは普通に怖かったです。快適ではないです。
・ジャンクションフォールの10m滝では、「クライミングシューズに履き替えたいので少し降ろしてほしい」旨を伝えたつもりでした。声量も確認も足りずすみません。下部は外岩の5.10a、丸山さんが思い切ったムーブをしたらしい核心部はジムボルダーの3級程度だったと思います。この滝は滝下のスペースが狭く、ビレイ中は落石から逃げるのも難しかったです。(丸山註:外岩5.10a&ジム3級は高く見積もり過ぎではないかと思う)
・計画の段階で、ルートや予定時間など丸山さんに任せっきりでした。そのまま付いて行った結果、自分の登攀力不足のせいで時間が大幅に遅れてしまい反省しています。地形図や空中写真等から何とかなるだろうと判断していましたが、読みが甘かったです。
・地形図から滝の難易度を正確に読み取ることは不可能だと思うので登攀力を上げます。
■反省
−出発の遅れ。起床から1時間後と考えておく必要がある。
−険谷の多い水無川流域で記録のない沢へ行くには、実力が不足していた。3級の沢が普通に登れる程度が欲しい。ただし、距離と等高線と空中写真から類推せざるを得ない計画の段階では、的確な所要時間を見積もるのは無理であった。
−攻め過ぎた滝の直登をした。10m滝は下からのオブザベーションで登れる確信が得られていないのに取り付き、四苦八苦して登ったが、危険すぎる登攀であった。直登が見るからに難しいことが分かった時点で、だいぶ手前からでも巻くことができないのか探ったほうが良かった。
−このように不確定要素の大きく、周辺に道もない山行の場合は、ビバークの可能性が高いのでツェルトがある方が良かった。
−木口のヘッドライトはテント内行動程度用で、山を歩くには照射範囲が狭かった。山行にもっていくヘッドライトは、適切な照射範囲をもつものであるべきである。
−丸山は藪漕ぎ中にシャーペンを落とした。藪漕ぎ中は落としやすいところ(ザックのサイドポケット)に物を入れないほうが良い。
+空中写真も印刷して持っていった結果、現在地の特定や危険予測が的確に行えた。
+ヘッデン下山となっても落ち着いて行動し、安全に下山できた。
+途中で下山が遅れる旨在京に連絡した。
+木口が念の為といってクライミングシューズをもってきたこと。