2022/7/24-25 鳳凰三山

山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
鳳凰三山山行計画書第2版
作成者:河野、鈴木
■日程 2022/7/24-25(日・月)1泊2日・予備日なし
■山域 南アルプス
■目的 体力養成
■在京責任者・助言役 桐原
■在京本部設置要請日時 2022/7/25 19:00
■捜索要請日時 2022/7/26 9:00
■メンバー(4人)
CL鈴木, SL河野, 加藤, 豊永
 
■集合
分倍河原4:00

■交通
レンタカーで青木鉱泉駐車場まで 都内から約3時間
約100台収容、1泊1500円。近くにバス停、トイレ、水場、テント場などがある。
運転者 加藤、河野 加藤がタイムズで予約。
車両:シエンタ(多摩 502 ワ 2029)
 
■行程
□1日目(6時間/5.4km/+約1,300m)
青木鉱泉-2:30-南精進ヶ滝-0:30-1,703m地点-1:00-2,009m地点-1:00-五色ノ滝-1:00-鳳凰小屋
□2日目(7時間5分/10.2km/+約420m,-1,800m)
鳳凰小屋-1:20-地蔵岳-0:10-赤抜沢ノ頭-0:30-2,694m分岐-0:40-観音岳-0:30-薬師岳-3:20-標識-0:35-青木鉱泉

■注意点
バテ!!
ドンドコ沢の増水
鳳凰小屋から地蔵岳にかけての砂地での転倒、強風
白糸の滝(2,009m地点)の手前から、大きな段差と急登がずっと続く
 
■エスケープルート
2,694m地点 まで…引き返す
2,694地点以降…そのまま進む

■共同装備
テント(エアライズ3 No.2):鈴木
テント(ステラリッジ4、加藤私物):加藤
救急箱(有紗):鈴木
鍋(雪):河野
ヘッド*1(緑7):豊永
カート*2:豊永
調理器具セット(キャサリン):河野
※豊永不参加の場合
テント(ステラリッジ4、加藤私物):加藤
救急箱(有紗):鈴木
鍋(雪):河野
ヘッド*1(緑7):鈴木
カート*2:鈴木
調理器具セット(キャサリン):河野

■個人装備
□ザック □ザックカバー □シュラフ (□シュラフカバー)□マット □雨具 □防寒具 □登山靴 □替え靴紐 □帽子 □水 □行動食 □非常食 □ブキ □コッヘル □ヘッドランプ □予備電池 □ゴミ袋 □トイレットペーパー □ライター □新聞紙 □軍手 □地図 □コンパス □エマージェンシーシート □筆記用具 □計画書 □常備薬 □学生証 □健康保険証 □現金 □遭対マニュアル(緊急連絡カード含む)□日焼け止め □マスク □歯ブラシ □充電バッテリー □タオル □消毒液orアルコール除菌シート (□温泉セット □サンダル □サングラス□着替え □リップクリーム)
 
■食当 軽量化につとめる
1日目夜:河野
2日目朝:豊永(不参加の場合23夜に河野に渡す)
 
■地図
山と高原地図:「鳳凰山」
2万5千分の1地図:「北岳・甲斐駒」

■遭難対策費
200円/人4名=800円

 ■テン場情報
□鳳凰小屋…要予約
キャパ20張、一人1500円 ペグ必携
水場、トイレあり、問い合わせ先:0551-27-2466 (8時~19時)
http://blog.houougoya.jp/?eid=1215559
□薬師岳小屋
予約不要、一人1,000円(トイレ利用料込)
水場なし、天水利用のため自炊用のみ使用可
090-5561-1242
http://www.houousan.com/about-us.html

■電波情報
薬師岳までは概ね電波アリ。(docomo)
 https://www.docomo.ne.jp/area/mountains/individual/?id=hoozan
■悪天時
前日15時までに判断
■日の出(@鳳凰)
7/25 日没 19:08
7/26 日の出 4:39
 
■各種連絡先
・山梨県警察南アルプス警察署 055-282-0110
・山梨県警察甲斐警察署 0551-20-0110
・山梨県警察北杜警察署 0551-32-0110
 
■参考
□過去記録
2018年度記録
2018年度記録(伝説の記録)
□その他
・青木鉱泉駐車場 http://www.houousan.com/about-us.html
・青木鉱泉 7:00-21:00 入浴のみ1,000円 https://www.mountaintrad.co.jp/yamanashi/aoki/aokikosen/data.html
 
■コロナ対策
1. 遭難などの緊急時を除き、山小屋の使用を控える。
2. 長期休暇中は平日の活動を中心にする。
3. 山頂付近などの人が多いところでは長時間滞在しない。
4. 最大10人以内のパーティーとする。
5. 常に、パーティー内の連携を損ねない範囲で十分に距離を取る。
6. マスクを常用する。
7. 水や食料は事前に購入しておき、登山山域での買い物を控える。また、下山後の会食も控える。
8.テント内の人数は定員の半分程度とし、余裕をもって使用する。
9. メンバー全員が当日朝検温して担当者に提出。山行前の体調管理はしっかりと行い、少しでも風邪の症状がある場合は参加を控える。

鳳凰三山山行(青木鉱泉〜中道) 記録
編集:鈴木(43)
■日程 2022/7/24(日)-2022/7/25(月)
■山域 南アルプス
■天候 7/24曇り、7/25晴れ

■メンバー(4名)
CL鈴木, SL河野, 加藤, 豊永

■タイムスタンプ
□1日目
7:15青木鉱泉
12:13五色の滝着
12:30発
13:58鳳凰小屋着
計6:43

□2日目
4:09鳳凰小屋発
5:15地蔵ヶ岳着
5:36発
5:49赤抜沢ノ頭着
6:09発
7:24観音ヶ岳着
8:19発
8:37薬師ヶ岳着
9:26発
13:50青木鉱泉着
計9:41

■総評
1日目はひたすら樹林帯の登山道を登った。樹林帯がひらけて景色が見えるところもほとんどなかったので、かえって曇りでよかった。
2日目は終日晴れており、非常に綺麗な景色に恵まれた。特に、観音ヶ岳からの景色は最高であった。しかし、薬師ヶ岳からの下り道は、ただひたすらにつらかった。

■ルート概況
・青木鉱泉までの道が悪い。運転に気を付ける。
・青木鉱泉から鳳凰小屋までの登山道には、沢の渡渉が3か所ある。もともと大きな沢なので増水時には特に注意。地図上にない結構な規模の沢が何か所かある。
・五色の滝は滝壺まで5分程度で降りることができる。そこまでの道が急斜面かつ柔らかく滑りやすいので、サブザックなどで向かうのが吉。
・鳳凰小屋のテント場は全面砂地。石がほとんどないのでペグ必携。平坦で快適。飲み物やカップ麺は販売しているが軽食は提供していないらしい。トイレが非常に綺麗。ハンドソープを使えるため、衛生面もばっちり。水は豊富でおいしい。
・鳳凰小屋から地蔵岳にかけては砂地の急登となっている。地面は柔らかいので、トレースに沿ってキックステップで進む?
・地蔵岳山頂は砂地の急登を抜けて左に少し歩いたところにある。オベリスクの登攀は自己責任とのこと。
・薬師ヶ岳以降は急坂のつづら折りを下り続ける。集中力が切れそうになるが、滑りやすい泥なので転倒に注意。
・Docomoはほぼ全区間で電波が入る。青木鉱泉付近や鳳凰小屋周辺はsoftbankは入らず。

■行動記録
・1日目(鈴木)
 前日に河野さんの家で前泊し、本日の4時30分頃に府中駅に到着し、府中駅前のタイムズカーシェアで借りた車に乗りこむ。運転手は加藤さんであった。とても安定感のある運転で、車内では会話が弾んだ。就活の話やキレットの話など。双葉サービスエリアで休憩をはさんで、7時過ぎに青木鉱泉に到着した。高速道路を下りてからしばらく進んで、山道に入ると、非常に道が細く、かつ悪くなり、その道を止まることなくするすると通っていく加藤さんの運転に感心し、また感謝した。
 青木鉱泉で靴を履き替えるなどの準備をした後、7時15分に出発した。歩き始めてすぐ、護岸整備された川にたどり着く。川沿いを進んでいくと、大きな堰堤が見える。堰堤の脇の階段を上がると、ようやく本格的な山登りが始まる。はじめは緩やかな登りだったが、徐々に斜度が急になっていく。登山開始から約1時間後のつづら折りの急登はとてもつらかった。
 今回のコースは渡渉する場所がいくつかあったため、せっかく登ってきたのに、沢を渡るために下って、再度登り返すという点も大変であった。また、岩場を登る場所もあった。三点支持を意識しながら登るのは難しかったが、登りきると爽快な気分になった。さらに、崩れた斜面を、トラロープを支えにしながら、トラバースする箇所もあり、そこでは滑落しないかドキドキしながら歩いた。
 なんやかんやで11時30分頃に南精進ヶ滝に到着した。霧が出ていたため、滝自体はほとんど見えなかったが、後から来た登山者に集合写真を撮ってもらった。皆、とても良い顔をして写っていた。
 その後も急登は続き、12時15分頃に五色滝に到着した。そこは滝つぼまで近づくことができる滝で、僕と豊永さんと河野さんは、滝つぼまで下りて行った。五色滝は非常に大きな滝で、迫力がすさまじかった。写真を見るとわかるが、人が米粒のように見えるくらい大きい。自然の雄大さを感じた。僕は一足先に登山道上で待っている加藤さんの元へ帰ったが、豊永さんは滝つぼの近くの沢で登山ウェアを洗っていたらしい。桃太郎に登場する、川で洗濯をするおばあさんさながらであった。
 鳳凰小屋まであと30分という場所では、突然道が開けて、日本庭園のような場所が姿を現した。そこは真ん中を沢が流れ、沢沿いに岩が連なり、それらを森が囲むという場所であった。加藤さんと河野さんが撮影していた、沢の中にペットボトルを立てかけた写真は、天然水の宣伝写真で使えそうなぐらいの出来栄えであった。
 14時前に鳳凰小屋に到着した。小屋の従業員から宿泊に関する説明を受けた後、テント場へと向かう。テント場は全面砂地で寝やすそうであった。2手に分かれてテントを設営した後、小屋でカップヌードルを購入し、ベンチに座って食べた。カップヌードルのカップに鍋から直接熱湯を注ぐという加藤さんの技術が輝いていた。河野さんのカップヌードルだけ賞味期限が切れているというハプニングがありつつも、美味しく食べた。夕食を作り始めるまで、少し時間があったので、トランプで「大富豪」を楽しんだ。2回やって2回とも僕は大富豪になった(自慢)。
 夕食は河野さん作の雑煮であった。餅は保存がきくので、山中の食事に利用できるという話を聞き、僕も今度食当の時は餅を使ってみようと思った。雑煮と言っても僕が思っていたのとは異なり、餅ときんぴらごぼうを甘辛い醤油ダレで煮込んだものであった。河野家では、きんぴらごぼうに牛肉を使うこともあるらしい。僕の家ではきんぴらごぼうに入れる肉は鶏肉だけで、肉が入っていないことも普通だったので、衝撃的だった。雑煮の味は非常に美味しく、下界でも作ってみようと思うぐらいであった。
 食事が終わった後は、翌日の起床時間について話し合った。ご来光が見たいということになり、3時30分出発予定で、2時30分に起床することになった。食事の後片付けや次の日の準備などを済ませ、18時30分頃には床に就くことができた。僕と加藤さんの入ったテントの隣には、僕らが鳳凰小屋に到着した時からずっと酒盛りをして騒いでいるおじさんたちがいたので、眠れるかどうか心配であった。だが、彼らは19時30分頃には静かになったらしく、快適に眠ることができた。

・2日目(河野)
2時半起床。夜はそれほど冷え込まなかったため、低スペックシュラフでも耐えられた。ひどく結露しているテントから顔を出すと、星空が広がっていた。好天が期待できる。
 カシオペア座のもとで少し早すぎる朝食にとりかかる。この日は豊永のスープペンネ。早ゆでペンネにカップスープの素とホワイトソースで味付け。手軽で保存が効いていて味の保証がされている、山に最適な一品である。おいしかったです、ごちそうさまでした。
 結露するテントの撤収に少々てこずり4時に出発。ご来光までに稜線上に出られるよう鈴木くんがペースを調整してくれるが、ペンネの消化が間に合わず「ヴッ」とうめく者や便通を気にする者多種多様でペースは上がらず、ご来光は諦めて寝起きに優しい速度で標高を上げていく。
 夜の色に沈んでいた砂地が鮮やかな朱色に移ろっていく様に思わず声を上げてしまい、良いもの見たしこのまま降りてもいいんじゃないかという声さえ聞こえてくる。
 登山道は徐々に開き始め、砂地の急登に変化した。振り向けば雲海が目に飛び込んでくる。加藤くんと豊永曰く「雪山の直登みたい」とのことで、プチ雪山気分を適度なキックステップで味わう。先頭の良いところは正面を向いた後続メンバーを撮影できることだ。豊かな雲海に背を向けて、前方に長く伸びていく影をたどるように歩みを進めていく3人を撮った。一見の価値が十分にあるのでぜひご覧いただきたい。一方筆者はというと、ルートファインディングを間違え、正規ルート復帰に苦労する醜態を壮大なオベリスクと太陽を背景に撮影される。日はみるみる昇って、筆者が3人を撮ったときは朝焼けの景だったのに、ものの10分後に自分の姿を撮られたときには日は白く影は青く、朝の景に変わっていた。
稜線に出ると数体の地蔵と冷たい強風が我々を迎えてくれる。ザックをおろし地蔵岳山頂の標識を探してオベリスクにむかう。巨岩をよじよじ登っていくと隙間から甲斐駒岳が姿を見せてくれた。どっしりと厚みがあり、左右で均衡のとれた稜線が伸びていてかっこいい。筆者はちゃっかりサントリーの南アルプス天然水ペットボトルを持ってきていたので、甲斐駒をバックに天然水のCMのような撮影をしてふざけた。後日宇多田ヒカルさん出演の本家CMを拝見して謝罪したい気分である。他の登山者に上まで行っても何もないと声をかけていただき、適当なところで切り上げて戻る。「結局地蔵ヶ岳山頂ってどこだったんだろうね」みたいな話をしていたら、サブザックをデポした場所から1分ほどオベリスクを背に歩いた場所に賽の河原とともに山頂標識が立っていて拍子抜けした。
賽の河原の地蔵はいわゆる「子授け地蔵」だ。1体だけ地蔵菩薩ではなさそうな菩薩がいたのが気になるが、江戸時代以降子宝に恵まれない夫婦が山に登って地蔵をこの地に置くということが流行したらしい。つまり近代の山岳画家・吉田博が大正期に地蔵岳を訪れたころにはある程度今のような光景が広がっていたことが想像されるが、こうした地蔵群やオベリスクをあえて描かずに《雲海 鳳凰山》を制作したことはやはり興味深い。
地蔵群は一様に日の出の方を向き、柔らかい表情で雲海を見守っている。筆者も同じ方向を向いて少しの間ながむ。豊永は十数年来の友達であるかのように地蔵とツーショットを撮っていた。めちゃくちゃ良い顔をしている。陽気な婦人にシャッターをお願いし、合掌のポーズで一枚撮っていただいてから地蔵ヶ岳を発つ。出発間際に豊永のキャップが風で飛ばされそうになる。ポニーテールがわずかにそれを食い止める。やはり稜線上では強風に注意が必要だ。
観音ヶ岳へは一度150m程度降りてから山頂まで登りかえす。わざわざ標高を下げることに一同テンションが下がるが、ちょうど見頃を迎えている高山植物も多く、下を向いていても見どころがあって個人的には面白い。観察できたのはハクサンシャクナゲ、タカネビランジ、タイツリオウギ(一番気に入った)、ハイマツの松ぼっくり1年目、その他種類が分からなかったもの多数。
時折簡単な岩登りがあるが、稜線は広くたくさんの巨岩に包まれているため展望の割に高度感はなく、また花崗岩なのでフリクションが利いていてやさしい。
基本的に白峰三山はずっと視界の中に収まっており、ビーナスラインが時間がたつにつれてはっきりと境界を濃くするさまがなんだか好ましい。
「『山と渓谷』に載りそうな光景だね」「タイトルは『今年の夏は南アで決まり!オススメ縦走ルート〇選』ですね」などと冗談を言うくらいのスピードで快調に稜線歩きを楽しむ。美容院で今月の『山と渓谷』が南アルプス特集を組んでいることを知るのは後日になってからである。
恐竜のようないでたちをした松の木を巻いて少し進んだら、鳳凰小屋方向と観音ヶ岳方向の分岐に出る。もともとあったであろう標識は文字が経年劣化で消えかかっているためか新しい標識が立てられていたが、いくら何でも「地蔵ヶ岳 10分」は盛り過ぎだろう。そんな新標識を見て遭難を装った殺人事件のサスペンスドラマの話題になったが、標識をひっくり返したりするのはフィクション上は許されるものの現実問題マジのガチで最低だと思う。
歩いてきた方角を見やるとオベリスクが見えるが、例の砂地の急登が角度60°くらいに見えて、「あんなところを登ってきたのか…」と呆然とする限りである。
観音ヶ岳への登り返しは岩場と砂地が交互に登場するが、赤スプレーで印がまめにつけられており、ルートファインディングには苦労しない。ザックの重みでバランスを崩さないようにしながら適宜植物の枝を利用し登っていく。鈴木くんが『クライミングをたしなむ人の気持ちが分かった』と記した今年7月の谷川の記録を思い出し話題に出したところ、19年度の雪の谷川の話で大いに盛り上がった。
(記録)
遠目から見るとメトロノームのような姿をした鉄パイプの組み物を目指すと、観音ヶ岳山頂だ。三山最高峰の2,840mということもあり、視界は360°の絶景である。甲斐駒仙丈や白峰三山はもちろん、富士山、八ヶ岳、美ヶ原が眼下に広がる。最近『神々の山嶺』を映画マンガともに履修した筆者、「そして―おれは地球を踏んだ」と、かの台詞を安易に使って大興奮である。両手に最高峰と次高峰を望めることも、雷鳥のHPで何度となく目にした「鳳凰三山稜線と遥かなる富士」を見ることができたのも感慨深い。昨日カップ麺をすすりながらエアリアでなぞった南ア全山の一部を視界の俎上に載せると、気が遠くなるような思いがする。43期のみんなにはくれぐれも気をつけて楽しんでほしい。加藤くんは北岳より甲斐駒の方が第二位の品格があると言っていたが、これは前者の正面感が強すぎて立体感や重厚感が今一つ欠けていることが原因ではないかと勝手に推測している。あまりに気持ち良すぎるので、ビンビンの電波を乱用して友人各位に景色自慢したり、鈴木くんにかっこいいポーズをとらせて撮影会に興じたりしていたら、30分以上長居してしまった。
後ろ髪惹かれるように観音ヶ岳を去れば三山最後の薬師ヶ岳だ。「安心感がある」と豊永が形容した山だが、仏像カーストにおいて薬師は地蔵と観音を上回る。山頂は開けたビーチのようだった。穏やかな空とレイリー散乱で青く見える山を海とこじつけて、人のいない隙にHOT LIMITを流す。夏が胸を刺激してくる。薬師ヶ岳は他の山頂より少しだけハエが多いが、群がるだけで刺されたりはしないので良心的である。この夏北海道で夏合宿を楽しむ予定の鈴木くんに、羅臼山頂もハエが多いから心して滞在すべしと助言を送る。山中では各自の思い出の山の話がどこからか始まるのはお決まりであるが、人の山の話を聞くのは私の知らない山や同期を追体験しているようで愛おしい。最近は同期といろんなところに行けてこれも嬉しい。ここでも完全に腰を下ろしてだらだらしてしまった。
薬師ヶ岳からは虚無の2時間50分下山道となる。標高を下げて下げて、ハイマツが針葉樹に変わり、シダ類が再登場し、見た目が近所の公園のようになるまでひたすら降る。基本的につづら折りの急坂で木の幹に執拗に赤スプレーが施してあるため、迷うことはなさそう。起床からずいぶん時間が経っているうえに景色が単調、徐々に気温も高くなってきて集中力が切れ気味になるが、滑りやすい土と露出する木の根と闘うことになるため神経を使う。下りでの辟易具合は写真の数に現れている。メンバーの地元のおすすめスポットやグルメを共有し合ったり、豊永の出身中学がぶっ飛んでいたという趣旨の滑らない話を聞いたりして黙々と下る。鈴木くんがハチに追いかけられて後続を大きく引き離すなどのハプニングはあったが、正しい方向に歩けばちゃんと目的地には着くようで、ドンドコ沢の水の音や昭和大の廃墟を迎えて14時に下山。青木鉱泉までの林道は中学時代に流行った歌の話題などで乗り切った。
1日目朝は涼しいと思った青木鉱泉も、午後2時を過ぎれば下界の暑さである。加藤くんが行きと同じ悪路をクリアしてくれると、そこには日本人なら誰しもが思い浮かべるような懐かしい夏の田園風景が広がっていた。
その後は温泉で汗を流したが、鈴木くんが近くにいた人のアルコール襲撃に遭ってまさかのタイミングで途中退場した。残された41期は前方の居眠り運転トラックに怯えながら都内への帰路についた。

■感想
□鈴木(CL)
・全行程において、雨に降られずに山に登ることができてよかった。特に、2日目はよく晴れており、富士山や北岳、甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳などの山々を見ることができて、非常にテンションが上がった。
・去年の雲取山山行以来の泊まり山行だったので、泊まり装備を持って歩くのが心配だったが、無事歩き切ることができて安心した。
・加藤さんと河野さんには運転してもらったことに感謝したい(僕は、河野さんの運転を見ることはできなかったが…。)
・手指をアルコール消毒するときは、自分の周囲に人がいないかを確認してほしい。

□河野(SL)
・南アルプス山域での登山は初めてだったのだが、期待していた天空のビーチ、オベリスク、賽の河原、雲海を余すことなく堪能でき、満足度の高い山行となった。メンバーのみなさん、一緒に行ってくれてありがとう。
・登山開始前から靴擦れハンデを背負っていたが、ソルボバンが最強のガードをしてくれた。靴擦れに悩まされている方はぜひ試してほしい。
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・豊永が沢山食べているところを見れて嬉しい。
・なんか色々と感慨深い山行で、温泉の休憩室という変な場所でうっかりほろりとくるところだった。山も人間的にも精進します。

□加藤
・天候に恵まれ、遠目にしか見たことのなかった南アルプスの主要な山々を、谷を挟んだ目の前で見渡すことが出来て良かった。遠くに見えた南部の山にも行ってみたいと思った。
・毎回のアルプス泊まり山行でそうだが、下りのきつさを克服するためには体力・筋力が全然足りていないと感じた。

□豊永
・体力増強目的での山行だったが、天候に恵まれて素晴らしい景色を見ることができた。南アルプスに入るのは初めてだったが、非常にいい思い出になった。朝焼けの雲海が印象深い。
・鳳凰小屋の各設備の近さと綺麗さ・水の豊富さに感動した。小屋番さんからまさかの賄いを貰えたりした。(キノコだったが……)
・時間の余裕に甘えて私個人が好き勝手のんびり歩いていたが、もう少し頑張っても良かったかも知れない。同期が多いとどこか気が緩む。
・下界に降り、アルコールで手指消毒をすると、ザレ場や岩場で軽い擦過傷がついた手のひらにいちいち痛みが走る。コロナ禍前にはし得なかった体験だなと昔が懐かしくなった。