2022/8/11-14 大雪山・トムラウシ夏合宿

大雪山・トムラウシ夏合宿計画書 第三版
■日程
8/10 前泊
8/11-8/13(8/14:山中予備日1日) 山中2泊3日〜3泊4日  山行実施予備日8/15・8/16
■山域 大雪山
■ 在京責任者 豊永
助言者 橋本
■在京本部設置要請日時 特段の連絡が無い限り,8/14 18:00
■捜索要請日時 8/15 8:00
■メンバー(計4人)
CL渡邉, SL鈴木, 榛澤, 小唄

■集合
8/9 16:50頃 羽田空港国内線ターミナル集合

■交通
□行き
8/9 JL557 東京羽田1745→旭川1925 14370円 で現地入り。
○0日目
15:11 旭川駅前-(旭川電気軌道バス いで湯号)-17:31 旭岳キャンプ場 1450円
旭岳青少年野営場にて前泊(大人1人500円)。
○1日目
6:00以降15分間隔  旭岳温泉-(旭岳ロープウェイ)-姿見駅 2000円
 □帰り
拓殖バス トムラウシ温泉9:45/16:15→新得駅11:15/17:45 2200円
その日のうちに帯広に向かう。新得駅17:59→18:36帯広駅 特急とかち5号 1600円
その後は道東観光・ハイクをぼちぼち行うが,夏合宿以後に必要な着替えなどは,帯広の郵便局等に局留で送る事。
4名:JL544 8/17 釧路20:15→東京羽田21:55 18470円 にて帰京。

 ■行程 総CT 23:40  42.8km
0日目
秀岳荘旭川店でカート,食料品店で食料の買い出し等を済ませる。余力があれば,動物たちに癒されるべく旭山動物園ピストン。旭川駅〜(車:0:25)〜旭山動物園〜(車:0:25)〜旭川駅

1日目 CT6:20 10km
姿見駅~(0:20)~旭岳石室~(2:30)~旭岳山頂~(1:00)~間宮岳分岐~(0:50)~北海岳分岐~(1:20)~白雲岳分岐~(0:20)~白雲岳キャンプ指定地(白雲岳避難小屋
※余裕があれば,白雲岳分岐より白雲岳にピストン
白雲岳分岐〜(0:40)〜白雲岳〜(0:30)〜白雲岳分岐 (1:10を追加でCT7:30)

2日目 CT 8:15 16.6km
白雲岳キャンプ指定地~(1:00)~高根ヶ原分岐~(2:00)~忠別沼~(0:50)~忠別岳~(0:50)~忠別岳避難小屋分岐~(0:15)~忠別岳指定キャンプ地(忠別岳避難小屋)~(0:20)~忠別岳避難小屋分岐~(1:00)~五色岳~(1:15)~1897m分岐~(0:15)~化雲岳~(0:15)~ヒサゴ沼分岐〜(0:50)〜ヒサゴ沼避難小屋

※気象条件・メンバーコンディションによっては,南沼キャンプ指定地まで向かう(CT10:25),または予備日を使って途中の忠別岳避難小屋の活用を行う。

3日目 CT9:05 16.2km
ヒサゴ沼避難小屋〜(0:35)〜1793m地点〜(0:30)〜天沼〜(1:30)〜北沼分岐〜(0:25)〜トムラウシ山〜(0:15)〜トムラウシ分岐〜(1:30)~前トム平~(0:35)~コマドリ沢分岐~(1:35)~カムイ天上分岐~(0:50)~温泉コース分岐~(1:20)~トムラウシ温泉

■エスケープルート
①間宮岳分岐まで:引き返す
②間宮岳分岐~白雲岳分岐周辺まで:黒岳駅へ(北海岳分岐~(1:00)~黒岳石室~(1:10)~リフト七合目 (計2:10)
③白雲岳分岐周辺〜忠別岳:大雪高原山荘へ(白雲岳避難小屋~(0:20)〜2002m分岐〜(0:30)〜緑岳〜(1:10)〜第一花園〜(1:10)〜大雪高原山荘
計3:10)
④忠別岳~日本庭園:天人峡温泉へ(化雲岳山頂~(1:00)〜ポン沼〜(2:00)〜第一公園〜(1:30)〜滝見台〜(0:60)〜天人峡温泉 計5:30)
⑤天沼以降:そのまま進む
※天候悪化時には白雲岳避難小屋,忠別岳避難小屋,ヒサゴ沼避難小屋での停滞を検討する。

■テン場・避難小屋情報
大雪山国立公園連絡協議会(http://www.daisetsuzan.or.jp/trail-news/hinan/ )に明るい。

・旭岳青少年野営場:1人500円,300人収容,0166-97-2544。
・白雲岳キャンプ指定地(同避難小屋):2020年改築完了。避難小屋利用1人2000円(50人収容),テン場1人500円(80張),管理人常駐,トイレ・水場あり。
※テント泊でも小屋泊でも,事前連絡が必要。
https://www.hakuundake.jp/宿泊事前連絡のお願い
・忠別岳キャンプ指定地(同避難小屋):小屋の収容人数40人,トイレ・水場あり。
・ヒサゴ沼避難小屋:2019年改修完了。30人収容。トイレ・水場あり。
・南沼キャンプ指定地:20張,トイレなし・携帯トイレブースのみ,水場あり。

■地図
25000分の1地形図:「旭岳」「層雲峡」「白雲岳」「五色ヶ原」「トムラウシ山」「オプタテシケ山」
山と高原地図:「大雪山・トムラウシ山・十勝岳・幌尻岳」

■遭難対策費
山中2泊 400円×4人
計1600円

■共同装備
テント
・ステラリッジ1(渡邉私物):榛澤
・ステラリッジ4No.2:小唄
鍋(雪・月):鈴木
ヘッド(緑7・9):渡邉
カート×3:鈴木(現地で購入)
クマスプレー:渡邉 佐川急便にて送り,旭川駅の営業所で受け取り。
浄水器(ソーヤーミニ):渡邉
ラジオ:渡邉
救急箱(有紗):渡邉
調理用具セット(ディド):鈴木

■個人装備
□ザック □ザックカバー (□サブザック □ザックカバー) □雨具 !!□防寒具!! □登山靴 □替え靴紐 □スパッツ □ヘッドランプ
□予備電池 □地図 □コンパス □非常食 □行動食(4日分) □マット □シュラフ □ポリタンorプラティパス □ゴミ袋 □コッヘル □ブキ
□トイレットペーパー!!  □ライター □計画書 □筆記用具 □常備薬 □学生証 □現金 □新聞紙 □軍手 □着替え □温泉セット
□モバイルバッテリー □遭難対策マニュアル(緊急連絡カード含む) □健康保険証 □日焼け止め □レスキューシート □携帯トイレ!! □熊鈴
□ラジオ □天気図 □感染症対策グッズ (□歯ブラシ) □運転免許証(持っている人のみ)   (□カメラ)

※南沼キャンプ指定地は携帯トイレブースのみ設置。
※本州の3000m級と同程度,あるいはそれ以上の防寒が必要。7・8月でも最低気温が氷点下になることがある。
※行動食,水,食当の用意は現地調達可能である。
※水は多めに持っていく。最低でも1人4~5Lは持つ。
※観光で用いる不要な装備は,旭川にデポor帯広の郵便局に局留で郵送。

■食当
1朝 各自
1夜 鈴木
2朝 榛澤
2夜 小唄
3朝 渡邉
(3夜・4朝 各自)

■備考
□日の出・日の入
8/10 トムラウシ山
日の出:4:28 日の入り:18:40
□ラジオ
NHKラジオ第一 621kHz(旭川)
NHKラジオ第二 1602kHz(旭川)
□警察
・旭川東警察署 0166-34-0110
・同 東川駐在所 0166-82-2154 (旭岳温泉,天人峡)
・同 層雲峡駐在所 01658-5-3016 (層雲峡)
・新得警察署 0156-64-0110 (トムラウシ)
□悪天時
前日中に判断。後半の日程に多少ゆとりがある為,数日程度の順延も検討する。また,旭岳のみの登山等に切り替えることなども検討する。

□エスケープルートの交通手段
・旭岳温泉に引き返した場合
 姿見駅-(旭岳ロープウェイ)-旭岳温泉  15分間隔,17:30最終便,2000円
 9:30/12:00/15:30/18:00 旭岳-(旭川電気軌道バスいで湯号)-11:00/13:30/17:00/19:30 旭川駅   1480円
・黒岳駅へ下りた場合
 7合目-(ペアリフト)-5合目 17:30最終 ロープウェイとセットで1900円
 黒岳駅-(ロープウェイ)-層雲峡駅 6:00~18:00  20分間隔1400円

層雲峡(6:20/7:45/8:40…15:40//17:30(最終))-(道北バス層雲峡・上川線 )-旭川駅(8:15/…/19:25) 2140円
・大雪高原山荘に下山した場合
 層雲峡温泉までタクシー40分
・天人峡温泉に下山した場合
 美瑛or旭川へタクシー,約1時間,1万円
 又は,国立公園入り口まで7km歩き,そこからバス(9:50/12:20/15:50/18:20
旭岳-(旭川電気軌道バスいで湯号)-11:00/13:30/17:00/19:30 旭川駅   1100円)
□温泉
・大雪山白樺荘(旭岳温泉) 営業時間13:00~20:00 800円 0166-97-2246
・トムラウシ温泉国民宿舎 東大雪荘 営業時間12:00~20:00 700円 0156-65-3021
□参考
■過去記録
2014年度記録
2017年度記録
2018年度記録
2019年度記録
■交通情報
・旭岳線 http://www.asahikawa-denkikidou.jp/asahidaek_line/
・旭岳ロープウェー運航スケジュール http://asahidake.hokkaido.jp/ja/#SCHEDULE
・黒岳ロープウェー https://www.rinyu.co.jp/kurodake/
・白雲岳避難小屋 https://www.hakuundake.jp/
・十勝総合振興局「ヒサゴ沼避難小屋の利用について」
https://www.tokachi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/kks/sizen/yama/hisago/Shelter.html
・拓殖バス トムラウシ温泉線 https://www.takubus.com/%E3%83%88%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%B7%E6%B8%A9%E6%B3%89%E7%B7%9A/
■クマ対策
知床財団 https://www.shiretoko.or.jp/higumanokoto/bear/bear1/
■過去の遭難事例
トムラウシ山遭難事故調査報告書 http://www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf

□コロナ対策 ※[raicho_all:461]
1. 遭難などの緊急時を除き、山小屋の使用を控える。
2. 長期休暇中は平日の活動を中心にする。
3. 山頂付近などの人が多いところでは長時間滞在しない。
4. 最大10人以内のパーティーとする。
5. 常に、パーティー内の連携を損ねない範囲で十分に距離を取る。
6. マスクを常用する。
7.水や食料は事前に購入しておき、登山山域での買い物を控える。また下山後の会食も控える。
8. テント内の人数は定員の半分程度とし、余裕をもって使用する。
9.メンバー全員が当日朝検温して担当者に提出。山行前の体調管理はしっかりと行い、少しでも風邪の症状がある場合は参加を控える。

大雪山・トムラウシ夏合宿記録
編集:渡邉
作成:メンバー各位
■日程 2022/8/11~14 前泊8/10
■山域 大雪山系
■天気 
8/11 快晴のち晴れ
8/12 霧時々雨 強風を伴う
8/13 快晴のち雨
8/14 霧のち晴れ
■メンバー(オーダーは時折変更,敬称略)
CL渡邉, SL鈴木, 榛澤, 小唄
■総評(渡邉)
・行程は多少変更したものの,どの瞬間をとっても代えの効かない山行となった。この山域で,このメンバーで本当に良かったと心から思う。北海道はいつでも,両手を大きく広げてあなたを待っている。

■変更後の日程
□1日目
姿見駅~(0:20)~旭岳石室~(2:30)~旭岳山頂~(1:00)~間宮岳分岐~(0:50)~北海岳分岐~(1:20)~白雲岳分岐~(0:20)~白雲岳避難小屋(計6:20)
※小唄・榛澤は避難小屋から白雲岳ピストンをした為,白雲岳避難小屋〜(0:30)〜白雲岳分岐〜(0:20)〜白雲岳〜(0:30)〜白雲岳分岐〜(0:20)〜白雲岳避難小屋を追加し,計8:20。
□2日目
終日白雲岳避難小屋に停滞。
□3日目
白雲岳キャンプ指定地~(1:00)~高根ヶ原分岐~(2:00)~忠別沼~(0:50)~忠別岳~(0:50)~忠別岳避難小屋分岐~(1:00)~五色岳~(1:15)~1897m分岐~(0:15)~ヒサゴ沼分岐~(0:20)~1793m分岐~(0:30)~天沼~(1:30)~北沼分岐~(0:25)~トムラウシ山〜(0:15)〜南沼キャンプ指定地(計10:10)
□4日目
南沼キャンプ指定地~(0:30)~トムラウシ山頂~(0:15)~南沼キャンプ指定地~(1:30)~前トム平~(0:35)~コマドリ沢分岐~(1:35)~カムイ天上分岐~(0:50)~温泉コース分岐~(1:20)~トムラウシ温泉(計6:35)

■タイムスタンプ(鈴木)
・1日目
6:15 姿見駅発
6:37 旭岳石室着
6:41 発
8:11 旭岳着
8:49 発
10:05 荒井岳着
10:08 発
10:37 松田岳着
10:40 発
10:45 北海岳着
10:57 発
12:41 白雲岳避難小屋着
(以下小唄・榛澤)
13:35 白雲岳避難小屋発
14:21 白雲岳
15:25 白雲岳避難小屋着

・2日目
終日白雲岳避難小屋で停滞

・3日目
3:06 白雲岳避難小屋発
6:07 忠別沼着
6:10 発
6:41 忠別岳着
7:07 発
8:38 五色岳着
9:02 発
10:03 化雲岳着
10:17 発
11:18 天沼着
11:31 発
13:45 トムラウシ山着
14:13 発
14:50 南沼キャンプ場着

・4日目
4:54 南沼キャンプ場発
5:31 トムラウシ公園着
5:35 発
6:03 前トム平着
6:10 発
6:51 コマドリ沢分岐通過
8:20 カムイ天上通過
10:12 トムラウシ山登山口

■ルート概況(渡邉)
既に詳細な概況は過去記録や各種サイトに転がっているが,我々が特筆するとすれば,
①旭岳〜裏旭キャンプ場の急な下り坂→砂地であり,重装備では非常に滑りやすいので要注意。
②ロックガーデン周辺→ペンキ・テープが非常にわかりづらいので,平生でもかなりRFがしづらい。天候不良時ならなおさらか。その上バランスを崩すと,比較的大きな怪我に繋がりうる。
③トムラウシ公園以降の岩場→ロックガーデン様の岩場が広がるので,バランスには気を付けたい。

■避難小屋・テント場情報(渡邉)
各種サイトを見て頂ければ推察出来ると思うが,縦走路の小屋テント場事情は,19年までのそれと大きく異なり,有志の方々のお陰でかなり利用しやすくなっている。

①白雲岳避難小屋→2020年改修完了。以下の記録(とりわけ停滞日)を読んで頂ければ伝わる事だが,避難小屋泊としては快適この上ない。テント場もよく整地がなされている。小屋は管理人常駐の上,今回は煮沸不要の水場,暖かく綺麗な内部,携帯トイレ不要のトイレ……。挙句小屋内には金カムやナウシカ,神々の山嶺等の漫画も置いてあり,停滞にはもってこいである。電波は,ブースターのあるau,docomoが,美瑛側の限られた場所で使える。4Gで電波が1〜2本立つ程度。また我々の訪問時,ヒグマが毎日のように出没し,実際に我々も出会した。
②ヒサゴ沼避難小屋→2019年改修完了。今回は結局使用しなかったが,外装が綺麗になり,泊まりやすくなったようだ。
③南沼キャンプ指定地→後述するが到着するや否や豪雨が降った為,あまり歩き回れていないものの,2019年設置の綺麗な携帯トイレブースが整えられている。過去記録等から伺える地獄の様相については,今や存在せず,割と普通の幕営地と言って良いと思う。
 また水場については,到着時枯れていたが,豪雨ののちに,本当にちょろちょろと流れ出したので,運良くこれを我々は活用した。基本的には枯れていた場合は,飲み水は持参した物で代用し,追加の水は南沼ないし北沼まで汲みに行くこととなるとみられ,それらは調理用に活用することになるだろう。
 さらに雨が降ると,標高の高い幕営地から携帯トイレブースのある低い地点へ通じる道は,水没して使えなくなった。予め天候を見越して,幕営する場所を考えておくことを勧める(我々は考える暇なく豪雨に襲われ,惨めな事になった)。なお電波はau,docomo,softbank全てのキャリアで入った。

■その他補足情報(渡邉)
①観光・不要な荷物は,旭川駅構内の郵便局から,釧路中央郵便局へと郵送し,局留した。私の機内持ち込みが可能なサイズ感のキャリーの場合,1400円程度で済んだので,我々のように帯広釧路を観光するような,旭川に戻るつもりのない計画を立てる場合は,こうした手段も検討されると良いかもしれない。
②熊スプレー*1・カートリッジ*4は旭川秀岳荘で調達後,帰る前に車で佐川急便釧路営業所に立ち寄って,東京へ送った。ガスの類を送れるのは,佐川急便くらいであるらしい。送料は1385円だった。
③水場の状況によって,必要な水の量は大きく変わるので注意が必要。我々の訪問時,白雲岳の水が綺麗であり,そこで飲用水も調達する事が出来たので,2・3日目の飲用水さえ確保出来れば問題はなかった。メンバーは当初1人5L程の水を持ち,南沼の時点で2.5~3Lの飲用水を持っていたが,そのような塩梅で十分だろう。しかしながら,水場が枯れていたりすれば話は違うので,情報収集に努めよう。
④白雲岳避難小屋にいる方々は,大体トムラウシ方面に抜ける方々だ。今回も,そこで出会った人々との間で,停滞等の情報収集や,その後の縦走路,果ては新得駅まででお会いしたりすることなどによって,大変有益な交流があった。
⑤停滞判断について。避難小屋に泊まった8割位の方々は,結果として忠別ORヒサゴ沼に抜けていったが,我々は結局停滞をした。風雨がそれなりに強かったという前提の下,翌日の天候の好天が見込まれ,かつ行程に予備日がありゆとりがあるのに,わざわざ景色を犠牲にして強行する必要はないという事や,避難小屋の居心地が良過ぎた事,事前にメンバーが長丁場に対応可能なトレーニング(20kgを担いて20kmを歩行する)をしている事を踏まえ,停滞を決めた。歩けたかとは思うのだが,結果として,これは正解だったと思う。歩いて高根ヶ原の景色を犠牲にするか,停滞してトムラウシの眺望を犠牲にするかだったら,後者で良いと個人的には思う。
⑥結局宿泊地は全て電波が入ったので,天気図は書かなかった。ラジオは甲子園中継に使われた。
⑦白雲岳避難小屋に現れたヒグマの様子は,偶然同じくここにこの日に泊まっていたヤマケイオンライン昆野氏の記事に詳しい( https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=2039 )。

■山行記録・山行記
□0日目(渡邉)
 観光要素が多分に含まれている日だが,後々の行程にかかる所があるので,触れておく。

 前日に旭川に到着し,ジンギスカンを平らげた我々は,折角なので午後まで富良野美瑛へ足を運ぶことに。
 朝6:00,旭川駅前のタイムズカーシェアに予約していた車を運転……するはずが,スペースに車が無い!センターに電話をすると,システムの手違いで,これが配車されていないらしい。こういう事が直前に起こってしまっては,旅程が崩れてしまうので本当に困る。スペース前で途方に暮れていたものの,近くのパーキングで,10時まで空車のものを小唄が見つけ,虚無のままではいられず,それで弾丸で繰り出すことに。小さめの車だったので,慌てて駅のロッカーに荷物を預け,出発。
 ジェットコースターの路を超えて,美瑛の丘を眺めて,青い池にまずは向かう。中々青い。小唄「(青くない所を指して)ここの色は,三四郎池みたいっすね」。コラーーッ!
 滞在時間10分ほどの弾丸っぷりで,次に富良野のラベンダー畑へと向かう。残念ながら花の見頃は過ぎていたが,車が通る度にさわやかな香りがしており,それだけで気分が上がる。尚この時,土砂降りの雨が降り始め,気分が乱高下。
 匂いが嗅げればヨシ!地元旭川大高校が大阪桐蔭と戦うアツい甲子園を聴きながら(序盤はリードしていたが,惜敗。面白い試合だった),9時頃に早々と撤収を始め,私は開店間際の秀岳荘で降ろしてもらい,それ以外は旭川駅まで戻り,各種品を買い始める。私はカート・熊スプレーを調達の後,バスで30分程で旭川駅へ。
 どんどん天気が良くなる昼下がり,昼飯に蜂屋で旭川ラーメンを平らげ,続いて薬局で各種薬品,駅前のイオンで食事を購入。前者については現地で救急箱を開いた所,中身がかなりカビていたので,急ぎ購入する事となった。管理,しっかりしましょう……。そして駅構内でパッキングを行なっていたら,結構な時間になって一同焦る。不要な装備は今回は,旭川駅構内の郵便局から釧路中央郵便局まで局留で郵送した。
 ドタバタ直前まで準備をしていたので,当初の観光たっぷりのつもりのレンタカーの予約が取れず,結果オーライだったのでは……との意見も囁かれる中,15時過ぎ,いで湯号に乗車。バスは爆睡する我々を他所に,何ということもなく道を進み続け,17時半頃,旭岳キャンプ場バス停に到着。
 歩いて数分,青少年野営場到着後,気さくな管理人さんに受付をして頂き,その時点で開いている温泉,ケイズハウス北海道をご紹介頂く(〜19:00営業)。そして,野営場ではWi-Fiも利用出来るらしく,利用はルーターの設置されているトイレで行うらしい。……トイレ?
 急ぎ幕営し,風呂セットを持って野営場を出ようとした途端,とってもびっくりした事に野生の森さん(OG・42期)が飛び出して来た。お話を伺うに,ここまでお友達とトムラウシ短縮登山口からエスケープして天人峡へと抜けてこちらにいらして,明日旭岳を落とそうか迷っていた中,「あれ,雷鳥の夏合宿と被っているのでは?」と思い,もしやと思い野営場に向かう中で,まさかの遭遇という流れらしい。そんな事ある?向かいのログハウスに泊まられているという事で,幕営している我々との格の違いを見せつけられつつ,後程野営場で合流する事をお話しして,写真もちゃっかり撮って,我々は風呂場へ。
ケイズハウスはこの辺りの日帰り入浴施設では一番安く,800円。受付近くの売店には登山で使えそうなメシ,冷食が多くラインナップがあり,野営場の晩飯で贅沢したければ,ここで追加調達するのも悪くない(行動食の調達を当てにするのは,不確実なので避けるべきだが)。
 肝心の風呂場は,広い。温度の違う内風呂2つ,露天風呂1つ。山行前に風呂に浸かっているのが不思議な気分である。極楽極楽。風呂上がりに近くにあった卓球台で元卓球プレイヤー榛澤の魔球が炸裂し,売店でサックラ500mlを調達した所で,野営場に戻る。
 晩飯は,小唄&榛澤による,イオンで調達した北海道産野菜・ウインナーのポトフとネオバターロール。たくさんのキャベツ・にんじん・じゃがいもと,650gのウインナー入り。……そんな量ウインナー要らねえよ! と思ったら,大食漢の小唄&榛澤がみるみるうちに平げる。鈴木も,このアホポトフをモリモリ食っている。食が細いの僕だけか?
炊事場で,渡邉&小唄はサックラを飲みながら食事をしている中,森さんともうお一方がいらっしゃる。行程のあれこれについてや,世間話,アホポトフ食べませんか?という事などを話し,明日は同じ始発のロープウェイに乗ることとなった。
 ほわほわしながら床に就こうと幕営したテントの中で,小唄が携帯の充電口に砂利が入って,充電ができない状況にあることに気づき,一同ギョッとする。あれこれしても改善せず,森さんにダメ元で端子を突ける安全ピンをお持ちでないか伺った所,なんとなんとテントまでお持ち頂く。夜分なのに本当にありがとうございました……。無事砂利は取り除けたようである。層雲峡の花火大会の音が遠く響く中,就寝。炊事場近くに夜遅くに別パーティーが到着して,やかましく作業していた。少し離れた所で良かった。

□1日目(渡邉)
 4時起床。外はかなり薄い霧がかかっているが,青空が広がっている。よく分からない無数の虫がホバリングしており,空に虫が瞬き,羽音がそこそこする。各自勝手にパンやらなんやら朝飯を食い,急ぎ撤収。夜に通り雨があったので,テントが少し濡れている。時間が余ったので,先述したトイレ内のルーターを使い,停滞日に備え「ウヨンウ弁護士は天才肌」をダウンロードしておき,5時過ぎに野営場を出る。
 15分ほど歩けば,ロープウェイ乗り場に着く。既に5人くらい並んでいる。5:45位に自動ドアが開き受付,後ろを並ぶ森さんら一行にも軽く会釈。6:00発に乗り込む。
 ロープウェイからは,晴れていれば多くの湖沼と広がる林野,雲海を望むことが出来る。我々は,バッチリ望んだ。
 ロープウェイを降りると,道警の方々とそのゆるキャラが,山の日を記念して,山岳遭難啓発の為のポケットティッシュを配っていた。そうか,今日は山の日だった。外は快晴そのもの,モコモコのゆるキャラも,何がとは言わないが暑そうだ。
6:30前に出発,10分ほど進めば,眼前に姿見の池が広がる。モクモクと湯気が立ち登る中,手前には青々とした池,奥にはずっしり聳える旭岳が。
 石室を超えると,延々と九十九折の急登が続く。トップを歩く私はゼエゼエハアハア言っているが,後ろの3人はやれ進振りだ,成績だと快活に話している。何なんだ。それでもCT比140%くらいで巻いているらしい。
 だんだん高度を上げていくと,これから我々が歩くことになる果てしない縦走路が見えてくる。北海岳や白雲岳が,ひょっこり顔をのぞかせている。後ろを振り返れば,姿見の池がどんどん遠のいていく。左手には,えぐれた地獄谷が。ただ眼下の雲が,少し湧いてきた。
 私にとっては,旭岳直下200m程の急登がかなり堪えた。あいも変わらず他の3人はぺちゃくちゃ喋っているし,ゼーハー言う私に話しかけてくるので,「YES NOで答えられる質問以外禁止!」と言うと,小唄が「ウミガメのスープしか無理じゃないですか」と言うので,「ウミガメのスープはァ……俺がァ……質問考えなきゃいけないのでェ……無理……アキネーターならやりますゥ」と答えた。結局,ウミガメのスープもやらず,アキネーターもやらず,ただ私のゼーハー音が,旭岳にこだまする。
 それでもCTを1時間ほど巻いて,8:11,北海道最高峰・旭岳山頂に到着。十勝岳の方面は雲に隠れ見えなかったものの,それでもそれ以外が全て窺える。稜線はいずれも大きくたおやかで,このスケール感に度肝を抜かれる。そしてその全貌を我々に見せた,果てなく続く縦走路。……長い。
 今回の最高峰ではあるが,長く続く縦走,実はメインはここからである。手堅く写真を撮って,8:49出発。
 一番キツかったのは,旭岳出発直後の,急な下りである。細く,急峻な砂地で,足を置く岩もなく,滑って滑って仕方がない。慎重に慎重に歩を進め,降り切ると,右手には雪渓が。ここをシリセードして降りたかった。軽く雪合戦をした所で,出発。
 裏旭野営場を超えると,間宮岳への登り返しが始まる。緩やかなので大したことはない。
 間宮岳に着くと,そこはもうお鉢平の上だ。ちなみに間宮岳の名前などから粗方推察できるように,間宮林蔵や松田市太郎など,大雪山系のあれやこれやに貢献した人々の苗字が,この辺りの山名の由来になっている。お鉢平の中央には有毒温泉からの湯煙がモクモクあがり,気持ちの良いお鉢巡りが始まる。そしてこの頃から,南西方面から時折体感10~15m/sくらいの強風が吹いてくるようになる。
 北海岳を超えると,高山植物が多数広がっている地帯となる。植物の知識を一ミリも持っておらず,知ったかぶりをする訳にも行かない為,しきりに「一面のナントカ畑,綺麗だね」と言っている。最初に我々が出会したのは,チングルマの花が咲いた後の姿であろう。その後もリシリリンドウやイワギキョウ,エゾヒメクワガタ,ウコンウツギなどの,青・紫・黄の鮮やかな花々に出会い,心をときめかせる。私にだって,ちっとは花を慈しむ心があるのだ。構造土地形が目立つ平原を歩き続けると,遠くにあったはずの岩峰・白雲岳が,どんどん間近に迫ってくる。のしのしと歩を進める中で,ここですれ違った登山者に「白雲岳,出たよ……」と言われる。ここで「出る」のは,もちろんアイツである。ギョッとする。事前にアイツが毎日のように出没している事は仕入れていたが,今日もである。気を引き締めねば……。
 そして雪渓からの流れの渡渉ポイントがあるが,素人目に見れば,そこから下を見ると,U字谷のような地形となっており,その谷底を水が流れている。色々とサイトを調べたものの,氷食によるものなのか火山性のものなのかどうか,あまり断定的な記述が見つからなかった。個人的には,前者のような気もするが……。
 そこを超えると,緩やかな登りのゴーロ帯となる。ここにたくさんのナキウサギがいるらしい。榛澤はナキウサギをむちゃくちゃ楽しみにしていたらしく,見るまで帰らないと言っている。これはビバークか?
 しばらく耳を澄ませていると,ピーピー岩陰から鳴き声が聞こえる。すると,私はベージュ色の動物の姿が岩から飛び出してくる姿を一瞬,捕捉できた。かわいい。他の皆は見えなかったらしい。その後5分くらい粘ったものの,声は聞こえても姿は見つからない。ここからもポイントはいくつもあるので,一旦ここは諦めることとする。
 白雲岳分岐に着くと,ゴツゴツした白雲岳がいよいよ眼前に聳える。クマも出た事だし,とっとと避難小屋に行って場所を取りたかったので,先にそちらへ行く事とする。
登山道を降りていくと,5分弱ほどで赤い壁の家が見えてきた。ああ,本日のお宿である。すると下から上がって来た登山者が,「さっきさ,そこいたんだよ……クマ。俺のすぐ横に顔出してた笑。今茂みの中いるから,ちょっと待った方が良いよ」と話す。さあ,どうする。いよいよ想定していた局面がやって来た。
 避難小屋まではあと10分もない場所だ。とりあえず5分くらい待ってみる。とりあえずクマスプレーを,トップの私が手に持ち,噴射可能な状態にする。とりあえず我々がいる事を示すべく,布袋寅泰の「新・仁義なき戦いのテーマ」をしっとり流す。この為今やこの場には,仁義がない。
 ガサゴソ言わなくなったので,歩き出してみる。すると鈴木が,「あ〜いるいる!!」と言って,みんなビビってゆっくり引き返す。トップの私はその姿を窺えなかったが,10m先にクマを見つけたらしい。嘘でしょ!?仕方がないので,また5分くらい待つ。今度は布袋の「バンビーナ」が流れる。私たち,一体いつになったら小屋に辿り着くのだろうか。
 すると小屋方面から,ソロ登山者がやってくる。デカい声で,クマが出没した旨伝えると,「え〜〜!」と言いながら,ストックで音を立てながら,足早に出没ポイントを抜け,こちらの方にやって来た。少しお話をすると,朝にも小屋にクマが出没していて,先程の登山客と私たちの目撃情報を総合すると,小屋の方々が認知していない別個体の可能性があるらしい。だから,小屋の人に報告しておいてと,その方に頼まれた。恐ろしい。
その方が通り抜けられたのが自信に繋がり,我々も間髪入れずそそくさと抜けていく。「食べても美味しくないぞーー!」「やめてくれーー!」と弱腰に呟きながら,早足で行く。食べて美味しいかどうかは,先方が判断する事なのだが……。仁義,ここにあり。なんとか小屋に辿り着いた。
 クマが怖過ぎたので,迷わず避難小屋泊に切り替え,管理人さんに出没をご報告。1人2000円と,協力金1000円を支払って,可愛い手ぬぐいを入手。ヒグマがあしらわれている。そこだけ怖い。中は本当に綺麗で,備え付けの本棚には,漫画が充実している(金カムは一部欠けており,牛山の迫力の戦闘回などのおこぼれが生じる)。
 その後,私と鈴木は避難小屋でまったり,榛澤と小唄が白雲岳ピストンをする事になった。必要なものを渡した上で,彼らを見送り,我々は水を汲んだり,甲子園を聴きながら外のベンチでコーヒーとお菓子でまったり。トムラウシまでの縦走路が良く見える。日差しが暖かく,風も程よい。もう一生このままで良い。
 15時半過ぎに白雲岳から2人が戻って来てから,炊飯・調理を開始する。今日は鈴木の麻婆春雨である。炊飯は私が担当したが,上手く出来た。締めはワカメスープで鍋を綺麗にする。
 17時前にヤマテンの更新が掛かったので確認すると,やはり明日は荒れるらしい。行けそうであれば忠別岳まで行くが,基本的には終日停滞にする事をメンバー内で話し合って決め,最早何も考えずに寝るだけになった。周りの話に耳を傾けると,忠別まで行くつもりの人が多いらしい。
 外を見ると空が赤くなって来た。段々とその塩梅が強まっていくので,皆さん外に出る。趣のある私と小唄も,外に出てその様を目に焼き付ける。
外は生き生きとした雲が靡く中,燃えるような夕焼け。トムラウシまでよく窺え,管理人さんらも中々見たことのないという美しさである。本当に明日,天気が荒れるのだろうか。
 寝る直前,2階の僕らのテリトリーが他の方々のそれよりも著しく狭かったので,早朝出の人々が集う1階に2人が移動して,20時就寝。一応5時くらいに起きてみる事にした。ふと目覚めた23時前,ゴウゴウと風雨が強まっているのを感じる。

□2日目(榛澤)
 この日は天気予報を聞いて白雲岳避難小屋に停滞することを前日に決めていたので,長く寝ているつもりではあった。しかし就寝時間が20時ほどだったこともあり,早くに起きてしまった。外を見ると霧がかかっており風も強かった。雨も少し降っていた。いくつかのほかのパーティは出発の準備をしていた。
 我々はゆっくりと朝食をとり,そして暇になった。気の利くメンバーがトランプを持ってきてくれたので大富豪をやってみる。なかなか楽しく,時間をつぶすことができた。その後は各自思い思いに過ごし始める。事前にダウンロードした映画を見たり,小屋においてあったゴールデンカムイを読んだり,ipadで将棋をしたり,,,等々。中でも印象に残っているのは,我らの尊敬する先輩であり雷鳥の誇り,渡邉氏のすべらない話である。今後,渡邉氏とともに山に行く方々は,ぜひ期待していてほしい。氏の機嫌がよければ話してくれるであろう。
 そんなこんなで時間は経過した。次の日朝3時に出発する予定だったので,早めに夕食をとり,就寝。二日目を終えたのだった。

□3日目(小唄)
 2時に起床。こんな時間に起きてくる宿泊客は他になく,他の宿泊客の方々を起こさないように静かに撤収作業と朝食の準備を行う。僕以外の方々のヘッドライトは光量の多段調整が可能で,赤くて広がりずらいぼんやりした発光モードがあり,光の漏れの心配はなさそうであったが,僕のヘッドライトは光量調整が二段階しかなく,弱でも煌煌と光を放ってしまい他の宿泊客に光が当たってしまわないようにかなり気を使った。朝食はサッポロ一番の塩ラーメンであった。さすがは本場の味,と言いたい所だがサッポロ一番はどこで食べても同じ味。実家のような安心感すらある。
 目標通り3時に行動を開始する。この時間は周囲は真っ暗で,ナイトハイク気分を味わうことができた。我々の進行方向である南の夜空には(ほぼ)満月が輝いていた。少し歩くと前日の雨でぬかるんで泥だらけになった道がお出迎えした。たまらずスパッツを履くために小休止をとったが,これは予想できたことなので出発時に履いておいてもよかったのかなと思った。そんなこんなで歩いていると,地平線から太陽の光が漏れだして少しずつ登山道の回りの地形や様子が分かるようになってきた。登山道は高根ヶ原の広大な平地を突っ切るように伸びており,こんなに広い平地が奥深い山の中にあることに関東の山との違いを感じた。もし,この高原が関東にあったら牧場にでもなっていそうなものである。そして,この道すがらDJ渡邉がBGMとして選んだ曲はBase ball bearの「yoakemae」。状況とマッチしてなんだかエモい。今ならこの広大な高根ヶ原でヒグマと野球ができる気がするぞ。
 4時ごろからはベストビューでの日の出を捉えることを意識しながら歩くが,太陽が出てくると思われる方角の空は山が邪魔でみることができない。この邪魔な山を視界の左側に追いやるように,日の出を見るのに最高のロケーションを求めてそそくさと歩いていく。高根ヶ原分岐を少しすぎたあたりで完全に視界がひらけ,遠くの山間には雲海が広がる理想的な日の出鑑賞スポットを発見する。そこでザックをおろし,コーヒーを飲むためにお湯を沸かしながら,日の出の瞬間を待った。4:30,いよいよ日の出の瞬間。美しい朝日を見ながら飲むブレンディスティックは格別だ。美しい朝日,さらに,ここは北海道である。思わず仁王立ちで太陽を指さしながら言ってしまった。「少年よ大志を抱け」と。
 30分近い長めの休憩を終え,5時頃再出発した。これまで歩いてきた高根ヶ原の平坦でひらけた道とは打って変わり,忠別岳までのアップダウンが続く道はハイマツが生い茂っており,ハイマツをかきわけて進んで行かなければならなかった。ハイマツだけでも十分テンションは下がるのに,水はけも最悪なようで泥に足を突っ込みながら歩いていかなければならない。我慢して進むと一瞬ひらけた場所に出て,一安心するがまたすぐにハイマツ帯に吸い込まれていく。この一喜一憂を何度となく繰り返し,6:41,ようやく忠別岳に到着する。忠別岳は西側が断崖絶壁になっていて,落ちたら確実に死ねる。転落しないように気を付けて,崖下を覗き込むと,遥か下の方に森が広がっている。さらに,崖の急斜面上を走るエゾリスを発見した。懸命に生きている感じがしてかわいい。
 7:07,忠別岳を出発。忠別岳からの下りも上りと同じくハイマツと泥が邪魔をする。それだけでなく,日が昇り気温が高くなってきたせいか,ハイマツをかき分けるたびに巻き上がって飛ぶ虫の量が尋常ではなくなってきた。あまりの虫の量に先頭を歩く渡辺さんは奇声を上げ始める。それがパーティ全体に伝播し全員意味をなさない叫び声をあげる。傍から見たらヤバすぎる光景だが,他の登山客は全く見当たらないので耐えてるはず。また,途中でハイマツが生い茂るせいで,トレースが分かりにくい箇所があり,5分程度登山道を逸れた道を歩いてしまった。鈴木さんがgpsの位置情報からそれに気づきすぐに引き返すことができたので大きな問題にはならなかったが,注意深く歩く必要がある。更に歩くと,忠別岳避難小屋分岐に辿り着いた。忠別岳避難小屋は遠目から見る限りではとてもきれいで,最高だった白雲岳避難小屋とも遜色ないように見える。しばしの小休止を終え,五色岳に向けて再出発をする。この道も変わらずハイマツが生い茂り,景色も望めないのでひたすら無心で歩いていく。まだ8時頃だが既に5時間程歩いているのでそれなりに疲労感も感じてくる。8:38,五色岳山頂に到着。
 五色岳から化雲岳分岐までの木道は平坦で歩きやすい。五色ヶ原に咲く花々を観察しながら気分上々で歩いていくが,道中,木道の上に鎮座するヒグマの糞を発見してしまう。白雲避難小屋付近をうろついていたヒグマのことが思い出され,気を引き締め直す。ヒサゴ沼分岐~化雲岳のピストンは,熊を呼び寄せてしまう恐れがあるので,デカザックをデポしたい気持ちを抑え重装のままで行った。化雲岳山頂では電波を拾えたので,天気などを確認した。
 ヒサゴ沼分岐からは基本的にずっと岩礫地で,ペンキの印から離れないように岩と岩を飛び移りながら歩いていくような気を抜けない登山道になる。こうした岩場はナキウサギの絶好の隠れ家となり,そこら中からナキウサギのかわいい鳴き声が聞こえてくる。しかし,声は聞こえるものの,なかなか警戒心が強いようで,声を聞いてから探し始めてもなかなか目で捉えることはできない。メンバー同士で発見したナキウサギの数でマウントを取り合いながら歩いていく。天沼に到着し,小休憩をとる。
 天沼を出て暫くで日本庭園と呼ばれるエリアに差し掛かるはずなのだが,ほとんど景色に変化がなく,日本庭園は既に通り過ぎてしまったのか,それともまだ到達していないのかメンバー間で議論になる。改めて地図を確認すると,やはり今いる地点が日本庭園であるので周囲を再び観察して,日本庭園に見えなくもないという見解をまとめ納得することにした。正直,おおげさな名前だなあと思うし,岩と草があればどこでも日本庭園だと言い張れるのでは?すこし残念だ。平坦な岩場を抜けると,先ほどまでよりも一回りは大きい岩が積み重なって一面に広がる,ロックガーデンに突入する。ロックガーデンではペンキの印が分かりづらい箇所があり,ルートファインディングには慎重になった方がよさそうである。幸いなことによく晴れていたので,遠くの印でも発見することができたが,もしも霧が出ていたらかなり怖いだろうなとも思う。一方で岩場はちょっとしたアスレチックのようで歩くのは苦ではなく,ずんずんと進んでいける。そんなこんなでロックガーデンを抜け,北沼に到着。
 北沼から南沼キャンプ指定地まではトムラウシを巻くと25分,ピークを踏むと1時間のコースタイムであり,どちらの道を行くか少し議論になる。下から見ても山頂付近は明らかにガスっており展望は期待できそうになく,既に10時間程歩いていて疲労困憊だったので巻く案が優勢になったが,この時点では4日目の朝にピストンをしても山頂からの眺望はあまり期待できず,「ピークを踏むことに意味がある」ということで,ピークを踏んで南沼へ向かうこととした。トムラウシ山頂までは急登で本来はきついはずだが,この日最後の登りということで気持ち的には楽であった。山頂は案の定ガスっていて景色は何も楽しめなかったが,達成感は大きく皆この日の行程を終えた気になって長めの休憩を取った。
 トムラウシからの下りはもはやお散歩感覚で,ゆったりと歩いていった。キャンプ場のすぐ手前にはかわいらしいウサギがいて,このウサギは人が近づいても特に逃げる様子もないので,目いっぱい近づいて写真をとるなどした。
 いい気分でキャンプ場に到着することができ,早速テントを設営しようとしたその時,土砂降りの雨が降り始めた。雨は非常に激しく,レインウェアを脱いでいたので,服はびしょぬれになり,設営途中のテントの中にも大量の雨水が入り込んでしまった。これ以上の被害はなんとしても食い止めようと,必死の思いでテントにフライを被せ,ザックと自らの体をテントの中に放り込んだ。皆放心状態でテントの中で体をまるめる。雨のため取水場までいけない恐れが出てきてしまったので,料理用の水の確保のためにテントから滴り落ちる雨水を鍋で受け止めることとなった。この行動から,我々がいかに追い詰められていたのかがわかる。
 ナウキャストで雨量の推移を確認すると,雨はしばらく続くようであったが,雨脚が弱まる時間があったのでそのタイミングで僕を除く三名がキャンプ場周辺の設備と水場の確認に行った。水場からは取水できるようで,持ちうる限りのボトル類すべてを回収して水を汲み,無事料理用の水を確保することができた。
 一通りの準備を終え,再びテントに全員集合し夕飯の支度と汲んできた水の浄水作業を始める。落ち着いてみると,キャンプ場の手前にいたウサギに対する怒りがこみあげてくる。あのウサギの撮影をしていなければ,雨が振り出す前にテントを完全に設営できていたはずだし,装備と衣服を濡らすこともなかったはずだろうと。夕食はレトルトカレーのカレーライスだったが,すこし高級なものを買ってきたので肉と野菜がごろごろしていてかなりうまい。器掃除用のスープはゼロ日目のポトフでつかったコンソメの残りで作ったコンソメスープにした。
 9時ごろ就寝する。風がかなり強くうるさかったので夜中一度目覚めてしまったものの,疲れていたせいか割とよく寝ることができた。 

□4日目(鈴木)
 3時半に起床。前日の強烈な風雨は止み,テント場周辺は一面霧で覆われていた。この縦走の中で最も寝心地の悪いテント泊であったことから,皆目覚めが非常に悪く,あまり動き出そうとしない。起床から5分ぐらいボーっとしている中,渡邉さんがシュラフの片付けや朝食の準備を始め,残りの3人も動き出す。4日目の朝食は早ゆでペンネにミートソースであった。前日に浄水し用意してあった水で最初に2人分のペンネを茹で,茹で上がったペンネを各自のコッヘルによそい,常温のミートソースをかけて完成である。常温のミートソースをかけて食べるのは初めてであったが,普通に美味しく食べることができた。山にいるので仕方のない事ではあるが,ペンネを湯切りしないで器によそったため,食べ終わりの方のミートソースの味が非常に薄かったのが,少し残念であった。食事が終わり,メンバー全員の元気が入った後は,急いで後片付けやテントの撤収を始めた。
 テントの撤収が終わった後,私は人生初の携帯トイレを利用した。携帯トイレブースを用いると,意外と簡単に使用することができ,携帯トイレを使う忌避感はだいぶ減った。しかし,下山中ずっとブツを持ち運ばなければならないため,山行の最後までこぼれないかどうか心配し通しだった。結論から言えば,そのようなことはなく,杞憂であった。災害時にも活用できるので,皆さんも是非一度は使ってみてはどうだろうか?
 4時54分に下山開始。起床から1時間ほどが経ったが,霧は晴れず,眺望はほとんどなかった。岩場の下り道をひたすら降りていった。初日と比べると,食料も水も少なくなっており,だいぶ軽くなったと感じながら,小気味よく歩いた。
 5時35分にトムラウシ公園を通過し,それ以降は登り返しが始まった。少し登った所で,1日目の夜に白雲岳避難小屋において我々のパーティーの隣で寝ており,次の日の5時ぐらいに出発していったパーティーとすれ違う。彼らは熊鈴ではなく,笛を使っており,歩きながら笛を吹くのは大変だなという感想を抱いた。また,笛の音は,聞くのに慣れていなかったせいか,少し不気味に感じた。
 登り返しの小ピークにたどり着き,振り返ると,そのころになると霧が少し晴れていたため,大きな雪渓を見ることができた。トムラウシ山に来るまでに何度も雪渓を見たが,やはり8月に雪が残っているということに驚きを感じる。
 6:03に前トム平に到着し,小休憩をとる。そこから円錐形で非常に形の良い山が見えた。名前が分からなかったので,下山してから山名を調べようと思っていたが,渡邉さんが山名を見ることのできるARアプリを使ってくださったので,その場で「下ホロカメットク山」であることが分かった。便利なアプリがあるものだと感心した。
 前トム平を出発するとすぐに,前日に通ったロックガーデンのような岩場に差し掛かった。ロックガーデンと同じくナキウサギの鳴き声があちらこちらから聞こえ,自然とナキウサギを探しながら通った。かわいいナキウサギを一匹見ることができて嬉しかったが,僕はナキウサギを見つけるのが苦手らしく,僕の後ろを歩いていた榛澤くんは何匹も見つけることができたそうである。うらやましい限りである。
 岩場を過ぎると,6:30くらいから綺麗な水が流れている沢の左手の道を歩くことになった。登山道の左手には沢山の植物が生えており,白い小さな花や紫の小さな花がたくさん咲いていた。途中,歩いて暑くなって沢の水がよほどおいしそうに見えたのか,渡邉さんがこの沢の水を飲もうと言い出した。僕はエキノコックスが怖かったので遠慮したが,僕以外の3人は浄水器を使って,沢の水を飲んでいた。また,ここまではすれ違う登山者は全くいなかったが,この沢沿いの道から登っていく登山者とすれ違うことが出てきた。
 6:51にコマドリ沢分岐を通過。その後,7:00から登り返しが始まった。今までずっと下ってきたので,登り返しが非常にきつく感じた。細かく折れ曲がった登り道を抜けて,平坦な道が出現すると,そこで小休憩をとった。最終日までとってあったドライマンゴーをメンバー全員にあげて,下山の英気を養った。やはり山中でのドライマンゴーは至高の行動食である。
 下山を再開し,再び平坦な道になったのは良いものの,前日に降った雨によって登山道がとてもぬかるんでいた。ゲイタ—を持って行くのを忘れた僕は,登山道の中央の一番ぬかるんでいるところをなるべく避け,道の端や木道の上を通るようにしていた。
 そのような登山道を通って下山している中,60代の男女6人のパーティーにたまたま話しかけられた。彼らの話によると,徳島から北海道に来て,雌阿寒岳・雄阿寒岳・旭岳・羅臼岳といった北海道の山の有名どころを登って,最後にトムラウシ山に登りに来たみたいであった。60代でこのようにパワフルに登山をできることに驚き,自分が60代だったらそのようにできないだろうと感心した。
 8:20にカムイ天上に到着し,小休憩をとる。出発後,8時から甲子園が始まったことを思い出し,ラジオを使って放送を聞き始めた。変わり映えのしない登山道周辺の光景に飽きてきており,これからもずっと平坦な道が続くことが地図上で見てとることができ,さらに道のぬかるみもなくなったところだったので,ラジオを聞き始めるのに非常に良いタイミングであった。その試合は,横浜高校(神奈川県)対聖光学院(福島県)であった。ラジオの電波の状況や,歩きながらラジオを聞くということもあって,聞き取りづらいが,どうやら聖光学院が初回に1点をとったみたいであった。横浜に所在する高校に通っていた僕としては,横浜高校が逆転して勝ってくれるように応援していた。結局,途中でラジオの電波の状況が非常に悪くなり,実況が何を言っているのか分からなくなったので,聞くのをやめてしまった。残念だった。なお,下山後に調べたところ,試合結果は横浜高校が2対3で聖光学院に敗北していた。こちらも残念だった。
 8:59に温泉コース分岐に到着し,小休憩をとる。ここは,トムラウシ温泉に下山する登山道と短縮コース登山口に下山する登山道への分岐点である。ここを出発すると,ラジオを聞くのをやめていたのもあって,渡邉さんが自分のスマホから曲を流してくださった。渡邉さんはサザンオールスターズや宇多田ヒカルが好きらしく,彼らの曲を掛けていた。僕が知っている曲から知らない曲まで流れてきて,それらの曲を聞きながら楽しく下山できた。僕も何か聞きたい曲はあるかと聞かれ,サカナクションを掛けてほしいというと,「モス」を掛けてくださった。非常に面白い曲なので,是非聞いてみてほしい!
 このような感じで楽しく下山していたのだが,9:39に登山道上でヒグマの糞を発見した。後は平坦な道を下山するだけだと甘く見て少し気が抜けていたのだが,これを見てまだ僕らはヒグマの生活圏にいることを再確認させられ,また1日目に見たヒグマを思い出し,気が引き締まった。
 その後,ヒグマに遭遇することもなく,順調に下山を続けた。途中,登山道を横切る林道を登山道の終点だと勘違いするということはあったものの,無事10:12にトムラウシ温泉に到着した。
 以上で,山行記録としては終了したわけだが,それ以降の行動の記録も少々書いておく。 渡邉さんが在京責任者に下山連絡をしている間,僕は携帯トイレを回収ボックスに捨てた。これでようやくほっとできるというものである。4日間山にいたことによる汚れを洗い流そうと意気揚々と東大雪荘の温泉に行こうとしたが,残念ながら温泉は13時開始であるという。それでは昼食でもとって時間をつぶそうと考えたが,コロナの影響で昼食の提供が中止されており,これもダメであった。ラジオで甲子園を聞いたり,近くの川で遊んだりして時間をつぶして,待ちに待った入浴をする。入浴後,トムラウシ山の山頂で僕らの集合写真をとってくださった男性が,僕らのバーティー4人分の飲み物を買ってくださった。非常にありがたかった。0日目の森さんといい,この時の男性といい,山での縁は奇妙であり,嬉しいものである。
 温泉の休憩所で寝たり,雑誌を読んだりして時間をつぶし,トムラウシ温泉16:15発のバスに乗車した。僕らは乗客が少なかったため予約せずに乗れたが,予約をした方が確実に乗車できる。来年以降トムラウシ山に行く人は予約をお忘れなきように。新得駅に17:45に到着。切符を買って新得駅17:59発の列車に乗り込む。18:36に帯広に到着し,この日は帯広のホテルに宿泊することになった。

■感想
□渡邉
・上で色々と記した通り,景色等は言わずもがな。夏合宿がたくさん立っているのはその証左です。計画もトレーニングもしっかり準備して,他の方も追随してみてください。間違いなくいい思い出になるでしょう。記録とは無縁なのでここでは詳述しませんが,その後の道東観光も本当に楽しかったです。とりわけ帯広は絶対行った方が良い(丁度祭りがやっていて,街がお祭り状態でハッピーな上に,「北の屋台」の屋台は素晴らしかったです)。
・今回でいえば,高根ヶ原の眺望が,ずば抜けて一番好きです。雲海の広がる中,あそこで日の出を見られた事は本当に幸せな事でした。
・米炊きスキルが安定していて,良かったです。
・南沼でのウサギへの怨恨がみんな凄かった。ジメジメしたテント内で,ネチネチウサギの事を話すので,余計に湿度が高まった気がします。
・学部1・2年で行くのも良いですが,心意気が飲めるようになってから行く北海道も中々最高です。一体我々は,どれだけの心意気を飲み干したのでしょうか。

□小唄
・一日停滞したものの,基本的には天気は良く,最高の景色と自然を味わうことができた。
・土砂降りの雨のなかテントを設営したことも,もう二度と経験したくはないが,今となっては良い思い出である。
・北海道初上陸ということもあり,山中だけでなく,下界も非常に楽しかった。北海道のお酒と飯はどれもとても美味しい。

□鈴木
・初めて北海道に上陸し,初めて20キロものザックを担いで山行をし,初めて10時間以上歩く山行をし,初めて避難小屋に泊まり,初めて停滞を経験し,初めてヒグマを見たといった初めて尽くしの山行になった。色々と学ぶことの多い,実りのある山行になった。
・山行中に見る景色が最高であった。特に,旭岳の頂上からの景色と忠別岳の頂上からの景色は一生忘れないと思う。ただ,トムラウシ山からは,霧に覆われて何も見えなかったことだけが残念だった。

□榛澤
・初めて見る植物が多く,とても楽しかった。
・動物もたくさん見られたので,よかった。
・海鮮は大変美味。