2022/9/13-16 白馬岳夏合宿

山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
白馬岳夏合宿計画書 確定版
作成者:小西、宮島、吉田
■日程 9/13-16(火-金) 3泊4日 予備日9/17(土) 前日9/12にアプローチ
■山域 北アルプス
■在京責任者/助言役 加藤
■在京本部設置要請日時 9/16 19:00
■捜索要請日時 9/17 9:00
■メンバー(確定)
CL小西, SL宮島, 吉田
■集合
9/12 22:45 バスタ新宿
■交通
□行き
9/12
https://www.alpico.co.jp/traffic/express/hakuba_shinjuku/
アルピコ交通 23:05新宿発6:04栂池高原着
https://www.nsd-hakuba.jp/green/tsugaike/panoramaway.html
栂池ゴンドラリフト「イヴ」8:00~ 2000円
□帰り
親不知駅→[えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン,340円](15分程度)→糸魚川駅(14:47/15:37/17:01/17:41)→[JR新幹線はくたか(566/568/570/572)号]→(16:52/17:52/19:12/20:00)東京駅 (料金340+5,500円 自由席で5,170円)
■行程
1日目
登山口-(2:30)-天狗原-(2:00)-白馬大池【4時間30分】
2日目
白馬大池-(2:00)-小蓮華山-(0:50)-三国境-(1:00)-白馬岳-(0:30)-三国境-(0:30)-2502m地点-(1:00)-雪倉岳避難小屋-(0:50)-雪倉岳-(2:20)-2042m地点-(1:45)-朝日小屋 【10時間45分】
※栂海山荘で水が汲めないかもしれないので、多めに水を汲んでおく。北俣の水場(手前)でも汲むことはできるが念の為。
3日目
朝日小屋-(1:00)-朝日岳-(0:50)-吹上のコル-(3:30)-黒岩山-(1:40)-サワガニ山-(2:00)-犬ヶ岳-(0:10)-栂海山荘 【9時間10分】
4日目
栂海山荘-(1:30)-菊石山-(2:30)-白鳥山-(1:30)-919m地点-(0:30)-坂田峠-(0:40)-尻高山-(1:00)-二本松峠-(1:40)-栂海新道登山口 【9時間20分】
※親不知でゆっくりするために早めの出発を心がける。
■エスケープルート
三国境より前:引き返し、栂池方面へ下山
三国境から白馬岳頂上小屋: 猿倉へ下山(ただし翌日の場合。緊急時は近隣の山小屋へ)
三国境から雪倉岳:鉱山道を通り蓮華温泉へ下山
雪倉岳から吹上のコル:小川温泉まで下山
吹上のコルから先:そのまま進む
■地図
山と高原地図35:「白馬岳」
■共同装備(未調整)
テント(ステラ4 No.2):小西
カート*3:吉田
ヘッド*2(緑1,4):吉田・宮島
鍋*1(竹小竹):宮島
調理用具*1(キャサリン): 宮島
救急箱*1(私物): 小西
■食当
1日目
夜:吉田
2日目
朝:小西
夜:宮島
3日目
朝:宮島
夜:小西
4日目
朝:吉田
■個人装備
□ザック □ザックカバー □登山靴 □替え靴紐 □ヘッドランプ □予備電池 □雨具 □防寒具 □帽子 □水□行動食 □非常食
□ブキ □コッヘル □ロールペーパー □ライター □ゴミ袋 □軍手 □地図 □コンパス □筆記用具
□計画書□遭難対策マニュアル(緊急連絡カード含む) □学生証 □保険証 □現金 □常備薬 □日焼け止め □タオル □歯ブラシ
□エマージェンシーシート □シュラフ □マット □マスク □消毒液 
□予備食(3食分、行動食と兼ねる)
□着替え(温泉用とは別に雨に濡れた場合に備えて) □温泉セット □学割証  (□熊鈴) □トレッキングポール
■遭難対策費
600円×3名=1800円
■悪天時
前日までに判断
■備考
□日の出日の入り(白馬岳山頂にて)
9/12 日の出 5:19 日の入り 18:12
□連絡先等
長野県警大町警察署 0261-22-0110
新潟県警糸魚川警察署 025-552-0110
糸魚川バス白馬岳登山バス(蓮華線)2022運行表(https://rengeonsen.main.jp/custom8.html)
アルプス第一交通 0261-22-2121
アルピコタクシー 0261-23-2323
えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン(https://www.echigo-tokimeki.co.jp/)
長野県登山安全条例 (https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/tozanjorei/tozanjorei.html)
同指定登山道告示 (https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/tozanjorei/shiteitozando.html)
*蓮華温泉ロッジ 090-2524-7237
1000円/人(日帰り入浴800円別) 35区画 トイレ・炊事場等あり
*大池山荘 0261-72-2002
2000円/人 1000円/張 50張 水場トイレあり
*白馬岳頂上宿舎 0261-75-3788
2000円/人 1000円/張 水場トイレあり
*朝日小屋 080-2962-4639
2000円/人 50張 水場トイレあり
*栂海山荘 070-3965-2801
1000円〜/1張 約10張 パンフによると水場あり(ただしあてにしない方が良い)
*親不知観光ホテル 025-562-3005
 入浴(15:00まで)&親不知駅への送迎あり 要予約
—
□コロナ対策
1. 遭難などの緊急時を除き、山小屋の使用を控える。
2. 長期休暇中は平日の活動を中心にする。
3. 山頂付近などの人が多いところでは長時間滞在しない。
4. 最大10人以内のパーティーとする。
5. 常に、パーティー内の連携を損ねない範囲で十分に距離を取る。
6. マスクを常用する。
7. 水や食料は事前に購入しておき、登山山域での買い物を控える。また、下山後の会食も控える。
8.テント内の人数は定員の半分程度とし、余裕をもって使用する。
9. メンバー全員が当日朝検温して担当者に提出。山行前の体調管理はしっかりと行い、少しでも風邪の症状がある場合は参加を控える。
□関連リンク
https://www.yamareco.com/modules/yamanote/detail.php?nid=2312
2018年度記録

白馬栂海夏合宿山行記録  
■総評
前半2日間は北アルプスらしい気持ちの良い稜線歩きを楽しんだ。白馬岳までは人気ルートで人もいたが、三国境より北ではほとんどすれ違わず自然との一体感を感じられた。後半2日間は細かなアップダウンを繰り返しながら日本海に向かっていく行程である。若干苦行じみたコースだが、それだけに完歩した時の喜びもひとしおであった。白馬岳から親不知までの3000m近い標高差が生み出す自然のさまざまな表情は、ただただ美しく洗練されていた。

栂海新道は人の知恵の及ばない自然の美しさを示してくれると共に
道を作った人や守ってくれている人たちの真心も伝えてくれる。
(NHK小さな旅 明石勇さんのことば)

■行動記録
□1日目(宮島)
0日目午前に部室に集まり、装備振り分けと天気予報の共有をしたのち、一度帰宅して最終準備を行う。直近の記録を参考にしながら、個人装備についても出発直前まで吟味を重ねた。スパッツを携行するか迷ったのだが、持って行って正解だった。22時半過ぎに新宿に再集合。栂池高原行きのバスにザックを預ける。ついに旅が始まるのだなという実感が湧いた。隣が空席だったこともあり、車内は快適で、よく眠れた。
栂池高原に到着したのは、定刻より少し早い6時前。終点まで乗車していたのは、予想に反して我々3人だけだったので、バス停隣接の東屋で、静かな朝を過ごすことができた。地元の小中学生を見送りながら、各自仮眠や朝食をとった後、吉田くんの提案で「塩の道」を訪ねた。現在は千国街道と呼ばれるこの道は、信州と日本海を結ぶ街道として重用されてきたらしい。
8時の営業開始と同時に、ゴンドラとロープウェイを使って栂池自然園駅まで移動し、9時頃、舗装された林道の先にある白馬岳登山口へ。私がストックの長さ調節に手こずり、出発が少し遅れてしまった。他の二人は準備が整っていたので、申し訳なく思うとともに、事前確認の重要性を痛感した。時折後ろを振り返りながら、急斜面につけられた道を登る。白馬村の町並みが着実に小さくなっていく。ハイマツ帯を過ぎると天狗原に到着する。ここから風吹大池との分岐点までは整備された木道を進んだ。風吹大池方面の分岐を右に見送ったのち、灌木が散在するゴーロ状の斜面を直登する。岩がぬれていなくてよかった。前を行く二人の足取りを追いながら岩場を登り切り、白馬乗鞍岳山頂で2回目の休憩をとった。小蓮華山に続く稜線を雲の切れ間から望みつつ進んでいくと、ほどなくして白馬大池と赤い屋根の大池山荘が現れる。正午前に大池山荘に到着。一番乗りだったので、幕営場所を自由に選ぶことができた。小西さんの手ほどきを受けながらテントを張る。なるべくポールに砂が侵入しないように、本体を敷いた上でポールを組み立てることや、ポールを中心から組み立てるのはゴムの消耗を防ぐためであることなどを学んだ。幕営後は、ひとまず皆で白馬大池を散策した。穏やかな水面を眺めながら他愛もない会話をたのしむ。15時を目処に炊事を始めることにし、それまでの時間は自由に過ごした。14時半頃テントの外に出ると、テントの数は10張ほどに増えていた。ぼちぼち炊事を始める。担当は吉田くんで、ハヤシライスをいただいた。とても美味しかった。食事の片付けと翌朝の準備もスムーズに進み、17時半前には寝袋に潜って、行動時間が10時間を超える翌日に備えた。

□2日目(吉田)
2時になると同時に全員起床。お二人の支度は早く、私が荷物をテントから出した時既に小西さんは水を火にかけてテントの回収を始めていた。このスピードについて行けるようにならなければ…。朝食にはカレーメシを頂いた。カロリー的にとても優秀らしく、味もしっかりあるので体にスイッチが入る。
白馬岳頂上を目指し3時15分頃歩き始める。風はあるがそれほど寒くなく、ウルトラライトダウンで事足りるくらいだった。道は全体的に少しザレていたが、傾斜は緩く歩きづらさは感じなかった。
稜線上に出てからしばらくして日の出を迎え、正面には白馬の美しい山体、右手には雪倉岳などこれから向かう日本海への道のり、そして振り返れば朝焼けのオレンジと遥かに広がる雲海という絶景が目の前に現れた。休憩しつつ景色を楽しむ。ほんとうに天気がよい。三国境を過ぎて山頂直下の登りに入ると少しだけ傾斜が急になる。高山植物がまだ残っているかと期待していたが、イワギキョウらしき紫の花がぽつんと一輪咲いていただけだった。
出発から3時間後、白馬岳山頂へ到達する。日の出のタイミングよりも少し遅かったからか、人はほとんどいなかった。相変わらずの好天で、後立山連峰は重なって見え同定はむずかしかったものの、槍穂高や立山ははっきりと見えた。東は雲海のせいで下にあるはずの山々は見えず、北アルプスのまさに「端」に立っているのだという感覚が強くあった。そしてはるか北には日本海が垣間見えた。あまりに遠くに感じられ、これからの旅路に胸が踊る。
30分ほど景色を満喫した後来た道を戻り、三国境から北へ向けて進行する。三国境を過ぎてすぐには深めのザレ場があり、踏み出した足が数cm沈み込むような状態だった。そこから先はしばらくはゆるい下りか傾斜のほぼない道が続き、北アルプスらしい雄大な風景を味わいながらどんどんと進んでいく。鉢ヶ岳のトラバース道ではやっと群生している高山植物と会えた…が前のお二人は目もくれず行ってしまう。
雪倉岳の登りは急で、スピードをあげずに雑談しながら歩いた。頂上は平たく開けており、それでいて急登ゆえ登ってきた道が上からだと見えないので、まるでこの空間が北アルプスの間にぽっかりと浮かんでいるような感覚に陥る。晴天で風が心地よく金色の蝶が舞う快適空間から視点が下がったことで峻険に見える白馬や劔を眺めながら、かれこれ一時間近く休憩してしまった。雪倉は通過点としか思っていなかったが、個人的には白馬の頂上と同じくらい満足できた。
緩やかな下りが続き2000m付近まで来ると、そこから先は巻き道を行く。ここから先は森林限界を越えまた景観が大きく変わる。私はここまでの疲労に加え、連続するアップダウンと背中に差す日光によってここでずいぶんと体力を削られた。やっとの思いで抜けて水平道分岐へと至り休息をとる。一瞬水平道を行かず朝日岳を登ってみるかという話になったが、体力的に余裕がないことと、雷鳥の過去記録にあった朝日小屋のオーナーの方についての話を踏まえ早めに着きたいのでやめておこうということになった。水平道は先程に比べればまあ水平かなというぐらいのアップダウンだったが、木道が整備されていてサクサク歩ける場所も多かった。また、一部短いながらも鎖がついている場所もあった。
13時半頃ついに朝日小屋に到着する。行動時間は10時間強だった。小屋はスタッフの方が検温していたり歩荷してきた人がいたり、テントは10ほどだが登山者同士で話をしていたりと賑やかな雰囲気だった。小西さんがチェックインの手続きをしたときに栂海新道に行く旨を話すと、オーナーの方から「明後日の行程の負担を減らすために、明日は栂海山荘を越えて白鳥小屋まで行った方がいい」とアドバイスをうけた。後に3人で話し合い、明日はできるだけ早めに栂海山荘まで行ってそこでのコンディションでその先に行くか判断しようということになった。(その場では電波が入らず、スマホを天にかざしながらテン場をうろついて在京へ連絡した)
夕食には麻婆豆腐をいただく。地上で食べるものと遜色ない味で、辛さと温かさが体に染みる。食後は栂海新道Tシャツを求めて小屋の売店を訪れたが、結局買うことはなくあとにした。しかしカウンターで冷凍のお寿司を販売しているとのことだったので、購入し明日の行動食とした。想定以上の長丁場になるかもしれないので楽しみが増えるのはありがたい。その後、突如夕日に向かって走り出した小西さんを追って雲海に沈む日を拝みに行き、暗くなる前にテントに入った。中はもはや暖かいくらいだったが、疲労ゆえそんなことが気になる前に寝入ってしまった。
□3日目(宮島)
1時に起床。今日も目覚ましは初めの一音しか聞こえなかった。少しでも早く出発するべく、食当の私は急いで朝食の準備に取りかかる。前日にまとめて炊いたご飯に水を加え、お粥を作った。そこそこ短時間で済ませることができてほっとした。
2時を少し回ったころ、朝日小屋を出発し、まずは朝日岳山頂を目指して歩き始めた。ヘッドランプの明かりを頼りに、つづら折りの道を黙々と登っていく。朝日岳は本縦走最後の主要なピークであると同時に、栂海新道の南端でもあるのだが、闇とガスでその実感はあまりなかった。吹上のコルまでは概ね歩きやすかったが、朝日岳山頂直下の下りは例外で、ガレているうえに視界が悪く道が分かりにくかったので、GPSで現在地をこまめに確認しながら進んだ。五輪尾根との分岐点である吹上のコルで、何度も写真で見てきた鉄製看板を目の前にすると、いよいよ栂海新道だ。「栂海新道を圣て親不知.日本海へ さわがに山岳会」…「日本海へ」の文字に、のんきに心を躍らせる。久しぶりに電波が入ったので、在京との連絡や天候の確認も行った。シラビソなどの樹林を抜けると、木道が整備された道となり、照葉ノ池が見えてくる。ここからは草原と高層湿原が交互に現れる。白々とした夜明けの湿原歩きは静謐で心地よく、どこかでひと休みしてもよかったのだが、ぬかるみがひどく、とてもザックを下ろす気分にはなれない。黒岩平まで下るとベンチが2つ設けられているが、腰を下ろし(かけ)たメンバーは1人だけだった。
中俣新道分岐を過ぎ、黒岩山に到達すると、がらりと景色が変わる。起伏の多い非対称山稜の稜線歩き、という表現がふさわしいだろうか。晴天はうれしいが、木陰がないので暑い。サワガニ山への登りはなかなかつらく、山頂では30分ほど休んだ。地図と過去記録によれば、この後はひたすら細かいアップダウンが続く。詳細な位置は忘れてしまったが、サワガニ山を越えたあたりでこの日初めて他の登山者に出会った。ソロのトレランの方だった。
サワガニ山から30分ほど歩いたところに、北俣の水場がある。栂海山荘には水場がなく、白鳥小屋まで進んだ場合も道中の水場(黄連の水)で確保できない可能性があるので、翌日分までの水をここで汲むことになっている。YAMAPの地図上の標識位置に水場がなく、通り過ぎてしまったのではないかと思いかけたが、水場は谷線を辿った先にあることが多いという小西さんの言葉をふまえて再度地図を見ると、たしかに水場がありそうなポイントがある。間もなく案内板が現れた。ザックを置いて登山道脇を3〜8分ほど(個人差が大きい)下ると水場に到着する。水量も豊かで汲みやすかった。
犬ヶ岳にかけても、新潟県側が切り立ったやせ尾根が続く。重くなったザックを背負ってのアップダウン、とくに急登はしんどかった。犬ヶ岳山頂近くには、栂海新道の開祖者である小野健さんの碑がある。ほんとうに偉大な方だ。さらに少し下り、10時40分、栂海山荘に到着。鮮やかな緑と赤が目を引く、かわいらしい小屋だ。自炊小屋で、管理人が常駐しているわけではない。我々の到着時には誰もいなかった。さっそく、朝日小屋で購入した柿の葉寿司を片手に、この後の行動について話し合った。各自のコンディションと意見を共有し、小西さんを中心に様々な要素を整理した結果、今日のうちに白鳥小屋まで進むという判断に至った。「1日で白鳥小屋まで行く場合には、午前中(なるべく早く)に栂海山荘に到着して、1時間休憩するべし」という朝日小屋主の清水さんのアドバイスに従い、しっかり休んだ。白鳥小屋にはトイレがないらしいという話を前日に聞いていたため、重い心身に鞭を打って、例の空中トイレにも寄った。「なにも考えてはいけない。」という吉田くんのアドバイスが効いた。
白鳥小屋までのコースタイムは4時間。朝日小屋から栂海山荘到着までにかかった時間が8時間半であることを考えると、距離の割に標高差が激しいことが察せられる。山腹を巻かず、稜線の登り下りを忠実に繰り返すのだ。まずは山荘から下り、登り返して黄連山へ。北俣で十分量を確保できていたので、黄連の水場は通過した。案内板に「栂海山荘の水場」とあるし、親不知側から栂海山荘を目指して登ってきた人はここで補給するのだろう。ただし黄連の水量はとくに残雪や雨量の影響を受けやすいため、事前に情報を集めておく必要がある。その黄連山山頂からブナ林が広がる黄連乗越に下り、急な登り返しに耐えると、菊石山に達する。山頂の標高は1209mで、犬ヶ岳のそれと比べると400mほど差がある。「菊石」の名は、栂海新道で初めてアンモナイトの化石が発見された場所であることに由来するらしい。ふがいないことに、そんなことを思い出す余裕はなかった。菊石山頂から下駒ヶ岳までは急登降が続く。白鳥の頂が見えてからが長く感じられた。山頂で撮った写真の中の三人の表情からして、3日目の行程のうち疲れがピークに達していたのはこのあたりだったように思う。下駒ヶ岳でたっぷり休憩をとり、白鳥小屋に向けて歩き出す。岩の急斜面を下り、畳みかけるようなアップダウンを繰り返した先に、最後の急登が待ち受けていた。ついに白鳥小屋に辿り着くのだ。そう思うと気合いが入り、体力の限界を感じながらも登りきることができた。行動時間14時間、歩行時間10時間半。長く、そして濃い1日だった。
栂海山荘からの道ですれ違った登山者の女性(2名)から教えていただいた通り、白鳥小屋では工事作業が行われていた。小屋の外にも資材が広がっていたこともあり、作業員の方とやりとりをして、小屋の1階に入れていただくことになった。後から「ここに着いた時の顔を見て、こりゃあ小屋で寝た方がいいと思ったわ」との言葉をかけられた。ひどい顔をしていたのだろうと思うと恥ずかしかったが、暖かい小屋で眠ることができてありがたかった。夕食には味噌汁と丼をいただいた。温かい味噌汁が疲れた身体に沁みる。ここまで食料を運んでくれた二人への感謝と同時に、こうして皆で夕食を作って食べるのも今日が最後なのだという寂しさも感じた。日没後の白鳥山は寒く、ここに来て初めてダウンを取り出した。
白鳥小屋は無人の避難小屋だが、栂海新道とさわがに山岳会の歩みを紹介する掲示物が壁一面に貼られていて、歴史を感じる。あたたかな雰囲気と安堵感の中で、それぞれ眠りについた。

□4日目(小西)
 夜通し小屋内は暖かく、昨晩は快眠だった。他の二人もそのようだった。吉田くんのトマトパスタを食べて5時10分ごろに出発。出発してすぐに気づいたのだが、避難小屋に利用料2000円を払うのを忘れてしまった。罪悪感が残った。
 15分ほど緩やかな下りを経て、山姥の洞との分岐に至る。自然の大岩が重なる山姥の洞は、山姥の住処とされていたそうだ。その下には榀谷(シナ谷)が走る。あまり遡行されていないようだが、チョックストーンが綺麗な沢だそうである。分岐の後も、シキ割までは緩やかな下りが続く。小屋発を日の出直前に設定したおかげで足下は明瞭で、足運びもスムーズだ。シキ割から坂田峠は、急な下りが続く。背負う水の量は減っているものの、連日の長時間行動の疲れからだろうか、ペースはあまり上がらない。途中のシキ割の水場で休憩を挟んだ。どうぞ飲んでくださいとばかりにコップが二つ残されている。3人とも水を補給した。残量的にちょっと心許なかったので助かった。水を汲んだところで、坂田峠へ行動を再開する。坂田峠には車道があった。久々に車道をみて、一同安心する。ただ、ここからも若干のアップダウンがあるから気は抜けない。最終日は行動時間が短い分、最後まで怪我がないように気を遣った。
ここからは暑いうえに蜘蛛の巣と泥場が非常に多かった。次々にまとわりついてくる蜘蛛の巣と泥は鬱陶しかった。これは個人的な感覚だが、急登や鎖場よりもこれらの方が大きなストレッサーだと思う。二本松手前で3度目の休憩を取った。二人の表情は明るい。ここから先はいくつかのピークを挟んだ後、日本海まで一気に400mほど下るフェーズに入る。樹林の間から時折姿を見せる日本海に心を踊らせながら下っていく。登山口では、「アルプスと海をつなぐ栂海新道」の看板が出迎えてくれる。
国道を挟んだところに入浴予約をしておいた親不知観光ホテルがある。そこから親不知海岸へは、標高差80mほどだ。荒々しい波の打ちつける海岸で、我々はここまで歩いてきた道のりを振り返った。他の2人にもいろいろと思うところはあったのだろう、しばらくの間、誰も何も話さず、洶洶として心地よい波の響きに耳を傾ける時間が続いた。いつまでもこの時間が続いたらいいのに。40分ほどたった頃、海岸を後にするのは名残惜しかったが、記念撮影をしてホテルに向かった。入浴を済ませて、親不知駅まで送迎をしてもらった。親不知駅は田舎の味のある駅だった。ここから糸魚川駅に移動した。糸魚川で打ち上げでもしようか迷ったが、結局打ち上げは東京駅にて、すき焼きの食べ放題に行った。
振り返れば4日間まったく雨に降られることもなく、非の打ちどころのない天気だったと思う。今年の夏は怪我や荒天で山に行けないことが多く、隔靴掻痒としていた中で、これからもずっと記憶に残る山行ができた。焦らずとも、山はいつでも私たちを優しくつつみこんでくれる。そんなことを改めて教えてもらった山行だった。また、純粋なテント泊縦走は初めてだったにもかかわらず、このようなニッチな山行についてきてくれた2人の44期に何かを残せていたら嬉しい。僕なりの山での振る舞い方や楽しみ方をどこまで伝えられたかはわからないが、今後も山を続けていくための糧になってくれたらこの上ない。
■感想
◯小西
・最初にこのルートを考えた時は、こんな山行に誰がきてくれるものかと思ったものだが、幸いにもやる気・実力ともに充分な2人のメンバーに恵まれ、会心の山行ができた。
・栂海新道には以前から興味があって、学生のうちに一度は歩いておきたい道だった。登山において下調べは大切だが、実際に自分の目で見たものを大切にしたくて、この道に関しては事前に写真などを見ないようにしていた。それで良かったと思う。
・本山行を端的に一言で表せるような言葉をなかなか見つけられない。この記録を見てくれた方には、本ルートを是非一度歩いて欲しいものである。
・今後もより良い山行を目指して精進したい。
◯宮島
・まずは完歩できたことに心から感謝したい。二人の仲間に支えられ、4日間を通じて、楽しさも苦しさも思い切り味わうことができた。日本海を目の前にした時の静かな感動は忘れがたい。
・気に留める余裕なく見過ごしてしまったものもたくさんあるのだろうが、植生や景色の移り変わりがおもしろかった。ダイナミックな縦走ならではの魅力に触れることができたと思う。
・登山に関する知識や反省点など、本山行から得た収穫を、着実に今後につなげていきたい。
◯吉田
・初めての本格的な縦走で特に3日目は体力的な限界を思い知らされたが、お二人の支えもあり完歩できた。
・次々と移り変わる景観、肩の痛みや膝の痛みや疲労、そして日本海へのゴールと、縦走のたのしさや苦しみ、感動を味わい尽くした四日間だったと思う。
・ストックと膝のサポーターは効果を強く実感した。
・ザックの横ポケットに入れていたボトルを落としてきてしまったことと小西さんから借りたストックの先端のゴムを紛失してしまったことは反省している。横着せずボトルホルダーを買うべきだった。
・最後まで水着を持っていくか迷っていたが、親不知の海は強風でないにも関わらず異様に荒れていて、さすがは難所だといった感じであった。残念。
・来年も縦走計画に参加し更に貢献できるようになるために、体力と技術の研鑽を積みたい。
■山行詳細
・日程:2022/9/13(火)-2022/9/16(金)
・山域:北アルプス
・天候1日目: 晴れ
   2日目: 晴れ
   3日目: 晴れ
   4日目: 晴れ
・メンバー CL小西, SL宮島, 吉田
・タイムスタンプ
□1日目(4.0km/↑641m/↓88m)
09:02 栂池ロープウェイ自然園駅発
09:07 栂池自然園登山口
09:59 天狗原
10:07 発
11:08 乗鞍岳
11:31 発
11:54 大池山荘着
総行程2:57(歩行時間2:29)
□2日目(16.5km/↑1279m/↓1540m)
02:00 起床
03:14 大池山荘発
03:53 船越の頭
04:04 発
04:44 小蓮華山
04:54 発
05:22 休憩(日の出)
05:34 発
05:42 三国境
06:23 白馬岳
06:41 発
07:18 三国境
07:39 休憩
07:53 発
08:40 雪倉岳避難小屋
08:52 発
09:31 雪倉岳
09:56 発
11:00 休憩
11:20 発
12:06 朝日岳水平道分岐
12:25 発
13:20 休憩
13:29 発
13:42 朝日小屋着
総行程10:42(歩行時間7:42)
□3日目(18.7km/↑1286m/↓2151m)
01:00 起床
02:05 朝日小屋発
02:57 朝日岳
03:04 発
03:35 吹上のコル
04:05 休憩
04:12 発
05:15 休憩
05:22 発
06:21 黒岩山
06:30 発
07:51 サワガニ山
08:34 発
09:09 北俣の水場
09:43 発
10:31 犬ヶ岳
10:40 栂海山荘
11:43 発
12:42 黄連山
12:59 発
13:34 菊石山
14:12 下駒ケ岳
14:55 発
16:04 白鳥小屋着
総行程14:03(歩行時間10:26)
□4日目(8.9km/↑309m/↓1598m)
04:00 起床
05:22 白鳥小屋発
06:11 休憩
06:22 発
06:30 金時の頭
07:14 坂田峠
07:31 発
08:05 尻高山
08:31 休憩
08:55 発
09:05 二本松峠
09:15 入道山
10:00 栂海新道登山口
10:08 日本海海岸着
総行程4:47(歩行時間3:53)