2023/8/26-29 表銀座夏合宿
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
表銀座夏合宿計画書 第三版
作成者:吉田、鈴木
■日程 8/26-29(土-火) 3泊4日 予備日1日 前夜発
■山域 北アルプス
■山行目的 縦走、槍登頂
■在京責任者/助言役 加藤
■在京本部設置要請日時 8/29 19:00
■捜索要請日時 8/30 8:00
■メンバー(確定, 3人)
CL吉田 SL鈴木 (45) 小田
■集合
新宿22:30
■交通
□行き
バスタ新宿(23:15)-アルピコ交通5551便-安曇野穂高(4:27)- 穂高駅(4:40)-中房線乗合バス-中房温泉(5:25) ※アルピコ交通6,900円〜+中房線バス1,500円
□帰り(10,400円〜)
・上高地バスターミナル(15:00発)-京王電鉄バス株式会社,アルピコ交通株式会社5802/5804便-バスタ新宿(19:47)
・上高地バスターミナル(16:10発)-京王電鉄バス株式会社,アルピコ交通株式会社5806便-バスタ新宿(20:57) ※最終
■行程
︎1日目 8/26
燕岳登山口 -0:40- 第一ベンチ -0:35- 第二ベンチ -0:35- 第三ベンチ -0:40- 富士見ベンチ -0:30- 合戦小屋 -0:20- 合戦沢の頭 -0:50- 燕山荘 -0:30- 燕岳 -0:30- 燕山荘
【計5:10/約13.6km/△1486m/▽223m】
︎2日目 8/27
燕山荘 -0:55- 大下りノ頭 -1:25- 喜作レリーフ -0:36- 大天荘 -0:11- 大天井岳 -0:11- 大天荘 -0:37- 大天井 -2:19- 西岳 -0:08- ヒュッテ西岳
【計6:22/約10km/△1162m/▽1167m】
︎3日目 8/28
ヒュッテ西岳 -1:00- 水俣乗越 -1:40- ヒュッテ大槍 -0:50- 槍ヶ岳山荘 -0:21- 槍ヶ岳 -0:21- 槍ヶ岳山荘
【計4:12/約4.2km/△986m/▽594m】
︎4日目 8/29
槍ヶ岳山荘 -0:57- 坊主岩小屋 -1:20- 大曲 -0:25- ババ平テント場 -0:10- 赤沢岩小屋 -0:20- 槍沢ロッジ -0:30- 一ノ俣 -0:50- 横尾山荘 -1:01- 徳沢園 -1:42- 上高地バス停
【計7:15/約19.6km/△730m/▽2312m】
■ピークへのピストンCT
・燕山荘 -0:30- 燕岳 -0:25- 燕山荘
・大天荘 -0:10- 大天井岳 -0:10- 大天荘
・ヒュッテ西岳 - 西岳 - ヒュッテ西岳 往復15分
・大天井ヒュッテ - 牛首展望台 - 大天井ヒュッテ 往復30分
・槍ヶ岳山荘 -0:30- 槍ヶ岳 -0:30- 槍ヶ岳山荘
■危険箇所
東鎌尾根・槍の穂先のはしごや鎖場
槍沢の増水
■エスケープルート
大天井岳まで:引き返す
大天井岳から水俣乗越まで:大曲方向へ下山し上高地へ
以降:そのまま進む
■個人装備
□ザック □ザックカバー □サブザック □シュラフ □マット □登山靴 □替え靴紐 □ヘッドランプ □予備電池 □雨具 □防寒具 □帽子 □軍手/手袋 □タオル □水 □行動食 □非常食 □カトラリー □コッヘル □ライター □トイレットペーパー □新聞紙 □ゴミ袋 □エマージェンシーシート □地図 □コンパス □筆記用具 □遭難対策マニュアル □計画書 □学生証 □保険証 □現金 □常備薬 □マスク □消毒用品 □日焼け止め □着替え・温泉セット □モバイルバッテリー (□サングラス □歯ブラシ □サンダル □トレッキングポール □サポーター □熊鈴)
■地図
25000分の1:「穂高岳」
山と高原地図:「槍ヶ岳・穂高岳 上高地」
■共同装備
テント(ステラ4):吉田→吉田
なべ(梅小梅):鈴木→鈴木
ヘッド(緑1, 緑7):小田→小田
カート3つ:吉田→
調理器具セット(ガジャマダ):吉田→鈴木
救急箱(吉田私物):吉田→吉田
ヘルメット:
■食当
1日目夜 小田 プルコギ丼(←アルファ米)
2日目朝 鈴木 餅入りお雑煮風味噌汁
夜 吉田 そうめんカルボナーラ
3日目朝 小田 コーヒー チキンラーメン
夜 鈴木 トマトペンネとコーンスープ
4日目朝 吉田 カレーメシ
アレルギー等:
■遭難対策費
600円×3名=1,800円
■悪天時
前日までに判断
■施設情報
□山小屋
燕山荘 幕営 2000円/人(約40張/要予約) 素泊まり9000円/人
テント泊は水有料(宿泊者は水無料)
大天荘 幕営 2000円/人(約50張/予約不要) 素泊まり8500円/人
水無料
大天井ヒュッテ 素泊まり9000円/人
ヒュッテ西岳 幕営 2000円/人(約30張/要予約) 素泊まり9000円/人
水有料(200円/1L)水不足で販売できない可能性アリ
槍ヶ岳山荘 幕営 1000円/人(39張/先着) 素泊まり9500円/人
テントが張れない場合;素泊まりor殺生ヒュッテテント場)
水有料(200円/1L)
殺生ヒュッテ 幕営 2000円/人(約30張/予約不要) 素泊まり9000円/人
水有料(200円/1L)
□温泉
中房(なかぶさ)温泉
■備考
□日の出日の入り(槍ヶ岳 8/28)
日の出 5:07
日の入 18:34
□連絡先等
松本警察署上高地警備派出所 0263-95-2013
安曇野警察署穂高交番 0263-82-2157
燕山荘 0263-32-1535
大天荘 090-9003-1253
大天井ヒュッテ 090-1401-7884
ヒュッテ西岳 090-7172-2062
槍ヶ岳山荘 090-2641-1911
殺生ヒュッテ 0263-77-2008
—
□登山届提出先
・東大教養学部学生支援課 :提出済み
・コンパス :提出済み
□東大連絡先
○教養学部学生支援課 ※開室9:00~16:50(平日)
Tel :03-5454-6074
○駒場正門守衛室 ※常時対応可
Tel :03-5454-6666
□お茶大連絡先
学生・キャリア支援課 ※開室9:00-17:00(平日)
Tel :03-5978-5147
正門守衛室 ※常時対応可
Tel :03-5978-5128
□過去の記録
ルートガイド表銀座 https://kyokarakimiwa.com/omoteginza/
ルートガイド東鎌尾根 https://souraku.jp/home/newpage365.html
槍ヶ岳 表銀座は初心者でもいけるのか? https://kyokarakimiwa.com/omoteginza/
2022
表銀座夏合宿記録
■日程
2023/8/26-29(土-火)
■山域
北アルプス
■天気
全日、晴れ→曇り→通り雨→晴れ
■メンバー
CL吉田(44) SL鈴木(45) 小田(45)
■共同装備使用記録
テント(ステラ4):吉田→吉田
なべ(梅小梅):鈴木→小田→白馬隊
ヘッド(緑1, 緑7):小田→小田→(緑1, 白馬隊)
カート4つ:吉田→小田
調理器具セット(ガジャマダ):吉田→鈴木
救急箱(吉田私物):吉田
ヘルメット(エーデルリッド橙):小田
■タイムスタンプ
□一日目
05:44 中房温泉バス停
05:44-05:45 燕岳登山口
05:45-05:48 中房温泉「湯原の湯」
06:29-06:33 第1ベンチ
06:51-07:06 第2ベンチ
07:39-07:44 第3ベンチ
08:15-08:21 富士見ベンチ
08:42-09:08 合戦小屋
09:12-09:27 合戦沢の頭
09:55-09:57 燕山荘
09:57-09:59 燕山荘テント場
10:53-11:35 燕岳
11:47 燕山荘テント場
□二日目
05:34 燕山荘テント場
05:34-05:35 燕山荘
06:00-06:03 蛙岩
06:22-06:29 大下りノ頭
07:03-07:04 為右衛門吊岩
07:53-08:00 切通岩
08:24-08:29 大天荘
08:29-08:33 大天荘テント場
08:36-08:48 大天井岳
09:39-09:49 大天井ヒュッテ
10:00-10:27 牛首展望台
11:09 大天井ヒュッテ
12:42-12:49 赤岩岳
13:15-13:18 西岳
13:19-13:26ヒュッテ西岳
14:21-14:25 西岳
14:26 ヒュッテ西岳
□三日目
03:44 ヒュッテ西岳テント場
05:03-05:27 水俣乗越
06:55-06:58 ヒュッテ大槍
07:40-07:42 槍ヶ岳
07:46-07:48 槍岳山荘
07:48-07:56 槍ヶ岳山荘テント場
08:44-09:51 槍ヶ岳
09:52 槍岳山荘
□四日目
02:50 槍岳山荘
03:48-03:56 坊主岩小屋
05:39-05:41 ババ平テント場
05:46-05:47 赤沢岩小屋
7:10 横尾
8:20 徳沢園
9:50 上高地
■コース概況
表銀座のコースガイドなんていくらでもあるけれど…
□二泊か三泊か
三泊で行ったのでそちらの視点から、
メリット
・行動時間が短くて済む(5/6/4/7h)
二泊だと一日目の登りが2000を超えたりと体力的にきつい。疲れた状態で東鎌尾根を通るのも怖い。
・山頂や山小屋でゆっくりできる
各山頂でガスが晴れるまで粘ったり、山小屋で昼食を頂いたり、牛首展望台などの寄り道ポイントに行ったりと楽しみが増えうる。
・槍にいいタイミングでとりつける
槍は混むし眺望の観点からも早めに登るに越したことはない。西岳ヒュッテで泊まっていれば、無理なく早い時間に着くことができる。
デメリット
・日数が長くなる
予定的にも天候的にもリスクが高い。
・燕山荘は人が多く予約もすぐ埋まる
燕岳ピストン一泊二日の登山客で賑わう。テント場の予約もパッパと埋まるため早めの準備が必要。今回は一度逃してキャンセルに滑り込んだ。
総じて、登り2000や10時間行動に問題がないかどうか→ゆっくりいきたいかどうか、天候がどうか、という基準で決めていけばいいのではないか。
□一日目
中房温泉→燕山荘
・中房温泉〜合戦小屋(合戦尾根)
ひたすら登り。道は1人分か2人分くらいの幅。北ア三大急登と言われているが、他の記録にもあるように特別厳しいということはない。人がとにかく多く抜いたり抜かれたりすれ違ったりが頻繁に起こる。ベンチなどがところどころにあり休憩には困らない。暑い。
・合戦小屋
スイカが名物。
・合戦小屋〜燕山荘
ゆるい登りのトラヴァース。白い砂と高山植物が現れ雰囲気が出てくる。よく整備されている(表銀座は総じてそう)
・燕山荘
さっそく槍が見える。人がとても多いがテント場は広くはなく混み合っていた。要予約。外トイレは少ないが割ときれい。風は強く感じた。
・燕山荘〜燕岳
少し登り。一部岩場や階段。サブザックで妥当。
□二日目
燕山荘→西岳ヒュッテ
・燕山荘〜大天井岳
基本稜線歩きかトラヴァース。アップダウンもそこそこ。大天井岳に取り付く手前に一箇所鎖場とはしご。大天井岳への登りは急登で後半はゴーロ。大天荘にデポしてピークハント。総じて眺望良し(裏銀座方面)
・大天井岳〜大天井ヒュッテ
ちょっと傾斜のある下り。一部少し狭い道あり。ここからガクッと人が少なくなる。
・大天井ヒュッテ
九時半から(?)昼食がいただける。どのメニューも美味しそう。電波がつながりにくい。
・大天井ヒュッテ〜牛首展望台
道が狭くここ一番の急登。手を使う岩場もあり。ピークでは槍方向の展望がよい。
・大天井ヒュッテ〜西岳ヒュッテ
基本トラヴァースでアップダウンあり。樹林帯と尾根を行き来する。東側に出ると常念方向、西側は槍方向で景色はいい。が、疲労が溜まってくるのと赤岩に隠れて西岳がなかなか見えないことからちょっとしんどい。メンバー曰くうざい。
・西岳ヒュッテ
テント場から槍方面の大展望。東鎌尾根もバッチリ。常念も真正面。稜線上で風はやばそう。人少なく快適。外トイレは個数が多く清潔面で努力を感じる。西岳へピストン。
□三日目
西岳ヒュッテ→槍ヶ岳
・西岳ヒュッテ〜水俣乗越
大きく下る。長いはしごや少し難しめの鎖場があるのでストックは使えない。いきなり道の難易度がひとつ上がるかんじ。西岳を離れたあとは登りも出てくる。ヤセ尾根に注意。
・水俣乗越〜槍ヶ岳山荘(東鎌尾根)
手を使う岩場や長いはしごの連続。難易度は高くないが、高度感がある場所も多い。ピークをしっかり踏んでいくため昇降も激しく体力が削られる。1つ目のピークを超えたあたりに有名な垂直の三連はしごがありこれが一番怖い。ヤセ尾根や足場の狭いトラヴァースにも注意。道は明瞭で目印も多い。鞍部よりもピーク上のほうが広く休憩できる。見上げるたびに槍が近づくので感動がすごい。
・槍ヶ岳山荘
テント場は小屋の南側の稜線で、混んでいなければ(?)自分で張る場所を選べる。岩場に囲まれたアルファベットサイトと開けたナンバーサイトがあり、アルファベットの方の一部からしか槍は見えない。11時頃から続々と槍沢から人が上がってくる。昼は11時から提供。日中は充電をさせてもらえる。
・槍ヶ岳山荘〜槍ヶ岳
序盤から鎖場の連続。中盤は少し難しめの場所も。後半に長いはしご複数。登りと下りで道が分かれているが2回ほど交差する。山頂は狭いが眺望抜群。感動がすごい。下りは一部怖いトラヴァースあり。
・時間について
槍は(というかどこも同じだが)時間が立つほどガスと人が上がってくるため早めに着くに越したことはない。今回は西岳3時半出発で水俣乗越前で日の出、7時半ごろ山荘着を想定して実行し、うまいことほとんど人がいない中山頂アタックして超快晴の山頂をほぼ独占した。遅くついた人たちがガスガスの中列を成して登っていたのを見て縦走者の特権を強く実感した。
□四日目
槍ヶ岳山荘→上高地
・槍ヶ岳山荘〜大曲
基本的に傾斜が急。最初を除きずっとゴーロ帯。道が若干不明瞭な場所もあるが、目印はかなり頻繁にあるため警戒していれば道間違えにはすぐ気づくはず。途中の水沢の水場は水量豊富。大曲付近は雨天時増水警戒らしい。
・大曲→横尾
少し下りつつも平坦な道が多くなる。槍沢が美しい。
・横尾→上高地
平たく長い。言うことなし。ラストスパート。案外涼しい。
・上高地
もちろん人が多い。日帰り入浴は結構いろいろなとこでやってる。お疲れ様でした。
□水
基本的にどこでも1L200円。料金を払ってから蛇口を捻ってマイボトルに給水する仕組みがほとんど。なお、槍ヶ岳山荘は5:00~18:00の間しか水を販売していない。夜間は水販売がない上に自販機も動いていなかった。よって、計画的な水の確保が必須。我々は槍ヶ岳山荘で午前3時前に水を確保するつもりでいたが上記の理由からそれが叶わず、槍沢途中の水場で給水することとなった。
□トイレ
燕山荘、槍ヶ岳山荘は宿泊料金込み。西岳は利用ごとに100円。基本的に北アルプスのトイレは綺麗。感謝。
□岩場について
総じて高度感はあるが特別難しいということはなかった。2人に聞いたところ、事前に行ったウォールクライミングの経験は結構活きたとのこと。
初心者(雷鳥で山を始め、表銀座に至るまで定期的に山行に参加してきた人、というイミで)については、最低でも山行中の岩場経験一回とウォール会への参加一回、そして途中でへばってしまわない体力があれば安心か。
■総評
王道の中の王道、表銀座に挑んだ。
メンバーの熱意が通じたか連日好天であった。視界いっぱいに広がる北アの稜線を眺め尽くし、それぞれ趣の異なる山頂を踏み、迫りくる槍の山体に興奮隠せぬまま東鎌尾根を越え、そして万感の思いでその穂先に立った。
雷鳥で山を始めたメンバーにはぜひ目指してもらいたい、そう言い切っていいと思わされるほど圧倒的だった。
■記録
□一日目(吉田)
6月、新歓が終わり45期が続々と山に登り始めた頃、夏には45期に縦走を経験してほしいなあと思い部会で「縦走したいですねー表銀座とか…」と呟いたところ、鈴木が「えっ!表銀座行くんですか!?!」とガッツリ食いついたことによりこの山行が立案された。他に何人か興味を示してくれた人はいたが予定が合わなかったりで、結局小田一名を加えた3人パーティーで挑むこととなった。二人は本格縦走は初めて、自分も複数泊のCLは初めて、そして槍は全員未踏という状況で、不安とそれ以上の期待を胸に山行への準備を進めた。
前日22時45分頃、新宿臨時26番乗り場に3人が集合。後顧の憂いを断つべく直前に45年史作成に係る連絡などの仕事をバカバカして少し気の抜けている自分と比べ、45期の二人は元気そうだった。
高速バスにゆられ5時間、さらに穂高駅から乗合バスで1時間弱、瞬きする間に中房温泉に辿り着く。メンバーはみな睡眠時間が若干足りないがまあまあ元気。その場で準備をしていると後続のバスが次々と現れ辺りは人で溢れかえったが、ザックの大きさを見るにほとんどの人が燕ピストンのようだった。少し寂しさを感じつつ出発する。
さて、最初は北ア3大急登の称号を持つ合戦尾根を行くわけだが、いろいろな記録にあるように特別厳しいということはない。「あ〜登ってる〜」というくらいである。どちらかというと、人が多くしかもスピードが登山者ごとにバラバラなため、追い越し追い越されが頻繁に生じることが煩わしかった。我々は夏休みの話やしりとりなんかをしながらいつもの調子で登っていく。
この時少し考えをめぐらせたのがパーティーのオーダーについてである。トップを務めるのは雷鳥だと大体CL、他だとSLが多いようだが、最近読んだ漫画に役職に関わらずメンバーの力量や性格を加味してオーダーを考案する話があり、それに少し感化されていたところだった。それを踏まえて3人の順番をくるくる変えて試したところ、小田、鈴木、吉田のオーダーが一番まとまりがありそうだったので以後これで進むことになった。
背中を照らす日差しが強くなり、なんやかんやそこそこ疲れてきたころ、合戦小屋に到着した。小屋の中や周囲のベンチは7割方埋まっており、皆名物のスイカを食べていた。一瞬悩んだが、まあ表銀座だし(?)無理して守銭する必要も無かろうと思い食べることに。瑞々しくてうまかった。
さらに進むと合戦沢の頭に出る。ここから主尾根まではそこまで標高差はなく、高山植物がチラチラ現れ始め爽やかな風貌となってくる。ちょっとガスりつつあったが切れ目からちょこんと素敵なかんじの山小屋が見えた。なんだやっぱり大したことないな合戦尾根。斜面北側を今日の宿泊場所である燕山荘を目指してスルスル進んでいく。
歩き始めて4時間ほどで燕山荘に到着。いよいよ表銀座の主稜線に乗り上げる。針ノ木のときもそうだったが、北アで峠に乗り出す瞬間のワクワク感は登頂時のそれと比べても勝るとも劣らないものである。階段を登りきると、槍ヶ岳が人集りのそのはるか先に……いや割と近かった。登って正面左手方向、ガスの合間からかろうじて見えた山体は思っていたよりも大きく、なんか行けそうだという雑な感想を私に抱かせた。
翻って燕山荘だが、噂に聞いていた通り立派で活気のある小屋だった。入り口入ってすぐの壁に掛けてある食堂のメニューの写真が我々を誘惑する。ささっと手続きをすまして戻る。小屋のキャパシティに対してテント場はそれほど広くない。空いている空間に張りサブザックを用意して出発。
荷物が軽くなった喜びを噛み締めながら稜線を意気揚々と歩いていると、西側のガスが退けていき裏銀座方面が見えるようになった。数分の爽快な稜線歩きののちに燕岳山頂に到着。記念すべき表銀座一座目をピークハントした。山頂でぼんやりしていると鈴木が岩に登りたいと言い出す。彼も染まってきている。一応近くの岩は多くがルートを示すテープの外にあるので、その登攀欲は東鎌尾根までとっておいてもらうことにする。ちなみにこの辺りで、お互いを励まし合うために(?)「こんなところで弱音を吐くな/ビビるなこれから東鎌尾根にいくんだぞ」略して「これひが」という謎の標語が生まれた。
戻ってくる頃にはテントがだいぶ増えてきていた。これから夕食までは自由時間である。小田はステラ4の奥で寝転んだまま夕飯の時間まで起きなかった。鈴木と吉田は次の山の話をしたりウミガメのスープをしたりして時間を潰していた。この間、鈴木は蝶リベンジ山行の計画書を、吉田は部会のお知らせをMLに流してニヤニヤしていた。
時間になり小田食当のトマトパスタを外で作って食べているとついに雨が降り始めた。ここで事件が起きる。鈴木が使いたてのヘッドを握ってしまい手に火傷を負ってしまったのだ。まあせっかちな人ほどよくやりがちなことで、自分も2,3回やって体で扱い方を学んだものだ。割と痛むようで雨やプラティパスを手に当てて治療していた。翌日には痛みは引いたようで良かった。
とまあ概ね調子の良い初日で、どうやら今後の天候もよくなっていくようで、ワクワクを募らせながら全員床についた。
□二日目(鈴木)
iPhoneのアラーム音で目覚める。午前4時。ここは、燕山荘。表銀座、二日目。だいぶ深い眠りについていたようだ。他のメンバーもこの一泊が一番よく眠れたと話す。手早くシュラフを畳み、ご飯の用意。テント場は狭く混み合っているのでテントの中で朝ごはんとした。味噌汁を作って豆やら餅やらを投入。カット餅を使ったお雑煮風味噌汁の完成。餅は腹持ちも良いのでこれからのロングコースにはちょうど良いと考え用意したものだ。次第に周囲が明るくなってくる。朝ごはんを済ませ外に出ると多数の宿泊者が朝焼けにカメラを向けていた。安曇野市外方面から指す朝日が、背後に聳える槍ヶ岳を照らす。まもなくガスってきて、槍も姿を消してしまった。出発しようとザックを背負い、燕山荘の前を通りかかったその時、小屋の人々が何やら騒いでいる。「ブロッケン現象だ」という声がする。槍方面の谷を覗くと、確かに霧の中に自分たちの影がある。妖怪のように、分身のように、影になってゆらめいている自分をカメラに収めると、すぐに霧は本当の自分をも包み込んでしまって、影の自分はどこかへ消えていってしまった。
何事もなかったかのように燕山荘を後にする二人。私も遅れまいとついていく。しばらくは岩の間をすり抜けるような平坦な道が続くが、足場はやや取りにくい。ガスに包まれた。
7時頃、いくつかピークを超えているうちにガスが晴れてきた。暑さに見舞われ上着を脱ぐ。この辺りで複数のパーティとすれ違う。燕山荘までは燕ピストンと思われる初級登山者?で賑わっていたが、この辺りでは体力のありそうな登山者にかわってくる。(しかし、この先で他パーティとあまりすれ違いがなかったことを鑑みると同じ時期に表銀座縦走をしていた登山者は結構少なかったのだろう。)
燕岳から西岳に至る道は、度々東側の樹林帯に出るため常念山脈・安曇野方面を望むことができる。ただ、このゾーンは蒸し暑くて虫も多くて私はあまり好きになれない。槍方面の稜線の方が、抜け感があって気持ちいい。
喜作レリーフを前にして、鎖場やハシゴが現れる。落ち着いて順番に鞍部へ降りる。時間はかかるがそう難所ではない。全員、問題なく通過した。しかしここから大天荘までの岩場の急登はなかなかハードで、「大天荘まで◯メートル」の表示を見ながら息がゼェゼェになる。しかも今度は厚いガスに包まれ寒気もしてきたため、私は早く登りきってしまいたい気になって足を早める。この時私がたまたま先頭にいたため、後ろの二人と少し距離が空いてしまい、CLに軽く咎められた。反省の感を覚える。
ガスガスのガスガスの中大天荘にデポし、大天井岳へサブザックピストン。荷物が軽いので足どりも軽い。ガスりまくっていたため特に何もせず下山。足を進める。だいぶ傾斜のある斜面を下り大天井ヒュッテに寄る。ここで牛首展望台への急登ピストン。だんだんと晴れていくガスに、再び私は早く登りきってしまいたい気になって足を早める。この時も私がたまたま先頭にいたため、後ろの二人と少し距離が空いてしまい、CLに普通に咎められた。深く反省の感を覚える。反省したので沈黙して展望台に至る。悪い癖だなあ。
牛首展望台では雲の合間から槍を望めた。これで満足としよう。下って再度大天井ヒュッテへ。ここで900円のホットドッグを頬張る。うまい。というかヒュッテが洒落すぎてて感動。北アルプスの小屋はどこもすごいが、ここはおしゃれすぎる!!
ここから一旦樹林帯に入る。暑いし、つまらない。飽き飽きしながら歩いていると、突然稜線に戻った。そこは、ビックリ平!こりゃビックリだ。ビックリリアクションの写真を撮ったのち、突然現れる西方の山々を望んで涼む。
ダラダラしてはいられない。早着しなければ雨に見舞われるかもしれぬ。西岳へ急ぐ。途中赤岩岳を巻く。ここら辺は、単調で、あまり面白くなかった。メンバーもテンションが低い。常念岳が綺麗に見えるのが唯一の救い。今思えば、単に疲れていただけのようにも思う。
やがてヒュッテ西岳に到着。客はほとんどいない。一等地にステラ4を立てて西岳ピストン。ガスっていてこれまた特にやることがないので戻ってきてテントで休息を取る。ここで雨に見舞われる。テント内で夕立がさるのを待つ。やはり、早く行動しておいてよかった。雨が去ると、一気に視界が開け素晴らしい夕焼けを望むことができた。夕日の乱反射に照らされ輝く常念岳、紅に染まる雲を背後に聳える槍の穂先。とにかく、ヒュッテ西岳のテント場からの眺望は最高だった。表銀座に行くことがあったら、ぜひヒュッテ西岳のテン泊を勧めたいと思う。
長い1日も、これにて終了。明日はついに槍だ。明日に備えて、腹から一呼吸。気づかぬうちに眠りに落ちていた。
□三日目(小田)
2時半におきて食事および出発の準備をする。星空がうつくしい。オリオン座や北斗七星はわたしでもわかった。さむいので着こむ。わたしは朝の食当だったので、テントからひととおり荷物をだして、なべを火にかける。なかなか湯が沸かない。なによりもまず湯沸かしをするべきだった。やっと湯が沸き、乾燥野菜とチキンラーメンを入れ、朝食とする。これはうまい。結局出発するのは、起きてから1時間ほど経ってからだった。
ヘッドライトをつけ、ヒュッテ西岳をあとにする。先頭は吉田さん、次がわたし、最後が鈴木さんで歩きはじめる。この時間に穂先にのぼっている人がいるらしい。そのひとたちのヘッドライトでわかる。槍沢をくだっているひともいるらしい。早出仲間の存在に、すこしいい気分がする。槍ヶ岳山荘などの山小屋のあかりのほかにはとくに何もみえないまま歩きつづける。どんどんと高度がさがってゆく。途中でわたしが水分補給のためにペットボトルのキャップをはずしたとき、うっかりそれを道のわきの草むらに落としてしまった。キャップはあっという間に草をかき分けて姿を消した。持ちはこび用の2Lペットボトルのキャップを転用してことなきを得た。おおきなボトルをふたつもってきていてよかった。おとしても取り返しのつくところで水分補給しましょう。1時間半くらいで水俣乗越(そこにあった看板にはMizumata-Nokkoshiとあった)についた頃には空は朝らしく深い青色をしていた。普段こんな時間には起きていないので貴重である。槍ヶ岳はその輪郭をみせてくれるばかりだが、着実に近づいていることがわかる。ヘッドライトをはずしてヘルメットをかぶり岩にとりつく。のぼりはじめると意外にも歩きやすい。はしごや橋がところどころに設置されているが、新しそうで安心できるし、無理のない歩幅であるけるようにできている。自然、整備をするひとたちへの尊敬の念がわいてくる。岩肌をのぼるようなところもあるが、槍の穂先にのぼることをかんがえるとどうということはない。槍ヶ岳の東側に朝日が当たって絵画となっている。雲ひとつなく、槍の穂先をかくすものはなにもない。写真をとりつつすすむ。登頂したときの感動を予感して、感情がたかぶる。高度があがると植生がかわり、ハイマツがおおくなる。さらに上へのぼれば岩がごろごろとしたところをあるくようになる。ここまでくるとなかなか怖さをかんじるときもあるが、槍ヶ岳はすぐそこ、じゅうぶんに気をつけて着実にすすむ。行程中ずっと、滑落したらただではすまないだろうと思っている。ヒュッテ大槍の横をとおる。いつのまにか大槍の根元まできている。今朝まで遠くに見ていた槍がここにある。穂先のしたのほうが、南東はえぐれている。こんなところにのぼって大丈夫なのか、すこし不安になる。槍ヶ岳山荘がみえている。すぐについた。8時前につけたことになる。つねにすずしい行程で、早出早着のよさを体感する。しかし、東鎌尾根をこの時間に歩いている人をひとりもみなかったのは意外だった。
テント場を確保する。槍のよく見える、Aと名前のついた区画を確保した。北と西を岩に囲まれてせまく、ステラ4がぎりぎり張れる程度だ。サブザックを用意し、ザックをテントに放り込んでついに穂先にアタックする。みたところ誰もいない。あいかわらずの快晴、眺望に期待できる。ひたすら岩場をのぼる。われわれの黄色いテントが背後にはっきりと見える。三点支持を意識しつつ、気をつけてのぼる。途中の、はしごの先に杭が5本ほどうってあるところののぼりがもっとも怖いところだった。最後にはしごを二つ連続してのぼると、頂上であった。先頭でのぼった吉田さんともうひとり知らない人がいる。意外とひろい。眺望も完璧で、表銀座の全ルートがあますところなくみえる。動画や写真でおなじみの例のほこらと看板がある。三人で写真を撮り、各自気ままにすごす。それほどに空いていた。先にいた人は新穂高からきたらしい。朝早く出発してゴリゴリのぼってきたのだろうか。鈴木さんが彼の写真を撮り、彼が鈴木さんの写真を撮る。ついでに吉田さんとわたしもそれぞれ鈴木さんに撮ってもらう。すこしその新穂高おじさんと話した。新穂高おじさんは降り、われわれはまだ居座る。行動食を食べてみたり、山座同定をしてみたりする。表銀座の反対に目を転じれば、裏銀座のルート、立山連峰、はるか先にはおそらく白馬岳もある。穂高岳もみえる。近くに西鎌尾根がありたぶん御嶽山もみえている。吉田さんの食べる和菓子の詰め合わせをみてつぎの山行に持っていきたいとおもう。また人が来る。鈴木さんがまた写真を撮る。「槍ヶ岳」の看板を頭上にかかげてノリノリで撮られている。彼とはよく話した。そのうちまた1人来る。今度こそわれわれは降りることにする。くだりもなかなかにこわい。あしをかけるべき場所が見えなかったりする。くだりはのぼりとルートがすこしちがい、すこしちがうところにおりてくる。途中で二つのルートがごっちゃになった人がいた。
テントに帰り、水を買いに槍ヶ岳山荘に行く。ついでにグッズを買う。わたしはTシャツを買った。鈴木さんはそれに加えてタオルを買っていた。吉田さんはてぬぐいを買ったらしい。わたしはTシャツがちゃんとここの限定品であると信じて買った。そうでないと自慢にならないから困る。テントに帰ってきて暇を持てあます。このとき11時くらいだったと思う。45期で山行を立てられるようになってほしいということを吉田さんがいう。6人以上、できれば10人立てられる人がいて欲しいという。わたしも山行を立てようと思っている。時間があるのでこの山行記録を書きはじめる。12時ごろになると穂先にガスがかかってくる。こうなるといっそう高山らしく、これはこれでよい。この時間になるといよいよ人が増え、穂先が混雑してくる。しかし雲はいよいよ勢いを増し、眺望は悪そうである。これを見越して朝早く出発したわれわれの判断がただしかったことが示された。
テントに描かれたモンベルのロゴをよくみると、mやnは右に傾いていてそれ自体にどこか山らしさがある。外にいるのも暑いので全員テントに入る。各自おもいおもいにすごしていると、1時すぎくらいにちかくに二人組がきてテントを張る。またしばらく経って雨が降り始める。雨が降ると羽虫がいなくなるからうれしい。3時ごろ雨がやみ、外に出て散策してみる。西鎌尾根のほうに走り出す人を見た。わたしはとても走れないので、おそろしいと思った。槍ヶ岳は全体的に左下から右上にむかって岩の流れがあって、いかにもはがれそうにもみえる。いっぽうで案外どっしりとしているようでもある。小屋の周りでビールを飲む大人たちがいる。いいものらしいとは聞く。槍沢、東鎌尾根方面の登山口の方で鈴木さんと景色を眺めるなどして時間を潰す。小屋の前には、韓国だか中国だかから槍ヶ岳にきているひとがいるようだ。
そのうちに吉田さんから晩飯を食べようとの提案があり、飯を作る。鈴木さんによるトマトソースのペンネだった。吉田さんがもってきた煮豆も入れてみてよく煮込んでおいしくいただいた。調理後の鍋で湯を沸かしてコンソメスープをつくった。これもまたうまい。あしたは1時半におきて2時半には下山をはじめようという計画になった。
食後わたしは本を読んでいた。夏目漱石の『三四郎』である。前週の旅行のまえに高校の友人と遊んだ際、きたる旅行にむけてひまつぶしのつもりで買ったものである。それがよみさしでのこっているので持ってきたのだ。読んだのは終盤のあたり、三四郎の下宿によし子が看病にくるところまで読んだ。そこで他のメンバーにあすのくだりに備えてひざをテーピングすることを勧められた。本に夢中で話をあまりきいていなかったのが申し訳なかった。吉田さんにテープをもらって、鈴木さんにならってひざの皿にそうようにテープをはる。ためしにトイレに行くついでにあたりを歩いてみると、なるほどひざへの負荷が軽い。骨と骨の揺れがおさえられて楽である。これはやって良かったと思う。
いよいよ就寝する。横になるがなかなか寝付けない。まだ暗くないし、小屋の方ではひとびとが話しているし、隣のテントからも話し声がする。小屋の方の話し声によれば、夕焼けがきれいである。となりのテントでは院試の結果をみるところらしい。いざその時期にやったら槍ヶ岳にこようかなと思った。彼はどうやら受かっていたようでなによりだ。それでもなかなか寝れそうにないので記録をかきすすめてみる。もうそろそろ7時だが、早く寝たいところだ。
この日の行程は、槍に一気に肉薄しついにはとりつくというワクワクするものだった。ずっと快晴でしかし朝早かったので暑くもなく、まさに最高だった。半日も目の前で槍をみていればこれはこれで慣れてくるから不思議なものだ。
□四日目(吉田)
23時頃、たまたま目が覚めて携帯を見ると、なんと夕方に充電したはずのバッテリーが残り50%を下回っていた。モバイルバッテリーは前回の充電で切れていたので、これはまずいと思い小屋の充電器を借りるべく夜霧立ちこめる外へ飛び出した。が、時間が時間なのでレンタルコンセントは電気が通っておらず結局充電することはできなかった。途方に暮れて小屋の前で立ち尽くしていると、南の方から一気にガスが退き、まるで夜が明けたかのように明るくなった。近くの岩に腰掛けてみる。人影が他にない完全な孤独のなか、星空と北アに挟まれ、かつてなく自然との一体感を感じた。
その後テントに戻るもあまり眠れず起床時間の1時半になった。どうやら2人もいい眠りではなかったらしい。それほど場所や気温は悪くなかったはずだが、なぜだったのか。カレーメシを食し目を覚ます。
準備を済ませて荷物を持ち、昨日予定していた通り水をくみに行ったが、またここで事件発生。水がでない。どうやら水が出る時間帯も決まっていたらしい。冷静になって振り返ると昨日のチェックインの時にそんなことを言われた気がする。大やらかしである。どうにも槍から下りてきてから集中が切れてしまっているようで、これではいけないと気を引き締め直し出発する。もしこの先に水場がなかったらどうなっていたことか…
どうにも調子は上がらないが景色は素晴らしく、東鎌尾根と横尾尾根に挟まれたカール(?)をするすると下って行く。途中で我々よりも重装備の大学生グループとすれ違い、長期縦走について想いを馳せる。雷鳥の活動においては3泊4日が一つの境目となっており、あまりそれ以上の日数の山行は立たない。自分も4日以上の山行に行った事はないが記録を読んだ感じだと、前者は「山に訪れる」レベルで済むが、後者だともはや「山に住む・山で暮らす」レベルの話になってくるように思われる。魅力は十分わかるが、自分たちにはまだかな…というのが我々の共通見解だった。
上高地までの道のりは長く、大曲を超えると道も景色もほぼ変わらなくなる。平たい道故スピードもどんどん上がる。槍沢は広く水量豊富で音も涼しげだが、なにぶんここから最後までずっと隣を流れて行くので足を止める理由にはなり得ない。とにかく進む。
特に語るべきこともないまま、横尾山荘へ到着。すでに4時間歩いているし正直退屈なのだが、まだここでちょうど道半ばといったところで、辟易する。「逆に考えるんだ…上高地からのピストンだと行きも帰りもこの道を行くことになる…表銀座の素晴らしさにまた気付かされたのだと…」精神疲労のためかジョースター卿が私に語りかけてくる。ちなみに私が一番好きなのは第一部ではなく第二部である。なんのことかわからない人はスルーしてください。
横尾の先はもはや登山道ではなくトレッキングコースである。軽装の人もいる中でふと左右を見渡してみると、右には穂高の面々が、左には近すぎるが、まあ常念山脈が伸びているわけである。特に奥穂高は見上げると圧倒的な重厚感と峻険な岩肌が素晴らしく、これはぜひ登らねばと思わされる。鈴木は蝶常念の方に特別な思いがあるらしく、リベンジ山行のシミュレーションをしているようだ。しかし、その後立てた両山行は見事に雨に流された。無念…
その後も、再びウミガメのスープをしたりストックを交換しあったりと退屈を紛らわせながら進む。この道を行くにあたっては話題を持ち物に加えてもいいかもしれない。道中すれ違った人に熊を見たから気をつけてと警告をもらった。こんなに人が多くても現れるのかと驚いた。
すれ違う人がだんだん多くなり、周囲の施設が多くなってくる。いよいよようやく上高地に到着する。初めて来たが、思ったよりも涼しくおしゃれな感じで雰囲気はいいが、とにかく人が多いのが嫌である。河童橋が見えたところで在京に連絡し、山行を終える。鈴木は在京の加藤さんと上機嫌で話をしている。小田は、梓川の源流からここまでたどってきた優越感を噛み締めているらしい。私はというと、自分のしたミスが問題に結びつかずに済んでほっとしていた。よかったよかった。
その後は、上高地で特にやりたいこともないということで、入浴だけしてバスに乗車。松本でラーメンを食してから鈍行で帰京し、新宿で焼肉を食べ、失ったカロリーを補給した。
振り返れば、この新宿から出発してからたったの4日しか経っていない。この後バス停に向かってもう一回行けるな…と一瞬思いつつも今日のところは解散し家に帰る。もう次にどうやってあの場所へ行くか考えている。
■感想
CL吉田
・山行の一週間後にかかったコロナに脳を灼かれて全体的にあんまり記憶が定かではありません。
・夏は結局これと木曽駒(と富士山)しかいけませんでしたが、それでもいいと思えるほどの渾身の山行でした。
・槍合流いつかやりたいですね〜
・山行中口煩かったり急かしたりしてすみませんでした。今後雷鳥を引っ張っていくだろう二人に、濃密なコミュニケーションと早出早着の重要性を再認識してもらいたいという意図でした。
・帰ってきた次の日、私の進路が決まりました。一つ頂に至り、そこから見える景色からまた行きたい場所を探す。私のこの先の路も、また驚きと喜びに満ちたものであるよう願います。
SL鈴木
・槍。憧れの槍。思えば私の槍への憧れは祖父母に連れられて登った常念岳に始まる。今回、あの少年時代に初めて望んだ表銀座の稜線を大学の先輩・仲間と共に踏破できたことをとても嬉しく思う。
・槍のために生き、槍のために歩き続ける表銀座の道のりは筆舌に尽くし難い至高の数日であった。人はなぜ表銀座に惹かれるのか。行ってみたからよく分かる。燕の魅惑的な白亜の岩に始まり、高山植物に囲まれた高地を進み、先人たちの切り開いた鎖場で汗を流し、仲間と励まし合いながら槍ヶ岳を目指す。その折々で北アルプスの素晴らしい眺望が見え隠れし、時間と共に夕焼けや闇、朝焼けと山々の印象も上書きされていく。表銀座に、感涙あるのみ。
>お二人と素敵な時間を送ることができ嬉しかったです!お疲れ様でした!
>他の雷鳥メンバーもぜひ表銀座へ!ぜひ!
◯小田
・思い出深い3泊4日になった、本当に
・もし燕山荘に一泊できていなかったら、一体どうなってしまっていただろうか、恐しい
・天気にこれほど恵まれるとは思わなかった
・私がいちばん貧弱だったけれど、二人のおかげもあって全行程あるきとおせた
・早出すると天候に恵まれるという説をとなえたい
・四日目の、午前3時に行動開始するという体験はたいへんよかった
・槍沢をぬけてからの平地あるきは本当に長かった
・三日目に西岳を早出したのは本当にすばらしい判断で、すいていてかつ晴れた穂先を存分に堪能できた。
・東鎌尾根の整備され具合に驚いた
・ほかの山に行ってからあらためて思うが、北アルプスの魅力はほかには代えがたい
・表銀座に行って、おおきく成長したと感じる
・早出早着っていいな
・槍のまわりともなると、登山者のレベルも高いように感じることがあった。
・槍ヶ岳山荘はでかいです
・いっしょに行ったふたりに感謝したい
・表銀座、行って損はないですよ。ぜひ行きましょう。