2023/9/13-15 南八ヶ岳縦走
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
南八ヶ岳縦走計画書
作成者:鈴木
■日程 2023年9月13日(水)-9月15日(金)(2泊3日、予備日なし)
■山域 八ヶ岳
■在京責任者 加藤
■在京本部設置要請日時 2023/9/15 20:00
■捜索要請日時 2023/9/16 7:00
■目的 百名山踏破
■メンバー(2名)
CL鈴木 SL白川
■集合
小淵沢駅正面のタクシー乗り場 8時45分
■交通
□行き
・マウンテンタクシー 小渕沢駅→観音平駐車場 予約済み
片道3,000円(=1,500円×2人)、約20分、9時出発
□帰り
・アルピコタクシー 桜平→茅野駅 予約済み
約10,000円、桜平の中駐車場で乗車、下山後にタクシー会社に電話をして1時間後に配車
■行程 総計17:45
・1日目 計5:30、7.7km
観音平-0:30-屏風山-0:35-雲海展望台-0:50-押手川-1:25-網笠山-0:20-青年小屋*-1:00-西岳-0:50-青年小屋
*青年小屋で幕営後、西岳をピストン
・2日目 計7:15、6.8km
青年小屋-1:30-権現岳-1:10-キレット小屋-2:00-赤岳-0:30-2410m付近分岐-0:30-中岳のコル-0:25-阿弥陀岳-0:20-中岳のコル-0:40-分岐0:10-行者小屋*
*行者小屋で幕営
・3日目 計5:00、8.4km
行者小屋-1:25-地蔵の頭-0:45-三叉峰-0:10-奥ノ院-0:30-硫黄岳山荘-0:20-硫黄岳-0:15-2600m付近分岐-0:30-2390m付近分岐-0:15-オーレン小屋-0:30-夏沢鉱泉-0:20-桜平
■エスケープルート
□1日目
・青年小屋まで:そのまま引き返す
□2日目
・青年小屋からキレット小屋まで:天女山駐車場まで下山。甲斐大泉駅までタクシー利用
(権現岳-0:40-三ッ頭-0:35-前三ッ頭-2:10-天ノ河原-0:10-天女山駐車場 計3:35)
※タクシー TEL:0551-38-2255 1,600円
・キレット小屋から2410m付近分岐まで:サンメドウス清里まで下山。清里駅まで清里ピクニックバス or タクシー利用
(赤岳-1:10-大天狗-0:50-小天狗分岐-0:40-1960m付近分岐-0:45-サンメドウス清里 計3:25)
※清里ピクニックバス 500円 https://kiyosato.gr.jp/picnic-bus/
※清里観光タクシー TEL:0551-48-2021
□3日目
・2410m付近分岐から地蔵の頭まで:美濃戸口まで下山。茅野駅までバス利用
(行者小屋-1:40-ゲート-0:50-美濃戸口 計2:30)
※バス美濃戸口線 TEL:0266-72-7141 1,500円
https://www.city.chino.lg.jp/soshiki/chiikisenryaku/1061.html
・地蔵の頭から硫黄岳まで:横岳登山口まで下山。野辺山駅までタクシー利用
(三叉峰-1:00-2320m付近分岐-1:10-貯水池-0:15-横岳登山口 計2:25)
※野辺山タクシー TEL:0267-98-2827 約4,000円
・硫黄岳から:そのまま下りる
■注意点
・ギボシ付近のクサリ場
・権現岳周辺の61段のゲンジハシゴ
・キレット小屋から赤岳までのルンゼ状落石、クサリ場
・2410m付近分岐から中岳のコルまでのガレたジグザクの斜面
・中岳のコルから阿弥陀岳までのハシゴ
・地蔵の頭周辺の岩尾根の急登、クサリ、ハシゴ
・地蔵の頭から奥ノ院までのクサリ、ハシゴ
■宿泊施設情報
□青年小屋
テント場 予約必要なし、徒歩4~5分に湧水あり、幕営料800円/人
tel: 0551-36-2251, 090-2657-97-20
https://yatsugatake-seinengoya-tooinomiya.net/
□行者小屋
テント場 予約必要なし、水場あり、幕営料2,000円/人
tel: 090-4740-3808
https://www.akadakekousen.jp/
□キレット小屋
https://www.yatsu-honzawaonsen.com/kiretto.html
□硫黄岳山荘
https://iodake.jp/sanso/
□夏沢鉱泉
https://iodake.jp/natsuzawa/
■地図
二万五千分の一地形図「八ヶ岳西部」「蓼科」
山と高原地図「八ヶ岳」
■食当
・1日目夜:白川
・2日目朝:白川
・2日目夜:鈴木
・3日目朝:鈴木
(アレルギー・苦手なもの:キウイフルーツ、生卵、キノコ、リンゴ、パイナップル、サクランボ)
■共同装備
・テント(ステラリッジ)
本体・フライ:鈴木
ペグ・ポール:白川
・救急箱(エーデルワイス):白川
・鍋(小竹):鈴木
・調理器具セット(キャサリン):鈴木
・ヘッド(緑1):白川
・カート×2:白川
■個人装備
□ザック □ザックカバー □シュラフ(□シュラフカバー)□サブザック □マット □雨具 □防寒具 □登山靴 □替え靴紐 □帽子 □水 □行動食 □非常食 □ブキ □コッヘル □ヘッドランプ □予備電池 □ゴミ袋 □トイレットペーパー □ライター □新聞紙 □軍手 □地図 □コンパス □エマージェンシーシート □筆記用具 □計画書 □常備薬 □学生証 □健康保険証 □現金 □遭対マニュアル(緊急連絡カード含む)□日焼け止め □マスク □歯ブラシ □充電バッテリー □タオル □消毒液 or アルコール除菌シート □温泉セット(□サンダル □着替え □サングラス □リップクリーム □熊鈴)
■サブザックに入れるもの
□ザックカバー □雨具 □水 □行動食 □非常食 □ゴミ袋 □ヘッドランプ □地図 □コンパス □エマージェンシーシート □計画書 □学生証 □健康保険証 □現金 □遭対マニュアル(緊急連絡カード含む) □タオル(□サングラス □熊鈴)
■登山届提出先
東大:提出済
お茶大 : 提出済
コンパス:提出済
(https://www.mt-compass.com/ar.php?i=1760190&u=143552&c=e2c1704b)
■悪天時
前日18:00までに判断
■遭難対策費
400円×2=800円
■各種連絡先
□東大連絡先
教養学部学生支援課 ※開室9:00-16:50(平日)
駒場正門守衛室 ※常時対応可 Tel: 03-5454-6666
□お茶大連絡先
学生・キャリア支援課 ※開室9:00-17:00(平日)
正門守衛室 ※常時対応可 Tel:03-5978-5128
□現地連絡先
山梨県警察北斗警察署 0551-32-0110
長野県警察茅野警察署 0266-82-0110
長野県警察本部地域部山岳安全対策課 026-233-0110
□交通機関
・小淵沢タクシー(小淵沢) 0551-36-2525
・アルピコタクシー(茅野) 0266-71-1181
・第一交通(茅野) 0266-72-4161
・高根タクシー(清里) 0551-48-2211
・八ヶ岳観光タクシー(清里) 0551-48-2025
・清里観光タクシー(清里) 0551-48-2021
■備考
□日出・日没時刻(@赤岳)
9月13日 日出5:17 日没18:07
9月14日 日出5:18 日没18:06
9月15日 日出5:19 日没18:04
9月16日 日出5:20 日没18:03
(参照:https://alumicase.com/acdc/mountain.html)
□温泉情報
・夏沢鉱泉 700円
□コロナ対策 ※[raicho_all:854]
・泊まり山行、特に行程中での食事や入浴が伴う山行では、全員がリスクを理解し合意したうえで実施する
・山行前の体調管理はしっかりと行う
・メンバー全員が当日朝検温してパーティー内で共有し、少しでも風邪の症状がある場合は参加を控える
・マスクや消毒用品を必ず携帯し、山小屋や人の多い山頂など他の登山者と接触する場では着用、使用する
□参考情報
・http://www.jalps.net/alps_5/index.html
南八ヶ岳縦走 記録
編集:鈴木(43)
■日程 2023/9/13(水)-15(金)
■山域 八ヶ岳
■天候
・1日目:晴れ
・2日目:晴れ
・3日目:曇りのち晴れ
■メンバー(2名)
CL 鈴木(43)
SL 白川(44)
■タイムスタンプ(鈴木)
□1日目
9:15 観音平駐車場発
9:42 展望台着
9:45 発
10:06 雲海展望台着
10:16 発
10:46 押手川着
11:00 発
12:24 編笠山着
13:08 発
13:27 青年小屋着
14:07 発
14:47 西岳着
15:54 発
16:36 青年小屋着
□2日目
4:15 青年小屋発
4:48 のろし場着
5:16 発
5:34 西ギボシ着
5:45 発
5:56 東ギボシ通過
6:12 権現岳小屋通過
6:16 権現岳着
6:30 権現岳発
7:00 旭岳着
7:11 発
7:42 ツルネ着
7:49 発
8:15 キレット小屋着
8:31 発
10:49 竜頭峰分岐通過
10:54 赤岳着
11:10 発
11:26 2410m付近分岐通過
12:20 中岳着
12:30 発
12:40 中岳のコル通過
13:06 阿弥陀岳着
13:21 発
13:47 中岳のコル着
14:00 発
14:45 2,400m付近分岐
14:55 行者小屋着
□3日目
4:45 行者小屋発
6:10 地蔵の頭着
6:21 着
7:15 石尊峰着
7:25 発
7:32 横岳(三叉峰)通過
7:44 横岳(無名峰)通過
7:50 横岳(奥ノ院)着
8:13 発
8:46 硫黄岳山荘着
9:23 発
9:49 硫黄岳着
10:13 発
10:29 赤岩の頭通過
10:37 赤岩の頭山頂着
10:47 発
11:29 オーレン小屋通過
12:23 夏沢鉱泉着
13:43 発
14:07 桜平駐車場(中)着
■総評(鈴木)
・3日目の午前中以外は、基本的に晴天の下、歩くことができた非常に幸運な山行だった。また、晴れ間のなかった3日目の午前中も、霧の中という幻想的な雰囲気の下で歩くことができた。
・全体として、山頂への急登と鞍部までの下りという行程の連続だった。特に、標高2,440mのキレット小屋から2,899mの赤岳山頂への急登が最も標高差があり、とても大変でつらかった。
・コース上にハシゴやクサリ場が何箇所も設置されていた。また、傾斜が急な岩場もかなりの数が存在していた。それら自体は三点支持さえ意識していれば、それほど難しくなく登ることはできたが、万が一のためにヘルメットを持参した。
■行動記録
□1日目(白川)
夏休みが始まってから早くも1か月が経ち、いよいよ夏らしいことをするなと心が躍る。期限ギリギリに焦ってとりかかるレポート類も全て出し終えた。8月の山行は台風14号に見事に吹き飛ばされたので、これが私にとって夏休み最初の山行となる(ここから週一テン泊登山生活の幕開け)。3日分の荷物が詰め込まれたザックは、今日も私の背丈を超えている。友達や家族によく言われる。私がザックに背負われていると。写真を見返すが、否めない。日が明けたばかりの静かな朝に、前日アプローチした中央線沿いの祖父母の家を出る。すっきりした空気を吸い込む。これから二泊三日の冒険が始まる。
初めての複数泊ということもあり、登る前の私の心は期待と不安で五分五分だった。一緒に行く予定だったメンバーの1人がコロナになったので、2人で行くことになった。中央本線に揺られながら車窓から見える雄大な山々に対面し、果たして私は無事に登り切ることができるのだろうかとポツリ、一人で考えていた。この南八ヶ岳縦走は私にとっては間違いなく挑戦であり、それなりの覚悟をして参加を決めたものだった。一年前の自分には今の状況は到底考えられないだろう。山の魅力に惹かれて一年が経ち、当初よりも行く山のレベルが上がって自分の成長を感じるなどする。なぜかこれまでの山行が走馬灯のように思い出され、しばらく感傷に浸っていた(これで人生が終わるわけでもないのに)。塩山を過ぎたあたりから気持ちの整理がついてきて、この山行を行くと自分で決めたのだから何があっても乗り切ろう、どうせなら楽しもうと思うようになった。小淵沢までの長時間乗車が、この覚悟を確かなものにしてくれた。
小淵沢駅に到着し、身支度を整え、鈴木さんと合流する。快晴で文句なしの登山日和。駅のそばのベンチで共同装備の受け渡しを行い、事前予約しておいたマウンテンタクシーが来るのをしばし待つ。共同装備としてヘルメットを追加したが、今回のところは、着用推奨山域ではないとはいえ、実際にほとんどの人が着用していたように持っていくべきだと思われる。前日に鈴木さんが部室からヘルメットを持ってきてくださっていた。
タクシーの中のカバーにはGORE-TEXの表記があった。登山口のある観音平までは駅から20分ほどで着く。平日ということもあり人はほとんどいなかったが、駐車場には既にかなりの数の車が停まっていた。ナンバープレートを見たら日本各地から来ているのがわかった。さすが八ヶ岳だ。登山口付近には仮設トイレがある。
靴紐を結び直し、熊鈴をつけ、登山を開始する。最初は歩きやすい登りの道が続く。久しぶりにザックの重みをひしひしと感じる。ここからこの荷物と一緒に登り切れるのだろうか…と少々不安になるが、鈴木さんのこの夏のヨーロッパ旅行の話を聞いていたらあっという間に登ることができていた。平日ということで1日目にすれ違ったのは5人ほど。ずいぶんと静かな登りの道であった。雲海という名の場所で休憩中、富士吉田から来たという老夫婦と小話をしていた。最近登山を始めたらしい。重い荷物を持って大変ね〜頑張るね〜と言われた。はい、大変です!!個人的に、なんだかんだ一番きつかったのはここだと思っている。次に展望台というところで休憩をする。その名の期待に反して見えるものは目の前に生えている草以外何もなかったのだが、登りを再開して途中で登ってきた道を振り返ると、富士山をおさめた展望を見ることができた。登っては振り返り、を繰り返してモチベーションを保つ。大変さを少しでも和らげてくれたのが快晴と形容すべき天気の良さだった。今回だけは晴れ至上主義者の鈴木さんの考えが理解できる。これまでは雨が降らなければいいやくらいの気持ちで山に登っていたが、重いザックを背負って黙々と登り続けるには、登った分高度が増すのを少しでも感じ取れるような展望が必要不可欠であった。文字通りの青空が広がっている。見上げると、真っ直ぐに一本線のひこうき雲がすーっと伸びている。頭の中で断続的に流れているプレイリストはすっかりユーミンの曲に切り替わった。山頂手前の「山頂まであとちょっと!頑張って!」という看板に励まされて本当にあとちょっと登れば、山頂に到着だ。
12:24頃、一座目の網笠山に到着。先に着いて休んでいた長髪の穏やかそうなおじさんに頼んで写真を撮ってもらった。山頂は広く、景観も良く、電波も良い。さっそく一座目登頂の報告を在京の加藤さんと療養中の吉田くんに報告した。体を休めながら、明日登る権現岳を眺める。岩肌が見え、その威厳に圧倒された。そしてこれを登るのか…と期待と不安の気持ちが生まれた。山頂から本日泊まる青年小屋までの下りの道は、少し急だった。青い屋根の小屋を目指して道を降りている間、鈴木さんと映画やジブリの話をして盛り上がっていた。鈴木さんのおすすめは「ミッションインポッシブル」で、私のおすすめは「怪物」です。
13:27に青年小屋に到着すると既に3張ほどテントがあった。一旦荷物を置き、早速サブザックで二座目の西岳に向かう。重荷から解放され、軽々と登頂できた。鈴木さんとは互いの独特な中高の文化の話をしていた。二人とも別学出身で、当たり前にあると思っていた規則や行事も、話してみると随分と特殊なものだったということが判明した。40分ほどで西岳山頂に着き、1時間ほどゆっくりした。休憩のお供は私の祖母が前日から仕込んで持たせてくれた唐揚げで、生姜が効いていて濃いいつもの味にほっこりした。
途中で水を汲み、テン場へ戻る。夕飯の準備に取り掛かっているところで隣のテントのおじいさん二人組が「富士山が綺麗だよ」と教えてくれた。お湯を沸かす前に、鈴木さんと交代で富士山がよく見える小屋の側まで見に行った。確かに、そこから見える富士山は空の上にぽっかりと浮かんでいるようできれいだった。おじいさん2人は「こりゃ年賀状だよ」と言いながら写真を撮りあっている。私はおじいさんたちのツーショットを撮りながら、高校時代からの友達だというその二人の仲の良さを感じてほっこりした。片方のおじいさんは富士山に何度も登ったことがあり、普段は福井県で蕎麦屋を営んでいると話してくれた。そういえば前のバイト先の蕎麦屋の大将も山登りが趣味だったことを思い出した。
1日目夜の食当は私で、アルファ米とレトルトの筑前煮だった。お湯を沸かすだけで鍋を汚さず楽ちんである。しかしお湯を沸かそうとしていたところ、火がつかないという問題が発生する。カート付属の装置では点火できなかったので持参したライターでつけようとしたが、ライターはオイル切れだった。数分途方に暮れていたところ、先ほどのおじさんが「使うかい?」と貸してくださった。感謝感激。人の温かみをひしひしと感じる。その後「飲むかい?」と日本酒を勧められたが、それは渋々お断りさせてもらった。
夕食を終え、テントに戻り、星が見える前に就寝した。
□2日目(鈴木)
3時起床。ライターオイルが昨日切れてしまったので、朝食は各自行動食を食べる。僕はカロリーメイトと柿の種のワサビ味を食べた。朝食後、荷物の整理やテントの撤収を行う。テントの外に出てみると、星が非常にきれいに見えており、好天を確信しうれしくなる。また、オリオン座や冬の大三角形がはっきり見えて、季節の移ろいを感じる。目下の問題としてライターが使えないので、縦走路中にいくつかある山荘やヒュッテでライターを帰る場所がないかどうかを探すことにした。
4時15分頃にテント場を出発する。ヘルメットを身に着け、ヘッドランプをその上から付ける。最初は平坦な歩きやすい道だったが、徐々に傾斜がきつくなっていく。無心で登り続け、4時48分頃にのろし場に到着する。
のろし場で太陽が昇りつつある景色が見える。本日の日出時刻は5時18分。日出間近で赤らむ空と雲海、さらに富士山の組み合わせが非常に美しく、日出までここで待とうと決める。富士山の見える南東側の反対である西側には茅野市の市街地の明かりが雲間から見える。また、南西側には、前日登ってきた編笠山と、その奥に南アルプスの山々が見える。
パシャパシャと周囲の景色の写真を撮っていると、徐々に明かりが増していく。太陽は手前の山に遮られて見えないが、富士山の周囲はオレンジ色にそまり、上空に行くにつれて青くなっていく光景は絶景である。筆舌に尽くしがたいとはこのことであり、時間があれば是非写真を見ていただきたい。
ほとんど日が昇りきった5時16分に行動を再開する。少し下ると、ガレ場の急坂が始まる。登り始めて徐々に右側へと向かって行くも、登山道の印がないことに気づく。進む方角は概ね正しかったので、YAMAPを見てみるとルート上の注意書きがあり、右側ではなく左側を進むべしと書かれている。道の誤りに気づき、慎重に左側の正規ルートに戻っていく。浮き石が多く、自分の踏み込んだ足元から石が何個か少し下に落ちていくこともある。後ろを歩く白川さんに謝りながら、登っていく。
西ギボシに登頂した後の道でも岩場が続く。東ギボシは登頂せず、巻き道を通る。その巻き道はクサリを使ったトラバースとなっている。足場が狭いため、通るのが少し怖く感じる。東ギボシの巻き道を抜けると、権現岳への尾根道となっており、権現岳山荘が見える。 権現岳山荘までの道は平坦だったため、すたすた歩いて山荘に到着する。権現岳山荘は閉鎖中であった。山荘を登ってすぐの場所の分岐点でザックをデポする。そこには権現岳のおにぎり大の標高標があり、それを持って写真を撮る。そこからはこれから進んでいく赤岳や阿弥陀岳が見え、少し気が引き締まる。
6時25分頃に、本日最初の八ヶ岳の主峰の1つである権現岳に登頂する。そこからは富士山や南アルプス、編笠山、東ギボシが一望できる。美しい景色に後ろ髪を引かれながら、赤岳への道を歩き始める。
権現岳を下り始めてすぐ、61段の「ゲンジハシゴ」と呼ばれる長いハシゴに到着する。今まで山行中に下ったハシゴの中で最も長かったので、かなり緊張したが、案外簡単に下りることができた。
旭岳を経て、7時42分にツルネに登頂する。ツルネの意味について後日調べてみると、「ツルネとは、連嶺のことで、連なる嶺が訛って、ツラナルミネ→ツルネになった。」と書かれていた(https://yamap.com/activities/25822987)。ちなみに、先ほど通過したギボシは、「擬宝珠」という漢字を書き、Wikipediaによるとそれは「橋や神社、寺院の階段、廻縁の高欄(手すり、欄干)の柱の上に設けられている飾り」のことである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%93%AC%E5%AE%9D%E7%8F%A0)。
8時15分頃にキレット小屋に到着した。キレット小屋も閉鎖中であった。小屋から離れた水場を見に行ったが、チョロチョロとしか出ておらず使えそうにない状態であった。キレット小屋でしっかりと休憩を取る。というのも、キレット小屋から赤岳山頂まで約450m続く急登があるからである。気合を入れ直して歩き始める。
キレット小屋から赤岳への登山道は、ガレ場の急坂やハシゴがあり、今までで最もきつかった。たわいない話を白川さんとしてきつさを緩和しながら登ったと思うが、ここで何を話したか全く思い出せない。それほど個人的にはつらかったみたいだ。竜頭峰分岐まで近づくと、女性の悲鳴が聞こえてくる。誰か怪我でもしたのかと思ったが、竜頭峰分岐に到着すると、その悲鳴の正体が判明した。それは登山初心者っぽい女性2人組が岩場を下りながら発していた声であった。ザックの腰ベルトを締めない人たちでも赤岳に登ることができるのかとなぜか関心する反面、いつか事故を引き起こさないかと不安も生じさせた。
彼女たちとすれ違った後、竜頭峰分岐でザックをデポして、赤岳の頂上への最後の岩場を登り始める。身軽になったため、非常に軽快に登っていくことができた。
10時53分、赤岳到着。八ヶ岳最高峰に到達した達成感がすごい。赤岳からは最高の景色を見ることができた。頂上であった女性に2人の写真を撮ってもらった後、ライターを入手するために頂上山荘へと歩を進める。しかし、2人とも財布をザックに置き忘れたため、頂上山荘でのライターの入手を諦めることに。真にアホである。
赤岳頂上からの下りは、最初は岩場だが、徐々に岩から石になっていき、最後は緩やかなザレ場となっていた。ザレ場では非常に滑りやすく、僕も何回か滑りそうになった。中岳直前のコルで一旦休憩したが、その間に赤岳山頂や中岳山頂にも霧がかかっており、赤岳山頂で素晴らしい眺望を見ることができたことを喜ぶ一方で、本日のこれ以降の行程では眺望が期待できなくなり少しがっかりする。
登り返しを登り切り、12時20分に中岳山頂に到着する。予想通り、中岳山頂は霧で周囲を覆われており、何も見えない。中岳山頂と書かれた木の板を持った写真だけ取ってすぐ行動を再開する。しばらく下山して、中岳のコルでザックをデポし、阿弥陀岳へと進む。
13時6分に阿弥陀岳山頂に到着するも、中岳山頂同様に何も見えない。こちらも早々に中岳のコルへ戻り、本日の宿泊場である行者小屋への行動を開始する。
行者小屋への道は緩やかな下りが続き、非常に歩きやすかった。
14時55分に行者小屋に到着する。小屋の中でテント幕営料を支払い、小屋番のおじさんにライターを購入したいと話すと、なんとライターを無料で渡してくれた。非常にありがたい。本当に行者小屋の小屋番のおじさんには頭が上がらない。テントの設営を済ますと、青年小屋で挨拶したおじさんが話しかけてきた。彼から、僕たちが明日登る予定の地蔵尾根はすごく大変という話を聞き、少しビビる。16時半に夕食を作り始めることに決め、それまで各々時間を潰す。僕は小屋近くのベンチに座ったまま、無事に行者小屋まで来れたことに安心して30分くらいボーっとしていた。白川さんは手ぬぐいを買ったみたいだ。食当は僕で、ビーフジャーキー入りトマトパスタを作った。我ながらまあまあうまくいったと思うが、味が濃かったためもう少し水を入れるべきだったと反省した。食事後は、翌日の準備を行い、19時に就寝した。
□3日目(白川)
3時に起床し、天候確認をした後、早速朝食づくりに取り掛かる。鈴木さんの持ってきてくださったサッポロ一番の味噌ラーメンは温かくて美味しく、今日も頑張ろうという気持ちになれた。でも普段朝食をとらない鈴木さんには、朝からラーメンはちょっと重かったらしい。食べながら夜空を見上げていたが、だんだん空に雲がかかって星が見えなくなっていく。昨日までの二日間は素晴らしいほど晴れていたが、流石に今日はそうはいかないようだ、と残念に思いつつも現状を受け止める。朝露で重みが増したテントを撤収し、準備を整え、出発をする。これが今回の山での最後の朝か…としみじみ感慨深くなっているのは複数泊をしているからである。山で迎える朝はなんだか特別な気がする。
3日目の行程は、昨日おじさんが大変だったと言っていた地蔵尾根を乗り越えることから始まる。これから急登が続くのだと気を引き締めて一歩踏み出した。ところが、一歩踏み出して早々、どの道に進めば良いのかわからず手間取ってしまった。方向は間違っていないはずなのだが、暗すぎてどこから行けばいいのか確信が持てなかった。5分ほど探してなんとかピンクテープを見つけ、登り始めることができた。これからはテン場に着いたら、次の日の朝のために登山口の確認とともにルートの始まりの確認もしようと思う。
初めてのことではないにしろ、やはり朝っぱらからの急登は体にくるものがある。このときはあまり会話はせず、途中「休憩しますか?」「休憩したいけど…あともうちょっと頑張ろう」というやりとりを鈴木さんと何度かしたくらいだった。私もキツいが、鈴木さんもキツい。あともう一息頑張る。そうして黙々と登っていた。しかしそれほど頭が回っていないこともあり、時間が経てばこの辛いはずだった記憶も、次第に薄くなって「案外すんなり登れたもんだ」と補正されている。登れるものは朝のうちに登ってしまうのがいいのかもしれない。
しばらくするとだんだん空が明らんできた。霧の中にいるので景色が見えるわけではないが、色が紫っぽく染まっている。霧の中の夜明けもまた幻想的だった。暗闇の中で黙々と登っていた時は自分自身との戦いであったが、夜が明けて世界が見えるようになると、まるで周りの植物や空に見守られているような気持ちになる。明るいと安心する。やはり我々は昼行性の動物だ。
休憩を挟んで歩き進めると、鉄棒の手すりがついた鉄製の階段が登場した。少し濡れていて、手から鉄の香りがする。小学生時代に鉄棒をして遊んだ後のあの手の感触がしてとても懐かしくなった。それと同時にいまだに自力で逆上がりをできたことがないことが思い出されて悲しくなった。ここから先、岩場が始まる。何歩か踏み出せば崖というようなところで、きっと景色が良いところなのだろうなと、ガスに包まれながら心の眼で景色を感じ取った。
地蔵の頭に到着する。地蔵尾根はおじさんに諭されて想像していたほどは辛くはなく、1日目の網笠山までの急登の方がよっぽどだったという感触だった。やはり朝だからだろうか。峠を越えられて一安心したのも束の間、今度は天候の方が少し心配になってきた。雨が降るまでには岩場を乗り越えたいのだが…。地蔵の頭には、文字通り地蔵がいた。人気もなく、風が強くて寒い。霧で景色が見えないことに寂しさを覚えつつ、次の横岳に向けて出発した。
晴至上主義の鈴木さんにとって今日の天気は惜しい。でも、コツコツと進んでいると、よく見たら雲の切れ目から陽が差し込んでいるのがわかる。起伏のある山の谷の部分に光が差し込み、それはまるで映画のワンシーンのよう。この調子で晴れてくれるのではないかという淡い期待が生まれてきた。横岳付近はハシゴの連続かつ段差が大きめの岩場があるため、下るときは非常に緊張した。身長の関係で足が地面に届かないことが何回かあり、その度にどこに足をかけるべきか迷った。前を歩く鈴木さんのアドバイスのおかげで安全に乗り越えることができた。咄嗟に手足をかける場所を判断できるようになるためにも、クライミングの練習は役に立つのだということを実感した。
ガスガスの中、横岳に到着。横岳からは平坦な道が続く。3日目のコースには、あちらこちらで登山整備途中の道具や看板が多くみられた。こうして安全に登れているのは整備している人たちがいるからこそなのだと感謝した。途中、硫黄岳山荘に寄る。この山荘の設備の素晴らしさに圧倒された。まず、トイレが水洗だったこと。次に、シャワーがあること。そして温かい食べ物や飲み物があること。中では薪を炊いていてとてもじんわり暖かく心が休まる。鈴木さんはココア、私は甘酒を頼んで温まる。美味しいのはもちろん、陶器のコップや木製のコースターが可愛らしかった。木造の建物でとても居心地が良く、いつまでもいたかった。私は念願の八ヶ岳バンダナも買い、今日まで登ってきた山々を指でなぞり、ずいぶん来たなあとしみじみしていた。後から中国人の団体の登山客も来ていた。山頂までは長いがれ場の道を歩く。途中雨がポツポツしてきたのでザックカバーをかけた。山頂はとても広く、場所によって電波状況も変わっていた。今回の山域では鞍部以外はほぼdocomoが通じる。天候回復を期待してしばらく山頂で待っていたところ、だんだん視界がひらけて来た。硫黄岳まで歩いてきた、スラリと細長い稜線が美しく見える。真っ白な世界の中に登った横岳も少し見えて、嬉しかった。ここまで来たのだなと軌跡を確認できるとはたまたしみじみする。
オーレン小屋方面への道は、次の北岳CLのための練習として鈴木さんに代わって私が先頭を歩いた。下りのガレ場を慎重に歩いていると、足元の土が硫黄らしい白色に。変化がある面白い道だった。途中で赤岩の頭という場所があり、少し登れば良い展望が見られる。粒のような行者小屋、今朝登ってきた地蔵尾根を発見し、またまたここまで来たのか…と感動した。オーレン小屋までの下りの道中は鈴木さんに就活について色々と質問をして、教えてもらった。あっという間に到着したオーレン小屋は賑やかで、楽しそうな雰囲気だった。小屋には用がないので通り過ぎるだけのはずだったが、小屋のおじさんが記念にと小屋の前で写真を撮ってくれた。せっかくなので看板に描かれている「八ヶ岳の伝説」を読みながら少し休憩する。富士山の木花咲耶姫が関係しているそうで、なかなか興味深い内容だった。
小屋から夏沢鉱泉までは平坦な歩きやすい道で、きのこ天国だった。初めて見るきのこを見つけては足を止めて写真を撮った。カラフルで面白い生え方をしているものばかりで、自分でも不思議なほどワクワクが止まらない。ここまできのこに目をやるほどの余裕がなかったので仕方ないが、きっとこの道以外にも多種多様なきのこを見ることができたに違いない。きのこを撮りながら、その神秘性に、きのこは山の神様なのではないかという考えがふと頭をよぎる。先日観ていた「もののけ姫」に影響を受けているとはいえ、朽ちた木からきのことという新しいものが生まれいる点、見つけると魅惑されるように近づいてしまう点から、やはりきのこの神秘性を感じないわけにはいかない。豊かな水が流れる音とともに、八ヶ岳の自然に惹かれていた。
下山後の夏沢鉱泉のお風呂はこぢんまりとした空間で、とても気持ちが良かった。私は一緒になったここに宿泊している女性と湯船に浸かりながら1時間近くおしゃべりした。この女性は障害を持っている息子さんのために、一緒に山に登っているそうだ。この方は65歳で、裏銀座を1日で40キロも歩いたことがあると話していた。強い...!私は3日間の疲れを癒しながら、これから続く山行のことをめぐらせ、出会った女性のような強い心を持とうと決めた。実際、これ以降の山行で急登に直面した時は幾度となくこの女性のことを思い出したものだ。来週は山友達とツアーで台湾の山に行くと話してくれた。お互いの名前を覚えて、「いつかどこかの山で」と挨拶を交わし、お別れをした。
これで三日間の冒険は終了した。無事に縦走できて、良かった!
■感想
□鈴木(CL)
・総評にも記載したが、基本的に晴れていたため、非常に綺麗な景色を観ながら歩くことができて、非常に嬉しく満足感のある山行になった。特に、のろし場で日の出を見たが、その際の富士山が最高の眺めだった。
・硫黄岳山荘のココアや夏沢鉱泉の温泉が最高だった。社会人になったら、山小屋にも泊まってみたいと思った。
・久しぶりのテント泊で、荷物が非常に重く感じた。歩荷を行って、体力をしっかりつけて山行に望めるようにしたい。
・ハシゴやクサリ場、岩場が連続する行程だったので、ヘルメットを持参した。当初ヘルメットは不要だと考えていたが、色々と調べるとヘルメット持参が強く推奨されるということを知り、急遽出発前日に部室に取りに行った。事前にしっかりと登山道の状況や危険ポイントを調べることの重要性を改めて感じた。次回以降、気を付けたい。
・ライターオイルが切れており、途中で火をつけることができなくなった。青年小屋ではテント場のおじさんからライターを借りたり、行者小屋では小屋番からライターをもらったりするという周囲の人の親切心のおかげで、2日目の夕食と3日目の朝食を食べることができた。彼らには感謝してもしきれない。次回以降の泊まり山行に行く前に、必ずライターオイルの残量を確認してから出発するようにしたい。
・最後に、この山行が成功したのは多分に白川さんのおかげである。本当に3日間、ありがとうございました!
□白川(SL)
・何事もなく完遂できて安心した。相当な岩場や鎖場を乗り越えたことがちょっと自分でも信じられないが、基本の三点支持を守って慎重に落ち着いていけば大丈夫だった。
・辛い登りを乗り越えた後には必ず言葉にならない感動の景色が待っていた。それがあったから進み続けられたと思う。2日目の朝に見た富士山は間違いなく人生で一番きれいで、やっぱり日本一だなと思った。
・青年小屋のおじさんや夏沢鉱泉のお風呂で話したおばさんなど、きのこだけではなく人との出会いもあった。ライターの件で色々な人に助けられたこともあり、そういった人との出会いや思い出を忘れず、大事にしていきたい。ライターやマッチは忘れずに持っていくようにします。
・3日間一緒に歩いた鈴木さん、在京の加藤さんはもちろん、送り出してくれた家族や友達にも感謝の気持ちでいっぱいです。改めてありがとうございました!
・きのこ可愛い