2023/9/19-21 北岳(旧:白峰三山縦走)
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
北岳(旧:白峰三山縦走計画書)第二版(2023/09/17 現在)
作成者 : 全メンバー
■日程 2023/09/19-21(火~木) 2泊3日 (予備日:09/22)
■山域 南ア
■目的 登頂、夏合宿
■在京責任者・助言役 加藤
■在京本部設置要請日時 2023/09/21 19:00
■捜索要請日時 2023/09/22 9:00
■メンバー(5人) 確定
CL 白川 SL小島 清野 朝倉 油井
■集合、交通
集合
【原則】特に事情がない人はJR高尾駅7:07発の甲府行の車内にて合流
【例外】甲府駅南口バスターミナル1番のりば(9:05発のバスに間に合うように)
交通
□行き
(各最寄り)→JR甲府駅:
JR新宿駅6:08発→(中央線快速高尾乗換)→8:38着, 2310円, 特急あずさ/かいじに乗る場合はJR新宿駅7:00発, JR甲府駅8:27着, 都内停車駅は新宿, 立川, 八王子のみ, 指定席料金1580円
JR甲府駅→広河原バス停:9:05, 10:05, 12:05発, 10:58, 11:58, 13:58着のみ, 乗車時間1:53, 1990+300円(協力金)※ICカード使用可
□帰り
①広河原バス停経由(3690円至JR甲府駅)
広河原バス停→JR甲府駅:10:00, 12:00, 14:00, 16:40発, 11:55, 13:50, 15:55, 18:30着, 乗車時間1:50~53, 1990+300円(協力金)※ICカード使用可
②タクシーで甲府駅まで
問い合わせ先:山梨県タクシー協会, TEL:0552621212
(参照) https://road-to-freedom.net/siranesanzan2022/
※上記のサイトからYoutubeで提供している動画のリンクにも飛べます。是非そちらも見てほしいです。
■行程{計9:48}
□1日目[計02:16]
広河原登山口-0:03-分岐-0:03-広河原キャンプ場-0:25-分岐-1:45-白根御池小屋
□2日目[計03:27]
白根御池小屋-1:52-小太郎尾根分岐-0:30-北岳肩ノ小屋-0:50-北岳-(0:50)-北岳肩ノ小屋
□3日目[計04:05]
北岳肩ノ小屋-0:25-小太郎尾根分岐(右俣コースを通り二俣分岐を経由)-1:40-白根御池小屋-1:55-広河原キャンプ場-0:04-広河原登山口
■エスケープルート
1日目:広河原山荘に引き返す。
2日目:北岳肩ノ小屋まで:白根御池小屋に引き返す。
北岳〜北岳肩ノ小屋以降:北岳肩ノ小屋に引き返す、あるいは停滞
3日目:北岳肩ノ小屋〜小太郎尾根分岐:北岳肩ノ小屋に引き返す。
小太郎尾根分岐以降:白根御池小屋に進む。
白根御池小屋以降:バス停まで進む。
■危険箇所
・強風による転落:小太郎尾根分岐(以降稜線のため)
・道迷い:北岳山頂まで複数の偽ピークあり
■共同装備
テント (ステラ4)
本体・フライ→朝倉
ペグ・ポール→清野
(ステラリッジ) :
本体・フライ→白川
ペグ・ポール→油井
救急箱 (アゲハ) : 小島
鍋 (梅、小梅):小島
ヘッド*2(緑11) : 朝倉→清野
(緑1):白川(南八より)→油井
カート*4 : 朝倉(×2+尾瀬より×2)、白川(南八より×2)→各自
調理器具セット(ディド):朝倉(尾瀬より)→
ヘルメット*5
ゾーディアク(赤) : 小島
EDELRID(青): 小島→朝倉
Black Diamond : 小島→清野
ゾーディアク(橙) : 白川→油井
白川私物
■食当
1日目(夜) : 小島 献立:未定
2日目(朝) : 清野 献立:棒ラーメン
2日目(夜) : 朝倉 献立:未定
3日目(朝) : 油井 献立:未定
摂取カロリー指標
http://www7b.biglobe.ne.jp/~photography/calorie.html
︎AG・NG(アレルギー・嫌いな食べ物)
ナッツ、メロン、モモ、サクランボ、キウイ、カニ
■個人装備
□化繊の登山服 □ザック □ザックカバー□シュラフ □ マット □登山靴 □替え靴紐 □雨具 □防寒具 □水 □行動食 □非常食□ヘッドランプ □予備電池 □ゴミ袋 □ライターorマッチ □地図(磁北線を引いた上で印刷or購入) □コンパス □エマージェンシーシート □筆記用具□計画書(要印刷) □常備薬 □学生証 □健康保険証(コピーでも可) □現金 □遭対マニュアル(要印刷)□モバイルバッテリー□日焼け止め □マスク □タオル□消毒液orアルコール除菌シート□着替え︎食器□トイレットペーパー□ポール□熊鈴(□軍手□歯ブラシ□帽子□サングラス□温泉セット) □ヘルメット
■地図
2.5万分の1「鳳凰山、仙丈ヶ岳、間ノ岳、夜叉神峠、奈良田」
山と高原地図「北岳・甲斐駒」
■遭難対策費 メンバー5人×400円=2000円
■現地宿泊先
広河原山荘 090-2677-0828 テン場代900円/人、101人、 素泊まり8000円 、水場あり、要予約
白根御池小屋 090-3201-7683 テン場代1000円/人、80人、素泊まり7200円、水場あり(無料)、仮設トイレ(小屋泊者のみ施設トイレ利用可)、予約済
北岳肩ノ小屋 090-4606-0068 テン場代1500円/人、50張、素泊まり8000円、水場あり(片道で徒歩15分、小屋販売:有料200円/L)、予約不要
北岳山荘 090-4529-4947 テン場代1100円/人、80人、素泊まり9000円、水場あり(往復で徒歩90分、小屋内販売:無料)、自炊室、談話室、お茶・お湯(どちらも無料)、洗面所など小屋の中にある設備はテント場泊の登山客も利用可。
農鳥小屋 090-7635-4244 テン場代1000円/人、50張、素泊まり5000円、雨水タンクのみ、要連絡
大門沢小屋 090-7635-4244 テン場代1000円/人、40張、素泊まり7000円、水場あり、予約不要
■各種連絡先
□東大
○教養学部学生支援課 ※開室9:00〜16:50(平日)
○駒場正門守衛室 ※常時対応可
Tel: 03-5454-6666
□お茶大
○学生・キャリア支援課 ※開室9:00~17:00(平日)
○正門守衛室 ※常時対応可
Tel:03-5978-5128
□現地連絡先
○南アルプス警察署 Tel : 055-282-0110
■備考
□日出・日没時刻
9/19 日の出 5:31/入り17:48
(@甲府, 国立天文台 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2023/s2009.html)
□雨天時中止:前日12:00までに判断
□電波
白根御池小屋 : docomoは◯、au,は圏外、Softbankは電話のみ
北岳(肩の小屋):docomo,auは◯、Softbankは圏外
□温泉
奈良田BS近く:女帝の湯(奈良田温泉)700円(水曜定休)9時~
下部温泉駅前:しもべの湯(https://shimobenoyu.com/)930円(無休)10時~
□登山届提出先
・コンパス:提出済
・大学(東大):提出済
・大学(お茶大) : 提出済
■コロナ対策
・泊まり山行、特に行程中での食事や入浴が伴う山行では、全員がリスクを理解し合意したうえで実施する。
・山行前の体調管理はしっかりと行う。
・メンバー全員が当日朝検温してパーティー内で共有し、少しでも風邪の症状がある場合は参加を控える。
・マスクや消毒用品を必ず携帯し、山小屋や人の多い山頂など他の登山者と接触する場では着用、使用する。
□過去記録、参考記録
2021/08/29-09/01
2019/08/25-28
2019/07/13-15
–
ヤマレコ - 白峰三山 三泊四日
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-1209712.html
9/19-21 北岳山行 記録
作成者:白川、朝倉、清野、油井
■日程 2023/9/19-21(火-木)
■山域 南アルプス
■天気 9/19 晴れ
9/20 曇りのち晴れ
9/21 雨
■メンバー(敬称略)
CL白川、SL小島、朝倉、清野、油井
■タイムスタンプ
1日目 計2:41
11:27 広河原登山口
14:08 白根御池小屋
2日目 計2:58
5:13 白根御池小屋
6:47 小太郎尾根分岐
7:24 肩ノ小屋
(天候回復を待つ)
10:07 肩ノ小屋発
10:27 北岳着
(天候回復を待つ)
14:10 北岳発
14:37 肩ノ小屋
3日目 計4:57
4:16 肩ノ小屋発
4:40 小太郎尾根分岐
6:09 二俣分岐
6:42 白根御池小屋着
7:25 白根御池小屋発
9:13 広河原登山口
■総評
白峰三山縦走の計画だったが、悪天候の予報により北岳ピストンに変更した。定期的に雲の動きを確認し、安全に登頂することができた。山頂では、長時間の待機したところ素晴らしい展望を見ることができた。3日目は雨に降られて滑りやすかったが、特に問題はなかった。
■記録 文責:油井、朝倉、清野
1日目(油井)
特急で甲府に向かう小島さん以外の4人は高尾駅に7時頃集合した。連休明けの平日ということもあり、登山客で賑わうことの多い普通列車の車内はそこまで混雑しておらず、ロングシートに横並びで座ることができた。直近の山行や夏休みの近況、成績について同期同士で話しているとあっという間に甲府盆地に入った。実はこの区間を普通列車で移動するのは直近1ヶ月で3回目であり、さらに2日前まで山中湖でテニス合宿をしており高速バスで帰ってきたばかりだった。もはや準山梨県民である(8/6-9/21の1ヶ月半で山梨滞在は実に11日に上っていた)。勝沼からの南アルプスの展望を楽しみにしていたのだが雲に隠れてよく見えなかった。列車は甲府城稲荷櫓の下を通り甲府駅に到着した。甲府に来るたびになぜ甲府駅を城内に作ってしまったのかと思いを馳せてしまう。無事に下山したら久々に甲府散歩でもしようかと独り考える。
先に甲府に到着していた小島さんとバス待ちの列で合流した。実はこの間、男性陣は駅のトイレに行ったあと白川さんもトイレに行ったと勘違いして割と長い時間改札前で待っていたのだが、どうやら先にバスの列に並んでくれていたようであった。ありがたい限りである。広河原に向かうバスは登山客でごった返しており、なんとか座ることができたがザックを支えながらの2時間の乗車はなかなかにハードだった。何度かスマホをいじっていたが、山深くなるにつれて電波が弱くなり、あっという間に圏外になった。流石、山に弱いKDDIである。山行中、一瞬電波が入ることはあったが、非常に不安定で結果的に100件以上もLINEを溜め込んでしまうことになった。途中の夜叉神峠登山口付近の急カーブでは、下ってきたトラックとあわや正面衝突しかけて生命の危機を感じた。登山バスの運転手も見通しの悪い険路をそれなりのスピードで走らねばならず、どれだけ寿命の縮む仕事かと心配になる。幸い、夜叉神峠から広河原の区間はマイカー規制が行われており、熟練ドライバーによるバス・タクシー等しか乗り入れられないので事故の恐れはそれほどないようである。
11時頃、バスはほぼ定刻で終点広河原に到着した。暑かった甲府や車内とうって変わりバスの外はひんやりとする。それもそのはず広河原の標高は1500mを越えており、甲府との標高差は1200mにも及ぶ。それでも上着を着るほどではなく、日差しは強そうであった。広河原に到着したことでいよいよ北岳への登山が始まるのだという実感が湧き胸の鼓動が高まる。
広河原インフォメーションセンターでトイレを済ませ、共同装備の受け渡しなどの準備をして11:30には白川さんを先頭に出発した。すぐに広河原橋で野呂川を渡って晩夏の樹林帯に入る。僕は6月の乾徳山ハイク以来3ヶ月ぶりの登山であった上、2日前までクラス旅行とテニス合宿をハシゴしていて体力面の不安があったので2番目を進ませてもらったが、登り始めるとザックの重みに苦しんだ以外特に問題はなく一安心した。本来前日まであった合宿を早退して一日休養日を設けてよかったとつくづく感じる。強い日差しを浴び、急登を前に一同汗ばみ苦悶の表情を浮かべながらも順調に進み、少し開けた場所で最初の休憩を取った。振り返れば鳳凰三山が眼前に堂々と聳えている。雪解けが早かったこともあり、先輩方はGWに鳳凰三山を登ったという話を聞き、2024年には45期で行きたいね、という話を清野とする。
再び登り始めるとすぐにベンチがある広場に出た。ここで休めばよかったという話をしながらここはスルー。白川さんが昔住んでいたという伊豆大島の話や運転免許の話をしていると再びベンチのある広場に出た。振り返ると先程と鳳凰三山の見え方が変わっており随分と登ってきたのだと実感する。ちょうど昼時であったので水分補給と同時に持ってきたおにぎりを頬張る。清野はこの夏雷鳥内のトレンドとなっているというフルグラを食していた。食事をしながら小島さんが専攻している生物素材化学について話が盛り上がる。僕自身、S1タームで生物素材の化学を履修していたので興味深く聞いていた。とはいえ僕は文3なので再入学しない限りその学科には進めないのではあるが。自分が専門としないであろう分野でも好きなように履修を組める進振り制度の恩恵を受けたのは今のところこれぐらいであろうか。
ある程度腹を満たしたところで出発する。どうやら今日の登りはこの時点でほぼ終わっていたようであった。白根御池小屋までのルートの後半は等高線に沿っているのである。事前にわかっていたことではあるが南アルプスに登るのに初日にこれしか標高を稼がなくて大丈夫なのかと心配になる。翌日立ちはだかる草すべりがどれほどの急登なのかと期待と不安感を膨らませる。この辺りからジメジメとした森林に生えるキノコが目立つようになった。白川さんはキノコが好きなようで何枚も写真を撮っていた。3日目以降の荒天予報で白峰三山縦走が北岳だけのピストンに変更を余儀なくされたこともあり、行程にも心にも余裕があるのでみんなで可愛いキノコを鑑賞しながら進む。途中沢のある斜面を木道でトラバースする箇所があり、絶好の撮影スポットであるとみんなこぞってスマホを構える。木道を渡るメンバー、鳳凰三山、沢など思い思いに撮影する。ここまで来ると白根御池小屋は目と鼻の先である。
14時前に幕営地である白根御池小屋に到着した。小屋の前にはたくさんのトイレが並んでいた。これだけ用意されているところは珍しいように感じる。それだけ登山者が多いということなのだろう。白川さんがチェックインを済ませ、白根御池の周りで幕営に適した場所を探す。白根御池は予想以上に水が澄んでおり、南アルプスの山影を映していた。北アルプスの八方池や大雪山の姿見の池とはまた違った趣がある。その周りに泊まれるとは贅沢なことである。混雑を警戒していたが先客は2組だけでどこにでも張り放題であった。当初、先客の近くの平坦地を最有力候補として整備していたが、登山道から一番離れた池の対岸なら雷鳥だけの空間を作れるのではないかと考え、そっちにテントを張ることにした。2張にちょうど良いスペースで、隣の岩の上に登ると鳳凰三山を望むことができた。テント決めじゃんけんの結果、僕と清野が二人の方を獲得し、広々と寝る権利を得た。1時間ほどテント周りで写真を撮ったり山のパンフレットを見ながら行きたい山について話したりしてまったり過ごした。
暗くなる前に小島さんが調理を始め、みんなで手伝った。晩飯のメニューはアボカドパスタであった。小島さんが事前に家でソースの仕込みを終えていたので麺を茹でてソースと絡めることで割と手早く作ることができたが、ソースを既製品に頼らず手間をかけて自作した点に感心した。味もレベルが高く、3日目に控える自分担当の朝食の準備不足を思い出して急に不安になってしまった。食後にはラテを飲みつつ、僕が9月上旬に北杜市内で発掘調査に参加した際の土産として購入した塩あん福餅をみんなで食べた。南アルプスの山脈塩を使用しているようで我が愛する甲斐駒がパッケージを飾っていた。明日北岳から甲斐駒の勇姿を拝めることへの期待に胸を膨らませながら甲斐駒の魅力を布教した。僕の甲斐駒愛は届いているだろうか。
片付けを終えてもまだ周囲の視界は明瞭で、夕焼けに染まる鳳凰三山にうっとりしていた。一方、北岳方面はというと支尾根の稜線は見えるものの主脈上部はガスに覆われて完全に視認することはできなかった。それでも翌日の天気予報は落ち着いているようだった(僕は圏外なので確認不能)。久々に電波から隔絶された生活を送り、いかに自分が電子機器に依存した生活を送ってきたか思い知らされた。都会の喧騒を忘れて心をリフレッシュするのも登山の醍醐味の一つである。とはいっても翌朝は早いので普段は考える余裕のないことについてゆっくりと物思いに耽る時間はなく、19時には就寝した。
2日目(朝倉)
3:00起床。前日の予報通り、早朝の白根御池小屋周辺の気象条件は比較的よく、少し肌寒さを感じる点以外は山頂を目指すには十分に穏やかな気候のように思えた。とはいえ、この日は午前中を中心に1日通して天気が崩れ気味であろうことは本山行の計画の段階から明らかだったため、我々はいつまでこの晴れ間が続くのだろうかと、時折空の方を気にしながら出発の準備を進めた。星空は見えなかったが澄んだ空気が心地よかった。朝食は清野くんの棒ラーメンに白川さんの持参したフリーズドライの味噌汁の具を加えて頂いた。清野くん曰く、地元九州ではフライ麺よりも棒ラーメンが主流なのだそうだ。初耳だが、確かに言われてみれば棒ラーメンは豚骨スープが”正解”なような気がしてきた。そんなことを考えながら朝食を済ませ、荷造りをしていると既に時刻は5:00を回っていた。雲が次第に垂れ込んできているような気がしながらも5:10前後、白根御池小屋を後にする。
草スベリを早々に抜けたいという思いが、朝一の先頭を任された私の歩調に表れていた。昨夜はあまり寝つきが良くなかったが、そんなことも全く気にならないほど足はよく回っていたと記憶している。先頭ということもあってか、かなりの急登を黙々と登っていく様は、初日の出だしが想定外のキツさだったのとは対照的だった。そうは言いつつも、途中見晴らしが良いところに出ると背後では美しい朝日が雲の陰から鳳凰三山の山際を朱色に照らしており、そういった風景に出くわすと途端に目を奪われ、足は自然に止まっていた。
結局、草スベリを抜けたのは出発から1時間半が経った6:45頃だった。この辺りから風が強く吹いてきたので休憩のついでにウィンドブレーカーを着てみると、おぉ、だいぶ緑のmontbelが多いなぁと思う。白川さんの命名により、清野くん油井くん私の3人は晴れて緑三人衆となった。途中、何人かの登山客の方とすれ違いそのうちの一人から、「稜線は風が気持ちよかったよ〜(曖昧)」という証言を頂いたが、若さゆえか、その時はまだそれを真に受けていた。実際稜線に出てみると、確かに風は強く吹き、これを気持ち良いと表現することもできなくはないかもしれないが、少なくとも想像の6倍の威力はある風だった。あるいは、日の出直後はまだ心地よい風だったのだと想像される。風は崖下から吹き上げる方向に我々の間を抜けて山側に吹き抜けていった。この時間になると我々のいる標高2900m付近はすっかり濃霧に包まれ、幸いにもそれが視界を遮ってくれていたためそこまでの恐怖感は無かったが、仮に超がつくほどの大展望だったら中々足がすくむ体験になっていたに違いない。ただ、この時撮った写真を見返してみるとみんな底抜けに良い笑顔をしていたのが、個人的には今回の山行を印象付けるものとなっている。山にスリルあり、である。一時待機の判断も頭をよぎったが、風が強い場所で留まるよりもすぐそばに迫っている肩の小屋まで進む方が賢明だとの小島さんの判断で我々は先へ進むことにした。
7:24北岳肩の小屋到着。到着を一番最初に出迎えてくれたのは、ラミネートされたテント場C, Dの看板だった。ここでは流石に風が強すぎる。もう少し先に進むと小屋が見えてきた。標高3000m。2022年に改築されたという小屋の全貌は濃霧により窺い知ることはできなかったが、その手前で燦然と輝く「北岳に来ただけ。」という素晴らしい吹き出し看板が、この北岳の地にも新しい時代が到来したことを暗に示していた。早く北岳をバックにあれを掲げて写真を撮りたい、あまりの湿気にうなだれる私はそう思うばかりだった。髪は知らぬ間に露でびしゃびしゃになっていた。小屋のすぐそばに50張りほどは張れそうな広めのテント場があったため、そこにテントを張り、時間も早いので天候が回復するまでしばらくテント内で休憩することにした。ここではテントに対して1サイトの大きさが小さかったためペグの代わりに石でロープを固定したが、もう少し風に対する向きなどを考えればよかったと今になって反省している。広いテント場では、我々を含め3張りのテントが静かに時間を過ごしていた。白川さん、小島さんと夏の山行やこれから行きたい山の話などをしていると、外から人の声がするようになった。東側の雲が晴れ、富士山が見えるようになったらしい。9:30頃のことである。単純なようだが、やはり登山は景色が見えてなんぼだと感じた一瞬である。5人が一斉にテントの外へと飛び出し、ゆっくりと晴れゆく眺望を観てひとしきりはしゃぐなどした。北岳の峰は依然雲の中だが、そろそろ出発しようかという合意があった。一同サブザック等に荷物をまとめる。
10:07肩の小屋発。小屋の建屋は稜線を塞いでいて関所のような構造になっており、農鳥方面へ抜けるには小屋と崖の間にある細い通路を通る必要があった。そこを抜けるとあとはひたすらガレ場を登るだけである。以降は対落石のためヘルメットを装着しての行動となる。多少ザレていたがそこまで歩きにくさを感じる道ではない。こうして岩場を歩くと巨大な岩を避けたり乗り越えたりするルートが矢印などで示されてるのが目につくわけだが、一見歩きどころのない荒野のように見えて実はきちんと道が整備されているというのが面白い。視界は完全に晴れているわけではなかったが、早朝の暴風吹き荒れる中での小屋アタックに比べるといくぶん眼下の状況が分かる程にはなっていて、今までに無い多少の高度感に興奮を感じていた。感じつつさらに進むと、出発から30分も満たないうちに眼前に山頂が姿を現した。
10:32北岳登頂。頂上はゴツゴツした岩に覆われていたが、よく整備されていて、十数人程度なら長時間滞在できそうなほど意外にも広かった。ガスで展望は全くなかったが、とりあえず何か写真をと思いスマホを手に掲げ、三角点の説明文やその辺に落ちていた石をエセ芸術風に積み上げて撮影したりした。最初は僕一人で積んでいたのが段々と仲間が増え、最後には6人全員で黙々と己の独創性に身を任せ石を積み続けるという謎の境地に達した。この集団、怪しむなと言う方が無理がある。私の個人的お気に入りは「きのこ」だが、みんなは「鳥」が良いらしい。読者諸君には伝わっているだろうか。適宜アルバムを参照されたい。途中可愛らしい小鳥が霧の中から姿を現し、僕がそれを雷鳥だと騒いでいたらどうやら違ったらしく、変な空気になったりもしたが、一向に景色は晴れない。1日目から山頂でラーメンを食べると意気込んでいた油井くんがお湯を沸かし_バーナーは別のパーティから拝借しました。ありがとうございます_カップ麺をすするまでの一連の挙動をタイムラプスで収めたショートフィルムを撮影してもなおガスが晴れることはなかった。エセ芸術も次第にマンネリ化していき迷走に向かっていたこともあって、我々は一旦下山をし時間を改めて眺望の機会を設けることにした。12:32北岳発。2時間ほどの滞在であった(内石積み1時間)。下山開始から5分、風がブワァっと吹いた瞬間雲がグワァっと晴れた。即座に踵を返し山頂へ向かう。
12:44、北岳12分ぶりの登頂。12分前には全く見えなかった雄大な南アルプスの山々が視界いっぱいに広がっている。南方には本来あと2日をかけて踏破するはずだった白峰三山の稜線が悔しくも大変綺麗に見えていた。しかしながら景色自体は、このために待機していたと言っても過言ではない、期待を裏切らない絶景であった。そして案の定皆写真を撮りまくる。被写体も皆その熱意に応えるようにポーズや表情には抜け目がなかった。この滞在時間で、この世に存在する全ての構図で写真を撮ったと言っても言い過ぎではないだろう。帰り際、ふとガスがなかなか晴れない西側の斜面の方に目をやると、自分の影がほんの数m先に浮いて見え、その周りを虹色のリングが取り囲み神々しく光り輝いていた。これを見た瞬間私はついに自分が菩薩になり昇天したのかと思ったが、実際には太陽光が雲粒により散乱されブロッケン現象が発生していたのである。山岳信仰というのはあながちこういう所から始まったのかもしれない。14:10、一抹の名残惜しさと再訪の決意を山頂に残し、長い滞在時間の末我々はようやく肩の小屋への帰路についた。
30分ほどで小屋へと降りると、同じ時間に山頂にいた年配の女性の方2人と再会を果たした。どうやら我々が山頂を後にするしばらく前に下山を開始していたようで、山頂が晴れた頃には登り返す気力が残っていなかったのだと言う。我々ももう少し早くに諦めていたら絶好のタイミングを逃していたのだろうか。運が良かった。テントに戻り、16時に夕食の準備を始めることを伝え、それからしばらくは皆思い思いの時間を過ごしていた。この時点で既に外は中々の寒さで、ダウンを持ってこなかったのを少し後悔する。夕食の担当は蕎麦好きの私で、山で蕎麦を食べたいという単純な理由から合いそうな食材を色々と持ってきた。その中でも特に乾燥ワンタンは意外にも期待以上の役割を果たしてくれて、軽い/腐らない/肉類、そしてなにより美味しいということで今後も重宝しそうである。17時半頃に片付けを済ませ、翌朝は雨が降りしきる中での下山になるだろうとのことで、それに備えて早めに床に着いた。夜は風の音にうなされた。
3日目(清野)
テントを出ると外は濃い霧に包まれていた。時刻は午前3時。昨夜から続く風は少しは弱まっただろうか。昨日は稜線上で大変な思いをしたので何とかおさまっておいてほしいところである。同じテントの油井は風の音であまり眠れなかったようだが、個人的には1日目の夜の狐の叫び声の方がうるさかったように感じた。その辺りは人それぞれである。午前6時までには雨が降り出す予報だったので、朝食はとりあえず行動食で手早く済ませる。皆てきぱきと荷造りを終え、出発したのはまだ4時過ぎだった。肩の小屋から小太郎尾根分岐まで20分程稜線を降っていく。昨日は暴風の中で何が何だかわからない状況だったが、いざ下ってみると思ったよりの傾斜である。霧は濃いものの、風はそれほどないため順調に進んでいく。
小太郎尾根分岐でついに雨がパラつき始めた。一同雨具を着て、登りの時に使った草すべりルートではなく、大樺沢へと下る。ここからは樹林帯だ。30分程黙々と進んでいくと開けた場所に出て、暫しの休憩。いつの間にか雲の下だ。ここでついに空が明るくなってきた。やっと日の出かと思われたが、中々太陽は姿を見せない。折角眺めのいい場所にいるのだからと10分程粘ってみたが、太陽はまだ姿を見せず、結局痺れを切らして出発する。
再び歩き出して15分ほどたっただろうか。ようやく目の前に聳える鳳凰三山の稜線の上に太陽が顔を覗かせた。谷から吹き上がる雲も赤く染まっていく。ただただ美しかった。来年は鳳凰三山に必ず登ろうと心に決める。
その後もどんどん高度を下げ、やっと大樺沢へと辿り着いた。水こそ流れていないが、山頂付近から転がり落ちてきた岩が散らばっていて、河原のような雰囲気である。下から吹き上げてくる風と木々の揺れる音が谷に響き渡っていた。今頃山頂の辺りは大荒れだろうか。暗い雲に覆われている。顔にまとわりついてくる虫が鬱陶しいので、さっさと出発する。
ここから広河原へ直接下る道は通行禁止のため、白根御池小屋へと向かう。暫く平坦な道だ。ずっと下りで足が疲れ始めていたので、かえって歩きやすい。まだ半分しか下っていないと考えると気が滅入りそうだ。
20分ほどで白根御池小屋へ到着した。幸い雨も降っていなかったので、ここでやっとちゃんとした朝食を取る。メニューはクリームペンネとポテトサラダ。じゃがりこをお湯でふやかして作ったポテトサラダは思っていたよりちゃんとポテトサラダで驚いた。クリームペンネはペンネパスタに粉末のキノコクリームスープとチーズをかけたもので、手軽なのにとてもおいしい。こちらも冷えた体に染み渡る。ちょうど食べ終わったところで雨が降り出した。朝食を食べて元気が出たのか、一同元気良く出発する。
しかし、ここからが辛かった。樹林帯で景色は全然変わらない。急な下りでよく滑る。3日目で足の疲労はピークに達している。おまけに雨も降っているときた。心を無にしてひたすら高度を下げていく。
下ること1時間半。ようやく広河原の登山口に辿り着いた。その頃には雨は大降り。冷えた体を温めようと、すぐにタクシーに乗って芦安温泉へと向かう。道中、昨日北岳八本歯のコルで滑落し、足を骨折する事故があったと聞いた。幸い今シーズン北岳で死亡事故はまだ起きていないそうだが、改めて安全意識を高めなければと思う。一時間程で芦安温泉に到着した。温泉は内湯とぬるめの露天風呂。人も少なく皆長湯していた。温まった後は、併設された食堂で昼食を取り、甲府駅に到着したのは14時前だった。油井はなんと今から武田信玄の墓まで歩いてくらしい。なんという体力。小島さんは電車に間に合おうと解散直後に走っていったが、だらだらしていた残り3人は次の電車までまさかの1時間待ちを余儀なくされたので、時間潰しに甲府城へ散策しに行った。甲府城の天守台展望台には甲府盆地を囲む山々を示すパネルが設置されていた。あいにくの曇天で何も見えなかったが、ここから見えるであろう雄大な山々の眺めに一同、思いを馳せていた。
■感想
○白川:
・複数泊のCLは初めてでした。1日目最初の急登は、気合が入っていたのか随分CTを巻いてしまっていました。
・個人的に、2日目の稜線の強風と3日目早朝の霧の道は、記録の通り何が何だかわからない状況でしたが恐怖心を通り越してそれはもう楽しかったです。
・北岳から下山開始7分で登り返した瞬間は面白くて忘れられません。晴れてくれて本当によかった!頂上から見つめていた、今回は断念した二座を来年リベンジしようと思います。
・ご飯がとても美味しかったです。シェフの皆さんありがとうございました!
○朝倉:
・日本アルプスデビューでした。悪天候に悩まされた山行でしたが、夏の終わりにこういった経験ができて本当に良かったです。
・事前にそういう情報があったので意外と草スベリは楽に登れました。むしろ広河原から白根御池に至る急登のほうが、気温や日差しも相まってキツかった記憶があります。
・リベンジ行きます
・計画立案の加藤さんには来年報われてほしいと心から思っています。在京ありがとうございました!
○小島:
・どのご飯も美味しかったのが印象的です。
・全体的にゆとりのある行程で楽しい山行でした。
・稜線の風が強く、アルプスの本気を見せられた気がしましたが、山頂で景色も見れて良かったです。
・計画してくれた白川さん、加藤さんありがとうございました!
○清野:
・初めての3000m超えの山でしたが、山の美しさも厳しさも感じられたと思います。
・来年は三山縦走をリベンジするので、皆さんも是非!
○油井:
・雷鳥での初めての泊まり山行でしたが、足を引っ張ることなく無事に終えられてホッとしています
・このところ雨天中止が続いており、今回も計画縮小を迫られたので日頃の行いを見直します
・山頂でまったりする登山もいいですね
・もっと雷鳥にコミットしようと思うきっかけになりました
・愛しの甲斐駒を眺められてよかったです。2024年に黒戸尾根から登りましょう!