2024/9/12-15 表銀座夏合宿第3日程
山岳愛好会雷鳥(東京大学・お茶の水女子大学公認サークル)
表銀座夏合宿第3日程計画書 第1版
作成者:斉藤
■本日程 9/12-15(木-日) 3泊4日
■予備日程 9/13-16(月-木) 3泊4日
※天候悪化などにより本日程での遂行が厳しくなった場合に、予備日程へ延期する
■山域 北アルプス
■目的 登頂
■在京責任者 加藤
■在京本部設置要請日時 9/15(16) 19:00
■捜索要請日時 9/16(17) 8:00
■メンバー (確定 4人)
CL斉藤SL伊藤◯清野◯田中
以上
■集合
新宿22:30
■交通
□行き
・バスタ新宿(23:15)-アルピコ交通5551便-安曇野穂高(4:27)- 穂高駅(4:40)
↓
・穂高駅(5:10)-中房線乗合バス-中房温泉(6:05)
※アルピコ交通7,200円〜+中房線バス1,500円
□帰り
選択地①:高速バス
・上高地バスターミナル(15:30発)-京王電鉄バス株式会社,アルピコ交通株式会社5802/5804便-バスタ新宿(20:17)
or
・上高地バスターミナル(16:50発)-京王電鉄バス株式会社,アルピコ交通株式会社5806便-バスタ新宿(21:37)
予約1ヶ月前から¥12,000/約5時間弱
選択肢②:在来線
・上高地→新島々駅
要予約(1ヶ月前~15分前) 通常運賃:1,700~3,260円
(a)「発車オーライネット」からクレジットカード支払い→電子チケット
(b)「上高地バスターミナル」乗車券販売窓口での予約・購入も可能
乗り遅れの場合、当日に限り上高地バスターミナル窓口で指定変更手続きが可能(変更手数料:100円)
↓
・新島々駅→松本(アルピコ交通上高地線)
※上高地→松本まで合わせて3260円で販売中
↓
・松本→東京方面
※松本から新宿を特急あずさに課金もあり。目安¥10,000/約4時間半/予約なしの当日買いでも乗車可能
★上高地→新島々駅は要予約(1ヶ月前~15分前) 通常運賃:1,700~3,260円
(a)「発車オーライネット」からクレジットカード支払い→電子チケット
(b)「上高地バスターミナル」乗車券販売窓口での予約・購入も可能
乗り遅れの場合、当日に限り上高地バスターミナル窓口で指定変更手続きが可能(変更手数料:100円)
★時刻表
・上高地(7:50/9:30/10:40/11:25/12:05/12:40/13:20/14:05/14:40/15:15/16:00/16:40/17:30)→新島々駅(9:22/10:53/12:07/12:48/13:27/14:06/14:45/15:25/16:04/16:43/17:22/18:00/18:41)
・新島々駅
(9:22/10:08/10:53/11:28/12:07/12:48/13:27/14:06/14:45/15:25/16:04/16:43/17:22/18:00/18:41/19:25/20:10/21:12/22:32) → 松本駅(9:52/10:37/11:22/11:57/12:36/13:17/13:56/14:36/15:15/15:55/16:34/17:13/17:52/18:30/19:11/19:54/20:39/21:41/23:01)
■行程
□本日程
︎1日目 9/12
燕岳登山口 -0:40- 第一ベンチ -0:35- 第二ベンチ -0:35- 第三ベンチ -0:40- 富士見ベンチ -0:30- 合戦小屋 -0:20- 合戦沢の頭 -0:50- 燕山荘 -0:30- 燕岳 -0:30- 燕山荘
【計5:10/約13.6km/△1486m/▽223m】
︎2日目 9/13
燕山荘 -0:55- 大下りノ頭 -1:25- 喜作レリーフ -0:36- 大天荘 -0:11- 大天井岳 -0:11- 大天荘 -0:37- 大天井 -2:19- 西岳 -0:08- ヒュッテ西岳
【計6:22/約10km/△1162m/▽1167m】
︎3日目 9/14
ヒュッテ西岳 -1:00- 水俣乗越 -1:40- ヒュッテ大槍 -0:50- 槍ヶ岳山荘 -0:21- 槍ヶ岳 -0:21- 槍ヶ岳山荘
【計4:12/約4.2km/△986m/▽594m】
※時間的・体力的余裕が不足と当日判断した場合、4日目早朝の槍ヶ岳アタックを検討する。日の出の時間を考慮して、4:30ごろの出発とするか
︎4日目 9/15
槍ヶ岳山荘 -0:57- 坊主岩小屋 -1:20- 大曲 -0:25- ババ平テント場 -0:10- 赤沢岩小屋 -0:20- 槍沢ロッジ -0:30- 一ノ俣 -0:50- 横尾山荘 -1:01- 徳沢園 -1:42- 上高地バス停
【計7:15/約19.0km/△362m/▽1936m】
※梓川左岸道は通行止め
https://yamap.com/plans/code/1ws2AEMQKpzbceMr1MhBRO9lEliW6NZs_pPkr_IwHdXRStkCMPUtotw2qcyHiui58ew
■ピークへのピストンCT
・燕山荘 -0:30- 燕岳 -0:25- 燕山荘
・大天荘 -0:10- 大天井岳 -0:10- 大天荘
・ヒュッテ西岳 - 西岳 - ヒュッテ西岳 往復15分
・大天井ヒュッテ - 牛首展望台 - 大天井ヒュッテ 往復30分
・槍ヶ岳山荘 -0:30- 槍ヶ岳 -0:30- 槍ヶ岳山荘
■エスケープルート
大天井岳まで:引き返す
大天井岳から水俣乗越まで:大曲方向へ下山し上高地へ
以降:そのまま進む
(本日程・予備日程かかわらず)
■個人装備
□ザック □ザックカバー □サブザック □シュラフ □マット □登山靴 □替え靴紐 □ヘッドランプ □予備電池 □雨具 □防寒具 □帽子 □軍手/手袋 □タオル □水 □行動食(4日目の朝食含む) □非常食 □カトラリー □コッヘル □ライター □トイレットペーパー □新聞紙 □ゴミ袋 □エマージェンシーシート □地図 □コンパス □筆記用具 □遭難対策マニュアル □計画書 □学生証 □保険証 □現金 □常備薬 □マスク □消毒用品 □日焼け止め □着替え・温泉セット □モバイルバッテリー □ヘルメット (□汗拭きシート □カイロ □サングラス □サンダル □歯ブラシ □トレッキングポール □熊鈴 □テーピング □ポール)
■地図
25000分の1:「穂高岳」
山と高原地図:「槍ヶ岳・穂高岳、上高地」
■共同装備 調整済み
テント エアライズ4 No.1:斉藤
なべ 竹:伊藤
カート ×2:伊藤
ヘッド 緑9:田中
調理器具セット キャサリン:田中
救急箱 有紗:清野
ドライシャンプー:清野(お支払いしましょう)
■食当 調整中
1日目夜:伊藤(もちザニア)
2日目朝:清野
夜:斉藤
3日目朝:田中
夜:槍ヶ岳山荘(本)あるいは殺生ヒュッテ(予)にて食事
4日目朝:各自用意
アレルギー等:ナッツ類、カニ、魚卵
■遭難対策費
600円×4名=2400円
■悪天時
前日までに判断
■施設情報
□山小屋
燕山荘 幕営 2000円/人(約40張/要予約) 素泊まり9000円/人
テント泊は水有料(宿泊者は水無料)
大天荘 幕営 2000円/人(約50張/予約不要) 素泊まり8500円/人
水無料
大天井ヒュッテ 素泊まり9000円/人
https://www.yarigatake.net/reservation/otenjo/
ヒュッテ西岳 幕営 2000円/人(約30張/要予約) 素泊まり9000円/人
水有料(200円/1L)水不足で販売できない可能性アリ トイレ 200円
マスク アルコール必要
槍ヶ岳山荘 幕営 1000円/人(39張/先着) 素泊まり9500円/人
テントが張れない場合;素泊まりor殺生ヒュッテテント場)
水有料(200円/1L)
殺生ヒュッテ 幕営 2000円/人(約30張/予約不要) 素泊まり9000円/人
水有料(200円/1L)
□温泉
中房(なかぶさ)温泉
上高地アルペンホテル(入浴料1,000円/バスタオルレンタル200円
上高地温泉ホテル:7:00~9:30、12:30~15:30 1000円
※上高地の温泉まとめサイト
■備考
□日の出日の入り(槍ヶ岳 9/14)
日の出 5:21
日の入 18:08
□連絡先等
松本警察署上高地警備派出所 0263-95-2013
安曇野警察署穂高交番 0263-82-2157
燕山荘 0263-32-1535
大天荘 090-9003-1253
大天井ヒュッテ 090-1401-7884
ヒュッテ西岳 090-7172-2062
槍ヶ岳山荘 090-2641-1911
殺生ヒュッテ 0263-77-2008
□過去の記録
2023年 記録
9/12-15表銀座③ 記録
作成者:斉藤
■日程
本日程 9/12-15(木-日) 3泊4日
予備日程 9/13-16(月-木) 3泊4日
■山域 北アルプス
■天気
□1日目 晴れのち雨
□2日目 晴れのち雨
□3日目 晴れのち雨
□4日目 雨
■メンバー
CL斉藤(45) SL伊藤(46) 田中(46) 清野(45)
■共同装備
テント エアライズ4 No.1:斉藤
なべ 竹:伊藤
カート ×2:伊藤
ヘッド 緑9:田中
調理器具セット キャサリン:田中
救急箱 有紗:清野
ドライシャンプー:清野
■総評(斉藤)
第3日程も無事に槍ヶ岳までいくことができました!各メンバー実力は十分で、山小屋グルメに食い倒れるなど、全体的にのんびりとした雰囲気の表銀座縦走になったかと思います。
■タイムスタンプ
□1日目
6:16 中房温泉
6:53 第一ベンチ
7:32 第二ベンチ
8:23 第三ベンチ
9:06 富士見ベンチ
9:49 合戦小屋
11:12 燕山荘
12:21 燕岳
13:00 燕山荘
□2日目
4:06 燕山荘
4:54 大下りノ頭
7:19 大天荘
7:55 大天井岳
9:53 大天井ヒュッテ
12:14 ヒュッテ西岳
14:00 西岳
14:17 ヒュッテ西岳
□3日目
4:41 ヒュッテ西岳
6:07 水俣乗越
7:42 ヒュッテ大槍
8:55 槍ヶ岳山荘
10:11 槍ヶ岳
11:02 槍ヶ岳山荘
□4日目
3:07 槍ヶ岳山荘
3:47 坊主岩小屋
5:52 ババ平
6:30 槍沢ロッヂ
7:36 横尾
8:29 徳澤園
9:54 明神橋
10:43 河童橋
■ルート概況
※特筆すべき点のみ。基本は他記録参照を推奨。
燕山荘~大天井岳:長い稜線のあと大天井への急登が出てくるが、途中のガレ場は道を間違えやすいので注意。よく観察すると直登しないルートを見つけられる。
ヒュッテ西岳〜水俣乗越:時折足元に釘が刺さっており注意すべきだが、しっかり足元を見ていれば暗闇での行動も可能。
東鎌尾根:高度感があるのは三連梯子くらい。
■山行記
□1日目(斉藤)
朝4:30ごろ、私たちの乗っていたバスは穂高駅に到着した。ここで大勢が降車するものだと思いきや、実際に降りたのは私たち以外に二人ほど。なぜだろう、と少し気にしつつ、誰もいない穂高駅前のバス停に荷物を置いてバスを待つ。するとタクシーのおじさんが歩いてきて、「始発バスを待つのかい?」と聞いてきた。「ええ、5:10のに乗ります」と答えると、「始発は6時台だよ?」と返され、「あえ?」と私は目を丸くしておじさんを見つめてしまった。急いでバス停の時刻表を見、ここで初めて8月と9月とでダイヤが異なることに気づいたのであった。完全に計画書作成段階での確認不足である。私はメンバーに謝罪をしつつ、タクシーで中房温泉まで行く判断をした。幸いにもそのおじさんは親切な方で、深夜の割増料金でないメーターで計算をしてくれた結果料金は一人2300円弱に落ち着いた。またおじさんも登山家らしく、燕山荘のもつ煮が大変に美味しいなど表銀座縦走についての色々とアドバイスもいただいた。本当に諸々幸運すぎる。すみませんでした、そしてありがとう...
こうして何とか予定通りの時間に中房温泉に辿り着いた私たちは、いよいよ合戦尾根を登り始める。いつもより重いザックだからであろうか(私の場合、金峰国師に次いで過去二番目くらいに重かった気がする)、なかなかスピードが出ずCT一倍で進んでいく。そうやって息を切らしながら登った先にあるのが、冷たくて甘い合戦小屋のスイカである。合戦小屋についてすぐ、私たちはてきぱきとさも当たり前であるかのようにスイカを購入した(スイカが苦手な田中はたい焼きを食べていて、それはそれで美味しそうであった)。燕山荘は商売上手だなぁなどと思いつつ一カ月ぶりに合戦小屋のスイカを齧るが、やはり美味しい。
残りの尾根も踏ん張って登り、燕山荘に到着。さくっとテントを設営した後、天気が崩れる前に燕岳に行くことにした。私にとっては二度目の光景であるが、この山は何度見ても飽きない美しさがあると思う。いくつもの突き出た岩峰と、それらを覆う深い緑の植生。その合間には風化した白砂の大地が広がっており、そこにはコマクサが群生している。遠くから眺めても壮大な山であると感じさせられ、また近くで見ても興味深い山である。
燕岳から帰った私たちは、燕山荘で軽食(昼食でも夕食でもない)をとることにしたのであるが、今思えばこれが食い倒れの「始まり」であった。本山行の食い倒れの様子は後述の山行記録に任せるとして、なぜ燕山荘で軽食をとろうという判断をしたのであろうか。今となってはよく思い出せないが、私たちの間では「タクシーのおじさんがもつ煮をすすめたせい」ということにしていた。せっかく親切にしてもらったのに...()
もつ煮やら唐揚げやら牛丼やら、各々が燕山荘グルメを楽しんだ後、少し時間をおいて夕飯の時間がやってきた。さて、今夜私たちがいただくのは、伊藤46が作る「もちザニア」である。ラザニアのパスタをもちで代用したものらしいが、これがとても美味しい。しかも、鍋に焦げ付かないようアルミホイルを敷くなど、準備仕込みも周到であった。重いのに材料を担いできてくれてありがとう。
こうしてさんざん食い倒れた後、18:00ごろには就寝した。当初は午後に崩れる予報であった天気も幸いなことにガス程度で持ちこたえており、穏やかな気持ちで私たちは横になった。
□2日目(伊藤)
午前2:00起床。テントのファスナーを開け外に顔を出すと、厚いガスが闇夜を遮っていた。寒い、暗い、視程が悪い。空を見上げても、星は曖昧にぼやけている。漠然と恐怖を感じた。燕山荘から漏れる淡い光が、不安をすこしやわらげてくれた。
荷物をまとめ、テントをたたむ。そういえば、前回登山で高山病に罹った田中が心配だったが、全くの杞憂であった。入山前から万全の対策をしていたので当たり前だ。彼の高い修正力、学習能力を見習いたい。テン場を撤収し朝食の準備。燕山荘脇のテーブルで鍋に火をつける。昨夜の「もちザニア」の土台にしたポテチが焦げついていて、水は濁っていた。非常に申し訳ない。今朝の食当は清野。メニューは「だんご汁(大分県)」あるいは「だご汁(熊本県)」。九州の郷土料理だ。ちなみに汁にはよく見る丸いだんごではなく、手で器用に引き伸ばした短冊状のだんごが入る。根菜類のたっぷり入った味噌味の汁に、うどんを投入。しかも汁がねちょねちょにならない生めん。流石の早さでごちそうが出来上がった。いただきます。味の染みた大根やごぼうが体を芯からあたため、味噌仕立ての温かい汁が気持ちを落ち着けてくれた。夢中でうどんを平らげると、おかわりもたっぷりある。とても安心する朝ごはんだった。ありがとうございました!
みんなでてきぱきと片付けを済ませ、9月の北アの突き刺すような寒さのなか燕山荘を発つ。先頭の斉藤が濃い闇とガスに隠されたルートをすいすい拓いてゆく。燕山荘からはハイマツと岩と白い砂のトラバースが続く。ここの注意点を一つ挙げるならば、「大下りの頭」。標識から斜め左前方に進むと登山道らしいものがあるが、道はザレておりすぐに進むべき先を見失ってしまう。正しいルートは標識からほぼ直角に左方向に進んだ先にあった。(この下手な説明で迷わせてしまってはいけないので、あくまで参考程度にお読みください🙇)
寒さに耐え黙々と歩いているうちに日の出を迎えた。朝日が北アルプスの山々の稜線を赤く縁取り、染めてゆく。遥か先にある槍ヶ岳は、その急峻ないただきを未だ雲にかくしている。うーん、焦らし上手👏。我々の歩く稜線もついに日の光を得て、様子がよくわかる。トラバースは等高線をなぞったかのように続いており、尾根の上り下りで無駄にエネルギーを消費することがなく、とても快適。しかもそれだけではない。登山道が南北に伸びる尾根の東側と西側を何度も行き来するため、稜線の東西両方の景色を飽きずに楽しむことができるのだ。西には暁の赤い光に染められた北アルプスの山々、東にはご来光を浴びて複雑な表情をみせる雲海が広がっている。その美しさに、自然と一行の足も止まり、しばし夢のような光景に見惚れた。私は晴れやかな笑顔の似合うメンバーをたくさん写真におさめた。清々しい朝だった。
日も上がり、山々の谷の青が深くなった頃、はしごが現れた。降ると、大天井岳に向かうルートの最低地点である。はしごの下にある、表銀座を拓いた小林喜作を讃えるレリーフを過ぎると、大天井岳への登りが始まる。それまでなだらかな稜線を歩いていた身にはしんどい登りである。そして登山道がギザギザに折れ曲がっているせいで落石も怖い。時々背後の山々を振り返ってエネルギーをもらいながら登ること30分、やっと大天荘にたどり着いた。
今日はこれから先もう一回下って上るしかないことに絶望したが、ひとまず休憩。売店が開いていたので入ってみる。チタン製のオリジナル水筒やオリジナルタオル、フルーツ缶など、こぢんまりしたスペースのわりにラインナップが充実していた。お菓子の棚に目をやると、きのこはあるがたけ◯こは置いていない。大天荘はきのこの山派であった。これは素晴らしい。1人だけたけ◯こ派であった田中は、哀れにもきのこ過激派の2年生3名からの集中攻撃を受けていた。かわいそうではあるが、真理(きのこ)を愛する人間の一人として私も田中を非難した。彼にも早く真理に気づいてほしい。
かなり時間に余裕があると判断されたため、大天井岳頂上でより良い眺望を得るためにも休憩を長めにとることになった。ベンチに寝転がると、いつもより近い天井が目の前いっぱいに広がった。肌をなでる涼しい風の来し方に目をやると、雄大に連なる北アルプス。うーん、幸せ。隣にいる鬱クワガタの情けないポーズも、今なら清らかな心で見られる。......てか最近の雷鳥鬱クワ多すぎませんか(絶望)。
休憩中、斉藤からカナダ土産のメープルシロップをいただいた。間違いなく高級品で、非常食用にもなると考えてくれてのセレクトだったが、琥珀色のとろりとした液体に魅せられ、我慢できずに直飲みをしてしまった。脳内で快楽物質が炸裂し、天にも昇る気分を味わった。俗に言う「キマった」と言うやつである。野蛮極まるこの行為はメンバーにも波及してしまい、そしてみんな目がバキバキになった。
たっぷり休憩したら出発。初日にタクシー運転手の方から大天井岳から嫌というほど下るとビビらされていたが、果たして喜作新道は気の滅入るようなくだりであった。喜作のおじいさんのひらいた見晴らしのよい斜面をこれでもかと下っていく。岩が多い道中に木製はしごも数本。よくこんな道開いたな、と畏怖すること必至のポイントもいくつか通った。
40分ほど下り続けて大天井ヒュッテに到着。綺麗でおしゃれなヒュッテだなと思ったらやはり燕山荘グループのものであった。初日に燕山荘に着いた時からメンバーは1人残らず燕山荘グループの虜である。美味しそうなメニューが並ぶが、賞味期限切れの炭酸飲料を100円で購入することができるのも目につく。以前の山行で2年賞味期限が切れた飲料を飲み干した実績のある清野がCCレモンを購入。大自然の絶景の中を歩き、汗を流した後の休憩で流し込む炭酸飲料はどんなにか美味しかっただろう。
大天井ヒュッテからは樹林帯に突入する。日もだいぶ昇ってきて暑い。地面もこれまでの白い砂から土に変わり、丹沢にでも迷い込んでしまったかと錯覚する。このあたりは巻き道が用意されているため過度なアップダウンはないが、トラバースには小規模な土砂崩れの跡など、少々危険な箇所もあった。
このあと、ビックリ平で写真撮影をしたあたりから写真が1枚もない。写真どころか記憶もない。赤岩岳に登り、ヒュッテ西岳にたどり着くまでの道のりが、この四日間で一番つらかった。記憶がないのできつさの形容もできず申し訳ないが、トレーニングの必要性を痛感した登りだった。
大天井ヒュッテから2時間20分歩き、やっとこさ東鎌尾根の付け根部分、待望のヒュッテ西岳にたどり着いた。テン場はヒュッテの南方徒歩30秒のところに、出島のように設けられている。もちろん眺望は抜群。西の方角には明日登る険しい尾根と、その先に天高くそびえる槍ヶ岳を臨むことができる。槍ヶ岳の南方にはカール地形が壁のようにそり立ち、我々とその壁の間を、深ーい谷が隔てている。槍沢が流れているはずの谷底は雲に隠され、我々が覗き見ることを許さない。反対側を見れば、優美なシルエットを纏う常念岳がどっしりと鎮座している。南は、立ち込める雲の上に、中央アルプスと南アルプスの稜線の最上部が顔を覗かせる。最高のテントサイトだ。
CL斉藤がチェックインを済ませてくれた際、アミノバイタルの試供品をいただいた。こういうところで販促してるのか。普通のと金のやつの二種類入っており、ありがたく摂取した。またヒュッテ西岳のスタッフの方のなかに、なんと理二の2年生がいた。OLKに入っていて、この夏2週間ほどバイトをしているらしい。素敵な出会い。
テントを立てて小屋を物色。ヒュッテ西岳では小屋内マスク必須である他、小屋泊の人間以外は店内で喫食できない(2024年9現在)。斉藤は外国人登山者とスタッフのコミュニケーションの通訳をする神対応をしていた。さすがカナダ帰り。ヒュッテのメニューはカレー、牛丼どちらも1,200円。当然のように小屋でご飯を食さんとする堕落っぷりを知られたら雷鳥人たちに怒られてしまうのではないかも......と思いましたが、食欲には勝てなかったです......。メニューの少し下を見るとカップラーメン500円の文字。このジャンクフード、下界なら200円程度で手に入るが、改めて考えるとこの値段でも2個購入してなおカレーより安い。そして多分カロリーはこっちの方が高い。カップラーメン2個購入。メンバーから軽蔑の視線を浴びせられた気もするが、きっと気のせいなはず。そして「今日カップラーメン売れすぎじゃない笑」と店の奥で店員さんたちに嘲笑われていた気もするがこれも気のせい気のせい。共犯の斉藤と一緒に塩分の濃いスープを飲み干した。カップラーメンの他に、田中はフルーツ缶、清野はトマトを購入。しきりにうまかったと感動していた。
水は、小屋でお金と容器を渡すとスタッフさんが給水してくれる仕組みだ。給水をお願いすると容器が満タンで帰ってきた。30%くらい得した。嬉しい。そしてこの水が本当にうまい。毎日東京の水道水漬けの暮らしをしている私の体の水分が、みずみずしい天然水へと入れ替わってゆく。これがモノホンの北アルプスの天然水か...と感動してがぶ飲みした。しかし帰ってから調べるとヒュッテ西岳の水は雨水だったと判明した。俺の感動を返せ。
昼食を終えたら西岳に登頂。10分ほど歩いて到着した。これまで歩いてきた道と、これから歩く道が全て見渡せる。大天井岳方面に二重の虹が現れてくれたので記念撮影を行った。
テント場に戻ってからは、他の山行や雷鳥メンバーの話をした。すごい人、優しい人、面白い人、と、未だお話できていないろんなメンバーの話が聞けて楽しかった。やっぱり雷鳥人のみなさんはいい人ばっかりなんだな。ぜひともみんなに会ってお話したいな。満たされた空気感のなか夜が近づいてくると、みんな踊り出した。ミームやモノマネが入り乱れて混沌が加速していく。自然の中にいるといつもより自分をさらけ出せるんだなあ。
今日の夕食の担当は斉藤。味つきのフリーズドライのお米に麩、シーチキン、春雨を加えたもので、食材を出し始めたと思ったら一瞬で完成し、気づいたら私のコッヘルにアツアツの美味しそうな夜ご飯が入っていた。早業すぎる。そしてもちろん美味しい。タンパク質もあるしお代わりもたっぷり用意してくれた。量だけではない。春雨が食感を多様にし、麩が文化水準を格段に高めた。麩があまりにも「文化」してて衝撃だった。一瞬ここは京都かと錯覚した。
今回の山行を振り返ると、ご飯作りやテント設営などの時はもはやみんなで仕事の取りあいをしていた。みんなの積極的なチーム貢献の姿勢から多くを学ばせてもらった。本当にありがとうございました。明日はついに槍ヶ岳、しかも記録は文豪たなしょーか。楽しみ〜
□3日目(田中)
朝3時、スマホのアラーム音と共に私は目を覚ました。頭は冴えわたっている。日帰りも含め、ぐっすり眠った状態で山行を迎えたことがほとんどなかった私にとってこれほど嬉しいことはない。食当ということもあって人一倍ささっと身支度を済ませて外に出ると、そこには満点の星空が広がっている。アルプスで星空を見られるなんてなんて贅沢なんだ、、、あれは、オリオン座、あれは、何だ?結局オリオン座しか分からなかったが、それでも大満足の光景だった。気を取り直して朝食の準備にとりかかろう。朝私は棒ラーメンでとんこつラーメンを作ることにしていた。まず乾燥野菜と共にお湯を温めるが、放射冷却のせいか冷えていたこともあってお湯が沸かない。結局良い温度になるまで20分以上もかかってしまった。続いて鍋に麺やササミなどをいれていき、最後に紅生姜を加えるわけだが、私は紅生姜の汁を自分のコッヘルに入れてしまったために味見、そして賞味が不可能になってしまった。おかげで完成したラーメンは味が薄くなってしまった。今まで食当の際は機能性(とは言いつつ出発までに90分ほどかかってしまったが)ばかりを意識してきたために、次回は嗜好性も考えていきたいと思った。
4時25分ごろ完全撤収を終えると東の空は赤く染まり始めていた。常念岳のシルエットが美しい。常念岳というと私は8月末の蝶ヶ岳常念岳縦走で対峙した、大雨の中山頂までの岩場が果てしなく続くそれを思い出すが、今見ている常念岳は包容力があり、落ち着きはらって東の空に鎮座している。とてもじゃないけど同じ山には思えないが、色んな姿を見せてくれるのも山の醍醐味なのかもしれない。前日は晴れ空の中の常念岳を拝めたし、今年の夏は相当常念岳を満喫できた気がする。
ではようやく槍ヶ岳をめざそう。ヒュッテ西岳を出るとまず待ち受けていたのは急な下り坂。しかも夜道。私は急な下り坂がとても苦手で集中を切らすとすぐ足を拗らせてしまうので慎重に歩いた。前日4回ほど足を拗らせたこともあり、今回はいつも以上に。急な岩場も梯子も神経を擦り減らして下りる。下り坂の底にある水俣乗越はいつまでも着かない。暗闇と下り坂のダブルパンチは私の思考回路を圧迫してくる。だが幸い私の頭が破裂する前に夜が明けてきた。西方を見れば槍ヶ岳が我々の前に構えているではないか。西空に輝いていたのは星だけでなく、槍ヶ岳山荘、そして槍の穂先を目指す登山者のヘッドライトもであることが明らかになる。また下っていくとさらに朝日は昇り、灯りは見えなくなってしまったが、代わりに朝日に照らされた槍穂高連峰を拝めるようになった。オレンジに染まっていてとても美しい。しかし見とれている暇はない、山から瞬く間に暖色が薄れていく、そして何よりもここは急な下り坂なのだ。しかも途中にはいかにも谷底まで続いていそうなダミーの登山道がある。ここも要注意だ。そして、景色に陶酔して滑落しないよう細心の注意を払いながら水俣乗越に到着した。時刻は午前6時10分、スタートから約100分。案外長かった、そして案外下った。
水俣乗越では複数のパーティーが休憩を取っていた。我々を含めこれから東鎌尾根を目指す人たちはリュックの中からヘルメットを取り出す。緊張感が出てきた。落ちてたまるか。死んでたまるか。小休止を取ってから私たちは気合を入れて東鎌尾根に足を踏み入れた。まず待ち受けていたのはやや急な岩場、ともあれ足場はそこまで狭くはない。慎重に進めばそこまで心配は要らない。進んでいくとザ・尾根とも言えるようなハイマツ帯に出る。もちろん景色は最高だ。我々が一夜を明かした西岳や目的地の槍ヶ岳はもちろん、中央アルプス、南アルプス、八ヶ岳連峰、さらには富士山までもが雲の上に見えた。まさしく非日常だ。途中にはベンチもあり、景色をじっくり見たい人にも配慮がなされている。そして、そんな胸踊る楽園のような場所を過ぎると急に崖に差し掛かる。東鎌尾根名物の3段梯子の登場だ。再び気を引き締め、ゆっくりと下に向かっていく。部会で習った梯子の下り方、早池峰山でやったその練習、それらを思い出しながら慎重に下っていく。絶対踏み外さないぞ。一本目の梯子を握ってから2分くらいが経ったのち私は「OKでーす!」と上にいるメンバーに向かって叫んだ。他のメンバーも続いて下りていき、無事4人が梯子の下で顔を並べた。梯子を過ぎると再び絶景区間に。しかもこれまで歩いてきた東鎌尾根も眼下に見える。これには大興奮せずにはいられない。終盤にあった「ヒュッテ大槍まであと100M」という看板を見て私はいくらか寂しくなってきてしまった。ともあれ東鎌尾根を踏破したことが自信になったことは言うまでもない。
ヒュッテ大槍は愛しの燕山荘グループ、私たちの食への欲望を露わにした燕山荘グループだ。小屋内に入って物色するメンバーも見られた。私は岩の積み重なったところに上り、槍ヶ岳をカメラに収めた。すると下側からいーたんがこっちに向かって「はいチーズ!」と言ってきた。いーたんの気の配りようには頭が上がらない。同学年なら絶対嫉妬している。お礼に下にいるメンバー3人の写真を撮って私はメンバーの元へ戻った。
ヒュッテ大槍から槍ヶ岳山荘までは岩場が続く。東鎌尾根ばかりがもてはやされる表銀座だが、ここも浮石が多く要注意だ。午前8時ごろにヒュッテ大槍を後にした私たちは、間隔を空けるべき場所は間隔を空け、浮石の情報を後ろのメンバーに伝えて確実に進んでいく。その間に槍ヶ岳は確実に近づいてくる。穂先の岩のゴツゴツ具合が見て取れ、これまでとは一味違った槍ヶ岳を拝めるように。憧れの頂上まではあと一踏ん張りだ。
午前9時ごろに槍ヶ岳山荘に着くやいなや、私たちはテントの設営を始めた。混まないうちに穂先に行きたいが、我々に与えられたテントスペースは決して広いとは言えない上にペグが刺さりにくい。多少不満を感じながらも設営を終え、私たちはサブザックに荷物をつめて穂先の方へ向かった。
午前9時30分、穂先へと続く登山道にはすでに多くの登山客がいる。しかし、これから登山客がさらに増えること、今の天気がとても良いことから我々はこの時間のピークハントを即決した。穂先の登山道は基本的に上りと下りで分かれている。とは言え上り道と下り道は並行して存在するので対向方面からの登山客と言葉を交わすことができる。まず初めにあるのは急な岩場だ。クライミング感覚で楽しみながら進んでいく。横を見ると氷柱のような形に削られ峻険とした岩肌が見え、それがまた美しい。ただ下を見ると怖いのは言わずもがなだ。続いて梯子もいくつかある。これまた三点支持を意識して上っていく。岩場と梯子を繰り返していくうちに山頂は近づいてくる。最後に2段の連続した梯子を上れば山頂に到着だ。
穂先からの景色は文字通り360°の大パノラマだ。周りの北アルプスの山々はもちろんのこと、遠くに白山までもが聳え立っていた。今まで顔を上げないと見ることのできなかった槍ヶ岳山荘も真下に見える。そして下を見たまま北側を見ると小槍に登っている人がいる。私には怖すぎて転生しても絶対無理だろう。かの有名な北鎌尾根も同様だ。それにしても槍ヶ岳に登って、私はこの山が多くの登山家の憧れであることを再確認した。そして私も例外ではなかった。小学校の頃読んだ『槍ヶ岳山頂』という絵本、うろ覚えではあるが小学5年生の主人公が父親と共に表銀座を縦走するストーリーだ。当時の自分に燕岳や大天井岳が分かるはずもなく、主人公が槍ヶ岳に登頂したことくらいしか覚えていないが、それ以来心のどこかで槍ヶ岳に憧れを抱いていたのは紛れもない事実だ。登山と無縁だった中高時代も。そんな自分が大学生になって槍ヶ岳に登頂し、昔読んだ本の主人公と我が身を重ね合わせられたのは非常に感慨深い。溢れる笑みを抑えきれないまま私は穂先からの景色を目に焼き付けた。メンバーも楽しそうだ。「奉納 槍ヶ岳」という看板を手に取り、集合写真と個人写真を撮る。混んでいたため写真撮影にかけた時間は決して十分ではなかったが、この夏休みのかけがえのない思い出になったことは間違いない。
槍ヶ岳山荘までの下りは上りよりも時間がかかった。というのも上りの登山客が増えているために、上り道と下り道の交差ポイントでの待機時間が長くなったのだ。加えて、下りは上りより難しいような気がした。岩場の段差が大きく、脚をしっかり伸ばさないと着地ができない。岩肌にある足場を探すのも一苦労だ。しっかり頭を使い計画を立てて下りていく。その時だ。「ラク!!!」下から落石を知らせる声が聞こえてきた。幸い私の上から聞こえてきたわけではないので最悪の事態の回避は約束されていたものの、初めて聞いたこともありとても怖くなった。人がたくさんいるからといって安全なわけではない、むしろ人がたくさんいるからこそ危険なのだ。
穂先から下りたあとは1時間ほどテント場で雑談をした。地方創生の話や、東海・西日本エリアの交通の話をした。ちなみに私はJR東海信者で、その中でも313系という車両の大ファンだ。もし時間があれば調べてほしい。
お昼の時間になって私たちは再び槍が岳山荘へ行った。今回はお昼ごはんを食べにだ。これに関してはしっかり計画書に記載されたものなので文句は一切受け付けない。食事処の名前は「喫茶3180(さいはて)」、良い店名だ。光祐さんと私はビーフカレーを、清野さんといーたんは麻婆茄子丼を注文した。山の上で温かいものにありつけるのはこの上ない幸せだ。食後山荘内を物色しているとヘルメットのレンタル表示が目についた。一回のレンタルにつき穂先一往復のみ可という旨が槍ヶ岳ならではのもので面白く感じた。
食後テント場に戻ると45期の先輩方はもう一回穂先に登ろうと言った。光祐さんと清野さんは再び登ることを決めており、いーたんと私の参加は自由だったが、ガスってきていることもあっていーたんと私はテント場あたりで待機していることにした。いーたんは前日前々日同様『ハムレット』を読み、私は岩の上で山行記録を書いていた。その後寒くなってきたので私はテントに戻っていーたんに雑談を仕掛けだが、いつもの癖で話しているうちに声が大きくなってしまって反省している。テント場でのマナーには人一倍気をつけたい。一方光祐さんと清野さんは穂先で北鎌尾根から来た人と小槍から来た人を見たらしい。正規の登山道以外からひょこっと頂上に顔を出すらしく、頂上にいる人にとってその驚きは半端じゃないだろう。ただでさえスリリングな槍の穂先でさらにびっくりすることが、、、ちょっと想像したくないな、、、
またお腹が空いた。夏休み以降家にいるときは『千と千尋の神隠し』の豚のごとく飯を掻き込み我が家の食費を圧迫している私にとってそれは定められた運命というべきだが、幸い他のメンバーのお腹も空いていたようだ。槍ヶ岳山荘のランチが売り切れていたときのために清野さんが持ってきていた棒ラーメン4人前を私たちは槍ヶ岳山荘のベンチで食べた。この棒ラーメンは清野さんがこの前九重連山を登りに九州へ行った際買ったもので、マルタイ食品以外の棒ラーメンも食べることができた。気温が下がってきていたこともあって温かいラーメンがとても体に沁みた。
テントに戻り寝る準備をしていると風が強くなってきている。翌日の昼頃から雨が降り始めるという予報を確認。天気の好転を祈り、2時にアラームをセットして就寝した。しかし無情にもその願いがお天道様には届くことは無かった。
□4日目(清野)
登山道の先で何かが動く気配がした。思わず身構える。少しの静寂の後、姿を表したのは大きな黒い影。クマだ。しかし、ここはくじゅう連山である。九州にはクマは居ないはずでは?そんな疑問が浮かんだ瞬間、対面の獣はこちらに駆け出してきた。無我夢中で逃げ出す。クマに背中を向けて逃げるなという常識など、もはや頭から抜け去っていた。
しばらく走り続けて、何かがおかしいことに気づいた。これだけ走っているのに全く疲れないのである。それに、自分より足が速いはずのクマに全く追いつかれる気配が無い。というかそもそも九州ではクマは絶滅したはず。やはり何かがおかしい、そう思っていると突然遠くからアラームが聞こえてきた。こっちはクマから逃げるのに必死なんだから邪魔するな。そう思いながら走って走って走って………。
はっと目を覚ますと、どうやら自分はテントの中にいるようだった。周りからはごそごそと起き出す音がしている。だんだんと覚醒し、状況がわかってきた。そうである。今は表銀座縦走中、槍ヶ岳山荘のテント場である。とりあえずクマに襲われるわけではないと一安心したところで、テントがひどく揺れていることに気がついた。さらには雨の音すらも聴こえる。どうやら昨夜から続いている雨風は一向におさまる気配がないようだ。バサバサと大きな音を立てるテントを見て、そりゃうなされもするな、と何処か納得した。
テキパキと片付けを済ませ、朝食の準備に取り掛かる。食当の負担を考えて、今回は各自で用意した食事だ。田中正と伊藤はカレーメシ、自分はモンベルのデミグラスリゾッタ、斉藤はなんと行動食である。彼の目の前で温かいご飯をいただくのは少し気が引けるが、今回は食い倒れ山行である。美味しくいただく以外に選択肢はなかった。
ガスに火がなかなか付かないというプチトラブルに見舞われながらも無事に朝食を終えた我々は、息つく暇もなくテントの撤収に取り掛かった。風は吹き荒び、雨のようなガスで服やテントはびっしょりと濡れている。今まででトップレベルに不快な撤収をなんとか終え、いよいよ出発である。2日間歩いた稜線ともついにお別れ。寂しいような、ホッとするような、複雑な気持ちになる。ここから上高地までは19kmという絶望的な長さ。降り続く雨のせいもあって、4人の間に陰鬱な空気が漂う。みんな喋るテンションでもないし、そもそも喋ろうにも雨音で声が聴こえないのである。こんなんではやってられないと、私は景気付けにメープルシロップをキメたのだった。
歩き始めてしばらくは、九十九折でひたすら高度を下げていく。暇だ。本当に暇。とにかく暇。どれだけ歩いても真っ暗闇の中で、何も景色が変わらない。雨はザーザー降りで、雨音以外何も聴こえない。道は九十九折であまりにも面白味がない。こんなにボロクソに書くと槍ヶ岳信者に怒られそうだが、何事にも程度というものがある。ここまで「無」の下山は初めてだった。本当に九十九あるのではないかと思い数え始めた曲がり角も、いつの間にか数えるのをやめてしまっていた。
ヒュッテ大槍への分岐を過ぎたあたりから、段々と周囲に木々が増えてくる。ハイマツ帯から次第には低木の森へと移り変わっていく。誰かが「夜の森は怖い」と言った。本当にその通りである。自分達以外周りに人っ子一人いないし、ザーザー降りで周囲の音も聴こえない。昨夜にあんな夢を見てしまったせいもあって、最後尾を歩くのに少し恐怖心を覚えた。ホラー映画で最初にやられるのは決まって最後尾なのである。
更に更に降っていく。いつの間にか雨は止んでいた。どうやら雲の下に来たようで、周囲を取り囲む山々が見える。時刻は5時前であり、心なしか空が明るくなってきた。やはりお天道様は偉大である。空が白み始めた、それだけでメンバーの顔にも元気が戻ってきたようだ。
天狗原への分岐のあたりでは、既に明るくなっていた。ここまで来ると、昨日歩いてきた東鎌尾根がよく見える。下から見てみると、西岳から水俣乗越への下りがいかに理不尽かがよくわかる。昨日はこんだけ頑張ったんだなあ、そう思うと今日の行程も乗り切れる気がしてきた。
歩き始めて3時間、やっとババ平の野営場まで到達した。ここまで来ればもうほとんど下りはなく、沢沿いに歩いていくだけである。野営場では多くの人が出発の支度をしていた。これから槍ヶ岳に登る人も多い。今日は三連休の中日、楽しみにしていた人も多いだろうが、残念ながら生憎の天気だ。登る人にも諦めの表情が見えた。
その後も歩き続けて、槍沢ロッジを通過し梓川を横目にひたすら南下する。雨のせいか水量を増した梓川は、それでも流石の透明度だ。高濃度のマイナスイオンを全身で感じながら歩き、やっと横尾山荘に到着。ここまで来ればもはや下界である。鳩もいるし駐車場もあるし。無事に4日間の山道歩きが終わったことに一安心だが、残念ながらここから上高地まで3時間かかる。再びメープルシロップを注入し、緩んだ気を引き締め直した。徳沢園まで行けばソフトクリームが待っている、もうそれだけしか頭にない。
横尾から50分ほど。林道を歩き続けると、徳沢園である。徳沢園といえばソフトクリーム。第一日程、第二日程の人たちからその美味しさを聞かされていた私達はもちろん購入する。しかも今回は食い倒れ山行だ。食べない方が山行目的に反しているのである。普通のソフトはもちろんあったが、今回私はコーヒーソフトをいただいた。濃厚なソフトクリームに濃厚なアイスコーヒー。合わないわけがない。美味い、美味すぎる。いつの間にか自然に笑みが溢れてきていた。ここまでの頑張りへのご褒美を噛み締めたのだった。
この辺りからは普通のハイキングコースになっているようで、軽装のハイカーも増えてくる。気持ち良さそうに自然を満喫する彼らを横目に、私たちは足早にゴールを目指した。今思うと、この時は梓川の風光明媚な景色を何一つ楽しまずに歩いていた。後ろから聞こえてくる会話も、この大自然と似合わぬしょうもない物ばかりだ。それはそれで楽しそうだったが、地獄の林道歩きで焦燥しきった頭には会話に参加する余力はなかった。黙々と先頭でペースをキープして歩いていく。明神橋を渡ったあたりから、木道も増えだし、いよいよ上高地一帯の観光スポットである。多くのハイカーが、熊鈴をチリンチリン鳴らしながら歩いていた。個人的な体感ではあるが、荷物の大きさと熊鈴の利用度は反比例している気がする。こんなに人が多くて途切れなく喋りながら歩いている状況なら、熊鈴もいらないんじゃないかと内心思ったりもするが、どうなのだろうか。クマのいない九州でも熊鈴をつけているハイカーは多いし、熊除け以外の目的もあるのかもしれないなと考えたりもする。
槍ヶ岳山荘を出発してから約6時間半、ついに河童橋に到着した。このときの感動と言ったらもう言葉では表しきれない。ただ、4日間歩ききった感動よりも、今日の下りを終えた開放感の方が大きかったのは確かだ。なんか悲しい気もする。そして下山後に待っているのは風呂!すっかり濡れ鼠となっていた私たちは立ち並ぶ土産物店に目もくれず、風呂を目指した。今回入浴で利用する上高地アルペンホテルに着いたところで、CLの斉藤とはお別れ。なんでも夕方のバスで名古屋に帰るらしく、もっと時間を潰せる場所を探すとのことだ。4日間お世話になりました。
奥穂に行ってきたという方と山談義をしながら入浴を終え、もう上高地に用はないと私たちは1番すぐの便のバスに乗車した。晴れていれば散策しても良かったのだが、風呂から出た時には再び土砂降りになっていたのである。観光客の人達も天候回復を諦めてか一斉にバス乗り場へと向かっていた。松本へ到着後は伊藤と山賊焼を食べ、私だけ課金して特急あずさに乗り東京へと戻った。あずさのなんと快適なことか。普段の長い長い中央本線の旅が、一瞬で終わってしまう。これで2,000円ならむしろお得なのではないかとさえ思ってしまった。この快適さをしってしまった今、もうあずさ無しでは松本まで行けないだろう。山小屋飯といい、あずさ課金といい、私を雷鳥人として堕落させてしまった、そんな表銀座縦走だった。
■感想
CL斉藤
・計画段階での準備不足なところについて、迷惑をかけてしまってごめんなさい
・荷物も行程も、自分にとって良いトレーニングになりました。暗闇×雨風×槍沢でのルート探索もすごく良い経験になったと思います
・槍ヶ岳で晴れたのは幸運でした。でも下山中の雨風のせいで下山後はまじ不快でした(水を吸った諸装備が大変なことになってた)
・ポールを使わずにやりきった!あとなんか色々な意味でもやり切った感じ!
SL伊藤
・SLとして、メンバーとして、もっとすべきこと、できることがたくさんあった。情けなく、恥ずかしい。数多くのご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
・学びの多い山行だった。計画、ルートファインディング、テン泊のタスク処理等、ハイスペなメンバーの行動を見て成長させてもらえた。
・晴天の槍の穂先で見た景色は忘れられない。
・実は僕は山じゃなくて山で食べるご飯が好きなのでは?ってくらいに山でのご飯が美味しかった。
◯田中
・憧れの槍ヶ岳に行けて神
・二日目が一番キツかった
・森林、高山帯、岩場、沢歩きと変化に富んだ登山道だった
・2,3日目にバリ晴れをいただけてとても嬉しい、お天道様ありがとうございます。
・今夏の集大成として相応しい山行だった一方で他のメンバーにフォローされることもしばしばあった。来年は後輩を十分にサポートできるようさらに精進したい。
・徳沢園のソフトクリームで昇天した
・初めての複数泊だったが靴下をあまり脱がなかったせいで下山後足がカピカピになっている
・小淵沢で清野さんを乗せたあずさに抜かされました🥺
◯清野
・山で食べるご飯は本当に美味しかった。こんなに食事が充実した山行は初めて。
・4人という少人数の山行だったが、少人数の良さもあったと思う。みんな楽しかったです!実力あるメンバーばかりで、安心感がありました。
・2日目3日目と稜線で晴れたのは本当に幸運。北アルプスの急峻な山々の景色は素晴らしかった。
・東鎌尾根は険しい険しいと聞かされて身構えていたが、実際に行ってみるととても楽しく歩けた。
・東鎌尾根から見た針ノ木蓮華が格好良かった。来年絶対行きます。
・特急ってこんなに楽だったんだ。小淵沢で大分前に出たはずの鈍行を抜かした時はとても爽快だった。
・槍ヶ岳山荘のTシャツ高い…