2025/12/1-5 アンナプルナベースキャンプ(ABC)トレッキング

アンナプルナベースキャンプ(ABC)トレッキング記録
作成者:橋本、河野

■日程
2025/12/1(月)〜5(金)

■山域
ネパール・ヒマラヤ アンナプルナ

◾︎天気
5日間ともに終日晴れ

◾︎メンバー
L橋本(40期)、河野(41期)、Y(雷鳥外)
※Yは橋本の研究室の後輩で高校ワンゲラー。3人で顔合わせとトレーニングを兼ねて9月に五竜・唐松の縦走を実施した。

■総評
4泊5日という短い期間でありながら、アンナプルナの奥深くに入ることができ、ヒマラヤの山々の圧倒的なスケールを感じることができた。
初日や最終日にネパールの山村を渡り歩くのも、3日目や4日目にDeuraliからABC間の雄大な景色を眺めながら歩くのも、それぞれ違った魅力があり、大変楽しかった。
また、ロッジ泊や、ロッジごとに微妙に異なる食事、締めの野湯など、多くの新鮮な体験ができた。

■ABCトレッキングについて
・標高4130mのアンナプルナベースキャンプ(ABC)を目指すネパール屈指の人気トレッキングルートの一つ。
・春か秋が、寒すぎず、雨が降りにくい乾季なのでハイシーズンとされる。今回は初冬(12月上旬)ということで、ちょうど登山者が減り始めた頃だった。
・昔は本行程よりもさらに手前から歩くことが一般的だったようだが、最近はJhinuまでジープが入るようになったため、山行日数が短くなっている。本山行と同じ4泊5日か、さらに余裕を持たせて5泊6日くらいが標準的な行程と思われる。
・他の有名ルート(エベレスト街道やアンナプルナサーキット)と比べて、山行日数が短く、最高到達点の標高も低いので、難易度が低くなる。
・登山道はとても歩きやすく、道中のロッジの設備も充実している。
・ガイドやポーターを雇っている登山者が多い(8割くらい?)。しかし、上記のような観点から、文化の違いや言語の壁を乗り越えさえすれば、日本の夏山歩きの延長として挑戦可能だと判断し、ガイドやポーターはつけなかった。

■ルート概況
・全体を通じてルートはきわめて明瞭で、よく整備されており、歩きやすい。
・1-2時間おきに、数軒から数十軒のロッジが集まった集落がある。ベッド・毛布・食事・Wi-fi・充電コンセント・温水シャワーなどが提供される(詳細は「■ロッジ情報」を参照)。
・Jhinu〜Sinuwaまでは山村を繋いでいく感じで、アップダウンが多い。石畳の階段の昇り降りが続く。
・Sinuwa以降は、なだらかな道と時折現れる石畳の階段の繰り返しになる。標高3000mくらいから植生が乏しくなり、視界が開ける。
・HimakayaとDeuraliの間に、雪崩危険地帯がある(雪の少ない時期に登る分には問題ない)。

■タイムスタンプ
□1日目
11:16 Jhinu Jeep Stand発
11:40 Jhinu Danda着(昼食休憩)
12:45 同発
14:38 Chhomrong checkpoint
15:45 Lower Sinuwa着(Hotel Himal & Restaurant Sinuwa泊)

□2日目
7:40 Lower Sinuwa発
8:30 Upper Sinuwa
10:00 Bamboo着(昼飯休憩@Budda Guest House)
11:20 同発
12:50 Dovan
14:25 Himalaya
16:00 Deurali着(Dream Lodge泊)

□3日目
7:40 Deurali発
10:00 MBC着(チャイ休憩)
10:30 同発
12:30 ABC着(Annapurna Guest House泊)

□4日目
8:50 ABC発
10:00 MBC
11:05 Deurali着
11:20 同発
12:15 Himalaya着(昼飯休憩@Cafe Himalaya)
13:25 同発
14:30 Dovan
15:35 Bamboo着(Green View Lodge泊)

□5日目
06:50 Bamboo発
08:30 Upper Sinuwa
09:00 Lower Sinuwa
10:30 ACAP check point
11:45 Jhinu Danda(温泉分岐、昼食休憩)
12:25 同発
12:50 Jhinu hot spring着(温泉タイム♨)
13:35 同発
14:10 Jhinu Danda(温泉分岐)
14:45 Jhinu Jeep Stand着


■行動記録
※1円=0.9ルピー(Rs)。
□0日目(文:橋本)
前夜のうちにカトマンズでの用務を終え、河野さんと合流。橋本はカトマンズの乾燥した空気にやられたのか風邪気味だったが、河野さんに持ってきてもらったバファリンを飲んでいたら回復してきてホッとした。
今日はカトマンズからポカラへ空路で移動するため、ホテルからタクシーでトリプバン空港へ。
ポカラの霧によりフライトは2時間遅れとなる。ネパールの国内線は有視界飛行に頼っているらしく、このような遅延・欠航はよくあるよう。こうした事態も考慮して、午前の早めの時間の飛行機を取る方が良いだろう。
フライトは30分ほど。幸運にも右の窓側の座席だったので、マナスルなどヒマラヤの高山を眺めることができた。
ポカラの空港から、タクシーでレイクサイドのホテルへ。配車アプリinDriveなどは空港内では許可されていないらしい。割高な空港内のタクシーを仕方なく使った。
ホテルから歩いてACAP(入域許可証)を取りに事務所へ向かう。道中のローカルな食堂で昼飯を食べた。
ACAPの申請に2枚パスポートサイズ?の写真が必要だが、持っていなかったので事務所周辺の写真屋で撮ってもらった(1人200Rs)。
ACAPの発行はすぐ終わり、宿に戻って昼寝したあと、インド料理屋で晩御飯を食べた。ビリヤニが美味しかった。
食後の腹ごなしにレイクサイドを散策したあと、”ディズニーランド”へ。入場料無料、アトラクションに150Rsくらいを都度払う方式で、爆速で回る観覧車が有名。Yが乗ったが、お腹の中のビリヤニがかなりシェイクされたらしい。
帰りに残りのドルをいくらか両替して、23時頃就寝。

□1日目(文:河野)
 6:30チェックアウト。ホテルのスタッフのお言葉に甘えてタクシーを呼んでもらったところ、到着まで1時間かかったうえ、相場より高くついた。inDriveで呼ぶのが吉。
 Hari Chowkジープステーションに着くが、定員分の人数が揃うまで発車せずここでも待機。結局、これ以上乗る人が増えなさそう、ということで8:20頃にようやく発車。この時点でチャイを2杯飲んでいる。
 相乗りしたスペイン人男性が35歳の誕生日ということで、バースデーソングを歌ってから出発した。途中から想像を絶する未舗装路に突入し前後左右上下にシェイクされたり道路工事による通行止めを食らったりと前途多難であったが、11:00頃になんとかJhinu
Jeep Standまでたどり着くことができた。悪路を一度もスタックせず完走してくれた運転手のスキルに感謝。Yちゃんは昨晩高速観覧車で三半規管を鍛えていたため後部座席の揺れもものともしなかった。伏線回収が早い。
 Jhinu Jeep Standに降りるとラバの一群がパカパカ、カラカラと蹄と鈴を鳴らしながら歩いていく。ヒマラヤらしいお出迎えに期待が膨らむ。
 入山してすぐにWELCOME吊り橋を歩くことになる。作りは案外頑丈そうだが、長くて高い。谷底から吹き上がる風が恐怖心をあおるが、余計な雑念をつとめて排除し渡っていく。ここで脱落する可能性もあったので無事渡ることができてよかった。
 橋を渡ってすぐ、Jhinu Dandaで昼食を取る。さすがに割高になっている。私とYちゃんはトマトピザ、橋本さんはダルバートを頼んだ。ネパールの飲食店は提供までに時間がかかるとここ数日間で学んでいたが、遅いねぇとぼやいたタイミングで厨房から生地をこねる音とケチャップをひねり出す音が聞こえてきて笑った。料理が出てくるまで犬を描いたりして時間をつぶした。ピザは生地がパンケーキのようでピザと呼んでよいのか微妙なラインだった。
 腹を満たしたら石畳の階段をひたすら登っていく。畑や集落が一定区間ごとに出現する感じが熊野古道を彷彿させる。日陰や風は涼しいが、日が出ていて結構暑い。道はいたって容易。ヒマラヤの山々を見上げたりラバのう〇こを見下ろしたりしながら無心に登る。山麓は比較的動物が多いようだ。犬や鶏が気まぐれに道案内をしてくれた(橋本さんが撮ってくれた現地ガイドシリーズを私はとても気に入っている)。
 途中でストゥーパがあったため、マニ車をまにまに回して山行中の無事を祈る。地球の歩き方によるとChhomrongまでの登りが核心とあったが、功徳を積んだおかげか意外とすんなり通過することができた。
 Chhomrongは多くのロッジを有した比較的大規模なポイントである。エリアの中間あたりでパーミッションのチェックポイントがある。QRコードで入域履歴をしっかり管理しているようだ。なおすれ違うトレッカーの大半は欧米の人が多く、日本人らしき人は見かけなかった。大体ナマステ〜かHelloと挨拶するのでそれだけでは出身地が分からない。
 Chhomrongからぐっと下り、Sinuwaのポイント手前、Lower Sinuwaで宿をとった。
マリーゴールドが植わった植木鉢がずらりと並んで可愛らしい雰囲気。このロッジに限らず山麓部分はどこもかしこも花にあふれている。落ちかける日が残す温かさの中で、お昼寝したりお絵描きしたり犬を愛でたりして各自自由に過ごした。ここの白柴みたいな中型犬がかわいかった。
 夕食は河野橋本がダルバート、Yちゃんはチキンカレーを注文した。ダルバートのおかわりシステムは山中でも有効らしい。もう十分と言ってからさらにもう一杯ご飯を盛られる。
 食事前にホットシャワー(200Rs)を利用してみたが、蛇口をひねるとすぐ熱いお湯が出て身体が温まった。前日ポカラで取った宿(5分くらいお湯が出ない)よりもQOLが高かった。
 河野はここに来て香辛料のキャパオーバーが発生し食後はトイレに引きこもりなどしたが、大きく体調が崩れることもなく20:00頃就寝。冷え込みはそれほどひどくならず、夏のアルプス程度の防寒とモンベルのシュラフ(ダウンハガー800
#3)で十分だった。他のトレッカーはUpper Sinuwaまで向かったのか、我々以外に宿泊客はいないようで静かな夜だった。
が、深夜3:00頃に突然犬3頭の鳴き声で目が覚めた。10分以上その場で吠え続けているので流石に耐えかねて様子を見に行ったらすぐに鳴きやんだ。ひどく興奮した様子だったが一体なんだったんだ……。

□2日目(文:橋本)
6:15起床。3時頃に犬の遠吠えで起こされたが、河野さんのおかげで静まったので、その後はぐっすり眠ることができた。山に囲まれているので日は出てないものの、すでに十分に明るかった。6:30から昨日のうちに頼んでおいたモモとチョウメンをシェアして食べる。チョウメンは味が薄い塩焼きそば、ベジモモはイマイチ旨味が少ない感じだった。塩コショウを足したりして味を調えながら食べた。
煮沸消毒した水を購入し、宿代を精算した。3人で7000ルピーくらいだった(半分以上がご飯代)。
7:40に出発。犬の見送りを受けて、Upper Sinuwaへ向かう。Upper Sinuwaは宿が3軒ほどの小さな集落だった。通過してBambooを目指す。
登って下って10時頃にBamboo着。お昼ご飯を食べることにする。3人ともダルバートを頼んだが、おかわりのご飯が多く、食べ過ぎた。以後2時間くらい胃もたれに苦しむことに。満腹になって満足していたら飯代を払わずに出発してしまう。10分くらい登ったところで橋本がふと思い出し、急いで空荷で戻って支払いをした(宿のおばちゃんはいい加減な人で、下山のときに払ってくれたらいいのに〜という反応だった)。
Bambooから先は、今日の目的地であるDeuraliまで1000mくらいの登り。このあたりから家畜の糞を見かけなくなる。馬による物資運搬はこの辺りまでのようだ。道中で何組かの家族連れとすれ違った。なかには背負子で小さい子供を背負っている家族連れもいた。高山病は大丈夫なのだろうかと心配になるが、素晴らしい英才教育である。
まだ2000mそこそこで日差しを浴びるとまあまあ暑いので、水場(沢沿いのホースから水が流れているところ)があると何度か頭から水を被っていた。また、水場で汲んだ水をろ過をせずガブガブ飲んだがお腹を壊すことはなかった。
DovanとHimalayaの間に、ストゥーパがあり、登山道の対岸側(左岸側)に大きな滝があった。鐘を鳴らしながら一周するものだと教えてもらい、言われたとおりに一周した(ちなみに、登りに通りかかったときは間違えたが、時計回りが正しいらしい)。
HimalayaとDovanの間は冬から春にかけて雪崩が発生するエリアである。12月上旬時点ではまだ雪も降っておらず、問題なく通過できた。10万人のフォロワーがいるというネパール人YouTuberと喋ったりしながら、最後の急な登りをこなしてDovanに16時頃到着した。
到着した直後、橋本はやけに寒く感じていたが、これは汗冷えと冷たい水の飲みすぎで体が冷えたせいだったようで、あとにご飯を食べたら回復した。
夜も橋本とYはダルバートを食べた。昼の反省から米はお代わりしなかったが、今度はダル(豆スープ)を器の限界まで盛られた。ダルバートのおかわりは難しい。
河野さんは昼のダルバートがしんどかったようで食欲不振のようだった。ほとんど夕食を食べられず、日本から持ってきた雪の宿を食べていた。
ABCは混雑するかもしれない、と思ったので、宿の人に明日のABCの宿の予約をしてもらった。
寝る前に予約の念押しをすると、我々の名前を伝えてないのに、もう予約の電話をしておいたよ、と言う。「3人の日本人」で通じるらしい。

□3日目(文:河野)
 5:30起床。白んだ空に黒黒と稜線が暴かれている。Deuraliは谷のため空が明るくなってもなかなか日がさしてこない。
 朝食のEgg Vegi Noodle
は薄いサッポロ一番塩ラーメンのようなお味だった。食欲不振はだいぶ回復しており、前日ほとんど食べられなかったRostiの油の旨味も享受できた。
 7:40頃ダイアモックスを服用し犬を愛でてからDeuraliを後にする。
 歩き始めてからすぐは頭痛がしたが徐々に落ち着いてくる。手の指先も若干しびれはするが問題はない。ヌードルがお腹になじんで快適。健康は素晴らしい。通過点にちょうどマチャプチャレと堰堤が見えるエリアがあり、地盤工学専門の2人は意気揚々と写真を撮っている。
 ABCを目指すトレッカーが集結し、皆一様に上を目指していく。昨晩Deuraliまで頑張った甲斐あって今日は時間に余裕があるため、とにかく高山病にならないことだけに気を付けて最高標高を更新し続ける(河野の最高標高は槍ヶ岳3,180m)。ビスターリ(ゆっくり)!
 緩やかな勾配を歩き続けること2時間半、MBC到達。マサラチャイ休憩を入れる(ここから上は一杯300Rs)。ショウガやスパイスの実がゴロゴロと入っていて楽しい。ロッジのおっちゃんが入山前に購入した地図(600Rs)と照らし合わせながら山の名前を教えてくれた。4,000m以下のピークはベビーなので名前がないらしい。ネパール基準だと日本の山には一切名前がつかないことになる。
 他のパーティは先を急いだようで、MBCを出る頃にはあまり人がいなくなっていた。稜線から吹き下ろされる風は冷たく、植生は干からび、風の音、滝の音、足音、呼吸の音だけが聞こえて寂寥感すら覚える。目の前の8,000m峰、後ろに控える未登頂の急峻な山嶺、右手に見えている谷川、すべてがでかすぎる。ああこれがsublimeというやつか…。自分が塵芥のように感じる。(西洋美術史だとロマン主義が結構好きなのですぐこういう思考に陥る)。
 それでも自分が歩いた分だけ景色が見えてくる。
雪のついた稜線が手前の山々から顔を出し、すでに見えている峰とつながっていく。沢筋には氷が張り付き、気温は0度近くか。ゴールは確実に近づく。
計画はすべて同行者に組んでもらったし、現地対応もままならなかった。自立した登山者からはほど遠い有り様で、橋本さんとYちゃんには本当に申し訳なかったが、他人に頼ってでもここを歩くことを選んだのは良かったなと思った。
無数の旗にくるまれたABCの看板が見えた。4,130mに自分の足で立っていた。
 日本人3人と予約してもらっていたアンナプルナゲストハウスでI know youと陽気に通された部屋は、マチャプチャレ側が良く見えた。防寒を着込んで昼食へ。
 行動を止めると疲れを自覚するのか、また食欲がなくなってきたので、マッシュルームスープを注文。暖がとれやさしいお味のため疲れた胃にはちょうど良かった。しかしキノコはなんというか……下水みたいな匂いがした()
 昼食の後はBC近辺を散策。空気も地面も刺すように冷たい中現地の人たちはバレーボールに興じていてすごい。
 雲隠れしたアンナプルナⅠ峰を見つめていると遠くから雪崩のような音が聞こえる。
谷底をのぞくと巨大な採掘場のようにも見える。ひとたび落ちてしまえばもう帰っては来られないだろう。改めてこの土地のでかさを感じた。
 長居していられない寒さだったため、日の入りはダイニングの窓から眺めた。谷は闇に沈み、マチャプチャレが西日でピンクに染まる。やや東の空には山嶺と対になるように満月がポッカリと浮かんでいて、マチャプチャレの神聖さが一層感じられる。
 ロッジに戻った後体温低下が原因か一時橋本さんの体調が悪化したが、お湯を飲んで回復。その後は意気投合したタイ人のねえちゃんとピザを分け合い談笑しながら楽しく夕飯を取った。ピザは本山行のなかで一番美味しかった。北岳で高山病に苦しんだというYちゃんは山行中ずっと元気で、生命として強かった。
 夜になると寒さが一層厳しさを増す。タイ人のねえちゃんによると前日は-12℃まで冷え込んだらしい。トイレの床は凍って滑り危なかった。便器の淵には氷柱がたれていた。
 底冷えで眠れるか心配だったが、持っている防寒をすべて着込み布団をかぶると案外良い温度になり、首尾よく寝付くことができた。

□4日目(文:橋本)
6時過ぎに起き出して外に出る。3人とも悪夢を見たらしい。これも高山病の症状だろうか。それぞれの夢は、パートナーと喧嘩する夢、研究室のボスと喧嘩する夢、アイドルグループに加入するもダンスが覚えられずハブられる夢、だった。
ロッジの裏に出て日の出を待つ。6:35頃、橙色の太陽の光がアンナプルナの山頂に差し込む。寒さをこらえながら、美しいモルゲンロートを眺めていた。
7時に朝ごはんを食べる。温かいチョコレートミルクが冷えた体に染みわたる。ピザを1枚3人で分けて食べた。ここのピザはとてもおいしく、お店が出せそうなクオリティだった。会計の時に厨房を見たら、生地をこねているところだった。あの人が下界でピザ屋をやったら繁盛しそうだ、と思った。
8時頃、パッキングを済ませて、もう一度アンナプルナを見に行く。この頃にはもう陽の光がABCにも当たっていて、暖かく、いつまでもここにいてアンナプルナを眺めていたくなる。
9時頃、ABC前の看板で集合写真を撮って、後ろ髪を引かれる思いで下山開始。MBCまではなだらかな下りで、正面のマチャプチャレを眺め、時々アンナプルナを振り返りながらサクサク下る。
MBCからDeuraliまでの道のりもなだらかな下り道。このあたりまでは植生も少なく開放的な景色が広がる中、どんどん下っていく。
Deuraliを出てすぐに(時期によっては)雪崩危険があるゾーンを通過。大岩の下に仏像を認めたあと、長い長い階段の下りとなる。登りでこんなに階段を登った印象はなかったのだが…。いつの間にか周りに木々が生い茂るようになっていた。やっとの思いで階段を下り終えるとHimalayaに到着。
そろそろお腹も減ってきたので、客が多かったCafe
Himalayaでお昼ご飯休憩にする。私と河野さんが炒飯、Yがピザ。ネパールの小屋でご飯を頼むと30分は待たされるのがデフォルトだと思っていたが、ここは15分ほどでメニューが出てきた。ありがたい。炒飯はケチャップライス風で美味しかった。ピザは生地が薄め、これはこれで美味しい。
満腹になったところで、下山再開。この辺りから沢が多くなる。水を汲みながら下山を続ける。Bambooについたところで15時半となり、そろそろ疲労も出てきたので行動終了とした。
適当な宿を見つけて今夜の寝床を確保する。Wi-fi代をケチりたい3人は、Ncellの電波が比較的入りやすいところ(Bambooの一番上の宿から20mくらい登った登山道沿い)で寒い寒いと言いながら、X…ではなくカトマンズに戻る飛行機やホテルの予約をしていた。
夕食は橋本がチャーハン、Yがチョウメン、河野さんがグルングブレッド。ここのチャーハンは日本のラーメン屋で焼飯という名称で売ってそうな味だった。グルングブレッドはメニュー表(ABCトレッキングエリアで共通)とはかなり見た目が違い、河野さんは残念そうにしていた。20時頃就寝。

□5日目(文:河野)
 6:00朝食。Jeepでの悪路走行を考慮していつもより早めに出発の準備をする。朝食はピザ、オムレツ、チョウメンを注文。ブラックティーの安定感が嬉しい。
 7時前にBambooを出発。Jeepはまだ到着してないようで、すれ違う人は地元のポータばかりだ。すっかり植生はもとに戻り、落ち葉を踏みしめて階段を登る。
 Bambooから出発してすぐに始まるSinuwaまでの登り返しと、Chhomrong村落内部間のきつい登りに5日目の体が音を上げる。
 ABCから遠ざかり下界が近づくにつれ、これまでヒマラヤの風で浄化されていた煩悩が戻ってきているのを感じる。これまでの道のりで得た感動とか自信とかはどうでもよくなっていた。
 なんで他2人は涼しい顔で登っているんだとか、南下は太陽光が眩しすぎるとか。 Chhomrong広すぎだろ!!あーーABCでGurung
bread食べておけばよかった。バナナラッシー飲みたい。もう1mも自分の足で登りたくない。視野狭窄になって通行許可証のチェックポイントに気付かず素通りしてしまい呼び止められた。
 かなり満身創痍だったが、Sinuwaで例の白柴(?)と再会を果たしたり、宿泊したロッジのおじさんに声をかけてもらったりして正気を保った。中でも一番効いたのは子犬だった。短い足でポテポテと歩いていて本当にかわいかった。橋本さんがネパールベストソングを流してくれたのもよかった(ここではトレッカーやポーターが音楽を流しながら歩くのはよくあることだ)。
 バテながらもJihnu danda着。Yちゃんが温泉行きを強く希望していたが、シャリバテ気味だったのでまずは昼食をとることに。チョウメンに入っていた数日ぶりのチキンに感動した。私は甘いものが食べたかったのでカスタードプディングを頼んでみたところ、卵っぽいあたたかむっちりスライムが出てきた。
 必要な荷物以外はロッジに残置させてもらい、ロッジの脇から温泉へのルートに出る。少し下って券売所で入湯料を払った(Rs200/人)。チケットが結構しっかりしている。
 さらに下ると沢の脇に立派な野湯が出現。周辺にはタイルが敷かれ歩きやすくなっており、多少の氾濫では埋まらないように堤防が組んである。ちなみに道中に水着を売っているという話を聞いていたが、正規ルートではなかったからか、それらしき店や人は見かけず、道のど真ん中で堂々と草を食んでいるヤギだけがいた。
 個室の脱衣所で着替え、流しで体を洗ってから湯につかる。少しぬるめの、一生入っていられる温度!最高〜〜!!橋本さんが「すべてが報われたような気がした」といっていたが本当にそのとおりだった。帰りの登り返しでどうせ汗かくしな…と内心渋っていたが、本当に行ってよかった。
 ザックを回収してJeep standを目指す。最初に渡った長大な吊り橋。これをもう一度渡れば5日間のトレッキングが終わる。行きのときよりも通行人が多く、私たちの前には母親と小さな子どもがたどたどしく橋を渡っている。やはり風が谷底から吹き上がるが、もうそれほど怖くはなくなっていた。
 その後Jeep代をケチって乗り合わせるトレッカーを1時間以上待ち続けたり道路工事区間を歩いて乗り継いだりとスマートには終わらなかったが、これもネパールスタイルである。とにかく五体満足でポカラに戻ることができて良かった。夕食にはしこたま肉を頼んで腹を満たした。

■反省
・体が冷えるのを甘くみてはいけない。寒いときはすぐに服を着こんで水ではなくお湯を飲む!
・今回、3人合わせてカロリーメイトと雪の宿と柿の種1パックしか持って行かなかったが、流石にもう少し行動食を持っていけばよかった(小屋でスナック菓子を売っているが、割高で買う気になれない)。
・食欲が湧かないときに備えて、フリーズドライの日本食も少しは持って行った方がよかった。
・橋本は入山前に風邪を引いてしまった。下界は乾燥していて排ガスで空気が悪いので、マスクをするべき。

■個人の感想
□橋本
・海外トレッキングにはずっと憧れがあり、ひょんなことで良い時期にネパールに行けることになったので、この山行を企画した。
・可能な限りガイドやポーターは雇わず、自力で歩きたいと思っていた。最初はアンナプルナサーキットにしようかと思ったが、5000m超・1週間超の山行は想像がつかなかったので、より難易度の低いABCを選択した。結果として、初の海外トレッキングとしてはちょうどいい難易度になった。
・海外旅行経験が豊富で山行中もっともタフだったYと、膝のリハビリに励んで、一緒に楽しく歩いてくれた河野さんに感謝。
・今度はアンナプルナサーキットに挑戦したい。

□河野
ヒマラヤの8,000m峰の山々を眼前に見渡すことができ、本当に贅沢な経験だった。
海外経験もスタミナもなく計画から現地でのサバイブに至るまで牽引してくれた橋本さんとYちゃんに感謝。
犬がかわいかった。

<<以下、これからABCやヒマラヤのトレッキングに行きたい人に向けて>>

■アクセス
・東京〜カトマンズは、ネパール航空の直行便(往復14万円?)や、中華国際航空の成都経由便(往復6万円?)などがある。
・カトマンズ〜ポカラは、イエティ航空を使用。片道1.3万円、30分。基本的に大幅に遅れる。朝の便の予約を推奨。
・ポカラ(Hari chowk)とJhinuを結ぶ乗合ジープがある。約3時間。1台片道7000Rsを乗車人数で割る。貸し切ったらいつでも出してくれるし、他のパーティと一緒に乗れば安く済む。
・市内交通はタクシーが便利。inDriveという配車アプリを使うとよい(値段交渉が不要で楽)。市内の移動は大体500Rs以下に収まる印象。

■ロッジ情報
・1-2時間おきにロッジの集落がある。
・12月に入るとオフシーズンらしく、どこも空いていて、予約なしでも問題なかった。10-11月などのハイシーズンはMBCやABCの小屋は混むらしいので予約が必要?
・同じ集落のロッジの各種料金は統一されており、明朗会計なので安心。
・ロッジの宿泊費自体は250-300Rsと非常に安く抑えられており、その代わり食事をその宿で食べるのが暗黙のルールとなっている。
・食事のメニューはダルバート(お代わり無料の定食)、ピザ、スパゲッティ、マカロニ、チャーハン、チョウメン(焼きそば)など。本山行では食べなかったが、サンドイッチやトーストなどのメニューもあった。ABCトレッキングエリア内で基本的に共通のメニューとなっているが、味はロッジによって結構まちまち。ABCは聖域なので、残念ながらSinuwaより上には肉がない。食事の値段は標高が上がると少しずつ高くなっていく。
・煮沸消毒した水、熱湯、Wi-fi、充電コンセント、温水シャワーなどを各ロッジで有料で提供している(いずれも100-300Rs/人)。
・上記のオプションサービスをどの程度利用するのかにもよるが、3人合わせて1泊7000-9000Rs程度だった。
・ベッドには掛け布団が用意されている。ただ、干しているだけで洗っているわけではなさそうなので、そのあたりが気になる人はシーツやシュラフなどを持参する必要がある。今回は、12月上旬ということで寒そうだったので、3シーズンシュラフを持参した。ABCでも、ダウンを着込んで3シーズンシュラフを被ってその上から掛け布団をしたら暖かく寝られた。

■装備関連
・基本的に日本の夏山テント泊装備でよい。
・シュラフ以外の泊り装備は不要(シュラフについてはロッジ情報を参照)。
・登る時期にもよるが、標高4130mともなればさすがに寒い。防寒具は多めに持っていくこと。
・お湯を入れるテルモスなどがあるとよい。水は現地で流通している1Lのペットボトルを繰り返し使えばOK。
・朝夕の食事は宿泊したロッジで食べる。昼食も途中のロッジで食べることになると思うので、行動食もほとんど不要。ただし、現地の食事が口に合わないこともあるので、多少は日本から行動食やフリーズドライの食事を持って行ったほうがよい。
・水は、湧き水を組むか、消毒された水やお湯を購入できる。湧き水を飲んでお腹を壊すことはなかったが、念のため浄水器を持って行ったほうがいいかもしれない。
・念のため軽アイゼンを持参したが、出番はなかった。真冬や春に登るなら持参したほうが良いが、秋(-11月)は不要と思われる。
・高山病対策としてダイアモックスを持参した。3200mのDeuraliあたりから飲んだ。結果として、顕著な高山病の症状が出ることはなかった。またジープでの未舗装路走行に備えて酔い止めがあると安心。
・ジープやロッジ、タクシーなどの現地での支払いはネパールルピーとなる。延泊が発生しても大丈夫なように少し多めに持参すること。なお、カトマンズやポカラの両替所ではドル・円ともに両替可能。
・Jhinuの温泉に入るなら水着が必要(とても気持ちがよいので入ることを強くお勧めする)。
・ちなみに、ポカラやカトマンズの多くのホテルは、山行中不要な荷物を無料で預かってくれる。

■個人手配でのABC山行計画について
・通常の海外旅行と異なる準備は、ポカラで3000Rs払ってACAP(入域許可証)を取ることくらい。昔はTIMSというものもあったらしいが、2025年現在、ACAP以外は不要。あとは、入山日にポカラHari
Chowkのジープ乗り場に行けば、Jhinuに連れて行ってもらえる。
・ルート自体の難易度は、日本でアルプスのテント泊縦走などをしている人からすれば、決して高くない(高山病と低体温症への警戒は必要だが)。テントや食料を持たなくて良いので、普段のテント泊よりもだいぶ荷物が軽く、少なくともポーターを雇う必要性はないと感じた。
・道もわかりやすいしガイドの役割ってなんなんだろう...と正直思っていた。混雑するハイシーズンなら宿の確保とかで活躍するのだろうか。
・ただし、ガイドを雇わない場合、現地で自力で交通手段やロッジを探したりすることになるので、海外旅行経験(特に個人手配で中国やインドなどを旅行する経験)があったほうがよい。なお、英語は大体通じる。
・ヤマレコや個人ブログなどで日本語の記録も結構見つかる。アクセスや許可証のシステムなどはここ数年でどんどん変わっているようなので、なるべく英語も含めて最新の情報を収集したい。

■予算
今回の登山に要した1人当たりの費用は以下の通り。
・ジープ往復代:約3000Rs
・ACAP:3000Rs
・ロッジに支払ったお金(宿代・食費等):約3000Rs/日*5日=約15000Rs
その他に、東京~カトマンズ~ポカラの飛行機代やホテル代、下界の食費、タクシー代などがかかる。ホテルは2000円/人以上出すとかなり快適になる印象。
全体的に、他の海外トレッキングと比べて安く収まるので学生が行きやすいと感じた。